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「日本からも、技術ドリブンのスタートアップを」 IAB Tech Lab責任者が語る米国アドテク最新動向と日米の違い [インタビュー]

広告のグローバルなデジタル基準を策定する「IAB Tech Lab」。10月中旬にその責任者が来日した。来日の目的や、IAB Tech Labの活動、米国におけるアドテク市場の現状と日米の違いなどについてIAB Tech Lab シニアバイスプレジデント Technology & Ad Operations General ManagerのAlanna Gombert氏と、Yahoo! JAPAN マーケティングソリューションズカンパニー 経営戦略本部長の高田徹氏にお話をうかがった。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

― IAB Tech Labはどのような組織なのでしょうか。

Photo1Alanna氏: 1年半前に設立した、広告に関するグローバルなデジタル基準を作っている組織です。特定の業種だけでなく世界中の広告会社やパブリッシャーなど様々なメンバーが参加しています。

今回はボードメンバー兼ファウンディングメンバーであるYahoo! JAPANのメンバーと会うために来日しました。また、新たにボードメンバーになってくれる会社のリクルーティングもしたいと思っています。

― Yahoo! JAPANがIAB Tech Labに参画された背景や目的についてお聞かせください。

Photo2高田氏: IAB Tech Labに参画したのは今年の1月からで、目的は大きく2つあります。一つ目は、いち早く日本に技術標準を持ち込んで、日本のマーケティングテクノロジーやアドテクノロジーのレベルアップをしたいということです。Yahoo! JAPANの事業の中心はメディア広告事業ですが、広告技術やメディア技術などはグローバルで開発されることが多く、どうしても日本は後手になることが多いのが課題と感じています。今回IAB Tech Labに参画することによって、日本の技術の底上げを行いたいというのが一つ目の目的です。

二つ目は、日本は世界第3位の経済大国で大きなマーケットであるにも関わらず敬遠されているのが現状なので、もっと世界に日本の正しい情報を伝えたいと思ったためです。私たちが思っている以上に海外の人は日本のことを知らないので、IABというグローバルな組織を通して、日本のことをもっと世界に広めたいと思っています。

― Yahoo! JAPANはIAB Tech Labに参画して具体的にどういう活動をしているのでしょうか。

高田氏: ボードメンバーと様々なトピックについて定期的に議論し、数カ月に1回は実際に顔を合わせて決議を行っています。今後は、Yahoo! JAPANのエンジニアをワーキンググループに参加させていただいて、実際の仕様策定に関わらせていただきたいと思っています。

技術ドリブンで物事を決める米国のアドテク業界で最もホットなのは「ヘッダー入札」

― 現在米国でプログラマティックやアドテクノロジーの領域で今最も盛り上がっているトピックスについてお聞かせ下さい。

Alanna氏: 現在、「ヘッダー入札」が最もホットなトピックとして上がっています。プログラマティックはここ数年で大きく変化しており、今後も時代に合った形に定義をアップデートしていくことが必要だと考えています。さらにプログラマティック・バイイングのプロトコルであるOpenRTB(Real-time bidding)のアップデートも現在話題です。

― ネイティブ広告にプログラマティックをインテグレーションするに当たってどういうことが課題となっていますか?

Alanna氏: 運用可能にするために、OpenRTBに統合することが課題となっています。そのため、プロトコルとスキーマの改修を実施しようとしています。

― デジタル広告に対する日米の共通点と相違点について教えてください。

高田氏: 共通点は、みんなが注目しているところです。インターネットのビジネスモデルは広告とEコマースしかないです。そのうちの半分を占める広告はすごく大切です。

違うところは、米国は技術ドリブンで物事を決めているところです。概念だけではなく、技術面をしっかりと確立し、みんなで議論するという流れがあり、広告主やメディア、アドテクベンダー、エージェンシーなど広告に関わるプレーヤーたちの皆が技術の知識を持っています。一部の上位の人たちだけで何かを決めてそれが決定事項として落ちてくるというわけではなく、全てのプレーヤーが意見を言って、みんなで作り上げていくという物事の決め方をしています。広告主もアドテクに対して突っ込んだことを提言することもあり、日本とは大きく異なる点です。

― デジタル広告業界において米国とのタイムラグは感じますか?

