アドブロックをブロックしよう
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
最近、ExchangeWireは2015年の世界のアドブロックが140億ポンドという記録的損失をもたらすという予測を調査結果として取りまとめた。この結果に関して、TubeMogul社(写真の)のヨーロッパ・中東・アフリカ事業担当ディレクターであるIan Monaghan氏とExchangeWireは、マーケティング担当者がいかにこの将来性の厳しい現状から抜け出し、アドブロックがブランドのオンライン広告の売上へ及ぼす影響を最小化するかについて議論を交わした。
「アドブロック」は、デジタル広告がコンピュータやモバイル機器に表示されるのを防止するためにダウンロードしてインストールできるソフトウェアの総称である。アドブロックの技術は、ディスプレイ広告はもちろん動画広告の表示も禁止することが可能であり、オンラインサーフィンを広告なしに楽しみたいユーザー(特にミレニアル世代の男性)にとって非常に人気の高い選択肢となっている。実際、今年初めのIABのイベントで発表された調査結果によると、18歳から24歳のミレニアル世代の男性の23%もが日常的にアドブロックソフトウェアを使用しているとのことだ。
最近のアドブロックプロダクトの普及拡大は、デジタル広告の急増、そしてアドブロック技術を比較的簡単に手頃な価格で導入できることが要因となっている。ミレニアル世代の男性は他の世代の平均に比べ、最大20%ほど多くのコンテンツを消費しており、結果として画面からなんとか広告を削除しようとする。
広告主にとり幸いなことに、表示可能な動画広告数の増加はアドブロックの普及数をはるかに上回っている。最近の報告では欧米で配信される全広告の5分の1が今やウェブユーザーによって自らブロックされているとのことであるが、2015年6月までの12ヶ月間にTubeMogulのプラットフォームで表示されたインプレッション総数は同時期350%増加した。これはつまり広告をブロックするユーザー数の増加を相殺するだけの十分すぎる(ユーザー側の)需要があるということだ。我々が基本的に言いたのは、ある一定数のユーザーは失うかもしれないが全て失うことには決してならないであろうということだ。
以下のことについても考慮しておく必要がある。
大抵のアドブロック技術は、ユーザーの邪魔にならない広告体験を提供するパブリシャーのホワイトリストを備えている。具体的にいうと、デスクトップのプレロール動画広告で視聴者が視聴意志を示したコンテンツの再生前に表示される広告だ。同様に、放送局水準のコンテンツを提供する多くのプレミアムパブリシャーはアドブロックの存在を積極的に検出し、コンテンツを視聴するためにはアドブロックを無効にするように、サイトの視聴者に対して求めている。
もっとも、独自の魅力的なコンテンツを持つパブリシャーは自然とホワイトリストに登録されることになるであろう。
広告の自動的なバイイングにおいては今後、広告主側が視聴者を惹きつけることが出来るような、レリバンシーの高い広告を配信するようになることにより、最終的にはアドブロックの人気や普及は沈静化するのであろう。
アドブロックは、他のメディアにおいても既に課題となっている。これまでは、ネットにおける特別な用語が存在しなかっただけの話である。例えばプリント媒体であれば、ユーザーは広告を見たくなければページをめくってしまえばよい。テレビなら消音にするかコーヒーでも作りに席を立てばいい。誰でも広告から逃れる方法を持っている。正式な呼び名が無かっただけの話である。
モバイルWebブラウザのSafariにおいて、アドブロックソフトウェアの実行を許可するというAppleの発表はいくつかの懸念を生んでいる。だが、この心配は限定的なものであろう。
この動きは、Webブラウザ内に配信されるモバイルWeb広告に関してはある程度の影響があるかもしれない。だが、モバイル広告全体が実質的に影響を受ける可能性はシンプルな理由から考えられる。なぜなら、スマートフォンユーザーが費やす時間の88%はモバイルアプリにおいてであるからだ。
アドブロック技術は、アプリ環境では動作しないのでモバイル広告の大部分は影響を受けないはずである。
こうした状況を踏まえると、われわれのクライアントの広告支出へのアドブロックの影響は最小限になるとが確信できる。
これまで述べてきた、全てのフォーマットの有効な広告インベントリの急増は、アドブロックの普及拡大の環境下においても、広告キャンペーンの実行にあたり、重要な懸念事項とはならないことを意味している。
テレビ中心のプレミアムパブリッシャーの広告在庫を対象とするTubeMogulのプラットフォーム全体の広告費の割合は、最近数四半期でおよそ20%着実に増加している。自社ソフトウェアを通じたモバイル広告費は2015年第一四半期から第二四半期にかけて50%以上増加した。デスクトップ以外のプレロール形式(リニアTV、スマートテレビ、スマートフォン、タブレット)全体の広告費は第二四半期の我々のプラットフォームの全体広告費の約20%を占めた。これらの広告形式は急成長しているフォーマットでありながら、アドブロック技術の影響をほとんど受けていない可能性が高い。
市場の発展に伴い、ここに述べる否定し難い事実を肝に銘じておくべきだ。
つまり広告が無料コンテンツを実現するという点である。広告収入への依存に賭けているパブリシャーの何十億ドルもの金が途中で無くなり、ビジネスモデルが全滅する可能性は極めて低い。同時に、メディアバイヤーは大量の広告インベントリを利用して消費者へのリーチとマーケティング目標の推進を継続するであろう。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。