マイクロアドトップが語る、アジアでの成功と、広告を超えて見据える国内の今後 [インタビュー]
国内最大手の広告プラットフォーム「MicroAd BLADE」を運営するマイクロアドを率いるトップは、今どこに向かって走ろうとしているのか?好調の海外事業の現状や、国内事業の今後の展望について、同社代表取締役社長 渡辺健太郎氏に聞いた。
(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)
国内と異なる広告主層と商品ラインナップ、販売好調はブランド広告主向け動画広告!?
―貴社の海外事業の現状について、お教えください。
海外比率は2割くらいです。その内訳は、直近は変動が大きく時期により異なりますが、年間を通すと、おおむね中華圏と東南アジアで半々くらいの比率です。最近は東南アジアの売上がかなり伸びています。ですので、直近では東南アジアの比率がより大きくなりつつあります。国として伸びているのはベトナムとインドネシアです。
―東南アジアでの業績が現在好調な要因はどこにあるのでしょうか?
一番のポイントは面を押さえているというところです。ここでいう面とは、エリアのことです。東南アジアのクライアント様は、国単位というよりは、東南アジア全体でマーケティングしたいというニーズが強くあります。またそのようなニーズのほうが、予算規模も大きくなります。しかし、域内全体で面をしっかりと押さえている会社は少ないのが現状です。当社は、このようなニーズに応えられる体制が出来たというところが、現在東南アジアでの好調な業績を得ている一番大きな理由です。
―貴社は、東南アジアでは2011年にインドネシアに拠点を開設されたのが初めてだそうですが、そのときなぜインドネシアを最初の拠点に選ばれたのでしょうか?各社さん最初はシンガポールに拠点を作られるケースが多いですが。
インドネシアに拠点を出したのは、偶然のことでした。たまたま現地に行く機会があり、そこできっかけを作りました。事前にリサーチをしてから展開するということではなかったです。
―インドネシアの次に展開されたのがベトナムですが、こちらも同様でしょうか?
展開先の基本的な優先順位としては、人口が多い国を攻めていくという考えはありましたね。当社は、中国やインドにも進出しています。やはりそこはマーケットのポテンシャルというところを重視しております。ですが、国ごとの細かな展開順序には、深い意味はありません。タイミングであったり、縁であったりということです。
―国や地域により色々なことがあるのではないかと思いますが、各国で展開してきて強く印象に残っていること、苦労したことなどはありますか?
中国は、やはり法律面ですね。ライセンスの取得が非常に大変です。これをクリアすることがまずは大きな障壁になります。実際にはライセンスを取得できない会社も結構多いと聞きます。
東南アジアもやっぱり国により法律や規制も違いますが、そこはそれに合わせてやっていくということに尽きます。ですが、東南アジアの場合は比較的各国の文化も共通点が多く、マーケットもある意味においては、東南アジアという一つのマーケットとして捉えられる部分があります。ですので、1カ国に展開したのちには、そのノウハウをもとに他の国に展開しやすいです。
しかし中国の場合は、そこから外に出る、あるいは中に入るときの壁があります。中国で使えるノウハウは、中国だけのものであるという感はあります。韓国もまた、マーケットは独自なところがありますね。人の採用に関しては、もちろんそれぞれの国・地域ならではの苦労は当然あるとは思います。ですが、当社は、現地の優秀な人間をかなり採用できていると自負しています。そこは事業を成功させてきた秘訣の一つです。
―海外の各国や地域で、好調なプロダクトは違うのでしょうか?またプロダクトは同じでも打ち出し方を変えておられるということはあるのでしょうか?
そうですね。中国では、比較的インバウンドの領域が強く、MicroAd BLADE以外のサービスが相対的に伸びています。一方で、東南アジアでは現地企業との提携事業で動画広告の販売が伸びていたりします。各国や地域で、ニーズに合わせてプロダクトをうまく組み合わせています。全く日本と同じものを同じように販売しているということはしていません。
―東南アジアでは、Ambient Digital社と提携していますが、これについて詳しくお聞かせください。
Ambient Digital社とは、合弁会社をつくり現地で事業を展開しています。もともとは、ベトナムでのパートナーという前提でパートナーシップを組ませていただきました。同社はアドネットワークを運営しており、ベトナムで保有する広告在庫以外にも、同社が展開しているフィリピンやタイの広告在庫と、当社のMicroAd BLADEとを接続することにより提携地域を広げました。現状では、当社単独でも、これらの地域で十分な広告在庫を確保できるようにはなりました。インドネシアでも提携をしておりますが、こちらは広告会社ではなく、投資会社です。
―海外での提携先探しは、どのようにしているのでしょうか?