高田氏: はい。感覚的には、日米で2~3年の差がずっと続いているように思います。

TVとデジタルの指標統一を推進

― 米国ではViewability(ビューアビリティー)に関してどのような議論が行われているのでしょうか。

Alanna氏: 現在MRC(※)とともにデジタルGRPに関する作業を進めています。また、Viewabilityに関しては、N-STATEというところで、その一部としてViewabilityのガイドライン策定に関する作業を進めています。
Viewabilityは規格ではなくガイドラインであり、これまで事業に合うようにそのガイドラインを変えたり追加しながら対応してきました。

Media Rating Council
1964年に「有効で信頼性が高く、効果のある測定サービスの確保」という目的で設立された米国の非営利業界団体。

― TV用の指標とデジタルの指標を統一するということですか?

Alanna氏: その通りです。それが最終的な目標です。

IAB Tech Labが提唱する「LEAN」と「DEAL」

― アドブロックの問題ではアドブロッカーとFacebookなどの広告プラットフォームや媒体社とのいたちごっこが続いていますが、今後どのような方向に向かうと思われますか?この問題については、IAB Tech Labはどのようなスタンスでしょうか。

Photo3Alanna氏: とてもいい質問です。Facebookを始める前にIAB Tech Labは「LEAN」と「DEAL」という原則を発表しました。「LEAN」は「Light, Encrypted, Ad choice supported, Non-invasive ads」の頭文字を取ったもので、「Light」軽く、「Encrypted 」暗号化されており、「AD choice supported」ユーザーの広告の選択肢がサポートされていて、「Non-invasive ads」押し付けがましくないというものです。この「LEAN」は広告としてのあるべき姿のコンセプトです。

アドブロックに対抗するだけでなく、ユーザー体験をよりよいものにするため、LEANの一部として我々はいくつかのものを作りました。最近発表した新しいアドポートフォリオはフィックスユニットをやめて、レスポンシブ型の方に移行するためのものです。今まで728✕90だったものを、レスポンシブ型に合わせて画面の解像度やピクセルに合わせるようにし、すべての広告がLEAN準拠になります。そのことによってユーザーはよりよい広告を見ることができるようになります。

もう一つのコンセプトである「DEAL」は「Detect, Explain, Ask, Lift/Limit」の頭文字を取ったもので、「Detect」は検知する、「Explain」は説明する、「Ask」は聞く、「Lift/Limit」はアクセスを与えるか与えないか、という意味です。IAB Tech Labでアドブロッカーの検出スクリプトを開発してメディア会社に提供しており、それによってメディアはユーザーがアドブロッカーをインストールしているかどうかわかるようになりました。

高田氏: 「LEAN」と「DEAL」という原則には、それぞれ目的があります。「LEAN」は、「ユーザーがアドブロッカーをインストールしたくなる気持ちを抑えるためには、LEANというものにメディアは従った方がよい」というメッセージです。「DEAL」は、すでにアドブロッカーをインストールしている人に対してどのように対処すべきか、ということに関するメディア向けのガイドラインです。

「LEAN」の取り組みとして、広告フォーマットの見直しを行っています。というのも、ユーザーがアドブロッカーをインストールする理由をIABで調査を行ったところ、フォーマットの問題が一番大きかったのです。米国のユーザーは技術に対して理解が深いので、特に若い男性などは、好きではない広告フォーマットがあれば次々とアドブロッカーをインストールしてしまいます。

次に「DEAL」についてですが、メディアがアドブロッカーを検知するということはとても難しいことです。1メディアが世界中に存在するアドブロッキングソフトウエアを検知しようとしても抜け漏れが出ますし、メディアにはそういうものを作る余力はあまりありません。ですので、それをIABが提供することで、対応が形式化され、容易になります。「Detect」(アドブロッカーを)検知し、「Explain」メディアというのは広告収入で成り立っているということを説明し、「Ask」アドブロッカーを外していただけませんかとお願いし、「Lift/Limit」もしご理解いただけなければ、一部のコンテンツを削る、あるいは全部見えなくする、といった流れです。ニューヨーク・タイムズなど進んでいる米国メディアはすでにこういうプロセスにのっとっていて、DEALは彼らがやっていることをフォーマット化したものでもあります。

― ユーザーがメディアと対話して、それでもどうしても広告を見たくないということであれば、最終的にはメディア側は対抗措置としてコンテンツを出さないという方針になっていくということですか?

