先陣を走る!メタップスだからこそ見える「動画市場の今、そして近未来」 [インタビュー]
メタップスと聞くと、人工知能を使ったスマートフォンアプリの収益化支援や、SPIKEなどのFinTech事業を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。2015年8月にマザーズ上場したメタップスだが、今年4月、動画マーケティングにも進出し話題を呼んでいる。同社プラットフォーム戦略部・部長 平将貴氏とグループ戦略部 マネージャー兼ビジネスマーケティングラボ・ラボ長 恒田有希子氏に、メタップス 動画ビジネスの今後の戦略と背景について伺った。 |
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之/書き起こし:ライター・鈴木美雪)
動画関連のビジネスへの投資とその背景
―まず、自己紹介からお願いいたします。
恒田氏: メタップスの恒田と申します。4月に新しく設立した「ビデオマーケティングラボ」のラボ長となりました。元々は既存のメタップスの事業を長年担当しておりましたが、会社として次の領域を……というところで指名がかかり、動画市場に力を入れていくことになりました。ラボを担当するまでは、コンサルタントとして、ゲーム系のお客様のプロモーションを担当させていただいていました。今回担当する動画マーケティングのコンサルタントとしても、データを解析して、ノウハウ化、分析したデータからクライアントに対してサポートしていくというところは変わりません。芯の部分は変わらず、というところですね。
―メタップスの前はどんなお仕事を?
恒田氏: メタップスと出会う前、私は大手エンターテイメント企業のパチンコ・スロット部門で働いていました。実は、パチンコやパチスロってとてもドメスティックなビジネスなのです。海外ではカジノなどがありますが、日本とはまったく違うビジネスモデルなのです。当時、スマートフォンの大きな波が来ていたのは感じていたのですが、世界で通用するサービスを作っていた唯一の存在がメタップス代表の佐藤航陽でした。Facebookやブログ、Twitterなどでの秀逸なコメントを見るうちに、佐藤の勘というか、鋭さに刺激を受け、自らFacebookで話しかけたことがきっかけで入社に至りました。
―どのように話しかけたのですか?
恒田氏: 本当に「こんにちは、私を採用しませんか」みたいな感じです。通常の採用ルートでも、未経験なので仕事はなんでもいい。メタップスに入れてほしいと想いを伝えました。
―そんなにメタップスさんに運命を感じていたわけですね。平さんは?
平氏: 私は、約10年、ITやWeb業界にいます。最初はYahoo!さんなど、プラットフォーム系のECを首都圏の事業者に勧める営業会社でした。その後、2006年か2007年の頃はナショナルクライアントのWeb制作などをやっていました。この会社がトランスコスモスにM&Aをされ、トランスコスモスに移りました。1年営業を経験した後、部署が変わり、ナショナルクライアント向けに大規模なサイト制作と広告、運用改善のコンサルタントを担当することになりました。デジタルマーケティング全般を横断しながら提案をする仕事で、その後GREEに転職しました。
―GREEでは何を?
平氏: 当時、GREEで「スマホのプラットフォームを立ち上げます」という話がありました。プラットフォームを作る側へのチャレンジがしたかったので、私はこのタイミングで入社を決意しました。そこからは、ネイティブアプリ領域でずっと立ち上げをやっていました。大手系のゲーム会社さんや開発会社さんを開拓するというところから始めて、プロデューサーもやっていたので、ネイティブアプリのソーシャルゲームは30本以上の作品に関わらせていただきました。しかし関わってくるうちに、プラットフォームを持ち、ルールを作るような仕事をしたいという強い気持ちを持つようになっていったのです。そんな時、「データを活かして」という佐藤の考えに共感し、2014年、メタップスにジョインしました。
―メタップスは直近で、動画関連のビジネスに大きな投資をされていますが、その背景について教えてください。
平氏: 動画元年だと、ここ数年ずっと言われていますよね。4年ぐらい前に海外の動画のアドネットワークが出てきて、海外系のアプリには動画が広告として入るということは多く見受けられました。しかし、日本だとどうしても通信環境の問題やインフラがまだまだ整っていないこともあり、当時は浸透していきませんでした。
恒田氏: メタップスも動画の部分は当然注力していましたが、この1年くらいの間に国内市場は新規参入が相次いで競争激化するだろうという読みがありました。投資判断としては今しかないというタイミングですね。
平氏: メタップスは、基本的にそのデータを集めて、データを分析・どう価値に変えていくかをベースにビジネスを展開しているので、単純に市場自体が盛り上がっていない中で、そのデータを集めても、アーリーアダプターの偏ったデータだけになってしまい、価値のない・使えないものになってしまいます。それこそ今、若干マジョリティにかかるかなぐらいの市場になったタイミングで、このデータが、僕らとしては1番価値化させるに得意な領域に掛かってきたと捉えています。さまざまな会社がこぞって動画に投資している今だからこそ、メタップスの出番というか、本来の勝ちパターンや評価の取り組みができるチャンスと考えています。
―動画ビジネスの経緯や、直近の取組みは? 例えば、企業買収もされていますよね?
