ブランド広告主に新しい価値を提供できるような機能開発を~Yahoo! JAPAN プログラマティック領域への取り組み【前編】 [インタビュー]
Yahoo! JAPANが5月中旬に発表した、同社のプログラマティック領域への取り組みの推進は、国内のトレンドに大きな影響を及ぼすことが予想される。
今回のリリースの背景や、サービスの概要や考え方について、デマンドサイド、サプライサイドそれぞれについて伺ったお話を全2回に分けてお届けする。
前編ではまず、デマンドサイドの取り組みについて、ヤフー株式会社マーケティングソリューションズカンパニー ディスプレイ広告事業本部 プログラマティック広告 サービスマネージャー 小西 雅永氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
Yahoo!アドエクスチェンジで全広告在庫を取引
― まずはYahoo! JAPANのプログラマティック領域への注力化の背景についてお聞かせください。
アドテクノロジーの台頭で、インターネット広告の高速化が進んでいる現状があります。また、RTBの技術によって、点在していた広告枠がネットワーク化され、ターゲットに応じた広告枠の即時落札、入札、配信が拡大しています。
さらに、市場がオープンになりつつありますが、不特定多数のバイヤーとセラーが参加する中で、マーケット全体の健全化に向けた取り組みが進みつつあります。その取り組みの一つとしていま注目されているのが、PMP(プライベートマーケットプレイス)という個別の売り手と買い手によるプライベート取引です。
サプライサイドからすれば、RTBによって広告枠をグローバル規模で販売できるようになるので、安全性を担保しながらもマネタイズしたいというニーズがあります。
そこで、プログラマティック広告を強化し、より質の高いインターネット広告取引を構築するために、Yahoo!アドエクスチェンジを開始しました。
Yahoo!アドエクスチェンジは、広告出稿者と媒体社の間に位置する、Yahoo! JAPANが提供する広告取引プラットフォームです。
注力するのはブランド向け広告のプログラマティック化
― プログラマティックへの注力を進めるうえでの、ポイントとされているのはどのような点でしょうか?
ブランド向け広告のプログラマティック化がキーワードになるでしょう。現在のプログラマティック市場ではパフォーマンス型のものが主流で、リターゲティング、リマーケティングをはじめとして、市場がここ数年で伸びてきてます。
2020年にはデジタル広告がテレビ広告を抜くのではないかとも言われていますが、業界全体を見渡すと、ブランド広告主様が安心して出稿できる環境は、まだこれからという状況です。Yahoo! JAPANには、これまでメディアとしての信頼性を築いてきたという自負があるので、その力をもとに、新たなマーケットを作っていきたいと考えています。
広告主様が出稿するメディア、すなわちブランド広告主様が求めるのはインパクトの大きい広告ですから、ユニットの大きさの確保や、配信するビデオなどのフォーマットが重要になってきます。また、バイイングの方法でも通常のRTBとは異なった取引(Deal)と呼ばれることも行います。
ブランド向けの広告のマーケットを作る上で、日本においてブランド広告を多く取り扱っておられる電通グループと博報堂DYグループとのパートナーシップはとても重要です。両社とより強固に連携し、取り組みを進めていきたいと考えています。
Yahoo!アドエクスチェンジに関しては、電通グループ、博報堂DYグループ以外にもさまざまなバイヤーとセラーに参画いただくことが可能で、各DSP事業者とも連携を進めています。
3rd Partyのバイヤーは、広く募る
― 3rd Partyのデマンド側は、Yahoo!アドエクスチェンジを通してYahoo! JAPANの広告在庫を買うことができるようになりますか?それとも、Yahoo! JAPANのパートナー媒体社のみにとどまるのでしょうか?
Yahoo!アドエクスチェンジには、オープンマーケットプレイスとYahoo!プライベートマーケットプレイスの二つがあります。オープンマーケットプレイスは、基本的にどんなバイヤーでも参加いただけます。Yahoo!プライベートマーケットプレイス経由で参画いただけるバイヤーにはYahoo! JAPANの在庫を販売しています。
― Yahoo!アドエクスチェンジの在庫を開放する3rd PartyのDSPについて、お聞かせいただけますか?
