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シングルデジタル広告プラットフォームで狙う東南アジア広告市場

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

市場に溢れる広告ツールの中で、単一のプラットフォームでマーケターの必要とするものを提供している事業者はほとんどいない。この需要にシンガポールをベースとしたアドテク企業が参入し、ギャップを埋める狙いを持っているようだ。

AdAsiaホールディングスは今年早期に設立された。単一のプラットフォームで広告主が、キャンペーン及びプログラマティックによるメディア購買の企画、モニター、管理を行うことを目的にしている。CEO及び共同創業者の十河宏輔氏は、AdAsiaが提供するツールの全ては同社のフラグシッププラットフォームであるAdAsia Digital Platformに集約され、マーケターにクリエイティブ及び広告パフォーマンスの管理を同一のプラットフォーム上で一括して実行できる環境を提供する、と語ってくれた。

このスタートアップ企業は既に全世界で30以上の顧客を有しており、シンガポール及びバンコクで30人のスタッフを抱えている。十河氏によると、スタッフの数は2016年末までに60名まで増やす予定で、現在取引のあるアジアのパブリッシャーをアドネットワークに取り込んでいく計画だ。

ExchangeWireとのQ&Aで、十河氏はマーケターが自動化ツールに二の足を踏む理由について解説するとともに、AdAsia社の今後数年のプランを明らかにしてくれた。

―自動化については非常に多くの議論がなされている一方で、広告主は自社のキャンペーン管理において、こうしたツールの活用について二の足を踏み、その効果についても確信を持てていない様に感じます。このような現状の背景はどのようなものなのでしょうか?自動化ツールはまだ十分な段階にはありませんか?

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私たちがアジア地域の広告主及びマーケターと会話をするために常に繰り返されるテーマがあります。それは、これらのツールを理解するための教育及び時間が十分でない、という点です。マーケターはプログラマティックの利点については理解しているものの、利用の仕方については十分に把握していません。

自動化ツールは、彼らが必要としている以上の機能を備えています。この市場は競争利益を勝ち取るために、技術革新が絶えない業界です。

自動化ツールは十分でないという概念は、これらのツールがマーケターの需要を十分に満たしていないという思いから派生しているのかもしれません。業界トップのプレイヤーと業務を進める中で私たちはこのギャップを見出し、マーケターに向けた単一且つ使いやすいプラットフォームを提供したいと考えました。

―多くの企業にとってモバイルに対してのプライオリティが上がってきています。アジアパシフィックのマーケターがモバイルキャンペーンやモバイルマーケティングに関して誤解していることはどのような点でしょうか?

モバイル広告の利点は、居場所に応じてユーザーにリーチができる点です。位置情報は、上手に活用できれば、モバイル戦略を推し進める上で非常に有益なツールです。一方で、現在モバイル広告においてモバイルブラウザーとモバイルアプリという二つが一般的に利用されています。

鍵となるのは、この二つを組み合わせて包括的なモバイル戦略を実施することです。アプリ広告はブランド認知を高めるために利用されるべきである一方、モバイルブラウザーは様々な広告フォーマットに対応するため、マーケターがエンゲージメントを高め、コンバージョンを促すためのブランドストーリーの伝達などに有効です。

しかしながら、モバイルは多く存在するチャネルの一つにしか過ぎず、キャンペーンで最大限の効果を得るためには、オムニチャネルによるアプローチが考慮されるべきです。

―ベンダー、エージェンシー、パブリッシャーに広告主。これらの中でアドテクのエコシステムを確立するためのリンクが弱い点はどこでしょうか?また、それらはどのように解決されていくべきでしょうか?

これらの事業者の結びつき自体に問題があるわけではありません。特にアジアにおいては、業界の変化のスピードが速く、全ての事業者が事業の確立に切磋しています。一方で、広告主は、利用可能なツールがどのように効果を発揮するのかについて、より深い知識を身につけ、それに基づいたマーケティング戦略を確立する必要があります。

現在の広告主、エージェンシー、ベンダーの関係においては、費用面における透明性がもっと必要です。また、業界として広告詐欺の問題に取り組んでいますが、パブリッシャーがこの問題の解決をリードするのが不可欠です。

―最近のカンファレンスで、APACのマーケターは、プログラマティックに関する確信を持てていないという旨の発言がありました。どうしてプログラマティックへの信頼が生まれておらず、そのために何がなされるべきでしょうか?