恒田氏: AppStair(アップステア)ですね。
平氏: 2016年の初旬に買収しました。メディア事業として動画編集アプリ「FilmStory(フィルムストーリー)」というサービスなどを持っている会社です。このサービスは、動画を一個人(ユーザ)が編集・加工し共有するアプリです。200万人を超えるユーザー基盤があるプラットフォームなので、アプリとしての資産が非常に高く、またメタップスの持つスマホマーケティングのノウハウや世界8拠点で事業展開させてきた経験を活かし、さらにマネタイズをしていけるという点が、メタップスとして買収に踏み切った背景になります。動画のインフルエンサーを囲ってマーケティングができるサービス「BUZZCAST(バズキャスト)」や、動画制作会社のLOCUSさんと共同で制作から実際の評価までワンストップでできる「LOOP(ループ)」というサービスも立ち上げ、動画周辺事業にも事業拡大しています。
恒田氏: メタップスグループとして、現在は動画をキーワードに「FilmStory」「BUZZCAST」「LOOP」の3つが事業として進めています。
ビジネスモデルと「メタップスらしさ」とは
―動画から少し離れますが、プラットフォームビジネスについても、少しお聞かせください。現状のビジネスモデルはどのようなものでしょうか?
平氏: ベースはデータを見える化をして、次に活かしていくところです。これらデータを価値ある状態にして広告主さんに提供しています。また、データはアプリのDMPとして機能提供しており、グローバルで見ても弊社唯一の商品として多くのクライアントの方々からご評価いただいています。『Metaps』は、トラッキングとアナリティクスとDMPが全部組み込まれていること、それこそマーケットデータも入っています。AppStoreとGoogle Playのトラッキングデータをダッシュボード上で見ることも可能で、AIを使ったインテリジェンス機能で「このままのKPIだと売上がこれくらいになりそうです」という予測の機能も搭載しています。プッシュ通知のマネジメントもダッシュボードで操作が可能です。
恒田氏:『Metaps』であれば、広告費用対効果だけでなくアプリ全体の数字を見て、意思決定していけるよう作られているので、マーケティング担当、プロダクト担当、経営層、それぞれが同じ管理画面の数字を見て議論ができると喜ばれています。
―「ビデオマーケティングラボ」を開設された目的と活動内容についてお聞かせ下さい。動画ビジネスに関連する各社が動画研究組織を設立していますが、メタップスらしさを、どこに出されていきますか?
恒田氏: メタップスは「市場はあるのだけれども、誰も解明していない」や、「ルールやノウハウがない」というところに対して、ロジックやそこを攻略するためのノウハウを提唱していくことでクライアントのマーケティング支援をしています。これまではアプリディベロッパーの方が多かったですが、そのルールについてきてくれる方たちにノウハウを公開して「そのアプリディベロッパーが成功したらメタップスも一緒に成長する」という価値共創の成功パターンがありました。動画の場合でいうと、イベント的というか、大型プロモーションするときに「じゃあちょっと500万円だけかけてインフルエンサー施策やってみようか」だったり、あとは「テレビCMやるときにちょっと合わせてスマホで動画広告を流してみようか」というような、効果があった気がするけれど振り返りが曖昧ということはよくあることで、課題を感じていました。
―なるほど。
恒田氏: 何をやっているのか分からないまま動画施策をやっているという現状があります。この課題をデータ分析によってノウハウ構築しながら、動画市場を皆が攻略・活用できるようにしていきたいという思いが強く、立ち上がったのが私の属する動画研究組織の「ビデオマーケティングラボ」です。ゲーム、非ゲーム、あとアプリ、ウェブを横断する動画市場全体というフィールドで広く捉え、メタップスのデータ活用が生かされる市場だからこそ支援強化ができると考えています。
―ターゲットとされているクライアント層は、ゲーム会社にフォーカスされているのでしょうか?