広告のバイヤーは、品質の高い掲載枠を常に切望しており、インベントリーを広く集めたいという思いがあります。Yahoo! JAPANでは独自に媒体社の広告ネットワークを培ってきました。その在庫をこれまではYahoo! JAPANの広告のみを対象としてきましたが、これを3rd Party のDSPに開放していきます。「ついにYahoo! JAPANの広告ネットワークで配信できるのか」という声も聞こえてくるので、在庫に対する期待は、かなり大きいと感じています。
PMPは広告デジタルシフトの受け皿となる!?
― PMPを通した広告取引量は、将来的にどのくらいの規模になると見込んでいますか?
国内のPMPはまだ市場予測もそれほど出ていない分野です。具体的にはお話しできませんが、かなりの額の取引量になると思います。
Yahoo!プライベートマーケットプレイスに関しては、Yahoo! JAPANとYahoo!アドパートナーの両方が対象になります。今回の取り組みに関してパートナー媒体様からもポジティブに受け取っていただいています。
これからデジタル広告のさらなる伸長が予想される中、PMPがブランド広告主様のデジタル出稿における受け皿として期待に応えていけるよう、取り組んでいきたいです。
そのためには、ブランド広告主様に使っていただけるようなユニットやフォーマットは非常に重要だと考えています。PMPにおいては大きいサイズの広告枠や、ビデオフォーマットなどを検討しています。そういった中で、純広告で販売していた媒体枠がプログラマティック化していくことが一つのキーワードになると思います。
デバイス別にみるとスマホに対する要望が多いので、スマホについてもPMPは効用活用していきたいですね。また、ブランド広告主様向けに新しい価値を提供できるような、機能の開発に取り組んでいきたいと考えています。
さまざまなデータ活用が可能に
― デマンドサイドでの貴社ユーザーデータを活用した取り組みについてお聞かせください。
電通グループと博報堂DYグループについては、Yahoo!アドエクスチェンジを活用した電通PMP、HDY PMP_で、Yahoo! JAPANのデータ、電通グループと博報堂DYグループのそれぞれがお持ちのデータ、これらを掛け合わせて活用します。そうすることでオーディエンスの設計や広告の配信が可能になります。
データの活用における、ひとつめのポイントは「最適化(オプティマイゼーション)」だと思っています。今のデータ活用はターゲティングに偏重していて、セグメントを作ってターゲットを作って配信したり、リターゲティングして配信したり、興味関心のデータで配信することが主流です。
また、これまでのターゲティングという手法には、配信機会を制約してしまうという側面もあります。
人ができること以上に機械ができることが増え、すべての産業で機械化が進んでいる中で、将来的には人がターゲティングするのではなく、データを機械の中に入れておき、入札の段階において、アルゴリズムで判定された、いちばんよいものが選ばれている状態になると思います。
オーディエンスデータ(人の属性)も大切ですが、フリークエンシー、リーセンシー、広告枠、時間帯などいろいろな要素から価値が判定され、入札されるべきでしょう。ターゲティングは人にフォーカスしてある制約をかけてパフォーマンスを上げていましたが、パフォーマンスを上げるのであれば、オーディエンス以外のデータも含めて、最適化する世界が今後考えられます。今後注力していきたい部分です。
その他のデータ活用範囲として、オーディエンスプランニングが挙げられます。ブランド広告主様は、自社の商品を伝えたいオーディエンス像を持っていると思うので、Yahoo! JAPAN、広告会社様のデータを使って可視化し、オーディエンスに向けたコミュニケーションを設計することができます。
さまざまなデータを掛け合わせて活用することで、新たなユーザーを発見し、可視化して戦略立案に役立てていただきたいと考えています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。