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良いことは大抵ハッキングから始まる。OpenX CEOのTim Cadoganとのヘッダー入札に関するQ&A

数年前に技術の領域をこじ開けて以来、ヘッダー入札は盛り上がりを見せ続け、小さなパブリッシャーが在庫に関してより多くの競争を呼び込むことで収益を伸ばしてきた。

ExchangeWireとのインタビューで、OpenX社のCEOのTim Cadogan氏はヘッダー入札は2016年も進化を続け、収益及び業界を超えたイノベーションの両面で飛躍的な成長を見せるだろうとの考えを示した。

―ExchangeWire: ヘッダー入札の成長と在庫収益化に関しては2015年の大きなトレンドでした。より多くの需要をパブリックアドサーバーに送り出す以外に、どのようにヘッダー入札が発展を続けると考えていますか?

Tim Cadogan氏: 大概の良いことはハッキングから始まります。ヘッダー入札のように何か新たなものが発見された時には、それが現実化されていきます。バイヤーにパブリッシャー在庫を100%見せ、静的な価格でなく、全てのインプレッション毎にダイナミックな競争を持ち込むことで、ヘッダー入札は加速を続け、他の一般的な技術とは一線を画したものとなるでしょう。プライベートマーケットプレースとプログラマティックの直接取引からのデマンドはヘッダー入札を通じて導入され、DFP(DoubleClick for Publisher)のより価値の高いインプレッションと競合するものになるでしょう。また、この技術はモバイルやビデオにも活用できます。

―パブリッシャーは全ての種類の広告インベントリーを管理するのに、どの様に専門性とリソースを高めていくのでしょうか?

非常に重要な点です。パブリッシャーは新たな世代のプログラマティックのエクスパートを中心に、収益オペレーションチームにより投資を行っています。自分たちのチームを立ち上げるのと合わせ、パブリッシャーは自分達のプラットフォーム提携先の専門知識をうまく活用しています。主要なパブリッシャー向けプラットフォームでは数百ものパブリッシャーとやりとりをした経験があり、様々な事例や、単一のパブリッシャーでは得ることのできない非常に貴重な知見を得られます。

―パブリッシャーは伝統的なセールスチャネルと収益最適化(イールドマネジメント)とをどのように融合させて、どのように収益戦略を作っているのでしょうか?

最初に、直接取引やエージェンシーのバイヤー向けの在庫、アドエクスチェンジや非直接的なバイヤーを通じて販売される在庫等の垣根を取り払うことで、パブリッシャーはいつ、どのような頻度及び価格で、直接取引の前に非直接的なバイヤーに提供するかの決定をします。これらの決定によって、パブリッシャーは個別のインプレッションについて最も高いCPMを得て、全ての在庫を通じて最も高い収益を挙げることができます。

次に、オープンオークションよりも上にある、エクスチェンジデマンドのレイヤーでは、パブリッシャーはよりターゲットティングされたテクノロジーを利用し、広告主に直接インベントリーを販売することができます。その為パブリッシャーは、インベントリーをいくつかの大きなバルクにして従来型の取引をする代わりに、今までよりもずっと小規模の、時にはインプレッション毎の取引も含むような小さな単位でインベントリーを販売し、収益最大化を図ることを、考えるようになっています。より詳細なセグメントや個別インプレッションをターゲティングすることで、広告主は不必要なオーディエンスにリーチすることなく、機密性を保持しながらも積極的に入札に参加することが出来ます。

ある意味、全体的な収益戦略を構築することはパブリッシャーにとってより簡単な作業になっています。セールスチャネルが統合され、ターゲティング機能が改善したことで、パブリッシャーは一度の大きなオークションにより、より多くのバイヤーにインベントリーを提供することが出来ます。ヘッダー入札の登場はこのような集約化の非常に良い例であるといえます。

―オープンもしくはクローズドな最適化戦略について議論させてください。このことは全体的な収益の最適化計画にどの様に影響を与えるのでしょうか?

Tim Cadogan氏

オープンエクスチェンジかプレイベートマーケットプレースのどちらかを選ぶのではなく、スマートなパブリッシャーはそれぞれのビジネスニーズに合ったハイブリッドの最適化戦略をとっています。これらの戦略に必要とされるのが、競争とコントロールの間の絶妙なバランスを見つけることや、サイト、アプリ、インベントリーセグメント及びオーディエンスを通じたバランスの管理になります。

コントロールすることでどのようなインパクトが競争に与えられるかを知ることで、パブリッシャーは全てのインベントリータイプに応じた最適な結果を導くことが出来ます。言い換えると、私たちがOpenXにおいて1000を超えるパブリッシャーの顧客を通じ、目にして分かったことは、全体収益の最適化とは、一般的にはより多くの収益オペレーションチームが開設されて競争が促進されることにより、短期的な視点だけでなく、それよりも重要な、長期的においてもより良いビジネスの結果を導くことが出来るという点です。

―収益オペレーションの改善について、及び、どうしてデータに焦点を当てたアプローチがパブリッシャーの広告収益管理の根本となり得るのかについて議論しましょう。現在までどのような発展を見せ、今後どのように進化をするとお考えでしょうか?

