表示時間: デジタル効果計測の新基準?
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
デジタルキャンペーンの効果を測る最良の方法について多くの議論が行われてきたが、未だ業界標準は存在しない。ExchangeWireはBannerconnect社の戦略イノベーション部門のDirectorであるTim Geenen氏に、彼らが最近実行した研究について話を聞いた。この研究では、ユーザーへの表示時間を業界標準しようという試みを行っている。
―ExchangeWire: デジタルキャンペーン効果を計測するのに、業界はどこで道を誤ってしまったのでしょうか?
Tim Geenen氏:アトリビューションは今日のデジタルマーケターや広告主にとって簡単なことではありません。検索、ディスプレイ広告、ソーシャルなどが異なるフォーマット、チャネル、デバイスで別々に検測される状況ではデジタルキャンペーンの継続性をほとんど見出すことが出来ません。デジタルマーケティングや広告のプロフェッショナルをしても、繋がっていない非常に多くのデータポイントの中では、知的でデータを利用したアトリビューションを得るのは殆ど不可能で、オンラインの様々な努力の効果を得ることは出来ません。
消費者の行動は様々です。消費者行動に関わる要素を知ることはキャンペーンのパフォーマンスを最大化するのに必須です。信頼たるデータを得るために、協力ゲーム理論と、特にその中でもシャープレイ値の計算結果を利用します。シャープレイ値は、各プレイヤーがゲームに勝利するための貢献値を計算します。この理論はアトリビューションにも適応でき、どのタッチポイントがキャンペーンを実施する上で有益なのかの疑問を明らかにすることが出来ます。
デジタル広告主は(CTRやCPAのような)曖昧でトラディショナルな計測値によって機会を損失し、結果として正しい予算配分が行えませんでした。メディアの買い手が、コンバージョンや、クリック、アクション等、最もエンゲージメントに繋がる為の広告タイプを追い求めるのは理に適っていることですが、これは広告の表層的な側面に過ぎません。セールスに至るまでに必要なのはプロセスです。マーケティングは消費者を商品に興味を持ってもらうことが重要で、これらは複数のユニークなエンゲージメントを通じて行われます。しかしながら、広告の最終段階に至るにあたり、効果や測定方法にはバイアスがかかり、キャンペーンを成功に導くより高度なファネルを生成することに繋がっていません。このような近視眼的な見方は衝動的な消費者にのみ効果を発揮しています。
デジタル広告には広告を表示する上で新たな指標が必要です。効果やチャネル間の相互関係等を示し、低ファネルの活動だけに留まらないような指標です。プログラマティックやデータプレイは結果を得るのに重要な役割を果たしていますが、正しい結果を得ることが必要不可欠です。
―広告のビューアビリティはデジタルキャンペーンを効果的に計測するのに重要な役割を果たすのでしょうか?
ビューアビリティを計測することは非常に重要なことではありますが、デジタルマーケターがアトリビューションを知るための要素ではありません。広告が目にされているかどうかは、キャンペーンや消費者のエンゲージメントの効果性を知るための良質の用途ではありません。広告の閲覧に関しては、どのくらいの長さ広告が目にされていたのかという「表示時間」まで掘り下げることが、キャンペーンの効果や消費者のエンゲージメントを知る為により有効な手段です。表示時間は、異なるドメインのシャープレイ値を計測するのと同じ様な測定基準です。例えば、ラストクリックアトリビューションを得る為に、閲覧されないインプレッションを「投下」するようなことは新たな基準値ではカウントされなくなります。私たちは、表示時間に応じてキャンペーンを測定し最適化を行うことで、CTRやCPAのような伝統的な計測値においてもより良い結果がもたらされ、エンゲージメントの増大につながると仮定しています。このことを証明するために研究プロジェクトをおこしたのです。
―表示時間についての最適化の研究によって明らかになったことはどのようなことですか?
