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2016年のリオ:ブラジルでのデジタル広告投資は増加傾向だが、想定を下回る

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

ワールドカップ以上に、オリンピックの期間は、すべての目がブラジルに注がれる。世界中の56億人以上もの人々が、様々なモバイルデバイスにてオリンピックを楽しむことになる。テレビの在庫は限定的であるが、デジタルの活用は、ブラジル国内及び国際的なブランドにとって、オンラインを活用して消費者にリーチできる絶好の機会となる。しかしながら、現状はブラジルの政治、経済における危機的情報により影響を受けているようだ。ExchangeWire Brazilに掲載された記事を通じて、ブラジルデジタルマーケットにおけるオリンピック期間中のアドテク及びデジタル企業への影響について探っていきたい。

前述の数値はAppNexus社によってリリースされた想定値であるが、2016年リオオリンピックは、セカンドスクリーンの台頭により、最も閲覧され、最も人々が話として取り上げるオリンピックとなると考えられている。ソーシャルメディア上で3390万人もの人々が試合を見るために複数のデバイスを利用し、Facebook、Twitter、Instagramなどでのインプレッションは20億にも達すると予測されている。

「デジタルをオリンピックの期間中の二つ目のデバイスとして考えれば、私たちは、ゲーム中の決定的な瞬間にリアルタイムで潜在顧客にリーチできる絶好の機会を提供できます」とブラジルのDynAdmic社のジェネラルディレクターであるLala Krumholz氏は語る。彼女によると、広告主はこういった機会を理解しているものの、ブラジル企業の広告戦略における活用は限定的とのことである。

DynAdmic社は、特にラテン米国及びヨーロッパのスポーツ及び消費者製品のブランドと契約を結んでおり、現在最終段階にある交渉も残されているが、オリンピックの期日までにはまとまる見込みだという。しかしながら戦略の面で地域差がある。「ヨーロッパでは、UEFAの終了とともにオリンピックの戦略を決定し、広告主もオンエアーする広告の準備を完了しているのに対して、ブラジルでは、オリンピックにおける投資に及び腰で、オリンピックが近くなって、やっとより色々な活動を検討するようになりました。」

DynAdmic社はオリンピック関連のキャンペーンを通じて、8月のブラジルの売り上げは20%ほど増えると予想している。これは、同社がオリンピックを視聴しているデジタルユーザーにリーチし、試合内容やテレビ放送と連動したサービス提供のテクノロジーを活用している点が大きい。

Criteo社のブラジル拠点でのCEO Fernando Tassinari氏は、7月中に見られた興味深い現象について話をしてくれた。「2014年のワールドカップと同様に、オリンピック前の4週間の間で、旅行セグメントが34%の売り上げ増加傾向にあります。それ以外の部門では大きな変化は見られません」。

ここ数週間の間で、Criteo社は、オンライン旅行エージェンシー、ホテル、旅行検索、航空会社、オンラインブッキングといった旅行部門での大きな投資の増加を確認している。Criteo社では、旅行者がブラジルでの旅行日程を延長する傾向があることから、この傾向はオリンピックの前後及び期間中も続くと考えている。「オリンピックにおけるデジタル、検索、アプリダウンロード、教育の全てが、短期・中期・長期的における利益に繋がるでしょう」とFernando Tassinari氏はコメントしている。

景気懸念が投資に影響

2016年のオリンピックを4年前のロンドンと比較すると、モバイル及びモバイルからのネット利用が比較的に増加している。これは、ブラジルで最も人気のあるサッカーに関するユーザーの行動を分析すると明らかになる。Teads社の調査によると、2016年のコパ米国においては、消費者は試合を見るのと同じくらいの時間を、オンラインニュースに費やしていた。「これは、企業がライブイベントの事前、最中、及び事後に至るまで、サイトを使ってコミュニケーションを行えることを示唆しています。」とTeads社のグローバルバイスプレシデント Caroline Hugonenc氏は説明する。結果として、Teads社は、よりモバイルに適切で、顧客の迷惑にならないようなフォーマットを提供することで、オリンピックにおけるモバイルビジネスの最大化に努めている。

全体的には、オリンピックにおけるデジタル市場への期待は高い。しかしながら、国内の不安定な政治及び経済の状況によって、広告主が影響を受け、投資を削減する傾向にある。Hugonenc氏は、こういった疑念は広告市場に関して良くない傾向だと認識している。「同様の傾向はブラジルだけでなく、アルゼンチン、ベネズエラ及び、最近EU離脱を決めたUKにおいても見られます」。

