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「あのアプリ広告良かったね」という世界に Ad Generation(アドジェネ)が描くアプリAd戦略 [インタビュー]

KDDIグループ傘下で事業拡大を続ける、SupershipのSSP Ad Generation(アドジェネ)。同社は15年11月、facebookとのパートナー契約を結び、現在市場拡大の波に乗って業績を拡大している。広告事業本部アドプラットフォーム事業部アドジェネ部 ジ・アドジェネ 池田寛氏と広告事業本部プロダクト企画部部長 大野祐輔氏に、現状の事業や市場環境、今後の戦略について聞いた。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

リリース半年でアプリに舵

―まず自己紹介からお願いします。

池田 寛氏

池田 寛氏

池田氏:私はもともとKDDIの出身で、medibaに出向し、アドネットワーク事業に携わるようになりました。今から5年ほど前です。初めはメディアの仕入れ、サプライサイドを担当し、その次にクライアント向け営業を担当、その後また媒体側に戻りました。その後SSPを立ち上げ、現在はアドジェネ事業の責任者をしています。

大野 祐輔氏

大野 祐輔氏

大野氏:私は2008年にmedibaに入社し、広告システム開発部隊に在籍していました。その後に広告プロダクト企画を担当しアドネットワークの立ち上げやSSPの立ち上げ事業責任者を経て、現在は新規プロダクトを専門に作る部署を新設しそこの責任者をしています。

―SSPをめぐる市場環境についてお聞かせください

池田氏:アプリとWebで二極化しています。Webは基本GoogleのDFPとAdExで、ある程度市場の勢力関係が決まっています。Googleのほかにも、日本の多数のSSPや、外資のSSPも数多く参入し、レッドオーシャンという状態です。また、テクノロジーも進んでいます。
一方のアプリは、アドジェネリリース当初の2014年前半では、まだ市場における雌雄が決しておらず、メディアも、一つのアドネットワークのSDKを導入して満足、というような状態でした。アプリの領域には大きな参入余地があると判断し、アドジェネを開始して半年後にアプリに舵を切る意思決定をしました。

大野氏:アプリ領域では、昨年までアドネットワーク主導でしたが、最近マネタイズはSSP主導で収益性が上がってきています。メディアさんがそれ単独のSDKを入れることも増えてきており、この半年ほどは色々なSSPを導入するという動きがあると思います。

初めの1年くらいはバナーがメインでしたが、ネイティブアドやフォーマット、動画などより高単価なものが出てきています。そのあたりが非常に市場としては変化してきている点だと思います。

―アプリはトラフィックの上下変動が激しいので、ボリュームコントロールが厳しいと聞いていますがいかがでしょうか。

池田氏:トラフィックの上下変動という意味では、競合との兼ね合いで、むしろWebのほうがあるという認識です。なぜなら、競争の激しいWebの領域では、メディアさんは配信ボリュームをアドサーバーで簡単に変更できますし、更にはタグを張り替えるだけで、他のSSPに切り替えることができるという環境です。SSPの我々からすると、リプレイスされやすいという環境です。

大野氏:アプリはSDKの組み換えが大変なので、比較的在庫が安定しています。きちっと収益性が戻せれば、高頻度でリプレイスされるということがありません。リプレイスにかかるリソースやコストがWebとは全く異なります。

池田氏:新しいアプリのSDKがアクティベートされるには、メディアが新しいSDKを実装し、AppleやGoogleに申請を通して、ユーザーによるアップデートを待つことが必要です。ある程度アップデートが落ち着くまでは、2つのSDKが混在します。そもそもSDKの実装自体にもリソースがかかるので、なかなかリプレイスに踏み切りにくいところはあります。だったら納得いただけるプロダクトに専念すれば勝てる、と考えました。

―アプリデベロッパーがSSPの導入を進めているのは、ターゲティング広告配信が有効となる環境が整備されてきているからなのでしょうか。

池田氏:おっしゃるとおりそれも一つの大きな要因です。今は特にソーシャルゲームアプリなどのリテンション広告が盛り上がっています。

大野氏:アドジェネの広告在庫のRTB配信も、直近ではアプリの配信が急激に伸びていると自負しております。買い付けにおけるアドネットワークとRTBの売上比率は、アプリ面においては既にRTBのほうが多い状況です。

また、広告主が設定するKPIもこれまではダウンロードベースでしたが、今はダウンロードしたユーザーがいくら課金してくれるか、ロイヤルカスタマーをどう見つけるか、に移っています。市場環境が明らかに変わりつつあります。そういう高度なターゲティングをする手法として、1インプレッション毎にデータを駆使し適切に判断して広告在庫の買付ができるRTBによる配信に広告主のニーズが高まっており、SSPのアドジェネは、その波に乗れています。

―リエンゲージやリテンションは、メディアにとっても収益拡大のチャンスなのでしょうか。やはりRPMの水準も違いますか?

