広告クリエイティブのソーシャル最適化で未来を創る アライドアーキテクツのSNS広告戦略 [インタビュー]
ソーシャルメディア広告事業において、様々なプロダクトを活用し高度な取り組みにより高い評価を得ているアライドアーキテクツ。その事業の特徴や背景にある考え方、具体的な取り組みについて広告事業を統括するマーケティング事業本部 AD-Tech事業部 部長 村岡 弥真人氏にお話をうかがった。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
― 自己紹介をお願いします
アライドアーキテクツ株式会社のマーケティング事業本部 AD-Tech事業部 部長 村岡弥真人と申します。
元はグローバル展開をしている大手ガラスメーカーに在籍し、エレクトロニクス・ディスプレイ・テレビの液晶などの生産管理を担当していました。私自身、グローバル志向だったのが入社の動機ですが、あまりに大きな会社だったため、自分が何かを変えるには時間がかかると感じ、スピーディに結果を出すことができるインターネットビジネスがやりたいなと思い始めました。“成長産業”・“ソーシャル”・“インターネット”という軸で探していたところ、当時Facebook関連事業を始めたばかりのこの会社に出会い、面白い会社だなと思い2012年5月に入社し、現在に至ります。
エンゲージメントから顧客パフォーマンスまでワンストップ対応
― 貴社全体の事業概要と、広告事業参入までの経緯をお聞かせください
当社は2005年に創業したSNSマーケティングの専業会社で、FacebookやTwitter、InstagramなどSNSを活用した企業のマーケティング施策を全般的にご支援しています。もともとはブログマーケティング支援から始まり、私が入社した当時の主力事業は「モニプラfor Facebook」というFacebookに特化したプロモーション支援サービスでした。ソーシャルの黎明期である2010〜2012年頃は拡販に苦労しましたが、その後SNSの普及とともに受け入れられるようになり事業は拡大、2013年11月には東証マザーズに上場しました。モニプラは現在、SNS全般に対応したマーケティングプラットフォームとして展開していますが、私が携わっていたのはこの頃までです。
2014年初頭に広告事業を新たに立ち上げたのですが、エンゲージメント主体のマーケティング施策で大きな予算を預けていただくようになっていたクライアント様に対して、その先の顧客獲得など具体的なパフォーマンスまでサービスの幅を広げたほうがいいのではないか?と考えたのがきっかけです。
従来のプロモーション領域から、ダイレクトマーケティング領域に近いところまでソーシャルメディアで注力するために、広告専門チームを私と他2人の計3名で立ち上げました。事業の拡大とともに組織も拡大し、現在では数十名規模になりました。
― 広告事業の概要と特徴、体制などについてお聞かせください。
私たちの広告事業はソーシャルメディアに特化しているのが特徴です。
Facebook、Instagram、Twitter、LINE、そして広告運用の対象としてこれらと近しい特徴を持つニュース系メディアが中心で、お客様のニーズに合わせています。
SNS広告の専門組織として「ADU」(AD Business Unit)というチームを持ち、大きく2つの事業を展開しています。
ひとつは、SNS広告の運用代理サービス。もうひとつは「Letro」というSNS広告クリエイティブツールの開発・提供です。運用からツールの提供までを、一気通貫で取り組んでいます。一事業の中で営業・運用・クリエイティブはもちろん、システム開発も対応していますので、運用でためたビジネスノウハウをお客様のためにシステムに変換するなどのより効率的な運用の提供を、ワンストップでやらせていただいています。
既存施策の改善で、劇的な効果や気付き
― クライアント層の特徴が特にあれば、お聞かせください。またクライアントから最近ソーシャルメディア広告に関して特に求められることの傾向などがあればお聞かせください。
特徴は、あるといえばあるが、ないといえばないですね(笑)。
逆に、ダイレクトマーケティングからブランドまでとても幅広い顧客層をもっていることが特徴でしょうか。
広告会社によく言われるような「プロモーションやブランド系が強い」とか、「ダイレクト系が強い」というようなどちらかに寄った特徴は私達にはあまりありません。これはソーシャルメディア専業でやっているからでしょう。
AdWordsは刈り取りのひとつ前、GDN・YDNは購入を促すAdWordsのひとつ次とか、テレビCMは認知とか、これまで広告枠によって目的が分かれていたのですが、FacebookなどのSNSはひとつのプラットホームで認知から購入までファネルの全階層にあわせて施策を実行できる珍しいメディアだと思います。
当社はSNSに特化する一方で、これらすべて、フルファネルを主戦場としているので、「ダイレクト系の話ならこの部分のコミュニケーション設計をしましょう」「プロモーションや認知拡大ならファネルのもっとこちら側のコミュニケーション設計をしましょう」というご提案が可能です。通販企業様からアプリ事業者様、大手ブランド企業様、小売企業様まで幅広くお取引しています。
