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DSP、SSPを「インテリジェント」に展開する動画広告プラットフォームUnrulyの日本参入戦略 [インタビュー]

日本でも拡大が見込まれている動画広告市場には、海外勢も多数参入を見込んでいる。そのうちの1社、UnrulyはDSPだけでなく自社でSSPも持っていることが特徴。ソーシャルでどのくらい拡散するかなども予測でき、ただ広告を配信するだけのインフラとは一線画したインテリジェンス、ShareRankが売りだ。同社共同CEOのScott Button氏に、サービスの概要や特徴、日本市場参入の展望を聞いた。

(聞き手: ExchangeWire Japan 野下 智之)

インテリジェンス先行型動画広告配信プラットフォームUnrulyの歴史

―まず、ご経歴をお聞かせください。

Scott Button氏

Scott Butto氏

私は共同創業者の1人、そして共同CEOの1人です。以前はマーケティングテクノロジーの会社を経営していました。ダイナミックなクリエイティブのオプティマイゼーションを行っていました。大変な初期段階のものですけどもね。

クリエイティブのダイナミックオプティマイゼーションなんて呼び名もない時でしたが、プロダクトフィードとかコンテクスチャルとかそういうものです。そのCEOを2~3年務めました。共同CEOの1人でCTOでもあるマッド・クックとはその当時からの付き合いです。こうした経験を入れると、長年アドテックに携わってきました。活動の拠点は、ロンドンか、飛行機の上かです。(笑)

―Unrulyをスタートされた背景についてお聞かせください。

2006年の前半、ウェブは動画の媒体になると予測しました。ウェブはソーシャルの媒体にもなると予測もしました。ブランドのソーシャルな局面を、広告主はますますコントロールしにくくなり、コミュニケーションは、広告主からユーザーへのワンウェイではなく、インタラクティブになり、そしてオーディエンスからもの申すことができる世の中になると当時予測したのです。

そこでまず、バイラル動画チャートという独自のウェブサイトを開発し、ソーシャルシェアリングのデータをそこに入れていきました。そして動画コンテンツがどうなっていくか、トレンドを発見するためのコンテンツを見せていきました。その結果、UUが100万くらいの規模になりました。その後より多くのユーザーに使ってもらうべく、他のウェブサイトに提供するアグリケ―ション型の展開をして動画アドネットワークを始めました。

そして、2年ほど前にプログラマティックの領域へと移行しました。今はアドネットワークというクローズドという環境から、完全にRTBによるオープンスタンダードな形になり、DSPの他にもSSPも持っています。

―バイイングの運用は貴社がするということですか?

まあ内部的にはそうです。というのは、そういうサービスを自前でやるエージェンシーは、欧米のマーケットも含めてまだ少ないのです。

―トレーディングデスクの機能も持たれているということになるのでしょうか?

その通りです。お客様が、ケイパビリティをお持ちであればセルフサービスでできるわけですよね。そうすると独自DSP使っていただくことになると思いますが、外部DSP業者になろうということではありません。内部で我々がDSPを使っているということです。つまり、キャンペーンマネージャーがマネージドキャンペーンを予約するために使っているDSP、それを内部で持っているのです。外部に向けてサービスの一環とするつもりではないのです。

―エージェンシーが運用することはないのですか?

在庫にはアクセスしていただけますが、SSP経由でです。セルフサービスのDSPであればDBM(DoubleClick Bid Manager)や、MediaMathなど、色々なサービスがありますので、これらのサービスからアクセスいただくことになります。

―ShareRankの提供先については、いかがですか?

