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動画向けヘッダー入札は成長する-AppNexus Eric Hoffert 氏 [インタビュー]

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

ヘッダー入札の利用はここ数年急激に広がっているが、ウェブディスプレイ以外でのフォーマットにおいては十分に利用されていない。AppNexus社はこの状況に変化を起こそうとしている企業の一つで、最近パブリッシャー向けにヘッダー入札を動画に利用し高いパフォーマンスを得るためのガイドをリリースした。ExchangeWireは AppNexus社の動画テクノロジー部門SVPの Eric Hoffert氏にインタビューをした。

― なぜヘッダー入札は動画に活用できるとお考えですか?

広告主は動画がメッセージを伝える上で非常に効果的である点を理解しており、動画広告のCPMはディスプレイ広告と比較しても非常に高いです。私たちはデジタル動画による収益は今後も増加していくと考えています。ヘッダー入札が購入者間の競争を促進することでパブリッシャーの広告収入を増やすことができるのであれば、それをインベントリに活用しない理由はありません。

ヘッダー入札は遅延の問題も解決でき、その点はオンライン動画にとって非常に重要です。プレロール型の動画の再生に時間がかかってしまうと、ユーザは単純に閲覧することを止めるでしょう。ある調査によると1秒の遅延によってユーザの6%が離脱するといったデータもあります。ユーザ、パブリッシャー、広告主の全てを失うことに繋がるのです。こういった問題は、パブリッシャーが動画広告を配信する上でウォーターフォール型のセットアップをした際によく起こりえます。ヘッダー入札は、パブリッシャーがすべての動画デマンドパートナーに非同期に広告リクエストを送信できるようにすることで、遅延を軽減する技術です。

― ヘッダー入札に関して巷で信じられている誤った認識はありますか?

写真

Eric Hoffert氏、AppNexus社
動画テクノロジー部門SVP

はい、パブリッシャーが動画でのヘッダー入札をためらう結果に繋がっている誤った3つの認識があります。この懸念は、動画広告のプリヘッダー入札の理解不足によるものです。

一つ目の誤りは、ヘッダー入札を動画に活用すると遅延が発生してしまうという点です。多くのパブリッシャーは動画向けにウォーターフォール型のシステムを利用しており、30ものデマンドパートナーとインプレッションのやりとりをしています。これらのパブリッシャーはヘッダー入札を、遅延をもたらす原因だと考えています。実際には、遅延の原因となっているのはウォーターフォールの設定に誤りがある場合が多いのですが。

二つ目の誤りは、動画プレイヤーにヘッダーが存在しないという点です。ヘッダーはウェブページの一部である点は事実ですが、動画プレイヤー自身もページ内のJavascriptの一部なのです。パブリッシャーが動画ヘッダー入札を適切に設定した場合には、ヘッダーは入札単価を動画プレイヤーに渡すことが可能です。

3つ目の誤りは動画ヘッダー入札がデータ漏えいにつながるという点です。一部のパブリッシャーは、動画にヘッダー入札を使用すると、デマンド側のパートナー側で利用可能な番組の動画広告枠の量を見ることができてしまう点に懸念をもっています。実際、ページヘッダー入札により、全体のリクエストされたインプレッション数などの情報を入手することはできますが、このうちのどれだけが広告サーバ内で販売され、どれだけがプログラマティックで利用可能かなどを知る術はありません。

― それでは、そのようにしてパブリッシャーはヘッダー入札を導入できるのでしょうか?

動画の導入はディスプレイでのヘッダー入札よりも様々なプロセスが必要です。というのは、ヘッダー入札ラッパーや動画プレイヤー、利用する動画広告サーバによってプロセスが異なるからです。動画でのヘッダー入札においてパブリッシャーが実行すべき4つのステップがあります。

1.

動画コンテンツによって収益を得たいページ上に動画広告ユニットを作成します。

2.

それらの動画広告ユニットをヘッダー入札ラッパーに加えます。デマンド側にアクセスするために、動画デマンドアダプターを含んだ形でリクエストを送信します。

3.

ラッパーと動画プレイヤーを統合して、ラッパーが入札で獲得した場合に動画クリエイティブを動画プレイヤーに渡せるようにします。

4.