平氏: 当然ゲーム会社以外にもフォーカスしています。販促アプリやコミュニケーションアプリ、ツールアプリとか、それこそECでも動画は使われているので。当然、アプリによって見るべき指標も違うので、お金の使い方も違いますね。
恒田氏: 最近は大手企業に話を伺う機会が増え気づいたことがあるのですが、ダイレクトマーケティング、認知やブランディング、店舗の担当者と、縦割りでマーケティングをしていることが多いことがわかりました。同じ企業の中でもお互いが何やっているかを知らないというのはよくあることなのだと感じました。
平氏: 動画コンテンツでも勝ちパターンを明確にして、研究する必要があると感じています。
―動画ビジネスと、他の事業との連携をどのようにしていかれるのでしょうか?
平氏: 動画は、あくまでもエンドのユーザーさんとの接触ポイントでしかありません。私の考えとして「動画はいわゆる静的で見せていたものがリッチ化したね」っていうだけかなと捉えています。我々としてはメタップスというマーケティングデータを司る事業と、SPIKEという金融決済事業の2本立てがまずあります。お金を使おうと思ったところの意思決定の分析を含め、最終的にはそこのデータマネジメントと、実際のエンドユーザーさんとつながる出口を考えたとき、動画によって「接触ポイントが増える」というストーリーを考えています。
テレビはいずれ「ディスプレイ」に
―動画に関連する注目されているトピックスは、何かありますか?
平氏: アメリカのテレビ市場は、ネットワークが日本のように民放5社ではありません。チャンネルだって何百チャンネルとあります。基本的に言語に応じて、エリアに応じて、収入に応じて……ってどんな視聴者がテレビを観るのか全部変わってきます。広告市場としても非常に大きなものです。まだ若い学生たちはテレビを見ているけども「一人暮らししました」「独立しました」という独身者や今の10代を含めて、テレビを持たない世代ってかなり多くなってきたと感じています。
恒田氏: 私たちは「いずれテレビはディスプレイになる」と考えています。土日は有料動画配信サービスの「Hulu」を観たい、観たいコンテンツにだけお金を払いたいと思う人が増えています。ここ数年は動画サービスが細分化して、ユーザーも目的に合わせて使い分けています。
平氏: 民法の電波には乗せられないけど、非常にニーズのあるものなどもありますよね。例えばマイナースポーツの試合など、独自の切り口で動画サービスが増えてくるのはもう間違いないと考えています。だからこそ、その番組を観るクラスタに刺さる広告を配信することは必要不可欠になっていくでしょう。今後、そのチャンネルを観ている人たちにしか刺さらないような商品のCMを番組内でやることがデフォルトになっていくのではないでしょうか。
―動画領域における業界の課題は、何か感じていますか?
平氏: 動画広告の出稿主様が「どうしたらいいのか分からない」という状況が一番の課題だと思っています。「投資をしてみましょう」というだけなのか「成功事例がないと動けない」のかパターンはさまざまですが、僕らのビジネスとしては、いかに成功事例を持って、そういった投資ハードルを下げてあげるのかが重要なのです。それこそビデオマーケティングラボをやる使命の1つだと考えています。
恒田氏: はい。そして、効果測定ですね。動画広告に投資しましょうとなったときに指標になるようなところを作っていきたいです。クライアントの「どうしたらいいのか分からない」を解決しながら動画施策に入り込みやすく、全面的にサポートする体制が重要だと思います。
―貴社の動画ビジネスの今後の戦略と方向性についてお聞かせ下さい。
平氏: 現在、「メタップスにお願いすれば動画まわりは何とかなる」というお声をいただけるようになってきています。この1年で動画業界も明暗が分かれてくると思いますが、どこの会社が動画市場のナレッジを最も多く持っていくのか。私たちとしては分析・評価し、試作で悪い部分があればそれを改善するなどしてサイクルを作り、会社全体としてもっと大きい視点で仕掛けたいという部分も当然持っています。それはいろんなメディア側なのか、対広告主様向けのソリューションなのか、プロダクトとして仕込みつつ、ちゃんと準備もしています。しっかり市場に対してアジャストしていけるような戦略を取るつもりです。
恒田氏: 成長には、買収や提携の選択肢は当然あると考えています。代表佐藤の意思決定スピードはとてつもなく早く、事業を推進する側としても心強い環境です。入社当時の事業部が20人ぐらいしかいなかったときと変わらないスピード感で今も事業展開、成長し続けています。実際に動くほうは大変ですけど(笑)。そもそも先回りをするというところが得意な会社ですから、メタップスは時代のスピードよりも一歩先を行き、国内外関わらず、クライアントに最適なサービス・価値の提供をしていくことが今後も私たちの基本的な考えです。
―なるほど。本日はありがとうございました。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。