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APACの広告主はアドネットワークモデルから抜け出せていない

エージェンシーが変化を見せていく中で、APACの広告主の中にはプログラマティックに関して古い考えに固執し、アドネットワークモデルから抜け出せていない人々もいる。

The Trade DeskのAPAC地域のシニアバイスプレシデントであるMatt Harty氏は、ExchangeWireとのQ&Aで、これらの広告主はプログラマティックには残り物のインベントリーばかりが集まっていると考え、メディアの購入においては、これらのプラットフォーム利用を避けていると、説明してくれた。彼は、こういった誤解はCPCのような古いモデルの需要と関連していることもあると付け加えた。

アドテクベンダーの一部は、視野が非常に小さくなってしまっているとHarty氏は指摘し、更にアジア地域で今年起こりうる事や問題点について述べてくれた。

―ExchangeWire: 中国の影響を受け、APACの経済見込みの雲行きも怪しくなっています。このことがAPACのアドテク市場にどのような影響を与えると考えていますか?

Matt Harty氏: 現在まで中国は殆どのアドテク提供者にとって閉じられた市場です。もしこの点について何か述べるとするならば、中国に関しての保守的な考えが、世界のアドテクプレイヤーにとっては利益をもたらすかもしれません。マーケッターがリスクを避けるように考えるにつれて、サードパーティのモニタリングやクオリティーコントロールのプロダクトへの需要が高まっていくかも知れません。これらは中国市場以外のプレイヤーにとっては新たなチャンスといえます。

これらのプレッシャーが2016年も継続し、中国市場のグローバル化が推進されると、中国市場の鈍化が、グローバルなサービス提供者にとって利益をもたらすことになるかもしれません。

―このような業界の状況において、どのようなことにフォーカスすべきだと考えますか?

2016年の市場が厳しさを増した場合、マーケッターはメディアの効率化を考えるようになります。その結果、効率化やデジタル化といった分野が歴史的にも注目を集めるようになるでしょう。そういったことから、私はデジタル分野については強気の姿勢を崩していませんし、効率化に関する分野にもフォーカスし続けます。マーケッターは、いかに効果を最大化出来るか、予算がいかにターゲットオーディエンスに向けた広告に消費されるか、といった点に引き続き注目していくでしょう。これらのマーケッターからの疑問に応える過程で、アドテクベンダーはビューアビリティやアドフラウドの防止、サードパーティデータの提供といった内容を議論できる機会を得るでしょう。

また、効率化向上の為のサービスの需要が高まると、デジタルにおけるプログラマティックの重要性も増していくでしょう。

―APACのアドテク業界で今年起こりうると考えられることを3つ挙げてもらえますか?またそれらが現実化するためにはどういったことが必要なのでしょうか?

Matt Harty氏

Matt Harty氏

まず、パブリッシャーと広告バイヤーの間のダイレクトビジネス(もしくは以前は「掲載申し込み」と呼ばれていたもの)は徐々にPMP (プレイベートマーケットプレース)に置き換わっていくでしょう。この変化により、売買の効率性や条件付き購入などの有効性も高まっていくでしょう。

例えば、私が仮にキャンペーンで女性をターゲットにしたい場合、女性にフォーカスしたコンテンツを取り扱っているパブリッシャーから購入すれば良いのです。これ自体は男性を取り除くものではありませんが、女性のサードパーティデータに基づいた条件付き購入を行えば、男性をターゲットから取り除くことが出来ます。こういった戦略を通じて、私は的確なターゲティングと広告購入における適切な環境を手に入れることが出来ます。マーケッターからのターゲット化と効率化における要望の高まりによって、広告購入方法に変化がもたらされるでしょう。

次に、2016年にはサードパーティデータの需要が伸びるでしょう。まずは東南アジア市場で伸びを示し、他のAPAC地域は時間がかかるかも知れません。多くのパブリッシャーが去年は内部データの検証に時間を費やしていましたが、こういったプロセスを経て、今年はウェブページだけでない収益化の手段の広がりが見られるでしょう。

より多くの東南アジアの大手パブリッシャーが2016年には、オーディエンス関連プロダクトを試してみることになり、プログラマティックはこれらの進歩から大いに恩恵を受けることになるでしょう。

3つ目に、クロスデバイスが次世代TVの分野においても浸透し出すでしょう。2016年に次世代TVが大きく利用されるようになるとは思いませんが、いくつかの動きを目にすることになると思います。テレビを利用した最初の体験については、様々な検討が重ねられており、マーケッターがクロスデバイスを通じた本物の体験を得る為のゲートウェイと成り得ます。

私たちはオムニチャネルの世界を生きています。マーケッターが広告のプラン作成に自信と経験を積み重ねていくに従い、ユーザーが生成したオンラインビデオだけでなく、「本物のテレビ」を加えたいという欲望は急速に高まっていくでしょう。

これらの3つの予測はそれぞれ高度に絡み合っているものです。次世代TVの市場はPMPの一部と成り得ますし、PMPの成長はサードパーティデータの利用環境に依存するかもしれません。クロスデバイスの効率化によってデータを購入する予算は増えるかもしれません。多くの要素が動的に絡み合っているのです。

―業界が今年直面する困難はどのようなもので、それらはどのように解決できるのでしょうか?

