中国のプログラマティック動向
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
世界の他の国と同様、プログラマティックは中国市場にも進出をした。しかしながら、中国市場は細分化しており、RTBもまだ市場に浸透し始めたばかりである。
アドテク事業者のReachMax社による「中国のプログラマティックビデオに関するガイド」が2015年末現在のプログラマティックの状況をよくまとめており、プログラマティックに関してのブランド広告主の疑念についてもよく調査をしている。
過去2年にあたり、中国でのプログラマティックは驚異的な成長を見せ、EC事業者、ゲームサイト、旅行会社などパフォーマンスベースでの広告を出稿している企業は、すぐにプログラマティックによりもたらされる機会に飛びついていった。しかしながら、大手ブランド企業は新しいメディアバイイングの手法に対して懐疑的であり、広告主にコントロールの余地を残さない「ブラックボックス」とも考えられるソリューションに頼るよりも、広告配信の場所や時間を自分たちで決定できる固定価格でのソリューションを好んだ。
中国のブランド広告主がプログラマティックに懐疑的なのには4つの理由が挙げられる。
1. プログラマティックの在庫はロングテールだと見なされている
大手のブランド広告主はメディア在庫のクオリティーを何よりも重視する。彼らは自身のブランドが、ユーザーが立ち上げたチャネルに掲載されるよりは、人気のあるテレビ番組や映画が掲載されるような大手のチャネルに掲載されることを好む。そのため、プログラマティックによってもたらされる価格メリットよりも高価な価格を支払ってもブランドの安全性を確保する傾向にあるのだ。
2. 価格透明性がないと見なされている
プログラマティックのエコシステムにおいては、バイヤーやセラーだけでなく、エクスチェンジやDSP等の新たなプレイヤーが登場する。プログラマティック市場の参加者は透明性の高い価格をチャージするのに対して、中国での状況は異なっている。アドネットワークから発展したという事情もあり、多くのDSPがマークアップに注力している。ブランド広告主はプログラマティックに移行する際に、この価格透明性が失われる点に嫌悪を示している。
3. パブリッシャーとの直接的な関係の喪失(及びコントロールの欠如)
中国の大手ブランド広告主は通常メディアバイイングのために、パブリッシャーと年間契約を締結する。プログラマティックシステムでは、広告購入はDSPやアドエクスチェンジと行われるため、広告主とパブリッシャーの関係は不要になる。この事はパブリッシャーの広告在庫のクオリティーコントロールを失うことにつながると考えられている。
4. ターゲティング広告 対 シェア・オブ・ボイス
ターゲティングがブランド広告主に利点だと捉えられている一方で、彼らにとって最も重要なKPIは、特に競合と比較した際のシェア・オブ・ボイスである。ブランド広告主はターゲット広告とマス広告のバランスをとる必要性を感じており、プログラマティック広告にのみ投資をすることについては抵抗を感じている。
全てのプログラマティック広告がRTBを通じて行われる訳ではなく、non-RTBモデルの登場によって、中国の広告主はためらいながらも、プログラマティックの利用を始めているのは良いニュースであると考えられる。クオリティーコントロールを兼ねたプログラマティックモデルが、ブランド広告主から特に歓迎されるモデルである。
中国ではオンラインテレビの分野は僅かな独占的なビデオチャネルにより構成されている。パブリッシャーは広告予約の効率性よりもプレミアムクオリティーのコンテンツにより関心を示している。
一方、広告主はクオリティーの保証されたプログラマティックモデルにより、より効率的なメディアバイイングと価格及び配信先についてのコントロールを両立することが出来ると考えている。
そしてこの点が中国のプログラマティック市場が西洋のアプローチと異なるといえる。欧米の成熟市場においては自動でのメディア予約を、広告予算を効率的かつ経済的に運用できる方法と考え、プロセスを自動化させている。
これに対して、中国ではプログラマティックのプロセスを効率化させることに、より関心を持っている。例えば、メディアの重複を減らしたり、無駄なターゲットから外れた広告インプレッションを減少させたり、クロスメディアでのクリエイティブの活用の確保させることなどである。
最近のiResearchのレポートによると、中国のnon-RTBでの取引は2年以内にRTB取引に追いつくと考えられており、これは広告主がクオリティーの保証されたプログラマティックモデルを通じてプログラマティック市場に進み始めることを示唆している。この方法により、パフォーマンスベースを好まないブランド広告主も固定価格でクオリティーが保証されたインベントリを購入しながらも、プログラマティックによる新たな世界に足を踏み出すのである。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。