池田氏:そうですね。アドジェネでは、メディアさんが基本的に機会ロスをしないように出来ています。配信中のアドネットワークの中で直近配信単価が1位のCPMが100円でしたら、それを自動的にフロアプライスにして、それ以上の単価でオープンオークションをかけます。

大野氏:アプリの在庫を買いたいDSPが増えて来ているので、オークションのプレッシャーが高まりより高いCPMでの配信が増えてきています。

池田氏:アドジェネのアプリ在庫に占めるRTB収益は、去年数パーセントだったものがいまは5割以上の水準にまで達しつつあります。ここまで伸びるとは正直予想しておりませんでした。イベントを開催し、デベロッパーさんの前で「なぜRTBは来ない?」と言っていたくらいでした(笑)。それなのに今や収益の半分以上がRTBです。アプリでも、もっと先に買いたい人が出て来ると思うので、実感を持って本質的なPMPなど次のプログラマティックなステージに進めるようになります。やっとモバイル、特にアプリ領域でのSSPの市場環境が整ったのです。

日本でもアプリ広告市場が急成長

―グローバルではモバイルの広告売上はアプリからが多いと聞きますが、日本はまだWebが主流なのでしょうか。

池田氏:現状は、Webのバナー広告の売上が主流だと思います。しかしながら、ユーザーが毎日見るもの、使うもの、つまり普段使いのコンテンツはWebサイトからアプリにシフトしています。また、広告表現の観点からも従来のバナー広告よりも情報量が多く、ユーザーやコンテンツとの親和性の高いネイティブ広告が脚光を浴びています。このユーザーの動向と広告表現の変化を考えるとアプリの広告市場は今後ますます広がっていくと思います。

例えば、Facebookアプリを使っていると目にする広告はコンテンツと同じレイアウトで情報量も多く、ユーザーは自然にクライアント商材の情報を得ることができます。さらに、クリエイティブは静止画だけでなく動画も流れています。

―アプリ広告のフォーマットが多様化していくということでしょうか。

大野氏:そうです。アプリのネイティブ広告でいうと、例えばFacebookのCPMは日本の他のメディアの4~7倍の水準です。今後Facebook以外のメディアにも広がっていくことは必然でしょう。

―アドジェネ(SSP)の直近のビジネスの状況についてお聞かせください。

池田氏photo池田氏:在庫として持つメディア広告枠は19,000、月間のトラフィックは180億impです。現在在庫はほとんどアプリであり、全impの7割に達しています。アドジェネは、AppStoreのTop100の無料アプリのうち、広告収益でマネタイズしているアプリの総数を分母とした場合、そのうちの5割以上に採用されている時期もあります。おかげさまでアプリの広告ビジネスにおけるインフラになりつつある、と言えるでしょう。

アドジェネ上でアドネットワーク広告も配信可能

―ビジネスの好調の要因はどこにありますか?

池田氏:Facebookとの提携も大いにありますが、取引メディア数の増加が大きな要因です。現在はアドジェネご利用中のデベロッパー様から他のデベロッパー様をご紹介いただくケースが非常に増えております。
また、アドネットワーク事業者の営業担当からもご紹介を受けるケースもあります。アドネットワークの収益はいい時も悪い時もあり、デベロッパー様に対して「ずっと僕らだけ使ってくださいね」といったアドネットワークの営業は辛いこともあると聞きます。

大野氏:アプリに振り切って、アプリメディアに選ばれるプロダクト開発に注力したことが大きいと思います。Webと比べてアプリに強いSSPは少ないので、選択肢として選んでいただけるようになってきたのだと考えています。

池田氏:アドジェネは、アプリメディアにとって使うリスクがないようなプロダクトになっています。例えば、これまではアプリとアドネットワークが広告在庫の売買を特別条件で行う場合、アドネットワークと各デベロッパーが直接契約して各社のSDKを実装することが主流でした。それをアドジェネをアドサーバーとして利用し、自由にアドジェネ上で配信することを可能にしました。複数のSDKを実装する手間がかからず、アドネットワークと各デベロッパーとの直接契約なので手数料なども一切かかりません。
さらに、アドジェネでは直接契約のアドネットワークの収益も管理画面上で見られるので、配信比率の自動調整も可能となり、RTBも正しいフロアプライスで設定されます。つまり、全てをアドジェネ上で完結させ、収益を向上させることが可能です。我々のSSPを使って収益が落ちるのであれば、他社のアドネットワークをアドジェネ上で制約なく自由にお使いいただければよい。アドネットワークの皆さんも同じ土俵で公平に戦える場なのです。

―Facebookとの提携のきっかけについて、詳しくお聞かせください

池田氏:Facebookのオーディエンスネットワークのリリースを見て、すぐに日本オフィスに行きましたが、当時はまだ日本側にはビジネスとして降りてきていないとのことでした。その後、運良く当社と先方との強い人的ネットワークによりお話を進めることができました。

―提携によりFacebookのクライアントからの案件がアドジェネに流れるということですよね?

