FacebookはAudience Networkの動画対応により テレビ予算を狙う
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
先週(5月16日)、Facebookはビデオ広告を広告ネットワーク「Audience Network」に拡大することを発表した。この発表が意味するのは、広告主が、FacebookやInstagramだけでなく、Audience Networkを通じてサードパーティのアプリやウェブサイトの動画広告インベントリーを購入出来る点である。このFacebookによる動きが動画市場に与える影響はどのようなものだろうか?
Facebookによると、彼らのソーシャルメディア上では1億時間にも渡り、Facebook上で毎日動画が閲覧されており、Instagram上での動画閲覧時間は過去6ヶ月で40%も増加したようである。簡易に楽しめる動画コンテンツを消費者は欲しており、このことをFacebookよりも理解しているものはいない。そういった中、自社で成功を収めているビデオ広告モデルを他のパブリッシャーのサイトに広げていくのは必然である。
先週(5月20日)ExchangeWireがレポートした通り、Facebookはインアーティクル型とインストリーム型の二つの広告フォーマットをサポートする。インアーティクル型はFacebookのインスタントアーティクルズとして、パブリッシャーサイトの記事間に表示される。20分までの広告をサポートし、半分以上が現れた時点で自動再生される。インストリーム型は、10秒から30秒の間、サードパーティアプリ、モバイル、デスクトップのサイト内で再生前、生成中、再生後のいずれかに表示される。広告主はどこで広告が表示されるかを決定することはできないが、Facebookは豊富なオーディエンスデータ及びターゲティング機能のサポートによって、この点は問題にならないと考えているようだ。
Facebookの動きは、動画広告マーケットにおいて、複雑なやりとりや市場の細分化に悩まされてきたパブリッシャーにとっては間違いなく朗報であり、簡易な方法で市場の足がかりを得ることが可能だ。
この動きによりFacebookはGoogleのYouTube及びサードパーティのビデオコンテンツによるビジネスに風穴を開けることが出来るだろう。しかしながら、Facebook側が明らかにしておらず、消費者への浸透において問題となるのが、インストリーム型広告がスキップできるかという点だろう。
プレロール型は消費者に受け入れられず、Googleはインストリーム型広告を、ノンスキップ型は最大15秒(EMEAやインド、マレーシア、シンガポールでは20秒)、それ以外は5秒経ったらスキップできるように変更せざるを得なかった。Facebookが広告主に30秒広告を推奨するにあたっての障壁は、広告主が消費者の閲覧を促すような内容の広告を提供でき、パブリッシャーが消費者が広告を受け入れてまでも閲覧したい様なコンテンツを提供できるかに掛かっている。上手くいかない場合には、広告主は低調なキャンペーン結果に従事し、パブリッシャーはサイトへの訪問者を失うことになりかねない。
Facebookの動画への進出によって、エージェンシーやインハウスの広告購入チームへどのような影響がもたらされるかという疑問が湧いてくる。現状ビジネスにおいては、Facebookとテレビ、ビデオオンデマンド、プログラマティック動画は別チャネルとして区別している。Facebookの動きによって、市場のパイの奪い合いに変化が生まれるかもしれない。FacebookはFacebook Audience Networkの動画への拡張は、閲覧数などの面からブランド企業をサポートするものであると述べているが、別の言い方をするとテレビ広告の出費を狙ったものとも言える。どちらにしても、Facebookが「ソーシャルネットワーク」の枠組みを超えてサービスを拡張することは、デジタルマーケティングチームだけでなく、トラディショナルマーケティングチームにとっても変化が必要とされていることの合図といえる。
FacebookがAudience Networkの動画対応を拡張することは賢い選択と言えるのか、ExchangeWireは数名の有識者に話を聞いた。
インストリーム型広告は公平な価値交換をもたらさない
