レコメンド事業を通じて広告主偏重型の市場を変革-UZOUのメディア支援戦略論 [インタビュー]
2016年に事業者数が急増した、レコメンドウィジェット型のネイティブアド配信プラットフォーム。同市場において、自ら「後発組」であると自覚しながら、着実に業績を伸ばしてきているのが株式会社Speeeの「UZOU」だ。新規参入を果たしたレコメンド事業を通じて描く同社の戦略とは何か。デジタルコンサルティング事業本部UZOU事業責任者の左納健大氏に話を聞いた。
(聞き手: ExchangeWire Japan 長野雅俊)
事業戦略的にもメディア支援が鍵に
― 自己紹介をお願いします。
Speeeにおいて、レコメンドウィジェット型のアドネットワークであるUZOUを運営しています。メディア様に対して関連ページ記事下部に関連リンク型で設置するレコメンド・エンジンを無償で提供して、その一部を広告枠として運用していくというビジネスです。2015年10月に事業を開始し、2016年4月より対外的にサービスの提供を始めました。私自身は、事業開始時より責任者を務めています。それ以前は、自社のトレーディング・デスク事業の立ち上げに参画。その後SEOや広告運用のコンサルタントに従事していました。
― UZOUの開発経緯をお聞かせください。
もともと弊社はSEO事業を中心に手掛けてきました。やがて広告主向けのトレーディング・デスク事業そしてCRO(コンバージョンレート最適化)サービスなども営むようになり、プラットフォームを持つことの重要性は以前から強く認識していました。また私たち自身が広告主様向けのサービスを展開する中で、広告主様向けのソリューションが多く揃っているにも関わらず、メディア様向けのサービスが不足しているとも強く感じるようになりました。そこでメディア様に価値を提供できるプラットフォームを展開したいという考えから、UZOUの立ち上げに至っています。
― UZOUは他のレコメンドウィジェットとどのような違いがあるのでしょうか。
レコメンドウィジェットの肝は、どのような編集及び広告コンテンツをお勧めするかを決めるアルゴリズムの精度と、表示される広告の品質である考えており、その2点の強化にはかなり注力しています。アルゴリズムについては、我々が以前から営んでいたSEO事業においてGoogleのアルゴリズムを専門で研究するチームが多大な貢献を果たしてくれました。加えて、弊社では集客やコンテンツ・マーケティングについての組織的なノウハウを蓄積しているので、レコメンド・エンジンの性能は初動段階で既に相当に高いものとなっています。
そして、広告の品質については、コンテンツ管理体制によって担保しています。そもそも、UZOUというネーミングには「有象無象の中から価値あるものだけを提供したい」という思いが込められています。それぐらいレコメンド機能を通じて配信される外部コンテンツの品質管理にはこだわっていまして、弊社の広告審査基準はかなり厳しい。その結果、通常はコンテンツ管理への懸念を理由に広告ネットワークを活用されていない新聞社様にもUZOUをご導入いただいています。
― 具体的にはどのように外部コンテンツの品質管理を行うのでしょうか。
分かりやすい例を挙げると、例えば薬機法を中心とした法律回りのコンテンツ規制ですね。ネイティブ広告には美容、化粧品、サプリメントといった業界の広告主さんが出稿主となることが多いので薬機法への対応が重要なのですが、新聞社のような規制が厳しい企業様であれば、そもそもそうした内容の出稿を受け付けないという対応を取りがちです。
薬品メーカーで広告を作っていた経験のある者に審査を協力してもらっています。その上で、例えば新聞社様の規制にも対応するように表現の仕方や画像を変えていただくようお願い申し上げる場合があります。そうしたフィードバックやサポートを丁寧に行うことで、広告主様側は出稿できて、メディア様側も規制に沿ったコンテンツを配信できるという好循環を生み出せるように努力しています。
【UZOUにおける外部コンテンツの配信管理】
― そうした特徴が、多くのメディア様に受け入れられている理由なのでしょうか。
そうですね、ただ一番の差別化ポイントとしては、サービスの思想の部分だと考えています。本来、ネイティブ広告はユーザー、メディア、広告主の「三方良し」となるべきところが、現実には広告主偏重型の市場となっています。そんな中、メディアとユーザーもきちんとケアできるソリューションを開発したいという思いからレコメンドウィジェット事業に参入しました。また広告主様側とは既に大手代理店様がそれぞれ深い関係を構築している一方で、メディア様側への支援はいまだ十分ではありません。だからこそ、集客やサイト内改善のノウハウを持つ我々にとって、メディア様側への支援部分にこそ機会があると思っております。
指標はメディアのサービス継続率
― レコメンド事業運営上、重要視している指標は何でしょうか。
レコメンドウィジェットは、魅力的なメディア様に使い続けていただくことで、広告主様に継続的に価値を提供することができるものと考えています。だから我々が重視するのは、メディア様のサービス継続率。インプレッション、クリック率、売上といった様々な点において、弊社サービスを導入いただいているメディア様が翌月または翌々月にもサービスに満足し継続的にご活用いただけるかどうか。
例えば大きな事件が発生すれば、ニュースサイトではトラフィックが大幅に増えますよね。放っておけばやがてトラフィックは元に戻りますが、そうした自然増や自然減を含めてどれだけ前月の状態を継続できているかなどもこの「継続率」に反映されると考えます。
― この継続率という指標において貴社の事業はどのように評価できますか。
現時点でUZOUは150~200媒体ほどのメディア様に導入いただいているのですが、これまでサービスを継続いただけなかったメディア様は、わずかに10分の1ほどです。この数字は、既にリプレース・マーケットとなっているレコメンド市場としては非常に良い結果であると捉えています。メディア様からの具体的な評価としては、やはり広告品質を担保しつつも収益性が良い、という点をご好評いただくことが多いです。