私たちは2015年前半に、60日を超える期間で、IABフォーマットに準じた形で、オランダの様々なブランドから5億インプレッションものデータを収集しました。このリサーチプロジェクト(非常に良い視力という意味から20/20とネーミングしました)の目的は消費者の行動は利用可能な時間軸の測定方法によって影響されるのかという点です。コンバージョンにのみ注力する代わりに、20/20はオーディエンスを捉えることにフォーカスしました。20/20リサーチの結果から二つが非常に関連していることがわかりました。
リサーチでは、表示時間とパフォーマンス、クリック、コスト、アカウントへのコンバージョンの関係に注目しました。私たちは表示時間が増えるとCTRも高まることを発見しました。最初の10秒間閲覧された場合は20%の上昇、30秒間表示された場合には最大で30%の数値の上昇が見られました。しかしながら、この結果が表示時間によってもたらされたのか、それとも初期のデータ分析に含まれていたコンタクト頻度の増加によって起こったのかは不明瞭でした。
Source: Bannerconnect
最適なコンタクト頻度は10回前後のように感じられました。より多くのコンタクトはユーザーを混乱させる結果になるという分析を得ました。10秒間の1度のインプレッションと0.1秒ごとの100回のインプレッションとでは、全く異なる結果が見られました。
コンタクト回数の影響を省いて、ユニークなコンタクトの瞬間だけにフォーカスをして再度分析が行われました。
この形では、表示時間とパフォーマンスにより顕著な関連が見られました。ユニークコンタクトがより明確な増加を見せたのです。CTRは最初の10秒間では30%の上昇を見せ、30秒の表示では200%上昇しました。表示時間とCPAの間でも明確な関係が見られ、表示時間が伸びるとCPAは好意的な影響を受ける点が確認できました。
Source: Bannerconnect
Source: Bannerconnect
表示時間はキャンペーンの効果に直接影響を与えます。短い表示時間のインプレッションは長い場合と比べて、キャンペーンの成功には貢献をしません。最初の10秒間でCPAは70%減少します。ここから結論を導くには十分なデータがありませんでしたが、数値の減少は継続しているように見えます。測定基準として表示時間を使うことは最適化の良い機会につながります。
表示時間は、キャンペーンのパフォーマンスをより深く理解することが出来る進化した測定基準であり、デジタルディスプレイ広告の価値を増大させることに繋がります。Bannerconnectの20/20プロジェクトにおいては、標準的なIABや3MSでの広告配信において、表示時間が短いとクリックなどのエンゲージメントの結果も短くなった点が確認できました。これらの結果から、広告が目にされたかどうかだけの測定基準では不十分なことがわかります。表示時間の方がより適切で、アトリビューションにより適した方法です。最初の20秒〜30秒にかけてはエンゲージメントが大きく飛躍し、その後、徐々に効果を失い結果に結びつかない傾向がみられます。最も効果の高い表示時間を知ることはより高いエンゲージメントにつながり、キャンペーンのパフォーマンスを高めます。
表示時間はデジタル広告業界に変革をもたらす測定方法で、マーケッターはアトリビューションの獲得に向けてより情報を得て、データを重視した決定を行うことが出来ます。
―当初の結果は非常に有効なものに見受けられましたが、表示時間による最適化はパブリッシャーや広告主にとって現実的なのでしょうか?
表示時間を利用するという案はまだ初期段階にありますが、私たちはこの新たな基準を業界標準にしていくという大きな計画をしており、他のパブリッシャーも追随するのではないかと考えています。私たちの重要な顧客のうちの1社が、私たちの実験のすぐ後に、表示時間による最適化の素晴らしい実例を作ってくれました。彼らは新しいやり方でROIを高めるすべを示してくれ、他の広告主も続いてくれることでしょう。現在、表示時間は標準的とは言いがたく、実行するのに簡単な計測方法ではりませんが、プラットフォームの進化によってビューアビリティが支持された様に、表示時間が次の選択肢になり業界標準として検討されることを信じています。
―業界でこの方法が標準計測方法になるために次に必要なことは何でしょうか?
現在、私たちの研究はディスプレイ広告のみに向けられていますが、次の段階としてビデオやアプリ広告についても表示時間を使った効果検証を行っていきます。20/20の研究結果とアトリビューションのゲーム理論の統合及び比較についても検討しています。
現在私たちは、AppNexusとカスタマイズされたにインサイトを適用する可能性について調査をしています。AppNexusは表示時間が持つ可能性について非常に興味を示しており、20/20プロジェクトによって、マーケッターが自身のブランド広告キャンペーンを評価し、キャンペーン時にディスプレイ広告と他のチャネルの最適な組み合わせを決定する為の新たな可能性を導いてくれたとまで言ってくれています。デジタルの測定にとって非常に喜ばしい機会だと思います。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。