プログラマティック市場、今年の振返りと今後、ソネット・メディア・ネットワークスの戦略 [インタビュー]
上場して1年を経た国内DSP大手のソネット・メディア・ネットワークス。この1年の業界の振り返りと、同社の取り組みの進捗について同社代表取締役社長の地引剛史氏にお話をうかがった。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
スマホの普及で市場環境が劇的に変化
― 2016年の日本のプログラマティック市場はどのような年でしたでしょうか?
業界には今年、大きく4つの新しい流れがでてきたと思います。
動画・ネイティブといった新しいフォーマット、クロスデバイス、ロケーション、そしてマイクロモーメントです。
近年、ユーザーの視聴行動の変化によってスマホの利用が拡大し、それに伴って動画やネイティブがフォーマットとしてクローズアップされてきました。スマホ・PCの両方を行ったり来たりして使うことが頻繁になってきたことから、クロスデバイスの問題がクローズアップされるようになってきました。業界では、Cookieベースではなく人単位で管理するようなことも試みられています。
スマホを使っていると移動をするので、ロケーションデータの有効活用に関する話も大きくなってきました。この領域のベンチャー企業が大規模な調達をするなど、だいぶ盛り上がっている領域です。
さらにスマホの画面は小さいので、文脈に沿わないような今ほしくない情報が出てきてしまうと邪魔であると感じます。「ライトタイミングでライトメッセージ」がとても大事になってきていて、ある意味復古的な流れでもあります。コンテキストターゲティングのようなものが再びクローズアップされてきました。
市場トレンドにも大きな変化が起こっています。象徴的なのはアメリカで、今年(2016年)ディスプレイ広告が検索で表示される広告のマーケットを抜くのではないかと言われています。
スマホに移行して、検索をしないでSNSなどのタイムラインでコンテンツを視聴するスタイルが定着してきたのかなと思います。ここがプログラマティックの環境で変わってきたことかなと思います。
プログラマティックのマーケットはだいぶ落ち着きをみせてきていて、いよいよ低成長の時代に入ってきたという感覚は持っています。それによってDSPのプレーヤーが寡占化されて、しぼられているという印象もあります。
プログラマティック、特にRTBにおいてどう効果を出すか、ということについてお話しすると、ここ最近の話題として、人工知能は本当の意味で重要になりつつあると思っています。今年の初頭に国内DSP各社が機械学習を使った入札の自動化をリリースされていました。この分野をある程度ソリューションとして持っているということが、競争力として重要だと思っています。
もう一つは、改めて運用とは大事で、なくなることのないものだという認識が定着してきていることです。機械学習の方ではレベルアップしていくのですが、やはりしっかりと運用していくことも大事だという認識が定着したと感じています。
プライバシーに関わるデータの取扱いが課題
― 広告運用の広告代理店側とDSP側とのその役割分担の現状についてお聞かせください。
海外進出を考えている中で、国ごとに違うというのは顕著に感じます。日本では、当社は広告代理店から、運用まで一括して受託することが多いです。海外、といっても当社はまだ台湾のみしか経験がありませんが、インハウスでトレーディングをするケースはわりと多いなという印象はあります。すべて自分たちでやりますというクライアントさんは一定数いるという印象です。
― 広告主のDSP利用になにか進展や変化はみられましたでしょうか?
二つあります。
一つは、ようやく非リタゲ系のニーズが増えて定着してきたというのがあります。広い意味でのブランディングに利用する広告主が増えてきています。
二つ目は、プライベートDMPとの連携がかなり話にのぼることが増えてきたことです。それに伴って、プラバシーイシューを真剣に議論しないといけない状況になってきました。
いわゆるDSPでの行動データと、CRMの非匿名のデータの関係性です。特に匿名のデータと非匿名のデータを結びつけてしまうことに関しては非常に問題になるところで、実際のユースケースとしてお客さまのご要望に対応できないという問題が大きくなってきています。
広告効果に寄与しているのは一部のメディア
― DSP事業者のお立場から見たサプライサイドの動向や環境変化について、感じていることをお聞かせください。
改めて感じたのは、メディアは重要だなということです。枠から人へ、とは言ったものの、枠と人ですよね、というのが改めて実証されていると感じます。
メディアが重要だというのはずっと前から思っていましたが、運用は実際面のコントロールが大きな比重を占めています。
2年前に2ヶ月間のデータを調査して、間接コンバージョン含めて何かしら効果に寄与したドメインを探してみたところ、実績が出るドメイントそうでないドメインとが明確に分かれる傾向が見られました。広告効果に寄与しているのは、一定のメディアであるという傾向が明らかになりました。同じユーザーでも効果が出るドメインと、効果が出ないドメインがあるのです。
サイトに滞在する動機のある内容だったら広告も見てもらえるし、そこから探していた情報に関連したサイトだとそこからコンバージョンすることもあるのですが。残念ながら、全然見られていないサイトがあるので、そうすると当然広告も見られていないことになります。
また、プライベートマーケットプレイスでの取引が増えてきました。ファーストコールのような、最初にオークションに独占で呼んでもらえるような取引もあり、SSPによりけりですが、大きなSSPの取引では10%以上PMPが占めていることもあります。広告代理店から見ても、DSPはメディア買い付けマシーンであって、RTBであろうがなんだろうがメディア買い付けをしてくれるんだよねという風に見られるので、どこの面に入れるのですか、というのはよく聞かれるようになってきました。「枠から人」か、また枠に随分と戻ってきたというのが、メディアに関して感じる変化です。
サプライサイドのプラットフォームの変化というところでいうと、メディアさんが自分たちの収益を上げるためにサプライサイドに頭脳をもたせ始めたと感じます。AOLさんが収益の最適化プラットフォームを先日発表しましたし、いわゆるダイナミックフロアプライシングのようなDSPのクセを読んでフロアプライスを動的に変えていくようなものがあります。日本のSSPはまだそんなにクセはないのですが、海外のSSP大手のものは何かしらそういうものが入ってきているので、買い付け効率を維持するために、我々も個別に対応していく必要性を感じています。単純なセカンドプライスオークションではなくなってきていると思いますね。
― ヘッダービディングの普及については、貴社はどう捉えていますか?