「Facebook Audience Networkにおいて更に動画広告のインベントリーを拡大することは自然で必要な進化です。ブランド企業が動画コンテンツに費やす費用は、デジタルマーケティングのどの費用よりも増えており、Facebookはこの成長する市場で大きなシェアの獲得を狙っています。Facebookがインアーティクル型に着目しているのはポジティブな点だと言えますが、消費者並びにブランドへの影響を考える必要があります。一方で、コンテンツ閲覧時に、広告コンテンツが再生前・再生中・再生後のいずれかに流れるインストリーム型広告はユーザーに受け入れられません。テレビや映画のようなトラディショナルな動画フォーマットにおいては、ユーザーは長時間のコンテンツを閲覧する為に、広告を閲覧することについては満足しています。しかしながらオンラインのプレロール型広告においては、30秒のコンテンツを見る為に、30秒の広告を見なくてはならず、適切な価値交換とは言えません。実際、世界中のウェブユーザーの半数以上がプレロール型の広告を最も迷惑なフォーマットだと捉えています。ユーザーの意思に反するプレロール型の広告によって2/3ものインターネットユーザーが2秒以内にページから離脱します。同時に、ブランド企業にとっても、ターゲットユーザーを嫌な気持ちにさせるだけでなく、ユーザーにクリエイティブを無視する結果に繋がるフォーマットにお金を費やす事には神経質に成らざるを得ません。不愉快を感じたユーザーが抗議をして、ブランドが先例に従う結果になるのかどうかは時間が経てばわかるとおもいます。パブリッシャーにとっても検討すべき広義な問題があります。消費者がFacebook経由でコンテンツやビデオや他のものを閲覧するようになると、パブリッシャー自身のサイト訪問の意味づけが薄くなります。これはFacebookが自社の閉じられた環境において、閲覧された広告に応じて一定の収入を得る仕組みにおいては問題となります。パブリッシャーがデジタル収益を増やす為に大きなプレッシャーに晒される中で、収益を圧迫するものは全て喜ばしいものではありません。しかしながらFacebookが持つ数十億ものユーザーは余りにも強力です」
ローカルメディアにとっての収益インセンティブ
「スケールのある動画消費オーディエンスを確立しようとしているローカル及び地域メディアは過小評価されるべきではりません。Facebokの動画への進出は2016年のFacebook Liveなどに見られますが、パブリッシャーにとっての収益面での利点は限定的です。Audience Networkの動画広告への拡張によってUKのローカルメディアは国内外の放送業者のように、オンライン動画をFacebookのオーディエンスに対して制作・配信できるようになります。動画配信を担うパブリッシャーは、動画がプラットフォーム、デバイス、消費者の面において、適切に制作され、配信されるように、文化面及び構造面から努める必要があります。」
動画コンテンツの配信及び収益化の大きな機会
「数字は嘘をつくことがありません。そしてそれはFacebookの動画におけるサービス拡大においても明確です。FacebookによるFANの拡大はパブリッシャーにとって動画収益化のまたとない機会です。優れたターゲティング機能及び多くのオーディエンスを所有するこのサービスは、広告主特にブランド企業にとっては魅力的でしょう。Facebookにおいて非常に多くのユーザーが動画コンテンツを消費しており、インスタントアーティクルとのシームレスなインテグレーション、及びフィード内での多くの閲覧機会により動画消費は更に増加していくでしょう。大規模且つ、高品質のソーシャルオーディエンスを持つ世界的なパブリッシャーである当社としても、適切なビデオコンテンツを用いて配信及び収益化の機会を増やす又とない機会と考えています。パブリッシャーは常にユーザーを念頭において、エンゲージメントを高めるような優れた動画を制作し、プラットフォーム上で配信することが重要です。Facebookユーザーは毎日1億時間以上もの動画を閲覧しています。プレミアムパブリッシャーは戦略的にプレゼンスを高め、新たな収益機会を勝ち取るでしょう」。
「Q: 広告が増えることでユーザーが閲覧することを止めるでしょうか?
A: 消費者はYouTubeでの動画閲覧を続けますか?」
Facebookの広告ビジネスの抜け目のない動き
「Facebookの最近の動きによって、ブランドやプラットフォームが動画を配信する重要性や、動画が消費者と接する上で最も強力な方法である点が明確になりました。Facebookは今後、他のトラディショナルチャネルから更に多くの広告予算を勝ち取ってくると考えられ、今回の動きはFacebookの広告ビジネスにおける抜け目のない動きと言えるでしょう。Facebookはもう単なるソーシャルネットワークとは言えません。広告担当者は豊富な動画コンテンツを有し、モバイルファーストなコンテンツを持つハブとして捉えるべきでしょう。現段階では、配信される動画の品質や、動画配信を通じた消費者エンゲージメントの可能性についてはあまり明らかにされていませんが、これらは広告主が回答を期待している内容でしょう。今後、Facebookが他のリッチメディアへも進出してくるのかは興味深い所です」。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。