広告サーバ上に動画広告向けの新たな申し込み情報を作成します。

これらの各ステップについては、動画ヘッダーの入札ガイドで詳しく説明していますが、これらが作業開始の主要な手順です。

― パブリッシャーが開始する上で他に準備をしなくてはいけないことはどのようなものですか?

最良の結果を得るために、私たちがお勧めするいくつかの参考例があります。

1.

動画側のデマンド要求に必要な内容を事前に埋め込むべきです。ユーザが再生ボタンをクリックするのを待つのではなく、ページが読み込まれた段階で、すぐにページを設定して動画広告枠をオークションにかけます。そのような形で、ユーザがボタンをクリックするとすぐに広告を配信することができます。私たちはこれを「オークションから再生ボタンを遠ざける」と呼んでいます。

2.

動画取引の設定を行います。サイトのコンテンツに合った広告主をターゲットに設定することで、インベントリを公開取引専用に配置する場合と比較して、CPMが高くなる可能性があります。在庫価格がCPM$15-$50の範囲で設定されるようなプレミアム動画パブリッシャーとのやりとりにおいて、ヘッダー入札を使ったアプローチとして通常の取引とプレイベートマーケットプレイスの二つがあります。

3.

動画プレイリストの管理をしっかりと行ってください。プレイリストが存在し、ページレベルにおける広告リクエストを行う際に、ページのメタデータやコンテンツに応じて広告が表示されますが、必ずしもすべての動画がプレイリストに表示されるわけではありません。かわりにプレイリスト内の動画と紐付いたメタデータを利用することで、広告がそれぞれのクリップと合わせて整理されるようにしてください。関連性が高まり、エンゲージメントが高まるでしょう。

4.

時間をかけて、動画を適切に扱えるチームを確立してください。開発者に全てを設定するための十分な時間とリソースを与えてください。動画向けのヘッダー入札を実装することは、世界で一番難しいプロジェクトではありませんが、正しく行うための専門知識を持ち合わせている必要があります。

5.

複数の動画のデマンド側のパートナーと協力してください。動画広告枠にヘッダー入札を使用する最大の理由の1つは、入札競争を促進し、動画のCPMをさらに高めることです。より多くのデマンドパートナーにアクセスできれば、より多くの競争が生まれ、より多くの収益を得ることができます。

― クライアント対サーバーサイドの動画ヘッダー入札はどうでしょうか?どのようなアプローチが最適ですか?

クライアント、サーバーサイドにおけるヘッダー入札のどちらがより優れたアプローチかという議論が昨今行われていきます。クライアントサイドでのソリューションは、より優れたユーザ同期とバイヤーへの優れた透明性の提供ができるのに対して、サーバーサイドでは遅延を削減し、パブリッシャーページの実装を簡略化できます。

ディスプレイ広告と同様に、AppNexus社では、サーバー間の動画ヘッダー入札のソリューションが、prebid.jsのような昔から使われているヘッダー入札ラッパーが用いられる環境では有効だと考えています。これらを用いることで、パブリッシャーはヘッダー入札パートナーとの間のクッキーを利用したマッチングを最大限に行う一方で、サーバーパートナーを通じて動画入札単価を高めることができ、遅延管理と収益最大化の両方が可能になります。私たちはこのアプローチは動画ヘッダー入札が次段階に進むに当たって重要だと考えています。

― 整理すると、動画ヘッダー入札に関して今後の青写真はどのようなものになりますか?

私たちは動画ヘッダー入札のまだ初期段階にいます。私たちは、以下の重要な項目を念頭に、現状の動画インフラとは独立した形でのアプローチを推奨しています。

1. 動画プレイヤーに依存しないこと

2. 動画デマンドのソース情報に依存しないこと

3. 動画広告サーバに依存しないこと

目標は、すべての形態及びサイズの動画パブリッシャーに迅速に展開できるように、動画ヘッダー入札の実装をできるだけ簡単かつ柔軟に行うことです。この目標を最適に達成するには、動画広告サーバープロバイダー、動画SSP / DSP、動画プレイヤーの提供者など、動画サプライチェーンのアクターとのサポート間におけるコラボレーションが必要となります。

より広範囲な目標としては、動画の買い手と売り手のやりとりを促進し、公平なオークションが行われ、明快な価格設定がされるような開かれた透明性の高い動画広告マーケットプレイスを確立することです。また、遅延を抑え、優れたコンテンツによりユーザエンゲージメントを高めることも重要です。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。