「主導権は企業からユーザーへ移行」、オプト主催デジタル時代のブランディングセミナー
11月15日、都内にて、インターネット広告代理店オプト主催のデジタル・マーケティングに関するセミナーが開催された。
定員100名の会場は満員となり、後方には追加のパイプ席まで用意されるほどの盛況ぶりを見せた本セミナーでは、オプトの中野宜幸執行役員が「主導権は企業からユーザーに移った」と表現するデジタル時代の市場変化について、各企業のマーケティングにおいても対応を迫られていると警鐘をならした。それに対し、マーケティングにおけるデジタル活用の先駆者である、全日本空輸(ANA)、日本コカ・コーラ、森永乳業の3社がそれぞれのデジタル戦略について語った。
本セミナーの基調講演として、オプト社のブランドコミュニケーション・アナリティクス部を代表して講演を行った伴大二郎部長が、企業が市場の変化に対応すべきポイントを投げかけた。2005年と2013年におけるローマ法王発表時のバチカン広場を写した写真を比較。後者においては、05年時点ではまだ市場に流通していなかったスマートフォンやタブレット端末を大多数の人々が掲げながら動画や写真撮影を行っている様子が写し出されていることに言及しながら、スマホのいわゆる「ながら利用」を通じてのメディア接触が急激に増えている現状を伝えた。このような状況下においては、①ユーザーが常にメディアと情報を持ち歩く状態を想定した「オールウェイズ・オン・マーケティング」を実現するチャネル戦略、②モノがあふれ、経験への飽きから生じた共有への欲求に基づく「ソーシャル・エコノミー」に合わせた情報のデザイン、③ブランド愛好者を育てる「ファン・マーケティング」の3点が鍵になるという。
ANAのマーケティング室に所属する永山裕氏は、同社のブランディング戦略と事例を紹介。中国最大手のEC運営企業アリババ・グループが運営する旅行サイトに同社の旗艦店を開設したり、人気SF映画シリーズ仕様の特別塗装機を活用した「STAR WARSプロジェクト」を機軸とするトリプルメディアでの立体的コミュニケーションなどの詳細について解説した。
続いて登壇したのは、日本コカ・コーラのマーケティング本部コカ・コーラチーム ブランドマネージャーを務める大澤央人氏。消費者の好みに応じて味を変えるといった施策を基本的には取らず、既に ほぼ100%の認知を誇る主力製品のコカ・コーラにとってのマーケティングとは、消費者に同ブランドを「自分ごと」として捉えてもらうことだという。この方針が顕著に表れたのが、同社が公式スポンサーを務めるリオ五輪を通じた一連のキャンペーンだった。五輪開催期間は多くの人々がYouTubeで動画検索を行うことに注目した同社は、TrueView動画広告において、その日に行われた五輪競技と関連性の高いキーワードを5秒間表示。また、同社のアプリである Coke ON を活用した、金メダル連動サンプリングを実施した。同社はこの施策をサンプル配布イベントなども含めた多面的なマーケティング活動へと展開させたことで、新規飲用者の獲得や広告費の削減など多大な実績を上げるに至った。
森永乳業のマーケティングコミュニケーション部の寺田文明部長は、「ブランドステージによるコミュニケーション戦略の考え方」と題した講演を行った。同部長は、新商品の市場投入直後は流通施策に追われるため、本来的な意味でのブランディングステージは、その商品がマジョリティ層へ浸透した後に始まる。また、ブランドの置かれたステージごとに適したデジタル施策を用いたコミュニケーション戦略があると主張。その上で、同社のコミュニティサイト「Newの森」における広告効果仮説の検証や同サイト参加前後での購買変化の計測などの方法などについて説明した。
最後には、オプト社のブランド戦略部チームマネージャーを務める岩井諒介氏が登壇。①KPIの設定方法、②TVとデジタルの予算配分、③売上貢献の可視化といったデジタル時代ならではのブランド戦略上の課題を列挙した上で、それらの課題に対するソリューションの実例について述べた。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。