高田氏: そういうわけではありません。順番に対応していくべきであるということで、コンテンツを出さないとまでは言っておらず、あくまでメディアの選択肢であると思っています。

アドブロッカー問題、日本での影響は限定的も対岸の火事ではない?

― アドブロッカーの問題は日本の業界でも注目を集めつつも、他の国に比べるとまだ導入率が低くて対岸の火事のような温度感を感じますが、実際のところどのようなご認識でしょうか?

高田氏: 実際、日本にとっては他の国ほどインパクトがある問題ではないと思っています。というのも日本のインターネット環境は他の国に比べると良く、広告が速く表示されるため起こりにくい問題ではあります。

ただ、対岸の火事と感じるのはよくないです。アドブロッカーの問題はここ1,2年で急激に広がった問題で、日本でも今後何がきっかけで広がるかわからないと思っています。

― それはOSやブラウザを持っている会社の一存で、ルールが大きく変わることがあるからということでしょうか?

高田氏: そういうことがあるととても困りますが、あるかもしれないと考えています。より重要なのは「LEAN」の方です。ユーザーが「広告が邪魔だ」、「広告を表示させたくない」と思わないようにすることが大切だと思っています。Yahoo! JAPANでは検知を行っていますが、他のメディアの方々は自分たちのメディアにどのくらいアドブロッカーを使用しているユーザーがいるかを正確に把握していないと思います。メディアの方々は正しい知識を身につけて、一度IABの検出スクリプトを使ってみることをお勧めしたいです。

ビデオ領域は日米のギャップが明確に。米国ビデオ広告は放送・デジタル・ケーブルの融合へ

― 米国ではビデオ広告の領域では、どのようなトピックスが最も注目されていますか?

Alanna氏: 現在、一番ホットなトピックは、放送とデジタルとケーブルの融合で、全てがデジタル・IP化に向かおうとしています。

IAB Tech Labでは業界を超えたタスクフォースを結成して、ケーブルとテレビのエンジニアリンググループを作成し、グローバルでメンバーと話し合いを行っています。毎週メンバーが増えている状況で、広告のフォーマット、オーディオのエンコーディング、それからメタデータなどのトピックで話し合いをしています。また、ビデオプレーヤーの実装についてもアドテクプラットフォームと一緒に仕事をしてVAST4.0の推奨とVPAIDを推し進めようとしています。

― その技術の議論が進んでいくと、ビデオ広告にどういう新しいことが起こっていくのでしょうか

Alanna氏: 色々な広告枠に展開しやすくなる、ユーザーをターゲットしやすくなる、様々なユーザー体験を提供できる、などの効果が期待できます。しかしデジタル向けになっていない資産も多く、今後はテレビの素材をデジタルに使えるようにするなど、デバイスタイプにとらわれずに提供できることを目指しています。

高田氏: ビデオ広告の分野は、今後日本と米国のギャップが広がりそうな領域だと感じています。米国ではすでにケーブルやテレビの技術メンバーと一緒にスタンダードを作っているという話を聞いて、なかなか進んでいるなと思いました。というのも、日本では指標関連の整備は進みつつありますが、エンコーディングが異なるためデジタル広告に出稿した動画素材はテレビ放送でそのまま流すことができません。日本はテレビが大きなマーケットであるため、今後はデジタルとケーブルのいいところをマッシュアップして新しい広告のあり方を作り出していく必要があると思っています。

プログラマティックはよりシンプルに

― 日本では、プログラマティックというキーワードはともすればマーケッターに難解な印象を与えてしまい、敬遠されることもあります。米国ではいかがですか?