収益オペレーションチームはどんなパブリッシャーであっても、最も優秀な人たちが集まっているチームです。彼らは強力な分析能力と深い技術への理解の両方を持ち合わせ、商業的な嗅覚を兼ね備えています。伝統的な営業チームがより高付加価値な取引を目指して以来、広告オペレーションチームの主要な機能は昔からあるトラフィックの処理作業から収益の最大化に変化しています。この変化により、より責任を負い、広いスコープで収益によりつながるような取り組みが必要とされます。

プログラマティック広告の現段階では、パブリッシャーが全てのインベントリーを売り切る方法は一つではありません。収益を最大化する上で、最も効果的なアプローチを決定するために、パブリッシャーは様々なバイイングモデル、広告フォーマット及び異なる環境でそれらがどのように作用するかを理解する必要があります。

根本的な収益戦略を決定し、実行するにあたり、パブリッシャーの収益オペレーションチームがしなければならないことの一つは、アドテクプロバイダー戦略を確立することです。正しいパートナーを選択することが収益オペレーションのプロフェッショナルにとり、必須事項となりつつあります。プログラマティック広告の流動的な環境を正しく理解し、パブリッシャーにとって最大の経済的な価値を生み出せるようなプログラマティックのテクノロジーサプライヤーを見つけ出して、自らのパートナーとすることが、成功への鍵となります。

―自動化が進んでいる一方で、テクノロジーの上にあるサービスレイヤーがプログラマティック時代においてよりパブリッシャーにとって重要性を増すのはなぜでしょうか?

収益と品質の二つがプログラマティックのパートナー選定において最も重要な要素となり続けるでしょう。しかしながら、サービスや専門性、アドバイス、コラボレーションといった要素の欠如により、パブリッシャーのパートナーシップ選定における決定は簡単に覆ります。サービスレイヤーの重要性は明確です。と言いますのは、マクロな最適化の決定は(例えば、特定の方法でヘッダー入札を選択する場合など)ヒトが行なうからです。そして、テクノロジーはこれらの決定をミクロの部分でリアルタイムに実行する為に利用されるのです。ビジネスのルールやアルゴリズムは自然に出来るわけではなく、ヒトにより作られるのです。これらの決定における選択はクライアントの体験や効果的なプログラマティックプロダクトの礎となるものです。プログラマティックにおける提携においてこのような思慮に満ちた、能動的なアドバイスは大きな差別化となります。

―今年、パブリッシャーにとって大きなトレンドとなるものは何でしょうか?

いくつかのトレンドがあります。
ヘッダー入札は引き続き業界の収益面の成長及びイノベーションを支えるものとなるでしょう。

次に、品質へのフォーカスはより大きなものとなるでしょう。業界の主要なプレイヤーは既に(ボットとトラフィックやURLマスキング等の)トラフィック品質に関しての懸念を感じてその対策に大きな一歩を踏み出しており、投資は引き続き行われるでしょう。しかしながら、トラフィック品質はデジタル広告における品質の確保において半分の役割を担っているに過ぎません。広告品質に関する懸念が次の重要なトピックとして考えられております。混乱を巻き起こし、マルウェアに感染したような品質のひどい広告は消費者の大きな懸念となっており、この懸念がパブリッシャーにも広がっています。

新たなバイイングモデルも挙げられます。例えば、オートメイティッド・ギャランティード入札とRTBとを組み合わせて、プログラマティック・ギャランティードを作るというものです。デジタル広告取引においてより確実性を高める選択肢として、プログラマティック・ギャランティードなバイイングモデルはオートメイティッド・ギャランティードや、プライベートマーケットプレースに対しての、良い競合となり得るでしょう。

モバイルは、もちろんアプリとモバイルウェブの両方において、全プログラマティックの支出に占める割合を高めていくでしょう。業界はこのカテゴリーの収益確保における懸念であるUser IDの問題を解決する必要があります。

最後に、ビデオはより純正のプログラマティックに移行していくと考えられます。今日ビデオインベントリーの殆どはエクスチェンジというよりもアドネットワークに近いような、半プログラマティックとでも言えるような方法で取引されています。私たちは、このバランスがよりプログラマティックに移行し、市場に競争が生まれ、パブリッシャーにより収益をもたらすと考えています。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。