メディアに支持されるシーセンスが目指す、さらなる成長戦略(後編) [インタビュー]
パブリッシャー向けプライベートDMP(データマネジメントプラットフォーム)として、日本でも大手メディアを中心に導入が進んでいるシーセンス。データドリブンなビジネス環境や新しいマネタイズ手段の開発に貢献している。
来日したプロダクト責任者のJan Helge Sageflaat氏に、後編では主に、具体的な成功事例や今後の成長戦略について聞いた。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
※前半はこちら。
―レコメンドエンジンも搭載されているのでしょうか。
レコメンデーションも提供しておりますし、様々な切り口で設定を変えてもいただけます。記事の中身もちゃんとデータとして収集しているので、閲覧記事をもとに関連記事というデータも出せますし、「あなたにおすすめ」も、協調フィルタリングも可能です。「あなたみたいな人はこういう記事を読んでいます」といったものですね。
ビデオコンテンツも、「このビデオを30秒以上見た人にレポートとしてホワイトレーベルで見せていく」といったこともできます。ASPのブラックボックスではなく、すべてコントロール可能な形でご提供しております。
日本はとてもイノベーティブ
―海外と比べて共通点、相違点などはありますか?
日本は非常にイノベーティブなマーケットです。ノルウェーの小さな会社でも大手企業様と一緒にお仕事ができています。新しいテクノロジーもキャッチアップしてくれる優秀な方々がいらっしゃいます。
―プロダクト面でどうやって日本に馴染んだのでしょうか。欧米のツールは敬遠されがちなのではありませんか。
ワールドワイドでビジネスをしていく場合には、様々なカルチャーがあることを認識することが必要です。そういった声をきちんと受け止めて製品開発に反映していけるのが強みだと思います。初めからユーザーインターフェースを日本語で用意する、日本含めたグローバルで使ってもらえるような製品づくりをしてきた、といった姿勢があると思います。
もう一つはオープンであることです。ダッシュボード以外にAPIをオープンにしていて、単純に与えられたプロダクトを使うのではなく、自分たちでデータを取り出して加工したり、検証したりできるなど、エンジニアにとっては充実したツールのようです。
一部ではブラックボックスな運用をしているベンダーも多いですね。エンジニアはなぜそう動くの?という疑問を持ちますが、シーセンスは見える形でプラットフォームを提供しているので、テクニカルな人にも受け入れていただきやすいのだと考えております。
―事例、ケーススタディなどがございましたら、お聞かせください。
国内では、毎日新聞様の有料会員獲得プロジェクトが挙げられます。メーター制を導入されていて、有料記事の一部閲覧は無料、それ以上見ようとすると段階に応じて無料会員登録、有料会員登録をすすめる、という仕組みを構築されています。WSJの事例も参考にして採用されています。
やった結果がリアルタイムでフィードバックされてくるので、どんな施策にどんな人が反応して会員になったのか、知見がたまっていったというお声をいただきました。また、「ユーザーのことを理解できるようになる」とか、施策が可視化されたり効率良くなっていって「意思決定が早くなった」というお声もいただきました。
媒体がエージェンシーに
次の事例は、HOME’Sを運営するネクスト様です。シーセンスではHOME’Sに来訪したオーディエンスの属性だけでなく興味も取れるので、それらのデータをもとに、HOME’Sのサイト上で彼らのクライアント(不動産)が各社の広告を表示させるために自ら入稿、入札できるシステムのネクスト様版をリリースしました。
さらにオーディエンスデータを拡張するために、彼らのクライアントサイトにもシーセンス製品を導入して、HOME’Sのデータに加えてクライアントのデータを一つのDMPで収集し、広告運用も含めて代行されるようになりました。こうしたことは今まではクライアントが単独でやっていた作業ですが、一社のサイトではデータも限られていました。
ネクスト様がトレーディングデスクになり、エージェンシー的な動きをしてくれている、といったことです。こういったモデルは他のメディアでも、クライアントの代わりに広告運用をするモデルのとっかかりとして、散見されはじめています。
ネクスト様もそれにより、サイトに集客するだけでなく、直接クライアントサイトに行くユーザーもダイレクトにとらえられる。これも新しいビジネスになっており、拡大し続けているとうかがっております。