最近クライアント様から求められることとしては、既存施策の頭打ちをどのようにしたら良いかということです。このようなご相談が非常に多いですね。
サーチ系広告やマスメディア、時にはSNS広告が全然うまくいかない、というご相談もいただきます。そこで当社が改めてメディアプランをご提案させていただいています。
そのクライアント様のこれまでの施策を見させていただき、よりソーシャルに適したユーザーターゲティングや、クリエイティブ、施策に合ったKPIをご提案します。意外とこれらのことがなされていないケースが散見されますね。
私達は広告をどううまく活かせるかよりも、ユーザーがソーシャル上でお客様の商品をどう語るか、どんなコミュニケーションを企業からとるとお客様は受け入れてくれるのかということを考えています。また、それを広告に活かすというベクトルで施策を展開しているため、当社に広告予算をお預けいただくことで、クライアント様が劇的な効果や指標の図り方の気付きを得ていただくことが非常に増えています。
― SNS広告配信における、外部データ活用の現状についてお聞かせください。
SNS外のデータ活用には大きな関心を持っています。実際、大手のメディアさんやDMPの会社さんと連携テストさせていただいていて、広告効果を見ている状態です。
ソーシャルメディアはデータの宝庫であるものの、直近の行動データや、購入履歴などの明確なアクションをターゲティング条件として指定することができません。それを今までcookieでやっていましたが、やはりソーシャル上のデータ+行動データを結びつけることで、特にダイレクトマーケティングにおいて効果が出ると思っています。
常識を覆すクリエイティブでSNSに最適化
― クリエイティブ運用に関する現状についてお聞かせください。
クリエイティブは、まさに私達広告事業部の中枢です。今後、最注力する分野の一つです。
現状、広告が抱える問題として、広告自体がそもそも生活者に嫌われてしまっているという悲しい現状があると思います。
いろいろなリサーチの結果を見ていても、広告である時点で、多くのクリエイティブがネガティヴな印象を持たれています。大前提として嫌われることをわかっていながら広告を出しているのです。特にSNS広告のクリエイティブはメディア上での視認性が高いため、フィードに馴染まないクリエイティブをだすと、「このブランドは好きだったのに残念」というネガティヴな気持ちが跳ねてしまいます。なので、いま僕たちはフィードに馴染むクリエイティブを徹底的に追求しています。
FacebookやTwitterを見ているときに、友人の投稿の間に「うわぁ。広告が出てきた」って思うのか、「あれっ?この広告気になる」となるかという違いがあり、後者がフィードに馴染むクリエイティブだと思っています。広告要素を排除していたり、コンテンツのようであったり、今までのクリエイティブ常識を覆すようなSNSに最適化されたクリエイティブであるべきかと思います。
今までだと例えば、「50%オフ!」とか「販売実績国内ナンバーワン」といった広告がありました。検索連動型広告や、一般のディスプレイアドネットワーク広告では、この種のクリエイティブが一番コンバージョンレートが高いはずですが、ソーシャル上ではこれがあまり受け入れられません。SNS広告では、面白いほどに「テキストがない」ほうが効果が高いのです。ソーシャルメディアのアルゴリズム上、バナーにテキストがあればあるほどCPMがあがるというセオリーがあるのですが、私達はリマーケティングの広告以外は、極力テキストをいれないようにしています。
最近は、ソーシャル上にすでに投稿されている写真を投稿ユーザーから許諾を得た上で広告クリエイティブとして活用するなど、既存の広告クリエイティブ常識を覆すような手法でSNSに最適化したクリエイティブをご提案、ご提供させていただいて、多くの広告主さんで成果を上げている状況です。
― Letroについて、サービスが生まれた背景や概要・特徴についてお聞かせください。
まさに今お話ししたことが、Letro誕生の背景です。(笑)
Letroは、商品やサービスを写した写真・動画などのUGC(ユーザー生成コンテンツ)をInstagram上で収集し、InstagramやFacebookの広告バナーとして活用できるサービスです。Facebook広告APIと連携しUGCの「収集」からユーザーからの許諾の取得、広告の出稿までをワンストップで行うことができます。
着想の背景にあるのは、口コミやプロモーシャルなコンテンツは、今も昔も企業がすごく大切にしているものだということです。例えば、あるブランドのコーヒーを好むユーザーがオシャレなデスクでコーヒーを撮影し、写真をSNSに投稿したとしたら、これはとても有益なブランドコンテンツと言えます。しかしSNSの特性上、これらのコンテンツは瞬時にフィード上を流れてしまい、そのコンテンツ価値は極めて限定的です。