ZenithOptimediaの最新のレポートによると、ラテン米国での広告投資は2016年には2.4%減少し、2017年は僅かながら上昇すると予想している。2015年は6.3%の増加であった。ブラジルにおいては、オリンピックの影響で2016年の広告投資は3%程度増加する見込みである。

「私たちはオリンピック期間中に、特にデジタルの分野において大きな広告投資増加を見込んでいました。IABは、昨年市場は12%成長し、今年も同様の傾向だと見込んでいましたが、私たちの期待はそれ以上でした。オリンピックの効果を感じることができないのは残念です。オリンピックが無くても市場は成長すると見込んでいました。」とAppNexus社のラテン米国地域のディレクターであるPeter Gervaiは説明する。

Gernani氏によると、AppNexus社は、オリンピックに向けて米国及びヨーロッパの顧客に特別な提案を用意し、それらは好意的に受け入れられたという。一方で、ラテン米国においては、アドテク企業はオリンピックに集中しすぎないように注意を払う傾向がある。市場はまだ成熟しておらず、プログラマティックの利用についても途上である。コスト削減や効率改善などの課題に取り組んでいる途中で、利用は限定的である。

オリンピックの盛り上がり

もし市場の動きが、アドテク企業の期待を下回るようであれば、いくつかの企業は異なる戦略が必要となる。オンライン動画コンテンツネットワークのZoomin. TVはオリンピックの影響で売上の40%増を見込んでいる。「リオはオリンピックのムードが高まっており、プレス、ジャーナリスト、スポンサー及びアスリートも同様です。オリンピックやスポーツイベントの盛り上がりはメディアによって伝えられます。これから15日間、ブラジルは世界で最も重要な国となります。」とZoomin.TVブラジルのカントリーマネージャーであるPaulo Leal氏は述べる。

これから45日間もの間、彼らはオリンピックの国内及び海外へのコンテンツ制作を行い、毎日のレポートはドイツから米国まで、テレビで放送される。リオデジャネイロにおいては、これから20日間の間、ニュースポータルでの動画取り扱いに関心のあるブランドサイトやYouTube、Twitter、Facebookにて独自コンテンツが配信され、200万ビューの閲覧が期待されている。Zoomin.TVでは位置情報を活用して、オンライン動画を最適化することも行っている。「私たちは十分な準備をしており、オリンピックにおけるオーディエンス及び収益の結果を楽しみにしています」、とPaulo Leal氏は語る。彼は、オリンピック公式スポンサーであるパナソニックとのウェブ連動プロジェクトや、ウサインボルトを用いたBanco Original社のキャンペーン、その他選手やオリンピックと関連したキャンペーンなどが、7月及び8月の売上に寄与する点を説明してくれた。

オリンピックは、スタートアップ企業であるAidax社にとっても大きな機会である。彼らは、ブラジルのWiFiオペレーターで、リオオリンピック中のホットスポットの整備を担当しているLinktel Corporate社と提携している。Aidax社は、ウェブサイトやオンライン環境でのユーザー行動のモニタリングを担う企業であるが、オリンピック期間中はLinktelのネットワーク上の広告主に対しての投資を最大化する為のタスクを担当する。

これはAidaxのテクノロジーにとって大きなチャンスである。街中には外国人を含めて多くの人々が密集している。Aidax社のプロダクトマネージャーであるWilliam Sertório氏によると、データ分析結果によると、同社のサービスによって広告主は、40%のROIの改善が実現できるとのことである。「ワールドカップの時には、財政面では大分楽観視されていましたが、現在のオリンピック期間では、全ての人が経済危機やリセッションについて話をしています。費用が限定的な中、意見や考えよりも、事実に基づいて賢いアクションを取っていく必要があります。オリンピックでは、計測値の利用やデータ分析などを通じて、マーケターの決定をサポートしていきます」。

オリンピックは将来的な投資の可能性を広げてくれる。「率直に言うと、私たちはオリンピックを通じて、再び、ブラジルが機会と潜在性に溢れた国であることを、人々に気づいて欲しいと考えています。金メダルのための争いは、政治や経済における危機的情報を忘れさせてくれます。そして、私たちは多くの投資を魅了するような国として再認識されたいと考えています。」とAppNexus社のPeter Gervaiは締めくくってくれた。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。