他にも、リードジェネレーション目的で、サイト上でイベント集客なども手掛けているお客様もいます。しかしもっとクライアントに入り込んでいってイベント企画を一からやるようなタイプのエージェンシー的な機能を持つためには、いまお話ししてきた考え方はとても重要なのです。
例えば、登録ページに来てくれたユーザーに次のイベントを案内したり、そのデータをDSPと連携したりすれば、今まで追えなかったユーザーをほかのサイトでも追える。そういうアドバンス的な使い方も、日本でも生まれつつあります。
ローソン フレッシュさんはeコマースです。コンバージョンを求められるビジネスで、よりパーソナライゼーションをしかけて買っていただく仕組みを作られています。
それまでは商品を訴求したくても、スペースは限られていました。サイトを訪れたユーザーは検索やページをスクロールして探すはずなのですが、一人のユーザーが触れられる商品数はたかが知れています。カテゴリもいろいろあってすべてを見ることができません。
ところが、この商品表示にトレンド情報やプロファイル情報をかけ合わせることで、一人一人におすすめする商品数を増やし、最終的にコンバージョンを上げていくといったことが可能になります。
何がほしいかわからない人に「ほかにこんな商品もあります」とすすめてもあまり効果は望めないですよね。今まではその部分のマッチングは複数ベンダーを利用していたので非常に手間がかかっていましたが、コンテンツの作成を自動化したり商品検索を見直したりして30倍以上の商品が出るようになりました。こんなに商品を持っているのに訴求しきれず、同じ商品ばかり出てしまうという問題が解決したのです。
簡易に、低価格で導入可能
―導入時、顧客はどんな準備が必要なのでしょうか。
オンボーディングチームが導入支援をしますが、顧客はJavaスクリプトを入れたり、トラッキングのため、もしくはレコメンデ―ションのための枠や広告配信のタグを入れていただく、などの作業が必要です。
基本的にはまずスモールセットとして1週間から2~3週間入れて、どのように改善していったらよいかをコンサルティングします。顧客によってはまずユーザーを知りたいのでタグを入れて、ユーザー分析、その結果パーソナライゼーション、レコメンデーション…といったように、ステップバイステップでやれることからやっていくことが多いですね。
他のツールと比べて、導入は簡単、数週間でできます。コスト面でも非常に安く簡単に始めていただけます。あとはレコメンデ―ションの広告配信を一つのパッケージとして使っているので、買収が多いベンダーだと機能ごとのインテグレーションがうまくいかない、ということもないのも強みと言えます。
パーソナライゼーションとデータの見せ方に注力
―プロダクトの今後の戦略、及び日本におけるビジネスの今後の戦略などについてお聞かせください。
2つの要素で注力していきたいと考えています。
まずパーソナライゼーションです。現状はレコメンド枠を作ったりと、パーツではいろいろやっていますが、多くはCMSですね。そのトップレイヤーをコントロールするところにシーセンスが来るようにしていきたいと考えています。つまりコンテンツ管理はCMSでやるが、それをどう出すか、そこにパーソナライゼーションの要素が入ってくるのです。これについてはシーセンスがすべてコントロールする世界観を作っていきたいと考えています。
重要なのは、詳細なレポートです。ユーザーがそれぞれどんな行動をしているのか、マーケッターがちゃんと理解できるように見える化をしていきます。セグメントを作るためには、マシンラーニングのテクノロジーを採用します。先ほどロシアにR&D部隊がいるとお話ししましたが、オプティマイゼ―ションエンジンの会社も買収しているので、製品開発にマシンラーニングを取り込みたいと考えております。
人がアイデアを入れれば、だれにリーチするかも含めて自動最適していくようなものを作っていきたいのです。これによって、CMSから表示されるコンテンツを見える化して、サイト運営者、広告主にとってもいろいろな形が見えるように提供していきたいと思っています。
もう一つは蓄積されたデータの見せ方です。今は自分では比較的トラディショナルなUIだと思っているので、もう少しかっこよく見えるようなビジュアライズを進め、いろいろな方法で分析してもらえるようなビジュアルを提供していきたいと考えております。
多くのデータをいろいろな切り口でどんどん可視化して見せることで、通常のトラフィックとは違う部分も一目瞭然で見られるような画面にしたいですね。ユーザーのためになるようなデータの見せ方をしていきたいと思います。リアルタイムでデータを投げて、より良いビジュアルでユーザーへ見せていく、といった方向で考えています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。