Photo4Alanna氏: プログラマティック・バイイングはアドネットワークを買うことによって、何年か前から始まったことで、現在は極力プログラマティックをシンプルにしようという流れがあります。

エクスチェンジベースバイイングのオープンマーケットという要素と、1対1の取引プライベートマーケットというその2つで構成されていて、プログラマティックは買い付けにデータを上乗せして、それを簡単にするためのものです。

市場はとても早く変化していくので、米国のマーケッターは市場についてよく勉強している人が多いです。一般的にCPGマーケッターや高級ブランドは常に新しいテクノロジーをいち早く取り入れています。

高田氏: Alannaさんは米国と日本はあまり変わらないとおっしゃっているが、私はけっこう違いを感じています。(笑)
米国のマーケッターは、マーケティングを専門職として長くやっている人が多く、老いも若きも技術に対して知見が高い人が多いです。日本に比べて教育環境が整っており、最新のソースは特定の人たちだけが知っているものではなくて、みんなが知ることができる環境にあるのも違うなと感じる点です。

プログラマティックの定義自体はそんなに難しいものではないと思いますが、僕たちYahoo! JAPANも含めて、アドテクノロジーの分野で進んでいる最先端の企業が、あえてプログラマティックを難しくすることで自分たちをブランディングしているところもあったように思います。でもプログラマティックはバイイングやセリングの一手法でしかないので、それを正しく伝えていく必要があります。
Alannaさんもおっしゃっていましたが、「データを使える」というのが今までとは違っている点です。プログラマティックの導入によって、今まではクライアント自身が持っているデータ資産は自社だけで使ってバイイングに使えることはありませんでしたが、それを直接使えるようになったのは大きな違いです。

ヘッダー入札は、指標の定義策定段階

― ヘッダー入札について、IABではどのように定義しているのでしょうか?また、現在どんなことが議論になっていますか?

Alanna氏:ヘッダー入札とは、広告会社などがオークションの前に入札する方法のことで、公開取引の前に入札することです。パブリッシャーやメディア会社にコードを入れるように頼んで自分たちが先に見られるようにすることなのですが、実際は他のみんなも見られているのでファーストルックではなかったりします。

― いろんなアドエクスチェンジやSSPなどがヘッダー入札をプロモーションしていますが、どこのヘッダーを入れても変わらないですか?どこかに競争優位になることはあるのでしょうか?

Photo5Alanna氏: 業界で統一しようとしていて、コンテナーやヘッダー入札をするピースのスクリプトを標準化しようとしています。市場ごとに解釈も違うので、すべての取引でヘッダー入札をしているわけではありません。ヘッダー入札を扱うワーキンググループがあって、IAB Tech Labでファシリテーターをしています。今のところ何も公開できてはいませんが、定義をする段階であり、話をまとめているという状況です。IAB Tech Labでオープンソースのリポジトリを作り、そのリポジトリの中に様々な企業がスクリプトを作成して、共有できるようにしようと思っています。また、用語の標準化のお手伝いをし、スクリプトも共通化する予定です。

日本の広告系技術のレベルアップに向けたYahoo! JAPANとIAB Tech Labの取り組み

― Yahoo! JAPANのIAB Tech Labを通した今後の活動と、そこから期待される成果についてお聞かせください。

高田氏: IAB Tech Lab ではエンジニアを採用して、ガイドラインだけでなくコードを実際にアウトプットしていますが、その事実を知っている日本人はとても少ない状況です。ヘッダー入札の話でもそうですが、米国では基盤技術や基礎技術を提示してその上で、みんなでイノベーションを起こすというようなエコシステムができているので、似たようなことがYahoo! JAPANをはじめとして日本でも行えればいいなと思っています。とにかく日本の広告技術のレベルアップを行いたいと思っていて、願わくは米国に持っていけるような日本初のスタートアップサービスが生まれるとうれしいです。日本に対してもっと他の国のマーケッターやメディアが興味を持って、もっと投資してくれる環境作りもしたいので、一緒に進めてくれる仲間を募集しています。

― 日本の業界に向けて何かメッセージがあればお願いします

Alanna氏: 日本市場はとても重要なマーケットであると捉えていて、私が今まで経験してきた様々なスタートアップ企業でも、いつもまず始めに日本に来ています。専門の知識やクリエイティブな考えが必要とされていますが、日本の市場でもそのような規格を作って、それをグローバルなものにしていきましょう。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。