サイバーエージェント台湾現地トップが語る、台湾のWebダイレクトマーケティング最新事情【前編】 -独自のメディア優先順位で新たな可能性を秘めた台湾市場- [インタビュー]
通販大手の日本企業におけるアウトバウンドについて、台湾で実際に成功している企業の特徴や、成功する日本企業の例、日本企業が台湾進出をする際の注意点、また台湾独自のWebを活用したダイレクトマーケティング手法などについて、サイバーエージェント 台湾支店の小野雄輝氏にお話をうかがった。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
― 簡単なプロフィールをおきかせください。
前職は3~4年ほどシステムエンジニアに従事しており、2005年にサイバーエージェントへ入社しました。入社後は、アメーバブログの自社メディアセールスの部署にて大阪営業所の立ち上げを経験した後、2008年にインターネット広告事業本部へ異動し、大阪・福岡にてダイレクトマーケティング領域における新規顧客開拓に従事しました。
その後、2015年4月より台湾支店の立ち上げに従事し、台湾現地日系企業のWebマーティング支援をしています。立ち上げを行ってから1年が経ち、現在は現地メンバー9名を指揮しています。
日本と似て非なる台湾のECビジネス
― 台湾における日系通販企業のアウトバウンド状況についておきかせください。
台湾の現地法人として本格的にECを展開されている会社さんは20社程度いらっしゃいます。テストされている会社数は、2倍3倍になってきており、増加傾向にあります。
台湾での越境ECだと、現地商社に卸すか、台湾の通販業者さんに委託販売するか、モールに出店するのがパターンかと思われますが、自社ドメインで、自社決済のパターンが最近最も増えています。日本から台湾にECで商品を販売する際の物流は日本郵政さんの海外配送をはじめ、日本の物流を使うことが多いです。
日本の通販会社による台湾ビジネスは5,6年ほど前に始まり、ここ1,2年で増加してきました。
大陸(中国本土)に向けて、先々を見据えて優先順位的にまず台湾で通販事業を行う会社が多いです。物流関係や決済関係のインフラが日本と台湾は似ているので、圧倒的に日本企業にとってやりやすく、またトラブルが少ないのです。また、富裕層の割合自体が日本よりも多いので、日本ブランドというだけで商品を購入することも理由かと思います。
成功している日系通販企業に関しては、日本に比べるとまだこれからではないかと思います。
― 台湾でのEC事業で課題はありますか?
決済です。注意すべきなのは、台湾では代引きやコンビニ決済が結構多いので、決済手段がクレジットカードのみの場合は、広告のレスポンスが落ちます。そうなった場合、台湾はうまくいくと思われているのに実際はうまくいっていないという印象になります。台湾のクレジットカード普及率は日本よりも低いと思います。
― 通販の購入単価、買われやすいものなど傾向はありますでしょうか?
買いにくいもの、買いやすいものは特にないと思います。
特徴とすれば、特にアパレルは台湾では注目されていると思います。一般的に産業が発達しているのは台北くらいで、消費者が気軽に欲しいものを買える状態になったとき、沢山の店舗の選択肢があるわけではありません。アパレルだと、台湾では試着する感覚で購入しているようで返品率が高いです。国自体が消費者を守ろうとする意識が日本より強いみたいですし。
単価としては、日本と変わらないか、もしくは日本より高く販売しているケースが多いです。
― 台湾に進出されている日本企業に共通する特徴がありますか?
一概には言いづらいですが、日本から台湾に進出するというご相談をいただいた時、進出しづらい点やリスクになるような点があるかもしれません。
例えば、薬事関係で裁判になった場合、会社規模が大きければ株主の関係もあるでしょうし、規模が大きいほど問題となる部分のリスクを一つ一つつぶしていくのに時間がかかっている気がします。オーナー企業さんの場合はトップ判断やマーケティング責任者の判断で動けるので、その分迅速に対応されているという印象があります。
― EC事業開始のために必要なステップをおしえてださい。
まず、商品が台湾で受け入れられるかどうかの見極め、どう売るかの選択に入ります。そこから法人を設立するか、モールを出すか、もしくは卸すか?諸手続きがここで変わります。
サイバーエージェントのサポートとしての関わり方は、企業のニーズを聞いたうえで広告運用の面で、その企業のパートナーさんと一緒にやっていくというスタンスです。
広告メディアの優先順位付けに特徴!?
― 台湾のデジタル広告市場についておきかせください。
台湾のデジタル広告市場規模としては、台湾の人口が日本の人口の6分の1くらいなので、市場規模も同等とみています。
台湾はそこまで新聞が普及しているわけではないので、屋外広告や交通広告が多い印象があります。リーチが大きいのはFacebookやLINEなどです。そして、ブロガーの影響が大きいと思います。
台湾では個人の情報発信力が強く、そういった影響力を促進する業者の数も多いです。また日本のようなステマが問題になることもありません。台湾ではあまり娯楽がないためか、スマートフォンが娯楽としてものすごく大事にされています。インターネット回線も非常に良く、電車の中では皆がFacebookかLINEか動画を見ています。
― デジタルプロモーションの面で日本と差はありますか?
予算配分の優先順位でいうと、日本ではサーチのリスティング広告、アフィリエイト成果報酬、Facebook、Yahoo!などの順になると思いますが、台湾では、まずブロガーマーケティング、Facebookなどのソーシャル、Yahoo!、サーチ、となっています。
予算としては、日本ではサーチが大きいですが、台湾においては日本よりも予算配分における優先順位は低いです。
― 日本の他の広告会社が台湾に出てきていると感じられますか?
はい。そうですね、数社台湾に進出されてきてらっしゃいますね。例えば一時期ゲームアプリ会社の需要があって、その後ダイレクトマーケティングの需要が出たという流れです。
― プロモーションの事例として上げるとすればどんな例がありますか?
化粧品と健康食品のお客様から、ブロガーを使った広告のご要望を頂きます。仮に、100の予算があるとブロガーには5分の1の20程度が割り振られます。ブロガー記事やFacebookから購入させる割合が多いですが、予算を使ってそのブロガーの記事をFacebookで拡散させるというやり方です。そのブロガーのプロモーションを中心として予算を割り振ったあと、他の広告商品へ予算が割り振られるというイメージです。
インタビュー【後編】では引き続き、台湾Webマーケティングの実態、業界全体の課題、サイバーエージェント台湾支社の活動やその強み、今後の展望についてお届けする。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。