セプテーニが語る、インフィード広告における「クリエイティブ」へのこだわり [インタビュー]
ソーシャルメディアの隆盛で近年、注目を集めているインフィード広告。FacebookやTwitterなどで採用されている広告フォーマットの名称だが、このインフィード広告領域の、日本における草分け的な存在が広告代理店のセプテーニだ。
昨年のインフィード広告の売上は業界トップクラスで、業績も好調に推移している。その秘訣はどこにあるのか。今後のインフィード広告市場をどのように見ているのか。同社執行役員 メディアグロース本部 本部長 清水 雄介氏、同本部 専任部長 加来 幸樹氏に聞いた。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
スマホ×インフィードはクリエイティブが最重要
―まずはインフィード広告市場が発展した背景について聞かせて下さい。
清水氏:国内におけるスマートフォン(以下「スマホ」)端末の普及が進む中で、多くのユーザーをかかえるメディアがここ数年で数多く立ち上がった印象があります。また、グローバルメディアのFacebookやTwitterなどのタイムライン型のソーシャルメディアは、国内でも利用者数が急増しました。このトレンドに則って、15年5月にYahoo! JAPANがスマホ版のトップページをタイムライン化し、12月にはLINEがチャットのUIではなく、タイムライン上に広告を出せるように仕様変更しました。Facebook、Twitter、Yahoo! JAPAN、LINE及び複数のニュースキュレ―ション系メディアがスマホに適したタイムライン型UIを採用したということが、インフィード広告市場の発展の背景にあります。そして、インフィード広告の環境が整い、広告運用をする上で当社が重視したのが「クリエイティブ」です。
―セプテーニがインフィード広告に強みを発揮した背景にはクリエイエティブ領域での高い競争力があると業界内でも言われていますが、詳しく教えて下さい。
私たちは、スマホ×インフィード広告の運用最適化にはクリエイティブが最重要だと考えています。
インフィード広告は、メディアのUIの中になじむフォーマットで、既存の広告より視認性が高いため広告効果が高くなりやすいのですが、一方で、ユーザーが期待していない訴求内容だけを載せていると成果が持続せず、ユーザーの期待を裏切りやすくなってしまうという特徴があります。
このような点を踏まえ、当社では広告主のことはもちろん、メディアがどのようなインターフェースで、ユーザーはそこにどのような情報を見に来ていて、どういう接触態度で情報を取っているのか意識してクリエイティブ開発を行っています。広告主の要望があり、ユーザーの期待があり、それをメディア上でどう表現するか。この3つの視点を決して忘れずに広告サービスを提供するのが私たちのベースの理念となっています。
「考える部分」はアウトソースしない
―そのような理念の上で、どのような構造でインフィード広告のクリエイティブを制作しているのでしょうか?
加来氏:インフィード広告に力を入れることで、あらためて定義できたのですが、バナー広告、いわゆるディスプレイ広告の制作スタンスとは全く異なります。大げさな言い方をすると広告のこれまでの、ユーザーとプロダクトを考え抜こうという流れに、新しい掛け算でメディアのことも考える必要が出てきたということです。
「ネイティブ広告とバナー広告は何が違うか」というリサーチなどで、「CTRはネイティブ広告のほうが高い」と言われていますが、見られているかどうか、つまり視認率がそもそも違うという見解もあります。
バナー広告の場合は、極端に言ってしまえば、「無視される前提でも注目を集める訴求や表現とは何か?」という考え方なのですが、インフィード広告の場合は基本的にフォーマットがUIに溶け込んでいるため、一回は視認してもらいやすいという特徴があります。とはいえ、Yahoo! JAPANのインフィード広告であればアドフォーマットは完全に馴染んでいても、普通のニュース記事にはありえないような画像やテキストを載せてしまうと、中身がユーザーにとってどんなに良くても、視認される前に関係のないコンテンツ/広告と判断されスルーされてしまう。そういう意味でも、メディアの文脈や作法に合わせていかないと読まれる前にスルーされる可能性が高くなってしうため、各メディアに合わせたクリエイティブ制作という視点がこれまで以上に求められ始めています。
ディスプレイ広告の場合はメディアやネットワークを横断して同一原稿を流用する、リサイズするといったことも多かったですが、インフィード広告の場合には各メディアのUI/UXまでを意識してそれぞれに個別のクリエイティブを用意する必要が出てきています。