ShareRankのツールを提供する対象は主にエージェンシーですが、広告主の皆さまにご提供することもあります。パブリッシャーはないです。

日本の動画広告普及のカタリストとなり市場拡大に貢献

―日本のマーケットに参入された背景を教えて下さい。

Scott Button氏実は今回が初参入ではなく、これまでしばらくの間、日本で活動していました。といいますのは、グローバル広告主に連れられて、彼らの日本での仕事をお手伝いしたことがあるのです。日本と初めて関わったのはこの時です。

当社が今回リリースした「本格参入」という内容は、日本に拠点を開き、人を配置したことがポイントです。

日本のエージェンシー、そのグループ会社とこれからパートナーシップを構築したいし、現地メディアとの関係も構築したいです。

日本市場には、実は非常に大きな成長機会があると確信しています。メディアの消費動態と広告支出とには、まだ大きなギャップがありますが、このギャップは必ずなくなるということは分かっています。しかし伝統的なメディアからの支出のシフトがなければ、そのギャップはなかなか生まれません。私たちはそのカタリストとなれる、そのシフトを加速できると思っています。

日本に本格参入するかの意思決定をする際に独自に入手したコンサルティング会社の資料には、日本のオンライン動画マーケティング成長のボトルネックの一つは「アクティブデータにたいするエビデンスやメトリクスがなく、KPIが不足していることが問題だ。」という結果がありました。伝統メディアの効果測定については、さすがにエージェンシーは山ほど経験がある。しかしデジタル広告の測定方法が分からなく、KPIも少ない。投資はいいけどリスクがある、効果をどうやって測るのであろうというところで、どうしても二の足を踏んでしまうとレポートにありました。

ですが、Unrulyのアプローチは非常にデータドリブンです。データを見るとその動画に対するエンゲージメントレベル及び、その結果どうなるかという予測までできるようになっています。そのため実際にキャンペーンを走らせてメディアに投資してしまう前に、ある程度効果を測定して予測できます。そうすると不確実性を提言できます。それがあると業界も、デジタルへのシフトを安心してしやすくなると思います。

―貴社の強みについてお聞かせください。

大きな質問ですね。まず1つ目は、スケールが充分あるということ。今はもう世界で15~16か国くらいで展開しているので、グローバルパートナーと呼んでいただけると思っています。

2つ目は、デジタル戦略の中でもコンテンツマーケティング強化に戦略を変更している広告主が多いと思います。例えばテレビ広告を単に動画に、あるいはオンラインにシフトするだけではこと足りません。動画ネットワークだってSSPだって山ほどありますので。だからそれだけではなく、実際のコンテンツマーケティングをどうするかに頭を悩ませており、そこでUnrulyを使っていただいています。

広告主からは、提供できるデータの質が良い、専門性が一番高い、動画プロモーションのプロセス全体でお手伝いが出来る点などを、評価されています。メディアを買うだけでなく戦略立案、アイデアを生み出す施策プロセスにおいても我々を使っていただけるのです。また、それぞれのキャンペーンがなぜうまくいかないのか、なぜうまくいくかの理由も説明出来ることも、重宝いただいています。

―他のDSPやSSPとの差別化のポイントはどこにありますか。

ただ単にDSP、SSP、エクスチェンジもただ単に機能というのは、インフラにすぎません。インフラはあるけれどインテリジェンスがありません。コンテンツを吟味するというクリエイティビティーがインフラにはないのです。Unrulyはそれを提供します。

我々は、ネイティブ、ビデオ、モバイルの3つの領域をカバーしています。これも差別化出来ている特徴です。モバイルは、他社でも対応していますが、我々はその真ん中のスイートスポットで活動しています。こういった領域の中でも、もっとも先進的なトレンドを集約した中で我々は活動しています。

Unrulyは安全性という観点でも優れています。私たちのビジョンは広告をよりよくしたいということ。広告のコントロール権を持つのはユーザーであるべきであるとか、そういう具体的なビジョンを持っています。また、コンテンツのエンゲージメントレベルを高めるべきという思想や、ソーシャルでなければいけないというような広告は、こうあるべきという原則を、創業当時から大切にしていいます。そうしないとユーザーはアドブロックを入れてしまいます。だからブロックされないようにするのです。

―欧米の大手広告主のオンラインビデオ広告に対する理解の現状をお聞かせください。

広告主がオンライン動画を単なるリーチの追加として、扱わなくなってきています。オンライン動画の視聴態度は、テレビとは違い、より能動的であると言われており、またエンゲージメントが高いと言われています。

