1,800万ダウンロード超「グノシー」のマーケティング活動を支える独自ポリシー [インタビュー]
情報キュレーションサービスの「グノシー」「ニュースパス」を提供する株式会社Gunosyは、モバイルの主要広告媒体として知られるも、その一方で、年間10億円以上もの広告投資を行なっている。業界の今後のアプリプロモーション市場における成長領域とも目される、非ゲームアプリ広告主である同社のマーケティング活動全般や、独自のポリシーを取材した。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
KPIは獲得単価×ユーザーの継続利用率
― お二人のポジションとバックグランドについてお聞かせください。
千葉氏:私は、3年前にプロモーションチームの立ち上げメンバーとしてGunosyに入社しました。当時のGunosyは社員数20名程の会社でした。前職は大手総合広告代理店でテレビCM枠の買い付けなどを担当していました。Gunosyがマスメディアでのプロモーションを始めようとするタイミングで、「テレビCMをやろうと思っているので来てほしい」という話があり、入社しました。現在は、執行役員として、プロモーション部門と収益性改善部門の管轄をしております。
石渡氏:私は1年前に入社し、入社当初からプロモーションを担当しています。現在は、プロモーション部のマネージャーとして、「グノシー」、「ニュースパス」(KDDIと共同で提供)、動画キューレーションアプリの「ビデレー」、フリマアプリの横断型検索サービス「バザリ―」の4つのアプリのプロモーションの戦略から運用まで全般を見ています。Gunosyに入社する前は、Web広告代理店で、リスティングやネットワークの広告を5年半ほど運用していました。
― Gunosyのマーケティング活動(広告宣伝活動)の全体像・組織ごとの役割分担についてお聞かせください。(予算、利用媒体、役割と組織など)
千葉氏:今年の1月に入るまでは、私と石渡の2名で担当業務を回していました。予算額は、年間で10億円を超える規模です。最近はプロダクトが増えてきているため、プロダクトごとに一人ずつ担当を当てて、人を増やしています。媒体は、テレビCM、モバイルの媒体を運用しています。
― ちなみに、ご予算の配分は、テレビCMとモバイルではどのぐらいでしょうか?
千葉氏:時期と効果によって、予算配分をコントロールしています。 モバイルは数十媒体以上に、つねに出稿しています。
― モバイルの数十媒体というのはすごいですね、どのような媒体ですか?
石渡氏:色々な種類の媒体があります。アドネットワークのような形式もあれば、DSP、Yahoo!やGoogleの検索、SNS、動画、CPIを固定で運用できるアフィリエイト、などもあります。
― アプリのマーケティング活動におけるポイントがあればお聞かせください。
千葉氏:ユーザー1人あたりの獲得単価の安さを最も重要なKPIとして設定しています。それに加えて、残存率を見るようにしています。
―“獲得”のKPIはどこに設定していますか?
石渡氏:プロモーションをやっていく上でという意味では、ユーザー獲得にかかるコストだけでなく、掛け合わせる継続率、どのぐらいユーザーが継続してアプリ使ってくれるかも重要だと思います。例えば、1ユーザーが10円、20円という単価で取れたとしても、2日目以降使う人が極端に少ないと意味がないので、獲得単価と継続率の掛け合わせになります。
― テレビCMの広告効果はどのように測定していますか。
千葉氏:自社で効果算出ロジックを構築し、可能な限り可視化した上で、運用を行なっています。
― 紐付けをするためのツールがあるのでしょうか?それとも何か違ったロジックを構築されているのでしょうか?
石渡氏:全体のダウンロードの中でも、モバイル媒体はツールを使って計測をしています。テレビの部分については、エリアやOA時間など複数指標を組み合わせて可視化しています。完全に正確な数値を把握することは不可能と割り切った上で、トレンドを把握して意思決定のヒントになる数値をつねに探しています。
― テレビCMとモバイルの求める役割は究極的には一緒だと思いますが、プロセスとしては違うものを求めてらっしゃるのでしょうか?
千葉氏:そこは割と一緒です。無料アプリは、ダウンロード障壁が低いのでテレビCMもモバイルも近似した指標で管理しています。
― テレビとモバイル以外に、他の媒体への出稿を検討されたことはないのでしょうか?
千葉氏:交通広告などは、トラッキングが難しいので、今のところあまり考えてはいません。新聞はどのぐらいの効果が出ているのか分かりづらいですし、ラジオ広告はボリュームが少なくやったことはありません。雑誌もやったことはありません。効果計測ができないと、出稿を継続するか、しないかという判断が難しくなるからです。無償掲載などであれば、特に難しいことは考えずに取り組んでいます。
― モバイルの媒体選定として、サーチ、Facebook、Twitter、LINE、アドネットワークといったカテゴリがあると思いますが、合っていますでしょうか?