2016年にプログラマティックは大きな成長を遂げるでしょう。しかしながら、多くのマーケッターが成し遂げたい変化をサポート出来る人材がどれだけいるでしょうか?プログラマティックは自身の成功の為の犠牲となってしまうのでしょうか?私たちは多くの人材を検索からプログラマティックに引き抜いてきましたが、さすがに人材が枯渇し始めているのが現状です。多くの企業が新人や若手に経験を積ませ、タレントの数を増やし、コストの急上昇を防ごうとしています。私たちが考えるのと同様に、学校を出たての新人が、これらの作業について、クールな作業だと考えてくれると良いのですが。

Walled Garden(壁に囲まれた庭)もオープン性や本物のオムニチャネル購入においては問題となってきます。プログラマティックとは本来、オープンなマーケットプレイスのはずで、大小の差こそあれ、共通化された基準に基づいて繋がれています。シームレスな購買やメディアの評価、買い手と売り手の評価価値などを取り交わすことが出来るのは、このような基準が設けられているからです。Walled Gardenを受け入れ、市場のオープン性を妨げることは危険な行為です。これらの行動に対抗するには、これらのベンダーに対して出来る限り取引価格を引き下げることしかありません。

―1年前に、アジアにおけるプログラマティック人材の不足について述べておられました。現在において変化はあるでしょうか?

現在も同じ問題を抱えているように感じます。しかしながら2015年と比較すると問題は改善し、解決への道筋が見えたのではないかと感じています。最初のステップとしてはコアとなるチームが形成されることです。2015年は多くの進歩がありました。The Trade Deskではコアチームの拡充を予定しておりますし、他の企業も同様のことを考えていると思います。私たちはシニアメンバーの採用も行っていますが、より多くのエントリーレベルの人材を探しています。私たちの組織の人間が新たなメンバーにとっての「コーチ兼プレイヤー」として接する形に変化してきています。この方法で、私たちは社内の人材を増やし、将来のクライアントからのニーズに応え、チームの規模を大きくしながらコストを抑制することができています。

―APACの広告主がプログラマティックに関して正しく行っていないのはどのような点でしょうか?

アドネットワークモデルから、変化を遂げていない広告主が未だに多くいます。エージェンシーは既にプログラマティックに移行しているのに、クライアントを説得することが出来ていません。彼らはプログラマティックを残り物のインベントリーの集合体と考え、購入を見送るか、購入しても非常に少ない量だけに留まっています。これらの考え方や信念は明らかに時代遅れなのですが、いくつかのクライアントは変化に対応するのに時間を必要とするでしょう。

これらの問題によって、広告主がCPCの様な時代遅れのモデルを欲していることが明らかになります。クリックの重要性を重視しすぎて、例えばCPAの様な他のモデルを軽視する傾向が、毎年減り続けているとはいえ、引き続き見られます。

また、クライアントの中にはキャンペーンの成功を確定させるために、サイトにタグを埋め込む行為などを嫌がる人たちもいます。こういったクライアントは今後減ってくるとは思いますが。

ベンダー側では、多くの企業が非常に狭い範囲でものを考え、チャネルや地域に限定されているように感じます。私は個人的には、将来的にすべての広告が売り手側から独立した一つのプラットフォームによって、全てのチャネルやマーケットに関してプログラマティックでの購入が行われるようになると信じています。これが私たちがThe Trade Deskでの業務を通じて成し遂げたいことです。

―現状のプログラマティック業界に足りないものは何でしょうか?

教育はやはり必須です。透明性の向上や、効果検証における標準化なども改善の余地が必要な分野です。透明性は大きく改善が必要な要素で、エージェンシーとクライアントの間だけでなく、業界がイニシアティブを持って解決すべき点です。マーケットが透明性を保持するためには、売り手と買い手が明確に分かれている必要があります。これによって、明確な利害の対立を避け、売り手と買い手の両方にとって取引で得るべき本当の価格の提供機会を与えることに繋がります。

この様な変化を通じて、一般的な取引習慣が改善され、PMPやRTBが広告を変化させ、全体的な購入が進み、標準化された効果検証が行われるといった様な、新たなクリエイティブ管理の仕組みが促進されます。

―これらの問題を解決するために、トレーディングデスクモデルが変化すべきはどのような点でしょうか?

2015年に、トレーディングデスクはプログラマティックモデルのコンセプトの標準化と浸透といった点で大きな役割を果たし、新たな業務の構築を果たすことが出来ました。今後は、よりクライアントを教育し、いくつかの企業が現状のメディア購入からよりプログラマティックの利用に移行する様な働きかけを行っていきます。

―2016年のAPACにおける成長モデルはどのようなものでしょうか?

The Trade Deskはエージェンジーとのみ取引を行っていますので、私たちの成長戦略はエージェンシーの展開戦略と大いに関連しています。とはいえ、私たちのディレクションは、よりサービスに深みとソリューションを加えていくことです。

私たちはビジネス取引のある多くの顧客に対しての責任があり、クライアントサービスとトレーディングの両方においてその関与を深めています。このアプローチにより市場をより深堀していく必要が生まれます。私たちはクライアントからの要求をよりサポートしていくために、オフィスの数も増やしていきます。しかしながら、オフィスの数やスタッフの数を増やすだけでは十分ではありません。私たちはよりクライアントが必要とする問題を商業的にも地理的にもサポートする為に、言語や文化の面でのサポートも拡充させていきます。

2016年には、エージェンシーのサポート、透明度の拡充、オムニチャネルのサポートを倍増させていく予定です。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。