例えば、パブリッシャーの検証プロセスを見てみましょう。業界全体ではより進化した形での効果測定が行われています。プログラマティックは比較的歴史の浅い業界で、新たなOSやデバイスが登場する際に見られるのと同様に、いくつかの問題を抱えています。業界としては顕在化する全ての問題に上手く対処し、将来的なリスクを最小化しています。

業界の人々が、マーケターに対して、問題の対応が適時行なわれている点を知らしめ、彼らのニーズに合致したサービスが提供される点についてしっかりと伝える必要があります。

―AdAsia社は若いスタートアップ企業です。本社を東京ではなく、シンガポールに設立された背景を教えていただけますか?日本はプログラマティック市場に関して、アジア内ではもっとも成熟した市場の一つだと思いますが。

シンガポールは、多くの国際的なビジネスやアドテク事業者の地域拠点へのアクセスが容易な一方で、デジタルマーケティング市場の更なる成長が見込めます。この環境を利用して、東南アジア及びアジア全体へのビジネス拡大のベースにしていきたいという思いがあります。

また、シンガポールには技術革新に長けた国際的な企業とのアクセスが容易です。こういった環境は、AdAsia Digital Platformを機能拡張していくのに適しています。

日本は私たちにとって重要な市場ではありますが、以上の理由から本社をシンガポールに設立しました。

―2つ目のオフィスをバンコクに設立しました。なぜタイなのでしょうか?

タイにおけるデジタルマーケティング及び広告市場は、早いペースで成長をしており、クライアントの抱えるマーケティングニーズに対しての密接なサポートを必要としています。タイ市場のほとんどが、未だに伝統的な広告によって占められていますが、すぐに変化をしていくでしょう。

タイにおけるプログラマティック活用の最先端な環境で事業を行うことで、市場の進みが遅い現状において、当社はプログラマティックの啓蒙企業としての機会を得ることができます。

さらに、オンラインのタイのパブリッシャーはプログラマティックに非常に高い関心を示しており、私たちはこの初期段階における機会を獲得できる貴重な機会を目の当たりにしています。デジタルテレビ広告市場についても、今後急速に拡大していくでしょう。

―年末までに、香港、ベトナム、日本、中国、インドネシア、マレーシアへの地域拡大を狙っているとのことですが、これらの地域への進出と事業戦略との関連性を教えてください。

私たちは、ベトナム、インドネシア、香港、台湾、及び日本に年末までに進出し、2017年には中国、インド、フィリピン、マレーシアに進出する計画です。ベトナム、インドネシア、香港、台湾などの市場は急速なペースでプログラマティックの活用が進んでいます。タイ市場と同様に、私たちはこれらの市場に参入し、マーケターに対してプログラマティックの理解を促進するようなソリューションを提供していきたいと考えています。同時に、クリエイティブの作成から配信までの広告プロセスに関するニーズ対応も行っていきたいです。

日本のプログラマティック市場は比較的成熟していると捉えられがちですが、当社のクライアントにアジアのプレミアムインベントリーを提供する機会は多く存在しますし、当社のDigital Platformを通じて日本でのシェアを獲得する余地は残されていると感じています。当社のプラットフォームの購入及び販売の機能を拡張し、技術革新に優れた機能を展開していきます。

一方で、中国市場はTencent、Alibaba、Baiduなどの事業者の影響で閉じられた市場環境だと考えられていますが、彼らのソリューションをAdAsia Digital Platformと統合することにより、サービスの拡大に寄与できると考えています。

―これらの市場において、どのような点が問題点となり得ますか?

一番の問題点は、それぞれの市場で多くのローカライゼーションを必要とする点です。アジアは文化が多様で、東南アジア自体も多様なメディア消費及びエンゲージメントにより成り立っています。私たちはこれらの問題に対して、それぞれの参入市場における広告市場及びクライアントのニーズを把握しているスタッフによる、ローカルサポート体制を確立し対処していきます。

―現在の市場におけるデジタル広告プラットフォームに関して欠けている要素はどのようなものでしょうか?

市場には多くのプラットフォームやツールが混在していますが、広告主及びマーケターの全てのニーズを単一のプラットフォームで対応し、レポーティングや支出のトラッキングなどを行えるサービスは存在しません。

例えば、マーケターがクリエイティブエージェンシーに依頼して、キャンペーン向けのバナー広告を作成するとします。一方で、別のタレントエージェンシーに俳優の出演依頼を行い、動画制作会社に対して30秒のテレビ広告の制作を別途依頼する必要があります。そのようなプロセスを経由して、マーケターはメディアエージェンシーと接触し、複数チャネルをカバーしたバナーと動画の展開を実施し、キャンペーンを通じたレポートを受けることができるのです。

私たちはこのニーズを、AdAsia Digital Platformを通じて汲み取っていきたいと思います。

―NASDAQもしくは日本の株式市場への上場を3年以内に果たすことを目標に掲げていますが、上場に向けてのKPIやマイルストーンはどのようなものですか?またこれらをどのように実行していくのでしょうか?

収入及び利益が管理基準になります。今年の収入のターゲットは1000万ドルで、2017年に2000万ドルを目標にしています。2018年に5000万ドルを達成し、上場します。AdAsia Digital PlatformやAdAsia Ad Network、Private Marketplace及びプレミアムインベントリーなどのサービスには、既に大きな反響を得ています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。