正直なところDSPサイドでそれほど影響があるとは今のところまだ思っていません。全部がヘッダービディングになったら、Googleがいい条件で買い付けできなくなってくる可能性が出てきますが、Googleも当然対抗策を講じてくるはずですから。サプライサイドとしては、ヘッダービディングの採用により収益があがる可能性はあると思いますが。
― FacebookやLINEなどの広告プラットフォームのシェアが拡大している中で、独立系のDSPとしてどのようなポジショニングを取っていかれるお考えでしょうか。
大手広告プラットフォームとの提携を発表された事業者さんの動向を含め、環境の変化は認識しています。我々は逆に、ニュートラルであることを逆に強みにしていく必要があると思います。
スマホ、フルファネル+CRM融合、人工知能の3点に注力した2016年
― 貴社のこの1年のお取組みについてお聞かせください。上場して1年がたちますが、事業環境はどのように変わりましたか?またこの1年間注力してきたことについてお聞かせください。
スマホ、フルファネル+CRM融合、人工知能の3点に力を入れてきました。
先程の市場環境でも話しましたが、環境がスマホにシフトしているのでスマホに関わらない機能開発は一切やらないという方針に転換しました。10月にスマホとPCの売上が逆転し、スマホの方が大きくなりました。今年度末で6割というのを目標として掲げていて、順調に進捗しています。非リターゲティング広告のニーズがしっかりと出てきているところを捉まえるようにフルファネルでのソリューションを提供するということと、それに加えてCRMとも少しずつ融合するような試みをしていくということをやり始めています。
フルファネルというところでいくと、潜在顧客ターゲティングだったり潜在顧客の人工知能のエンジンを使っていわゆる拡張系のソリューションに力をいれていたり、オーディエンスターゲティングもお客さまごとにカスタマイズしたメニューに力を入れています。プリセットでこういうカテゴリに当てましょうというのではなく、広告主さんごとに細かいセグメントを区切ってオーディエンス配信するのを今年度は実施してきました。
一方、元来自分たちの得意分野であるダイナミッククリエイティブのようなパネルの一番下の取り組みも力を入れてきました。
― 海外事業も進めておられますが、進捗はいかがですか?
11月に台湾でサービスを開始しました。おかげさまで引きはいいです。日本と台湾を行ったり来たりしているメンバーもいます。
― なぜ台湾なのでしょうか?
台湾は地の利がよかったことです。親日国ですし、DSPのマーケットも昨年から立ち上がり始めていたので。さらに我々の兄弟会社であるソネット台湾という現地でビジネスを行っているパートナーがいたので、最初のテストを実施するには障壁が少ないだろうということで、実施しました。いきなり地の利がよくない地域にいくよりは、勝手がわかるので。
― 台湾のお客に使っていただいているのですか?それともインバウンドなのでしょうか。
大きく3つあります。
一つは日系企業、二つ目はインターナショナルな企業、三つ目はローカルな企業です。
最終的にはバランスよく組んでいきたいと思っていますが、始めは日系とインターナショナルの企業をターゲットに始めています。
― 買い付け先は現地のローカルのSSPなどと連携して進めるのでしょうか。
将来的にはあるかもしれませんが、今のところはインターナショナルなSSPの在庫を買っていくというのが基本的な考えです。
2017年は人工知能、運用、ブランディングに注力
― 今後の戦略と注力領域についてお聞かせください。
3つあります。
まず一つ目は、“人工知能の分野に磨きをかける”です。特にライトタイミング、ライトメッセージは真面目に取り組んでいきたいと思っています。一番いいタイミングでそのときほしいメッセージを出すように制御していくようにしたいです。とても大切だと思っていて、力を入れていきたいです。
二つ目は、運用です。磨きをかけて、効率化も重要ですが、DSPは運用が重要だと思います。人間の知恵が生きるところをうまく生かす、ハイブリッドなDSPという点については、引き続き磨きをかけていきたいと思っています。
三つ目はブランディングで何かを作りたいと思っているので、お楽しみにしていただければと思います。この分野をもう少し深掘りしていこうと思っています。現実的なところでは、ダイナミッククリエイティブはしっかりやっていきながら、ブランディングの領域で何かを作りたいです。
そして、2021年までには、DSPとして国内Top3に入ることを目指しています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。