サイバーエージェント北米・欧州ゲーム企業担当に聞く、北米アプリゲーム市場の特性と北米パブリッシャーの日本戦略/グローバル戦略 [インタビュー]
広告事業でグローバル展開を加速しているサイバーエージェント。日本やアジアだけでなく欧米市場の顧客サービスも展開している。前回の韓国ゲームのプロモーション動向に引き続き、今回は、欧米のアプリゲームにおける日本参入や、日本でのマーケティング手法、また、サイバーエージェントの今後の戦略について、サイバーエージェント グローバル戦略局 北米・欧州担当 豊井みのり氏にお話しをうかがった。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
独特なマーケットでは 文化に基づくローカライズへの開発・運用リソースがキー
― ご担当業務をおきかせください。
2012年10月にサイバーエージェントに参画しました。前職では、投資事業の拠点をサンフランシスコに立ち上げるといった投資事業関連部門に所属していました。サイバーエージェントに入社してからスマホ向けの広告営業を担当し、その後、海外部署の立ち上げに参画しました。現在は欧米市場の日本進出を成功させる、欧米企業新規開拓を担当しています。
― 日本と北米のゲーム文化の違いやそれに伴うプロモーション手法の差についておきかせください。
AppStoreやGooglePlayをみてもわかるかと思いますが、欧米で売り上げトップ(Top Grossing)カテゴリーに入っているアプリが日本では少ないです。このように日本、中国、韓国はマーケット自体が独特で、各国ユーザーの求めているものが異なるというのが大きな違いのひとつです。また欧米ゲームアプリ会社は日本ユーザー向けの改良は考えていますが、開発や運用をどうするかなど、細かなカスタマイズまでできている会社は少なく、アプリをそのまま日本で出してから、どうやって収益を上げられるかを考える会社が多いです。
― 日本と欧米のゲーム会社のダウンロード施策や課金についての違いはありますか?
北米のアプリには、日本の収益のメインとなっているガチャシステムがないことが顕著な違いです。それによってユーザーとのコミュニケーションに違いが出てきます。北米アプリでは定例イベントはありますが、期間限定イベントや他社キャラクターとのコラボ、また限定イベントなどの細かな運用が少ないゲームアプリが多く、彼らのゲームが日本市場にマッチするようカスタマイズするご相談が多く寄せられます。
北米パブリッシャーにとって日本はフォーカスマーケット
― 北米市場のゲームアプリやプラットフォームのグローバル化について傾向はありますか?
ゲームのプラットフォームがグロ―バルなので、中国以外なら、そのままプラットフォームの言語を翻訳すればグローバルで出せますが、しっかりと腰をすえて狙いに行こうという市場としては、やはり上の方から押さえようとしています。海外で成功している企業が、先行投資をして日本市場に参入してきていると思います。アジアの中では、圧倒的に日本の優先順位が高く、その次は韓国、台湾などの、中国以外の地域です。中国だとグローバルプラットフォームがない、あるいは現地のパブリッシャーと契約してアプリを出さないと難しいなどのなどがあるため、市場規模感として、日本の優先順位が高いのだと思います。
日本の広告媒体を熟知し、データで操る
― 北米パブリッシャーのプロモーション手法で特徴はありますか?
北米のパブリッシャー顧客はROIを緻密に追っていく傾向があり、データをどう使って運用するのがベストか、お互いデータをやり取りしながら共同で検討するケースが多いと思います。媒体のアルゴリズムに合わせた細かな運用手法を踏まえた提案を要求する顧客が多く、媒体の仕組みをきちんと理解した上でしっかりと広告運用できる組織に任せたいとおっしゃる顧客が多いです。
予算の割り振り方も日本の顧客とは異なります。例えば、彼らは特定のKPIで予め数字の見通しがあり、効果がそれに見合う分野へはどんどん投資をし、良質なユーザーを獲得し、売上を上げることを目標にしています。一方で、日本の場合は広告出稿予算が先に決定されており、それを各媒体に割り振りしていく傾向があると思います。
北米顧客の広告投資に関しては、良質なユーザーが獲得できて、ちゃんと売上が増加するのであればもっとユーザー獲得して欲しいという意識があります。その際に注意するのは、ちゃんとスケールすることに注力することです。
また、大手企業であれば、日本に参入したばかりの2,3年前に比較して今は日本の媒体をよく理解されており、媒体リテラシーが高くなっています。海外のゲーム会社ではデータを用いて、細かくROIを分析することは広告運用に欠かせないので、日本の媒体で非開示データも開示させるよう、顧客から日本の媒体に直接交渉したりすることもあるのが、マーケットが変わってきたと感じる点です。媒体にとって常識ではなかったものが常識になりえるということです。たとえば、細かい配信面情報や配信面ごとのROIを媒体の計測メニューに追加するリクエストが実現し、媒体側が開示するようになったりもしました。
海外顧客では日本法人がある場合もない場合もありますし、リモートでプロモーションをやる場合もあります。日本にしっかりオフィスを構えて参入し、日本でコミュニティ作りもするところもあれば、完全にリモートで参入するところもあります。ただ、日本市場は異なるので、単にマーケティングをローカルで行うだけではなく、もっときちんとローカライズとカルチュラライズしなければという意識は海外パブリッシャーの方で高まっていると感じます。
グループの資産を活用し、北米・欧州での展開を加速
― 海外顧客に対しては、どのような営業活動や支援を行っているのですか?
日本の情報を迅速に伝え、必要情報を最速で届け、興味をもっていただければ実現するという方針です。担当している媒体の広告成果やクリエイティブ、アカウント構造など含めて適宜、媒体側と調整しながら、広告効果報告をしています。私自身、渡米の際は顧客のみならず、現地GoogleやFacebookなどのグローバルメディアと直接話しをする機会も持ちます。
海外顧客開拓には、現地イベントで売り込みや交渉を行ったりしました。2008年設立のサイバーエージェントの北米オフィス経由で、顧客を紹介されることもあります。北米オフィスには、アドテクの商品開発を行う社員がいたり、私が属する広告事業本部の社員が行き来したりしています。
― 今後のサイバーエージェントとしての同地域での戦略をおきかせください。
広告のパフォーマンスを上げていくことが最優先であると考えていますが、サイバーエージェントだからこそ提供できるサービスも多いのでその強みももっと生かしたいと思っています。たとえば、当社が提供する、海外配信向けに特化しローカライズさせた動画クリエイティブのソリューションパッケージ 「Quvie(キュービィ)」を活用することで、3つのQ: クオリティ(質)、コンティティ(量)、クイック(スピード)つまり、良質な動画広告を大量かつスピーディーに制作することが可能です。実際に、本ソリューションを活用することで効果も表れています。
また、組織においても、運用体制が整備されているのはもちろんのこと、各媒体に関する豊富な知見やナレッジが蓄積されていることや、オペレーション部隊も強固であることなど、それら社内のナレッジすべてを活用し、顧客に向けて最適なご提案ができる体制が整っています。
サイバーエージェントの資産を、海外企業に対してより積極的に提供し、市場を大きく伸ばしていくことが今後のフォーカスポイントになると思っています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。