池田氏:そうです。Facebookのタイムラインにでている広告がアドジェネご利用中のアプリに配信されます。また、フォーマットの主流もバナー広告ではなく、動画を含むネイティブ広告となっています。
現在、広告主がデジタル媒体に広告出稿する際のファーストチョイスの一つがFacebookになっていると思います。つまり、圧倒的な広告案件の種類を誇っており、Facebookのターゲティング技術によりユーザーに相性のいい広告が配信され、広告効果も高く、収益性も高い。それをアドジェネご利用の一般アプリに配信することができるのです。

大野氏:我々のパートナーシップの強みは、FacebookのSDKだけをアプリに組み込んでしまうとFacebookユーザーではない場合などで広告が配信されない場合がどうしてもでてしまうのですが、我々のSSPのSDKとあわせて導入いただくと、Facebookユーザーに対してしっかりと高単価な広告を、もしFacebookユーザーでなければ、他の事業者の配信にスライドさせて広告を配信できる点です。

池田氏:アプリメディアは、アドジェネをご利用いただくと、Facebook配信の手続きなどは全て弊社が代行いたしますので、別途Facebookとのアカウント開設などが不要となります。これによりメディア様にとっては、Facebookからの広告配信を受ける敷居がとても下がったと自負しています。

Webメディアは大手がほとんどですが、アプリは個人の方も多く、我々が日本語サポートで支払いも日本円建てで対応させていただけることに、すごく喜んでいただけました。

―Facebookとの提携として、他でもこのような事例はあるのでしょうか。

池田氏:SSPとしては世界初です。日本のSSPは特殊で、申し込むとSSP自身が契約するアドネットワークをセットで配信する仕組みが組み込まれています。しかし海外は基本的にデベロッパー自身が契約します。このような仕組みでFacebookと提携したSSPは世界初だと思います。

―メディアリクルーティングにおいて、他社とどのような差別化をした取り組みをしていらっしゃいますか?

池田氏:やはりFacebookとの提携が武器にはなっております。
そのFacebookの主流フォーマットが動画を含むネイティブ広告なので、アプリでのネイティブ広告の普及を「まじめに」やっています。

―このアプリ領域で競合として見ておられる企業があれば教えて下さい。

池田氏:アプリ領域ではアドネットワーク事業者やDSP事業者といった、たくさんのプレイヤーが存在します。アドジェネはその事業者の方々が公平に広告配信できる土俵になれるようプロダクト作りに励んでおります。つまり、「競合」というよりも「全員が味方」となって日本のアプリ広告市場を盛り上げていければと思っています。

大野氏:グローバル市場を見渡すと、例えばMoPubのように、RTB配信が強く、他社のSDKとのメディエーションが多い事業者が普及してくると、今後競合になるかもしれません。

―PMPは対応されないのでしょうか。

池田氏:対応します。RTBのビジネスが想定を大きく上回っていることもあり、一人よがりにならないようデマンドサイドと協調しながら進めていきます。

データ活用が今後のカギ

―データの活用が進んでいますが、貴社の事業とのかかわりについてお聞かせください。位置情報などはいかがでしょうか。

大野氏:今後の重要なキーになると思っています。アプリもデータを使った配信が伸びています。DSPがSSPから提供されるデータや広告主のデータ等を駆使してSSPの在庫を買い付けをしており、そのことによるRTB配信が伸びているのです。

大野氏photo

我々は提供できるデータはどんどん増やしていきたいですし、新しい市場でSSPがどのようなデータで価値を出せるかに、挑戦していきたいと思っております。いま波が来ているのはロケーションデータです。エコシステムを作ることが出来れば、RTBの取引が更に活発になり、メディアにより収益性が高い世界を作れると思います。どういうデータをデマンド側のプレイヤーが欲しているのか考えていくことも重要です。

池田氏:幸い、インフィード含めたネイティブ広告の表現が変わる時期です。クライアントにもメディアにも、ユーザーにとってもフォーマットが変わるので、そこにデータも加わるとアプリ広告の物価が変わるのは間違いないはずです。今後2年くらいが勝負だと思ってその領域に注力していきたいです。

大野氏:データはデリケートなので、メディアもその取扱い方は気にしています。ユーザーに不利益ではない、という啓蒙をしつつ取り組んでいきたいです。
ロケーションデータを使った配信はグローバルで主流です。あまりセンシティブになりすぎて、日本だけ普及が遅れるという状況では、惜しいですね。

みんながハッピーな広告を

―今年の注力領域についてお聞かせください。

大野氏:これまでの繰り返しになりますが、市場の立ち上がりに必要なデータがあれば、一緒にデータも仕入れてきてバイヤーに提供していけるますし、メディアにも還元できると考えております。

池田氏:ここまでアドジェネに取り組んできて、やっと認知いただきご利用いただけるようになってきています。インフラ屋として、バナー広告主流のアプリ広告のミスマッチを変えていきたいです。みんながハッピーになり、「なくてもいいよ」といわれている広告を、「あってもいいか」くらいに変えていきたい。ここ2年くらいで「あのアプリの広告良かったよね、見た?」と言われるような広告をご提供したいと思っています。メディアだけではなく、広告主の皆さま、その広告を見ているユーザーのお役に立てるよう、取り組んでいく意気込みです。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。