広告のイライラを計測する:人間の認知システムが如何に広告を認知するかについて
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
広告へのイライラがアドブロッカー利用に関する最も一般的な理由だと考えられている。広告をより目立たせようとする行為が、広告をより迷惑なものにしてしまうのはよくあることである。今回のコラムで、ExchangeWireはIcosystem社のCTOであるPaolo Gaudiano氏にインタビューを実施し、Light Reaction社及びSPARK Experience社と共同で実施した、バナー広告やインタースティシャル広告における注意力や感情の変化を計測するためのニューロマーケティングの実験について話を聞くことが出来た。彼らの実験によって明らかになったのは、インタースティシャル広告によって喚起される注意力のレベルと、これらの広告を迷惑に感じる心理は同じでないという点である。
これらの実験結果とニューロマーケティングのデモは、6月14日、ニューヨークで開催される広告リサーチ協会のAudience Measurementというカンファレンスで紹介される。
デジタル広告において、正しい広告を正しい消費者に正しい時に届けることに多くの努力が費やされてきました。しかしながら、消費者に関して重要な点が忘れられてしまっています。広告が私たちの認知レベルにおいて評価される以前に、知覚システムにおいて捉えられるのですが、この段階での評価は色や明るさ、コントラスト、サイズなどといった物理的な特徴によって影響を受ける点です。これらの問題点を深く探るため、Light Reaction社とIcosystem社は共同で、私たちの知覚システムが広告に対してどのように動作するかを知るための知覚科学についてのプラットフォームを立ち上げました。
調査の一環として、私たちは広告が反応を引き起こすための一連のステージについて特定しました。第一に、広告に気づくための動作が挙げられます。次に注意を払い、同時に感情に基づいた「大凡の反応」を抱きます。広告が予見される段階を経て、はじめてその広告が適切であるか、タイムリーであるかなどの決定を認知レベルにおいて行うことができるのです。これらの段階に踏み入ることのできない広告は機会を逸する結果となります。
図1:認知の経路について
図内表記の和訳:
上部:予知・認知
中部:価値がある広告>気付き>注意>感情>適正>タイムライン>効果的な結果
下部:機会の損失
いくつかのケースでは、広告の特色に変化を与えることで複数のステージに影響を与えることが出来ます。例えば、広告にアニメーション効果を加えることで、消費者が気づき、注意を払う可能性が高まります。一方で、いくつかのケースにおいては、同じような変化が反対のインパクトを示す場合もあります。同じ例を用いるならば、アニメーション効果のある広告は迷惑だ、と感じられてしまう場合もあり、これは認知経路の3つ目のステージにある感情段階においてネガティブな反応につながったことにより発生します。これらのステージにおいて反応を引き起こす可能性が高くなる程、高い反応が示される可能性があります。例えば、ある広告への気付きが2倍になれば、反応も2倍になることが想定されます。
そうすると、どのようにして広告における注意や感情的な反応を計測するのであろうという疑問点に移ってきます。又、広告の特徴、感情的な反応、及びその結果の間でどのような定量的な関係があるのかについても興味を得られる内容でしょう。
私たちは、これらの疑問点に答えるべく、SPARK Experience社と共同で最初のニューロマーケティングの実験に乗り出しました。私たちが行った実験はシンプルながらも非常にわかりやすい内容のものです。モバイルデバイスでニュースを読んでいるケースにおける注意や感情の反応を計測するというものです。私たちは二つの広告フォーマットの結果を比較しました。記事の中に差し込まれるバナー広告と、ユーザーが記事を閲覧するためには広告を閉じる作業が必要なインタースティシャル広告です。
私たちの仮定ではインタースティシャル広告のほうが多く気づかれ、注意を喚起する可能性が高い一方で、より迷惑に感じられることからネガティブな感情反応があるのではないかといったものでした。しかしながら、どれほど迷惑に感じられるのか、また注意喚起を促すこととネガティブな感情を引き起こすことのバランスはどのようになるのかなどの疑問を持っていました。
実験のセットアップ
私たちの実験において、SPARK Experience社はモックのモバイルニュースサイト及びいくつかのモックの広告をデザインしました。広告は本物のブランドのものではなく、感情に影響を与える画像を利用するのを避けました。インタースティシャル広告は下図のように全体のスクリーンを覆うような形の広告を準備しました。私たちは異質要素を取り除き、プレゼンテーションの形態による変化を測るために同じサイズの広告を利用しました。
図2:サンプル用バナー広告(左)とインタースティシャル広告(右)
それぞれの素材をセットアップし、感情に関する基準ラインをセットアップした後に、実験者はモバイルニュースサイトを閲覧し、私たちはその間に脳波や心拍数、電気皮膚反応、アイトラッキングといったものを利用して注意力や感情レベルの変化の計測を実施しました。私たちはプロの人材会社を通じて30もの異なるプロフィールの協力者を採用し、バイアスを避けるようにしました。これらの実験者の選択は、私たちの初期段階での認知科学においては、皆同じような認知プロセスを経過する、という推測を元に行われました。