当社の場合、コンサルティング会社などの仲介会社を一切介在させず、直接行うのが基本的なスタンスです。ですので、直接独自に開拓をしています。自社で調べたりして、実際お会いしたいと思ったところに直接話をしに行きます。提携したいなと思うところだけにオファーしますね。
―海外で展開してきて、各国・地域で当時課題に感じたことで、印象的なことがあればお聞かせください。
中国の場合は、外資系企業と内資系企業とでは商習慣が全く異なります。やはり内資系企業としっかりと取引をしていくのは結構壁があります。
東南アジアは、国にもよります。例えばフィリピンの場合は、東南アジア唯一のカトリック国で、かつラテン系のような気質の国民性があり、日本とは異なるマネージメントの仕方や分業体制が求められます。恐らくどの国もそうでしょうが、イスラム教国であれば、ラマダンの月には、ビジネスのスピードが少しゆっくりとなります。当たり前のことですが。(笑)
ベトナムのような社会主義国の場合は、私たちの業界でいいますと、会社の設立に時間を要すことや、手続きのためのペーパーワークが多いというようなことがあります。
―日本と東南アジアの国では、クライアントの業種の構成比などは、違うのでしょうか?
はい、違います。日本ではダイレクトレスポンス系のクライアントが多いですが、この地域ではブランド系のクライアントの比率が多いです。ですので、プロダクトも動画広告が伸びている状況です。
東南アジアは、消費そのものが伸びており、日本のような成熟した環境とはそもそも異なります。ユーザーは、まだまだ高度成長期ならではの「欲しいもの」も沢山あります。ブランディングが必要なフェイズなのです。成熟した環境でパフォーマンスを追及するという日本の状況とは、やはり少し異なります。
―FacebookやGoogleのシェアが高く、競争環境も激しい東南アジアで、貴社が今注力しているのは、どのようなことでしょうか?
直近では、同地域をしっかりと面で押さえていることに関する営業、顧客サポート体制の強化がメインです。サービスという意味での差別化、独自性というのは、今後の取り組みになってきます。
―東南アジアの地域で、今特に意識されている企業があれば、お聞かせください。
特にはないです。
―今後中長期的に海外の売上比率はどのようになっていくでしょうか?
5年以内には50%を超えていくのではないかと思います。これは目標というよりは実際にそうなると思います。伸びているアジア地域と、成熟する日本とを比較すると、そのような流れが背景にもありますので、われわれがしっかりと取り組めたらそうなるでしょう。
先を見据えた国内事業、目指すは“脱広告”
―貴社は売上の海外比率を今後も高めていかれる戦略と聞いていますが、国内に関しては今後どのような構想を描かれているのでしょうか。
国内では、広告というものにとらわれない、データ関連の事業に力を入れていきたいと考えています。現在当社は広告を対象にデータビジネスをしています。今後は、データに力を入れていきたいと思っており、やっぱり広告だけを対象にしていると、先が見えているのではないかと。日本はもう成熟してきており、広告枠とかそういうところだけで考えるとすでに頭打ちになってきています。ですので、新しいメディアとか新しい枠みたいなものを待っていても、多分どんどん鈍化していくと思うのです。データビジネスが今まで出来ていないことをやれるような領域に入っていかなければ、今後成長を続けるのは結構厳しいのかなと思っております。ですので、そこはかなり力を入れてやろうと思っております。
例えば、店舗開発で新しい業態の飲食店を作るのに最適なエリアを特定するサービスなど、未来を予測できるようなデータの使い方を考えております。今までは、過去の履歴を踏まえて過去こうした人に広告出す・・というような世界でした。今後未来予測にフォーカスしていくと、ビジネスの可能性の幅も大きく広がります。マーケティングや広告というような領域を越えたようなソリューションを、少し意識してイメージしています。
―将来貴社から、広告会社という形容詞は外れるかもしれないということですね。
はい、そうですね。やはり、広告という枠組みよりも、テクノロジーの進化のほうが早いと思っています。5年後の東京オリンピックが開催されるときには、テレビはあるかもしれないですが、10年後はさすがにほとんどの人が見ていないのではないかと、なんとなく思うのです。
では、その頃はパソコンやスマートフォンなのかというと、それも結構怪しいと思うのです。
だから一つの枠に依存するようなものを、長い期間キープすることは、できないのではないかと思っているのです。そうすると、枠ありきでマーケティングを考えて、何かを開発していくということは、勿論短期的には続くのでしょうが、やはりどこかでなくなるのかなとは思っています。ですので、このあたりはしっかりと見据えていきたいです。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。