石渡氏:その通りです。アドネットワークの中で特徴のあるアドネットワークというのはありますが、特殊な媒体があるわけではありません。
― モバイル広告媒体ごとで、ユーザーの性質はどのように異なりますか?
石渡氏:流入元の媒体によって、ユーザーの継続率が違います。やはり、ユーザーの媒体に対する態度によってアプリをダウンロードするモチベーションは変わってくるので、そこはきめ細かく訴求などを分けて運用しています。
― モバイル媒体の予算配分の傾向についてお聞かせください
石渡氏:やはり新しく出たばかりで、広告主さんがそこまでおらず、バイイングサイドが有利な媒体は効果が良い傾向にありますね。
― 一般的にはアドネットワークの売り上げが落ち着いているという話は聞きますが、Gunosyの場合、ソーシャルよりもアドネットワークの予算が多いのでしょうか?
石渡氏:ソーシャルより、アドネットワークのほうが多いです。
千葉氏:予算に関しては、競合他社の出稿によって大きく依存しますね。ここについても、デイリー単位で状況みながらきめ細かく運用するようにしています。
― モバイルについては、時期によって予算の変動はありますか?
石渡氏:あります。我々が意図的に変えているわけではありませんが。例えば3月だと、他社さんが予算消化で大量出稿している場合がありますので、そういった場合は無理しないようにしています。
― Gunosyのデジタルのマーケティングプロモーションは、過去数年間でどのような変化がみられますか?
千葉氏:以前は、スマホで出稿可能な媒体が少なく、出せるところが限られていましたが、最近では媒体が増えてきて、CPI以外にも、継続率などを掛け合わせて判断できるようになりました。バイイング視点で、できることが増えたと感じています。可視化に関しては、今後も進んでいくトレンドなので、追える指標を増やして、より戦略的に展開していきたいと考えています。
― モバイルの業界的な流れとして、最近は出稿者側が求める効果の指標が変わりつつあるとも聞きます。Gunosyの場合はいかがでしょうか?ダウンロードと継続率のままでしょうか?
千葉氏:以前より変わりはないです。
― リエンゲージメント手法の導入が進んでいるとも聞きますが、いかがですか?
石渡氏:直近で取り組んでいるところです。今1800万ダウンロードを直近で超えてきました。まだ効果が悪化してきたなとは思っていませんが、休眠復帰の視点など、そういった色々な手法も扱えるようになってきたので、開発側と連携して積極的に取り組んでいきます。
― 開発側と仰っているのは、システム的な連携が必要ということでしょうか?
石渡氏:新規のダウンロードだと誰にあててもいいという広告ですが、「グノシー」を既に使っているユーザーに対して広告をあてるとなると、「グノシー」のユーザーデータを媒体側に送る必要があります。その媒体側に送る連携の部分や、これまで我々が全く取り組んでいなかった部分ですので、どうやってデータを可視化していくかというダッシュボードの設計など、開発側のメンバーと一緒に取り組んでいます。
― リエンゲージメント広告の予算は増えてきていますか?
石渡氏:まだ我々も手探りで、いま見ている指標で良いのかという点からスタートをしているところです。ゲーム業界や課金のあるアプリのリエンゲージメント広告は進んできていると思います。まだ非ゲームで、課金がないアプリでリエンゲージメント広告を実施している会社が少なく、媒体さんに聞いても事例はこれからかなという感じです。我々として、どのような指標を目指してやっていくと成功するのかが手探りの状態です。
― Gunosyが事例になられるということですね。
石渡氏:そうですね。
― モバイルでどのような媒体や手法が出てくると、いいなと思うことはありますか?
石渡氏:テクノロジー的な面の課題で言うと、アプリとブラウザの間の情報のギャップがあります。ユーザーがこのアプリを使っているという情報と、SafariやChromeといったブラウザでの情報マッチングができておらず、情報が分断されてしまうことが勿体無いなと思っています。そこが解決できたら嬉しいです。
強みはメンバー一人ひとりの裁量の大きさ
― Gunosyならではといった、プロモーションのセオリーがあればお聞かせください。
千葉氏:プロモーションのチームを起ち上げた当初から変わらず大事にしているのは、意思決定のスピードです。以前、2人体制だった時も、最大で年間数十億円の予算で広告を運用していたのですが、都度社内の稟議や承認を取っていると行動を起こすまでに時間がかかってしまいます。
そのため、一人あたりの裁量権を大きく持たせるようにして、意思決定までのPDCAを早く回すことを重視しています。新しい媒体にチャレンジするかどうかを決めるときも、これくらいの効果が出そうだからやりたい、というよりは、やってみたらこのくらいの効果がありました、という形にしています。効果が良かったから継続する、悪かったら継続しないと判断した方が合理的なので、メンバーが自分で決めて行動できるような体制にしています。
― 新しい広告商品やプロモーション手法はどこで知られるのでしょうか?代理店さんから教えてもらうことが多いのでしょうか?