また、各メディアとの付き合い方も少し変わってきました。今までは各社の広告担当とだけやり取りをしていました。しかし、インフィード広告の場合はコンテンツ編集の視点も重要になってきていると感じており、各社のコンテンツ編集担当の方と意見交換をさせていただく機会も増えてきました。また、両者のノウハウには共通点も多いこともわかってきて、あらためてクリエイティブにおける編集視点の重要性を実感しています。
―それはおもしろいですね。
清水氏:メディア上での表現を考え抜くということは変わっていないのですが、メディアが増えると考える頭を増やさないといけないので、バナー広告にくらべると生産体制の比重は高まっています。
―バナー広告の頃もクリエイティブに強みを発揮されていたのでしょうか。それともインフィード広告だからこそなのでしょうか。
清水氏:バナー広告の頃からクリエイティブにはこだわり続けてきました。それがよりインフィード広告になって差別化につながり、競争力となり、結果につながってきていると思います。
大量生産に追いつくための社内体制を整えることにも力を入れてきました。視認性の高いインフィード広告はクリエイティブの摩耗も速いので、一定量を供給し続けないといけない。10本入稿して1本成果が出るとそこから派生して次々と効果が出るであろうクリエイティブの仮説検証を続けていく。それを可能にするためのスタッフの雇用と、グループ内のSCM(サプライチェーンマネージメント)はここ5~6年でしっかり作れてきたと思います。
加来氏:当社ではディレクション部分も含め考える部分はほぼアウトソースしていません。
インフィード広告での方法論や編集視点などのノウハウを蓄積し、検証結果を複数人で同時に回すことができ、そこを内製化しているから、質・量ともに速くPDCAを回せるのかなと思っています。
今までは人が多ければ効率的に制作することができました。しかし考えることの重要性が増してきたので、考えられる人材をクリエイティブ内に用意することを進めています。クリエイティブは属人的なものですが、そうならないようできるだけ客観的に数値化し、可視化して、それを元に次のクリエイティブを考案する。考案するのは人の仕事なので、ある種ソフトに委ねられますが、その手前までで誰でも成果が出せるようなクリエイティブ体制(ハード)の構築を推進しています。これがインフィード領域では確固たる強みになっていると思います。
単一メディアから横展開するカギは「テクノロジーとの掛け算」
―今後考えられるインフィード広告の次なる可能性を教えて下さい。
清水氏:今後動画は増えてくると思います。UXとUIはセットなので、コンテンツ(記事)自体が動画であるものが出てくれば、それに伴い動画の広告フォーマットも増えると思います。
また、インフィードネットワーク、インフィードフォーマットを横串で各パブリッシャーに提供するようなものの需要が増えると思われます。しかし、複数媒体に統一フォーマットを流すのは、「単一メディア×広告主のニーズ×ユーザーのニーズ」という考えが通用しにくくなるため、現状の手法のままでは広告効果を上げるのは難しいと思っています。そこでテクノロジーとの掛け算がより必要になってくるのではないか思っています。
配信側のテクノロジーにより「このユーザーにはこの訴求軸を当てていく」という観点で、クリエイティブを自動で再編して当てていくことができるようになると、これまで大きなメディアで縦に増やしていたインフィード広告を横に広げられると思います。
市場全体の観点では、インフィード広告は通常のディスプレイ広告よりも、パフォーマンスも、クライアントのニーズも比例して高まりつつあります。横にネットワーク化していく時には、テクノロジーとの掛け合わせが必要です。同じフォーマットで、メディア目線でチューニングしにくくなるのがネットワーキングだと思うので、そこにターゲティングとの組み合わせが可能になると、インフィード広告市場がさらに発展していくと考えています。
全てのメディアがインフィードにはならない
―今後スマホメディアはインフィードに全て変わるのでしょうか?
清水氏:そうはならないと思います。UI・UXの観点から見て、インフィード化したほうがいいメディアはインフィード広告を出したほうがいいと思いますが、全てのメディアがスマホだからインフィードになれば効果が上がるとは思いません。
加来氏:例えばゲームの攻略サイトにゲームアプリのバナー広告が出るのはごく普通のことです。無理にインフィードになるほうが見づらくなりますからね(笑)
清水氏:多くのメディアがフィード型UIを採用したのでインフィード広告が注目されたというのが2015年だった。2016年はまた新しいフォーマットや領域が出て来る可能性は非常に高いと思いますので、我々も取り組んできた成果を次のフィールドでも発揮できるよう、頑張っていこうと思います。
―なるほど。2016年も益々、インフィード広告市場を盛り上げてくれそうですね。今後もさらなる躍進を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。