一方で、先ほどお話ししたように、SNSではフィードに馴染まない広告はユーザーに嫌われてしまいます。どんなにそのコーヒーを好きであっても、宣伝色の強い商品画像をSNS上で何度見せられようとユーザーの心は踊らないでしょう。
同じ商品の画像であっても、ここには大きなギャップが存在しています。
Letroの事業素案を考えたきっかけは、本当にユーザーに響くコンテンツの世界観を、今まで僕らがやってきたSNS広告の世界観と一致させることが、広告主にも広告ビジネスにとっても良いのではと考えたことです。
もともと当社は広告代理店としては後発です。なので、今までのやり方だけでは通用しないなと。
新しいクリエイティブ手段を考えていく中で、行きつくのは自己否定です(笑)。
自分たちが作る広告が100人いたら100人に愛されなくてはいけなくて、それを突き詰めて考えていくと、そういえば嫌われるユーザー投稿というのはあまり無いなと思いました。
もともと、ソーシャル上のコンテンツを集めてマーケティングに使うという考え方自体は既に米国にはありました。私の頭の中にインプットされていて。Letroでは、それをどう国内企業に向けてサービスに落とし込むかというとことを考え、最低限の機能開発をして、世にリリースしました。
写真の投稿ユーザーには、コメント欄で直接的にコンタクトを取って広告利用の許可を得ています。このサービスの大前提として、「いい商品には、その商品を愛好する良いユーザーの投稿がある」という普遍的な状況があると思っています。実際、コンタクトを取ったユーザーの6割以上が快く広告利用を許可しています。
ソーシャル特化型の成果に強み
― 業界内で貴社のSNS広告事業はどのような点を評価されていると感じられますか?クライアント事例としてご紹介いただけるものがありましたら、それと合わせてお聞かせください。
まず、SNS広告専業として縦に深く掘り下げている点は評価していただいていると実感しています。
繰り返しになりますが、「ダイレクトだと今までの延長線上でやってきたけれどソーシャルメディアではうまくいかない」とか、「マス広告をSNSで活用したが実際の効果が読み取れない」というクライアント様に対し、「ソーシャルは今までと違うから特有のコミュニケーションを取りましょう」という細かい提案をしているのは評価をいただいている点です。
そしてこれも繰り返しになりますが、ここに対して私達はクリエイティブをSNSに最適化させるという点と、ソーシャルに最適な指標を可視化するという2点のアプローチをさせていただいています。
まずクリエイティブの最適化に関しては、商品訴求をあえて排除した物撮りのバナーだったり、UGCを広告に使わせていただくバナーだったり、SNSのフィードに馴染むであろうクリエイティブをご提案させていただいています。ある通販事業者さんでは、これらの施策によって半年間で顧客獲得件数が2500%アップしました。
次に指標の可視化に関して、ある飲料の大手メーカーさんが、もともとマス広告として制作した動画をSNS上に流したけど、その効果がわからないというご相談をいただきました。そこで、Facebook、Twitter、YouTube上で動画広告を出稿し、独自のアンケートツールで動画を視聴したユーザーの商品認知度や態度変容、購買の有無などを計測しました。
その結果、”動画広告のフリークエンシーの量と購入意向は比例的に上がる””Facebookと相性が一番よく購入率が高い”など、動画広告がリアルな場での購入に与える効果を可視化することが出来ました。これらはマス広告では測れない情報だということで評価いただき、その後のリピート導入につながりました。今までにない「ソーシャルならではの広告指標」を可視化したことが、実績に繋がったのです。
日本の広告費が6兆円と言われている中で、SNS広告は1000~1500億円規模と考えられており、まだまだ成長の余地はあります。クリエイティブのトランザクションや人工知能を活用して、SNS広告の可能性や幅を広げていきたいですね。
ソーシャル広告活用の新規手法を模索
― 今後の事業の目標や方向性についてお聞かせください。
今後もSNS広告を使った新たなマーケティング手法の確立を強化していきます。
2016年は、属人的なノウハウによる実績を積み、クライアント様が“勝てる”手法を発見しました。
2017年はそこからさらに進んで、私達ADUが蓄積し確立したSNS広告クリエイティブのノウハウに機械学習機能などを搭載し、よりテクノロジーの力でクリエイティブの最適化を強化したいと考えています。
ターゲティング精度や入札の最適化など、元来アドテクと言われてきたものは今後、媒体側がどんどん強化し拡大していくものと思っています。
ですので、私達が一番考えるべきことは、これまで属人的だった広告クリエイティブの分野をアドテクと連携させ、どれだけ最適な広告を最適な人に届けられるかだと思っています。
いかにテクノロジーを介してSNS広告のクリエイティブを科学できるかが、2017年の私達のミッションであると考えています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。