CMOの皆さんと話すと、単にテレビの広告配分をオンライン動画広告にシフトしただけで仕事が済んだとは、思ってはいけないことを分かっています。しかし一部には、なんとなくデジタルシフトすればいいと思っている人もいます。

―日本のプログラマティック動画市場は英国と比べた場合、今後たどる方向性における共通点と相違点を教えて下さい。

一番大きな違いはスケールです。日本の広告市場のトータルはかなり大きい。ですがその中でデジタルの動画比率を見ると動画だけ逆転しています。デジタルと、デジタル動画の支出が極端に変わっていて、デジタルにはこれだけ支出しているのにどうして動画がこんなに少ないのだろう?..ということです。

2015年に、ケーブルテレビや衛星放送が地上波に対して強い英国では、デジタル広告支出がテレビ広告と逆転しました。これは大きな変化です。

日本のテレビ広告は、その商流も含め非常に力を持っています。これは、実はドイツの状況に似ています。ドイツは、プログラマティック動画の普及が非常に遅かったです。ですが、そこが徐々に変わりつつあります。

ドイツのみならず、日本も急激に変わりつつあるということです。日本のオンライン動画の市場は2018年に10億USドルの市場規模になると言われていますが、それでもテレビに比べれば小さいのです。でも成長曲線が鋭く、私は非常に興味を持っています。

日本の動画広告市場拡大への貢献、まずは日本でのサポート体制の拡充に向けた組織作りから

―プログラマティックで買い付け可能な動画在庫が不足しているともいわれています。日本で6~7割のシェアを持つYouTubeの在庫が、2016年以降プログラマティックで買い付けできなくなります。貴社のビジネスのボトルネックにはならないのでしょうか?

Scott Button氏動画広告は、小さいプラットフォームをいくつか見るといわゆるブランドが安全に感じるプレロールは存在していると思います。また、動画広告には、インストリームだけでなくアウトストリームもあります。

非常にスケーラブルなところで、今後広告主にとってアウトストリームは非常に興味を持っていただけると思います。

おっしゃる通り、動画広告の在庫が少ないことは課題です。日本のパブリッシャーと協力をしてアウトストリームの販売機会を増やしたいと考えています。

そしてスケールを持った形で提供できるようになればリーチが増えると思いますし、いわゆるオープンウェブのアウトストリームの機会をとらえることができる。これによりスケーラブルな形で提供できると思います。

―プログラマティック動画は、欧米のほうが日本と比べて進んでいる印象がありますが、欧米のビデオマーケットで課題になっているのはどんなことでしょうか。

アドブロックの問題は小さくありません。もう一つは、Flashについてです。

プラグラマティック動画が、欧米ではFlashで作られていることがあります。Flashで作ると何が起きるかというと、デスクトップ向けにしかできない、モバイルにできないということになります。

多くのベンダーやプラットフォームの皆さんが、ブランドセーフティーやブランドメジャーメントツールなどを作りますが、全てFlashで組み込まれておりモバイルで使えないのです。作ってしまったがモバイルで使えない、どうしよう、ということになります。現在大抵のパブリッシャーのトラフィックはモバイルに移行してしまっているにもかかわらずです。

当社では、以前よりHTML5で全て取り組んでおりましたので、問題はありません。

―日本における今後の展開について教えて下さい。

まずは、日本での組織作りです。営業人員を配備し、パブリッシャーとの関係を構築するための、統括マネージャーを採用する予定です。中期的には、広告の運用を提供したいと考えています。また、そのためのマネージャーも採用したいです。今までは、日本の活動はシンガポールを拠点に行ってきましたが、人員を配置して同じサポートを日本で行う予定です。

もう一つ重要なのは、日本におけるデータプロバイダーとの連携です。この市場でターゲティングの精度を上げていきます。そのためには、ユーザーの年齢や性別に関して精度の高いデータを持つ企業との提携をしたいと考えております。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。