Now & Next: ロケーションターゲティング
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
Now & Nextは ExchangeWireリサーチによる新たなサービスである。Now & Nextを通じて、最新のリサーチ結果から公平なインサイトと現在のトレンド分析を行い、将来的な広告及びマーケティング技術の動向を予想していく。今回はロケーションターゲティングについて取り上げる。
位置情報は100年以上もの間マーケッターに利用され続けた技術である。オフラインの世界では、チラシであれ、新規店舗開設であれ、位置情報は決定プロセスにおいて重要な要素として利用されている。
スマートフォンの人気拡大により、マーケッターは消費者が1日を通じてどこにいるのか、というリーチにおける貴重な情報の入手機会を得られるようになった。
これまでの間、多くのモバイルマーケティングにおいて、デスクトップと同様に、行動・プロフィール・コンテキストに基づいたターゲット技術を用いて広告配信が行われてきた。これらの場合での最適化とは、より良いエンゲージメントであったり、低価格のCPMだったりした。
スマートフォンによって、マーケッターは位置情報データの利用が可能になる。デスクトップの世界では、位置情報が静的なものであり活用が難しかったが、モバイルの位置情報は非常に重要な情報となる。
マーケッターは既存の消費者データに加えて、(マーケティングプラットフォームを利用したビーコン認識、NFC、IPアドレス、WiFi、ジオフェンシング等の)位置情報を利用すること出来、ブランド企業はより適切でエンゲージメントを高めるユーザー体験をもたらすことが可能になる。
現在、いくつかのブランドによる位置情報を使った実例を確認することができる。
• KFCはロケーション情報を利用したターゲティングで18,000人もの訪問者の呼び込みを行った。
• フィリップスはダイナミックフェンシングを利用して、CTRを64%向上させた。
• ジオフェンシングの利用によってアディダスは通常のキャンペーンの3倍の結果を導いた。(pdf)
ExchangeWireはDigital Element社のUK及びアイルランドのVPであるCharlie Johnsonにロケーションターゲティングの利点について、インタビューを行った。「ロケーションターゲティングは、ユーザーの邪魔をすることの無い技術です。マーケッターは消費者側のオプトインなしに位置情報を利用することが可能です。これによってマーケッターは拡張性及びターゲティングに優れたサービス提供を行うことが出来ます」。
Johnson氏は、ロケーションターゲティングが以前は容易なものでは無かった点を認めている。「難しいのは多くのデータ量を集めることでした。GPSサービスをオプトインしている人々はかなり少なかったのです。Nielsenの調査によると、ヨーロッパのモバイルユーザーの殆どが3Gや4GではなくWIFIを利用しており、其の為ロケーションターゲティングは困難なものでした」。
Johnson氏は、ロケーションターゲティングが完全なものになるには、多くの余地が残されている点を指摘している。「例えば、消費者がJohn Lewisの店舗の前に立っており、女性もののファッションに関心があることが認識できる、といった情報の把握にまで至れば、マーケッターにとって大きな勝利と言えます。しかしながら、そこまでに至るケースはまだ稀です」。
メディアプランナーやバイヤーにとっての大きなチャレンジは、位置情報とその他のキャンペーンの決定や、広告量を測る為の情報をいかに組み合わせるか、という点である。
ブランド企業にとって、簡単にできる位置情報の利用の一つがウェブサイトコンテンツへの活用だ。例えば、もしあなたがSelfridgesに勤めていて、あなたのユーザーがバーミンガムにいる場合に、バーミンガム支店で予定されているイベントやプロモーションを表示するような例である。もしくはユーザーがあなたの店舗の近くにいる場合に、関連したオンラインのプロモーションを表示する等の活用も考えられる。
今後、デモグラフィック情報を備えたファーストパーティの消費者データとサードパーティデータや位置情報を組み合わせ、リアルタイムビッディングを通して、全てのデータを組み合わせる動きが一般的になるだろう。
以前は、マーケッターは詳細なローカルレベルでのターゲティングを、量やリーチが乏しいために避ける傾向にあった。しかしながら、昨年くらいから、多くのIPアドレスが開放され、一つのIPアドレスでカバーされる地域が細分化されるように変化している。Johnson氏は次のように述べている。「現在、クッキーによる問題はあるものの、より多くのマーケッターがIP機器により生じるデータを利用することでリーチを高めています。IPレンジの増加によってより正確なロケーションターゲティングが行えるようになっています」。
このことは、限られた地域で活動している中小規模の企業にとって、良い情報である。多くの広告が、中小企業にとって無駄な出費の多い活動と考えられてきた。しかしながら位置情報の利用は、地方事業者が、大企業と同様にオンラインのユーザーから収益を稼ぐための活動として有効である。
近くにいるユーザーが何をしているのかを理解することは別のメリットもある。近隣に住むユーザー間の共通点は当然存在する。その為、あるIPやパブリックWiFiスポットからの購入の傾向を見つけた場合に、その地域の他のユーザーにリアルタイムキャンペーンを実施すると大きな結果に繋がることがあり得る。
ブランド企業が、そのアクションが明示的なものか暗示的なものかを区別し、広告の届いている先には、企業のモバイル戦略を成功にも失敗にも導くユーザーがいることを念頭にいれておくのは、非常に重要なことである。
そのような価値はすぐに売上を生むことには繋がらないが、個人顧客との関係性を深めることに繋がっていくからである。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。