収益性の高いアドテクモデルの構築に取り組むエージェンシー [インタビュー]
明けましておめでとうございます、本年もExchangeWire.jpをどうぞよろしくお願いいたします。
2016年最初の記事をお届けいたします。
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
リターゲティングを提供するAdRollによると、86%のメディアエージェンシーがアドテクの成長に合わせてビジネスモデルを変更している。ExchangeWireはUKのメディア企業とアドテク企業の間の関係性や、テクノロジー企業と働くコツについてAdRoll社のEMEA地域のMD、Marius Smyth氏に独占インタビューをした。
学んだレッスンについて
当初からオンライン広告は測定可能なものだった。最初のオンラインバナーが登場した時から、インプレッションを測定することが可能であった。数年にかけて、消費者の注目がトラディショナルメディアからオンラインコンテンツに移るにつれ、広告予算も割かれるようになり、購入されたメディア予算の半分はオンラインになった。そしてこれらは測定可能なものだった。
このトレンドにより、オンライン広告のターゲティングやバイイング、測定、最適化などのテクノロジーを持つアドテク産業に注目が集まった。この産業は1年間で1200億ドル以上の価値を持つと考えられている。
アドサーバーが市場に登場した時、インプレッションベースで料金の支払いが行われていた。この費用はクライアントに提示される前に、メディアエージェンシーにより料金がマークアップ(上乗せ)されるのはよく知られている慣習であった。このマークアップはテクノロジー実装の準備や、データをレポート化する時間によってチャージされるようになっていた。
こういった流れに不透明さを感じたブランドはエージェンシーに騙されていると感じ、テクノロジーコストにマークアップは課されるべきではないと主張しはじめた。
テクノロジーを準備し、実装、管理する作業はスキルを必要とする仕事であり、多くの時間がかかるものであった。またこのようなテクノロジーは多くの分析を必要とするデータを排出する為、そのデータに基づいたキャンペーン最適化の作業の時間が必要となった。
テクノロジーによるコストのマークアップができない状況で、エージェンシーは課金可能なサービスを作り上げた。AdRollの調査によると60%のUKメディアエージェンシーがこの12カ月でアドテクのオプションサービスを開発し提供し始めた。更に37%ものメディアエージェンシーは「テクノロジー志向である」と回答し、32%が「割とテクノロジー志向である」と答えている。
Source: AdRoll
上図の日本語訳
Q:アドテクの利用について、あなたの所属するメディアエージェンシーにもっとも当てはまるのは? | |
● | 37%: 技術志向である。独自のテクノロジーソリューションを持ち、多くのテクノロジープラットフォームを利用 |
● | 32%: 割と技術志向である。いくつかのテクノロジープラットフォームを利用している |
● | 17%: テクノロジープラットフォームの利用をし始め、サービスをクライアントに提供しようとしている |
● | 7%: テクノロジープラットフォームを利用したいが時期は不明 |
● | 4%: 現在もトラディショナルな方法でのメディア購入を行いアドテクは利用していない |
● | 3%: テクノロジープラットフォームを利用する準備ができていない。自社でソリューションを開発中 |
クライアントとの関係を「所有」する為のアドテクとエージェンシーの戦い
今日、40%のUKメディアエージェンジーが、「現状のアドテクのパートナーシップにおいては利益を創出するようなモデルを構築することが難しい」と回答している。この理由の一つはアドテク企業がエージェンシーとのやり取りを避け、ブランド企業と直接の関係性を構築したがる点にある。「クライアントへのダイレクトアプローチにおける変化」が起こりつつあるとAdRollのEMEAマネージングダイレクターであるMarius Smyth氏は述べている。「ブランド企業がエージェンシーとビジネスをしている場合、そこには既に関係性がありビジネスをする必然性があります。」。
「エージェンシーは、特に広告主を獲得するという点において私たちにとって重要なパートナーです」とSmyth氏は述べ、ブランド企業、エージェンシー及びテクノロジー企業の関係は権力争いではなく3社間のパートナーとして考えられるべきだと強調した。40%がテクノロジー企業とのパートナーシップから利益を得ることが難しいと回答している点について、Smyth氏は以下のように述べた。「これには大きな理由があります。エージェンシーは、アドテクノロジーにより、クライアントに対し投資に見合った十分なリターンをして、クライアントからそれに見合った収益を得ること、そのことについてクライアントから理解を得ることが難しいということに、気づいているのです。」
「生産的なコラボレーションによって付加価値を生み出し、データを利用したソリューションによってよりクリエイティブや戦略に時間を費やせるようになった」と回答しているのは、半数を少し上回るだけの回答者(56%)に留まっている。Smyth氏は付け加える。「テクノロジーを中心としたアプローチを既に取り始めているエージェンシーもあれば、この分野での遅れを取り戻そうとしているエージェンシーもいます。これはエージェンシーが採用しているタレントを見ると明らかです」。Smyth氏は新たな採用の傾向を見るとエージェンシーがテクノロジーをどのように検討しているかのバロメーターになるとの考えを示した。「差別化を計ろうしている独立系のエージェンシーはこの分野に力を注いでおり、私たちと密接に協業しようとしてくれています」とSmyth氏は述べ、独立系のエージェンシーの方がグループ企業よりもテクノロジー志向が高いとの考えを示した。
異なるアプローチを行うエージェンシーも存在する。34%の回答者はアドテク企業を買収した、と回答した。この分野での最大規模のものは2014年9月のWPPによるテクノロジー企業AppNexusの2500万ドルでの株購入が挙げられる。このトレンドは続いており、今年(2015年6月15日)には電通イージスが小売のテクノロジー企業であるeCommeraの買収を行った。
「Welcome to the Era of Mad Tech」のレポートはこちらをクリック
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。