デジタル広告主がプレミアムマーケットプレイスを必要とする理由
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
企業のブランドの安全性と透明性を取り巻く問題を解決するための決定的な方法は存在するとはいえ、業界がそれを実現するための準備ができていない、とCollective社のコマーシャルディレクターSimon Stone氏は述べている。
当然のことながら、FacebookやYouTubeに関するここ数ヶ月の問題により、ブランドの安全性に対する広告主の関心が高まっており、広告がどのような種類のコンテンツに表示されるかについての透明性が求められるようになっています。デジタル広告の考え方について転換が求められています。
数年前、私がデジタルメディアをスタートさせた際には、プレミアムコンテンツは王様でした。プレミアムコンテンツは、誰もが聞いたことのある雑誌や新聞などのすべての大きなブランドで利用されるべく、スケジュール調整がなされていました。その後、関心はデータに向かっていきました。どこにいるのか、何を読んでいたのかに関わらず、適切なプロファイルをターゲットとするために、場所ではなく人が重要視されるようになりました。
昨今、企業コンテンツが、不適切で、気分を害したり、ブランド価値を損ねるようなコンテンツに掲載されていたことを受けて、再度プレミアムコンテンツへの関心が高まっています。
何故でしょうか。もし広告がよく知られたプレミアムタイトルに表示されることがわかっている場合は、ブランドの安全性と透明性は自動的に保証されます。さらに、ブランドが協会からの支援を受けることにも繋がります。
問題は、広告市場がこのような形式に対応していないことです。
企業と代理店は、ますます「より少なく、より大きく、より良い」アプローチを採用しています。したがって、(Telegraph、the Mail、Marie Claireなどの)20の異なるパブリッシャーを持つキャンペーンを購入するのではなく、すべてを一括で処理する形態を望みます。これは、多くのトレーディングデスクが代理店との業務を通じて行なっている鍵となる点です。
しかし、多くのトレーディングデスクの問題は、何千ものWebサイトを通じて規模を求めるため、あらゆる種類のコンテンツと接続される可能性があることです。
複数のプレミアムコンテンツに簡易に広告配信を行いたい場合において、現在簡易な方法は存在しません。
広告主にとって必要なのは、プレミアムデジタル広告市場です。以前からかなり議論はされていましたが、実現に至ったことはありません。
他のデジタルアライアンスでは、複数の大手パブリッシャーの利害関係者の調整に手間取り、共通の環境を作り上げることができませんでした。最近、APAC、ヨーロッパ、中東、北米のプレミアムパブリッシャーの在庫に、広告主がアクセスできるような環境をサポートするPangaea Allianceが一定の役割を果たすようになりました。この共同体は、CNNインターナショナル、Dennis Publishing社のAlphr、FT、Inc、エコノミスト、ロイターなど、英国と環太平洋のコンテンツの両方から構成されています。しかし、ガーディアン社とアドテクパートナーであるルビコン・プロジェクトの間で意見の食い違いが発生した結果、ルビコンはプロジェクトを去る形となり、将来に暗雲が立ち込めています。
しかし、プレミアムデジタル広告市場のメリットが、現在よりも明確だったことはありません。
広告をプレミアムコンテンツに配信することは、ブランドの安全性を保証するだけでなく、プレミアムブランドとの関連付けを担えるメリットがあります。L'Orealのキャンペーンを実施する上で、Marie Claireやthetrainline.comに掲載されていれば、それは同じ種類のコンテンツと捉えられます。この傾向は、電車予約のポータルなどよりも、女性のライフスタイルマガジンの類などで顕著です。
プレミアムパブリッシャーのグループと、このような連携を強めるために協業することはそれほど難しいことでしょうか?おそらく簡単なことではないでしょう。以前このような試みを行った際には、余りにも多くの人が決定プロセスに関わり、個人的なアジェンダと絡めて考えることが多かったため、事態は進むことはありませんでした。
恐らく、第三者、または小規模な決定機関により、問題を解決していくことが賢明かもしれません。明確な基準と厳格な会員資格基準を設定し、すべてのパブリッシャーがプレミアムと透過性のテストに合格する仕組みを形成すべきです。これにより、単に巨大な広告ネットワークを生成することなく、また、パブリッシャーによる他社への干渉を防ぐことができます。パブリッシャーの関心を高めるためには、商業的利益を明確に定義し、魅力的な方法で提示することで、グループへの参加を躊躇させないことが重要です。
全ての事業者が参加し合意することで、広告主と代理店は、どのプレミアムプレースメントを利用するのかを正確に把握することが出来るウォールドガーデンが実現されます。また、広告クリエイティブだけで判断していた現状から、ファーストパーティデータを活用してブランドパフォーマンスを向上することができる点も重要です。
ユートピア的な理想なのか、それともデジタル広告の未来なのか?時間だけが教えてくれるでしょう。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。