セカンドパーティデータは二流ではない
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
昨年は、ファーストパーティデータがマーケティング戦略のカンファレンスで非常に注目を集めた年であった。一方セカンドパーティデータはこれまではその陰に隠れてしまっているようだ。
ExchangeWireはownerIQのCMO Steve Ustaris氏と、セカンドパーティデータの人気の高まりと大手ブランドが、どのように売上増大のため、データ連携活動を行っているのかについて独占インタビューを行った。
ファーストパーティデータは例えばニュースレターやセールスなどの消費者のエンゲージメントを通じて得られるデータなので、獲得したブランドにとっては非常に使い勝手のあるものである。その為、ファーストパーティデータを利用したマーケティング活動は、上手に運用された場合、ターゲットを捉えたキャンペーンやセールス活動を行うことが出来る。
ファーストパーティデータは、ブランドやパブリッシャーによって所有される。データはユーザーからブランド及びパブリッシャーが直接収集する。
・セカンドパーティデータ
セカンドパーティデータは、他のブランドやパブリッシャーから売買可能なファーストパーティデータの事である。マーケターやパブリッシャーは自身のファーストパーティデータに欠けているデータを、それを有する企業に直接アプローチして入手する。
・サードパーティデータ
サードパーティデータは、データ収集を専門にするベンダーが、様々なデータソースから収集し、パブリッシャーやブランドに対してキャンペーンやデータベースの増大の為に販売されるデータである。
ファーストパーティデータの問題点は、十分な数がなく、多くの顧客や売上データを集めることが容易でない点にある。
今まで、データ量に関する問題は、Oracle BlueKaiやExperianなどが提供する「ラグジュアリー自動車の購入検討者」などの、パッケージ化されたサードパーティデータを購入することにより解決されていた。
これで、データの量の問題は解決する。だが、サードパーティデータはファーストパーティデータと比較するとデータの適正に問題がある。第一に、データサプライヤーはこのデータをどこで入手したのか、、どのようにセグメントを生成したのかなどの情報を明らかにしていない。それ故、サードパーティデータを利用するマーケティングキャンペーンはファーストパーティを利用する場合と比較して効果的でないことが多い。
セカンドパーティデータにより、マーケッターは最も適当だと思われるデータソースを選択することが可能になる。DMPにオーディエンスの提供を依頼するのではなく、自身のファーストパーティデータに欠けているデータを、直接それを所有していると思われる企業にコンタクトし、パートナーシップを組んでデータを共有するのである。
eMarketerは北米のシニアレベルのマーケターが、ファーストパーティを最も有効なデータとする一方で、セカンドパーティを次に重要と考えているというデータを発表した。しかしながら、8%の回答者が、サードパーティデータが最も顧客のインサイトを提供している、と回答しているのも見逃すわけにはいかない。
※グラフに記載された英文の訳
・タイトル:北米のシニアマーケターによるファースト・セカンド・サードパーティデータの利用に関して(2015年6月実施)
・各棒グラフの上部に記載されている項目(最上部グラフから順に)
顧客への最も有益なインサイト
利用に当たって、財務的な説明が立ちやすいもの
顧客生涯価値(LTV)の上昇に役立つもの
データソースとして最も利用が増えているもの
・注釈(Note):n=219, *信頼のおけるパートナーにより共有されたファーストパーティデータ(例:航空会社やクレジットカード会社等が提携し、お互いの顧客データの補完を行う場合など)
・データソース(Source):Econsultancy。「ファーストパーティデータの展望について」Signal社と共同実施。2015年6月23日
セカンドパーティデータの考え方は既存の関係性からデータの共有に至った様なケースでは非常に有効になってきている。例えば、小売業者と製造業はよくマーケティングアセットの共有を行っている。マーケティングにおける関係性がすでに出来上がっている場合は、それぞれの目的への相互理解も深まっている。ブランドが小売業者を通じて売上を向上させたいという共通の目的がある場合、マーケティングの目標達成のためにデータを共有するのは理にかなった行動である。
このことにより、データへのダイレクトアクセスをするという考え方が始まった。
ウォールマートやAmazonはマーケティング活動やセールスの為にサプライヤーにデータを共有する小売業者としての事例である。彼らはデータを販売しており、売上の向上に加えてさらなる収益を得ることが出来る。ウォールマートやAmazon等の小売業者とブランドパートナーが、消費者保護を行いながらデータ提携におけるパートナー締結が行えることを示すことで、セカンドパーティのマーケットプレイスはいよいよ注目を集めつつある。
現在起こっている面白い事象として、いくつかのビジネスにおいては、サプライヤーとの提携によるオーディエンスデータの活用以外にも、データアセットの収益化が進んでいることが挙げられる。彼らは他の広告主にもデータアクセスを提供している。このビジネスの収益性は非常に高く、ブランドがサプライヤーでない場合でも、自社と競合しない場合には、データを販売してお金を稼ぐことが出来る。このような戦略は収益性へのプレッシャーが強いビジネスにおいては一般的だ。
この(小売業者の)戦略は、広告主にとり大変歓迎すべきことだ。サートパーティデータと異なり、データの出所が明らかであり、キャンペーンがターゲットとしている対象を知ることが出来る。これは、データを売る側・買う側の両方にとっての収益機会となる。
オンライン広告業界は、大抵の場合セカンドパーティデータの利用を自主規制ルールに基づいて活用している。当初の反対意見は、広告主が自らの責任と適切な処理によってデータを利用している点が証明されるに連れて、無くなりつつある。また、業界が消費者に対してセカンドパーティデータの活用が、データの適切な利用であることを消費者に伝えていくことで、消費者も現在のデータ運用基準に満足しているようだ。
ownerIQの研究レポートによると、LGは過去12ヶ月において、共同ブランドキャンペーンによって100万ドルもの収益を得た模様である。
この記事を読んで、これはサードパーティデータの終わりの始まりではないかと考える人もいるかもしれない。セカンドパーティデータがより利用されるようになるとサードパーティデータが無くなっていくのは自然な考えである。ただしどの程度だろうか?
もしセカンドパーティデータを販売する案が活発になれば、メディアプランナーやバイヤーはデータへのダイレクトアクセスを購入する新しい方法を考えなくてはならない。このとき、いくつかのデータプロバイダーはこの金銭取引ではなく、データを他の方法で価値化することを望むことも考えられるため、今までと交渉の方法を変える必要に迫られる。
しかしながら、サードパーティデータが常にファーストやセカンドパーティデータよりも勝っているのは、そのスケールである。したがって、ファースト・サードパーティデータに頼る状況が、ファースト・セカンドパーティデータに置き換わるのは数年ほどの時間が必要であろう。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。