石渡氏:今は代理店さん経由が多いです。あとはインターネット上のニュースを見ています。
― ここ最近で、代表的な、成功したプロモーションの事例があればお聞かせください。
石渡氏:リエンゲージメントの配信については、Gunosyの強みが出ていると考えています。まだ、完全に言い切れるレベルではないですが、この指標を追えば成功できそうだという道筋まではたてられています。特に実施までのスピード感や、マーケティングと開発が両面で動いていけるのはGunosyのテクノロジードリブンな社風だからこそ実現できる連携体制だと思います。
― テレビCMの出稿は今後減っていくのでしょうか?
千葉氏:効果が良くでるのであれば減らす理由もないと思います。訴求の軸を考えて、可能な限り効果を合わせながら出稿ができるオプションは、増やしていきたいですね。
― 初期の頃のテレビCMの効果と、今のテレビCMの効果は違いますか?立ち上げのインパクトは大きいのでしょうか?
千葉氏:ずっとやり続けていると、どこが普通なのかが分からなくなってきてしまうというのが正直なところです。
― マスとデジタルそれぞれの使い方は今後どのようになっていくでしょうか?
千葉氏:繰り返しにはなりますが、やはり効果を見ながらその時々で最適な出稿ロジックを追求していきたいです。
― 広告代理店さんとは、どのようなポリシーでお付き合いされていますか?
石渡氏:先ほど千葉からも申し上げた通り、スピード感を非常に大事にしています。ですので、新しい媒体や広告商品が出た場合は、基本的には一番先に提案いただいた代理店さんで試しています。
きちんと社内で稟議をあげないといけないという文化だと、代理店さんからシミュレーションをもらって、「Aという代理店さんだとCPAいくらで何件取れるって言っています」「こっちはいくらって言っています」「手数料何%ずつなので、このような効果になります」というのもやらないといけないですが、今はそのような環境ではありません。稟議で1〜2週間待ち、稟議のためのシミュレーション制作に代理店さん側で1、2週間かかると、トータル1ヶ月遅れる可能性があるので。
千葉氏:提案来ていただいて、明日始められるなら、それでも良いと思っています。極端な話、いま提案をもらって1時間後に始められるなら、それでも良いと思っています。
石渡氏:ですので、「あと開始ボタンを押すだけなのですが、やっていいですか?」というご提案を受けることもあります。笑
リエンゲージメント広告の自動化に期待
― マーケティング活動をされている中で、課題に感じられていることはありますか?
千葉氏:リエンゲージメント広告への取り組みは、進めていこうと考えています。アプリのダウンロード数が、いつか上限に到達した時、情報キュレーションサービスの事業をどう成長させられるのかは、そこが握っていると思います。
石渡氏:そうですね、あと自動化技術の発展に期待しています。人が数字を見て判断をしている部分を自動化してくれれば、マーケティング活動のスピードが上がりますし、代理店さんもそこではない部分に時間を割けるようになるので。自動化の流れは、業界全体として今よりも進んでいってほしいと思っています。
― 一番自動化が進んで欲しい工程は、どの工程でしょうか?
石渡氏:広告の運用でいえば、入札の強弱は最も自動化しやすい工程ではないでしょうか。入札の強弱をマーケターが見ている指標に近づけるようなロジックがどの媒体でもできるといいですね。その次に自動化の流れが来るのは、クリエイティブだと思いますが、クリエイティブの完全自動化はなかなか難しいです。
― 今後、Gunosyのマーケティング活動において、挑戦していきたいことあればお教えください。
千葉氏:ユーザーの獲得だけではなく、そのあとユーザーがアプリをどう使っているかというユーザー行動まで見られるような指標づくりにチャレンジしていきたいです。媒体で分析環境の整備までやっていただけると、今よりも使いやすくなるでしょうね。既存のモバイルやテレビCMに限らず、新しい媒体があれば何でもやってみようという方針です。
石渡氏:今までの取り組んできた活動は、変わらずに継続しつつ、ユーザーを定着させるための広告で、最初に獲得したユーザーの短期的な継続率を引き上げるための取り組みは、今後さらに強化していきたいです。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。