実験結果:注意喚起と感情について
まず私たちが計測したかったのは、それぞれの広告フォーマットにおける視覚的な注意力に関して、アイトラッキング技術を使って計測することでした。特に私たちはそれぞれの広告に注がれる視点の長さに着目しました。
図3:バナーとインタースティシャル広告における視覚的な注意力について
感情的な反応を計測するために、SPARK Experience社が開発した独自のアルゴリズムであるBrainwaveを通じて、脳波及び生物測定信号を活用しました。
図3に見られるように、インタースティシャル広告を見つめるのに費やされる時間がバナー広告に対してよりも5:1の比率でより多いのが明らかになります。
図4:バナーとインタースティシャル広告における感情反応の強さの比較
表層的には、図3や図4の結果から、私たちのインタースティシャル広告は、無視することが難しい為、より多くの注意を喚起する、という私たちの仮定は正しいように感じます。しかしながら、同様に、インタースティシャル広告はより迷惑な感情を刺激しています。図4に見られるように、バナー広告に関して、僅かながらもポジティブな感情的な反応が見られる一方で、インタースティシャル広告に対しては、より強めのネガティブな感情が喚起されています。
しかしながら、全ての結果を確認するにつれ、この結果は全体像の一部にしかすぎないことを知るようになりました。
注意力を示すためのアイトラッキングの活用
実験内において、私たちは、インタースティシャル広告が表示された場合には、実験者はすぐにバナーを閉じる為に、Xボタンを探す傾向があることに気付きました。
図5:スクリーン上のそれぞれの場所に注がれる時間を表したヒートマップ
更に、実験者が最初にインタースティシャル広告を見たときは広告を閉じるのに時間がかかったものの、2回目以降は閉じる方法を認知したため、スピードが速くなる点も確認しました。図6において、全ての実験者における最初と3回目のインタースティシャル広告に関するアイトラッキングデータの結果を紹介しています。
図6:インタースティシャル広告に関しての最初と三回目の視覚的な注意力(広告を見ている時間)について
結果から明らかなのは、3度目の広告掲示までには、実験者は遥かに少ない時間をインタースティシャル広告閲覧に費やしているという点です。実際、3度目にインタースティシャル広告を閲覧するのに費やされた時間は、バナー広告の閲覧と比較しても2倍の長さでしかありませんでした。
これらを合わせて考えると、図5及び6からわかる点は、インタースティシャル広告はより視覚的な注意を喚起するものの、更に多くの注意は如何に広告を閉じるのか、という点に向けられている点が明らかになりました。
この発見を元に、私たちは更にインタースティシャル広告に関しての分析を進めることにしました。
視覚的注意と認知プロセス
学問的な研究から、注意力には異なる形態があることが明らかになっています。アイトラッキングによる実験で視覚的な注意力について知ることが出来たものの、実は人間が何かを見ている時でさえ、認知レベルで注意を払っているとは言えません。
SPARK社のBrainwaveソフトウェアによって、感情を引き出すだけでなく、認知プロセスの量についても計測することが出来ます。大雑把に言うと、広告によってどれだけ脳が使われたかを計測することが可能なのです。
図7:脳波から検出されたバナー広告とインタースティシャル広告の認知プロセスの差について
我々の今までの発見と共に、これらの結果によって、インタースティシャル広告はバナー広告と比較してより注意を喚起するものの、実際には、それらの注意力には、広告コンテンツを分析するという認知プロセスの働きよりも、如何に広告を閉じるかという要素が含まれる点が明確になりました。図は認知プロセスのレベルにおいてはバナーとインタースティシャル広告でほとんど変わりがない点を示しています。実際違いは非常に僅かです。
まとめ
私たちは決してニューロマーケティングによる実験を行った最初のグループではありませんが、私たちの実験によって理論的且つ、検証的に所謂「知覚科学」と名付けたフレームワークを検証することができたと自負しています。広告をシュミレーションする方法は(サイズ、色、配置、フォーマット、アニメーションの有無、音、イメージなど)無数にあるものの、知覚科学におけるシステム的なフレームワークを通じて、最も確実な調査及び検証が実施され、非常に価値のある機会であったと自負しています。
もちろん、初期の検証にありがちなことですが、私たちの調査によって回答よりも、より多くの疑問の機会が生まれたかと感じています。例えば、モバイルウェブ閲覧環境を作り上げるのに、出来るだけ実際の環境に近い形で環境をセットアップしましたが、私たちは実環境で全く同じ結果がでるかどうかについては保証できません。また私たちの今回の心理面に基づく実験が、キャンペーン環境下でどう変化するかも未知数です。
私たちの次の目標は、検証環境で行われた結果をもって、実際のキャンペーン環境の結果と比較することです。Light Reaction社は最近、私たちが今回の実験で検証したのと同様の形で、バナーとインタースティシャル広告の検証環境提供を主要クライアントに対して行っています。
本当のキャンペーン環境下での結果を、私たちの実験で得られた感情及び注意力の数値と比較することで、これらの二つの広告のフォーマットのパフォーマンスに関する「知覚科学」の初期段階における役割により脚光が当たるとしたら非常に喜ばしいことです。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。