またこれは我々の事業においてユニークな点だと思うのですが、もともとSEO事業を起点として集客やコンテンツ・マーケティング領域に強みやノウハウを持つ組織です。そのためレコメンドウィジェット導入を入り口としてコンテンツ作りやクリエイティブに関するご相談へと発展する場合があります。また逆に今は集客やサイト内A/Bテストのツールを導入いただいているメディア様から、レコメンドウィジェットを通じてのマネタイズのご相談をさせていただくこともありますね。
レコメンドを入り口としたコンサルティング業務を展開
― UZOUサービス提供開始からの1年を振り返って手応えはいかがでしょうか。
大体の部分において、想定していた通りという印象です。ただ思っていたよりも市場が早く成熟したとも実感しています。新規で参入した競合数社はトップ営業をかけているとも聞いているので、各社がレコメンド事業にかなりの営業リソースを割いたことなどが理由なのかもしれません。メディア様側のA/Bテストも想定していたよりも速いスピードで進んだとの印象を持っています。
― 今後の展望についてお聞かせください。
UZOUでは「ネイティブ広告が人のココロを動かす世界をつくる」というビジョンを掲げています。今はレコメンドウィジェットとしてのネットワーク展開に注力していて、まずはここを勝ちきるというのが短期的な目標です。2017年内にある程度の目処がつくと想定しています。それまでは今のレコメンドウィジェットという形式でメディア様にまずはご満足いただくことで、広告主様も合わせて双方に価値を提供していくということができればと思います。
その後に関しては、新規フォーマットや既存サービスと連携したプロダクトの創造に着手したいと思います。様々な方向性からの媒体支援を強化し、メディア自体の価値の向上、そして1ページ当たりの価値を最大化させていくことができたらと思います。
― 媒体支援とは具体的にどのように行なうのでしょうか。
UZOUでは「URL別成果一覧」機能といって、1ページ当たりの単価、収益性や回遊性などを可視化する機能を持っています。我々は、これらのデータを紐解くことで、どのようなコンテンツを生成すればメディアの価値が最大化されるのかが分かると考えています。
【「URL別成果一覧」機能】
ただ正直、今得られているデータでは本来やりたいことに対してまだ不十分で、どのページがより効果的かというのは測定できても、具体的にどのようなアクションを取ればいいのかという判断を促すまでには至っていない。一番重要なのは運用サポートだと思うので、こうした点を踏まえて、機能をブラッシュアップさせたいと思っています。
― 今後の展望に関して、メディア支援の側面をお話いただきましたが、広告主側のメリットは何でしょうか。
広告主様にとっては、魅力的なメディアがきちんと存在するアドネットワークであるということが最大の価値であると考えているため、まずは信頼性あるネットワークを構築することを最優先事項と位置付けています。
また「クリックユーザー分析」という付加機能があり、複数のCV(コンバージョン)ポイントを指定し、そこに至るユーザーの直帰率や滞在時間を可視化することが出来ます。各ポイントでの遷移率やGoogleアナリティクスで計測できない直帰ユーザーの滞在時間なども捉えて運用改善することが可能です。
【クリックユーザー分析機能】
加えて弊社全体の競争優位性となっているのが定量データの分析と提供。一例を挙げますと、過去に様々な企業様が手掛けたクリエイティブを集めて、こういう文言が入るとどれぐらいパフォーマンスが変わるか、この時間帯にこのメディア様に配信するとこういう成果が出るとかといったことを類型化したサービス・カタログを作成しています。
もともとディスプレイ広告やSNSなど色々なメニューを扱ってきたので、レポーティングや定量データの分析のノウハウには自信があります。ベンダー業としては特殊な形態かもしれませんが、ユーザーの態度変容を予測してパフォーマンスを最大化させるお手伝いといったところまで踏み込んでいくことで、我々の介在価値を上げ、業界全体を正しい方向に成長させていきたいと思っています。
ネイティブ広告市場に欠けているもの
― 本インタビューの冒頭で、ネイティブ広告市場が成長している一方でメディア向けのサービスが不足している、という問題提起をされていましたが、なぜそのような状況になっていると思いますか。
テクノロジー・ベンダー側が現在出しているソリューションは非常にスポット的というか、マーケティング領域の広さに対して、単一的なテクノロジーでは捕捉しきれていないにも関わらず、そこに終始してしまっているのが一つの原因ではないかと思います。だから、「収益率改善」と「PV増加」という相矛盾する目標が存在した際に、場合によってはそれぞれの施策に振り回されてしまうことがあるのではないでしょうか。
言い換えると、メディアのコンセプト設計から、コンテンツの設計、集客、マネタイズ、UI/UXの改善という一気通貫の流れをトータルでサポートして一緒に議論できるパートナーのような存在がこの業界には圧倒的に少ない。だから我々は、そうしたことができるパートナーでありたいなと願っています。既に大手の出版社様とはメディアの方向性といった大枠の設計から集客やマネタイズの支援までを行っていますので、これを成功事例として残すことができたらと思います。
レコメンド事業というのは、マーケティング活動の一部を占める広告ネットワーク事業のさらに一部に過ぎません。しかも、各メディアは今や広告販売だけではなく、ECサイトへの誘導やコンテンツ課金など様々な事業モデルを見出してきています。だから我々はまずはメディア本来の広告マネタイズにおいて適切なソリューションを提供できるようになり、将来的にはより広い範囲でメディアの成長に寄与できるサービスまで踏み込んでいければと考えています。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。