伝統的なバナー広告が効果を失うに連れて、ネイティブ広告に踏み出しつつあるAPAC
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
従来のバナー広告が効果を失うにつれて、マーケティング担当者にとってネイティブ広告がユーザーへのリーチを高める次の手になり、またパブリッシャーにとっても広告在庫を収益化する手段となるかもしれない。この業界の論者であり、PubNative社ビジネス開発部門アジア太平洋ディレクターのDon Kim氏は、同地域でネイティブ広告の普及が徐々に拡大を見せていると述べている。
アジア太平洋地域全体で、ネイティブ広告が意味のある形で根付き始めている。これは特にモバイルで顕著だ。低価格のスマートフォンとコンテンツ消費形態の変化がモバイルの普及を猛烈なスピードで後押ししており、パブリッシャーは2019年までに概ね20億人のモバイルユーザーにリーチできるようになると言われている。
しかし、アプリパブリッシャーは、他の地域で成功している戦略に対して、消極的で抵抗感の高いこの市場において収益化に苦労している。
例えば、日本ではバナー広告やインタースティシャル広告は、ユーザー体験にとって煩わしくて邪魔である考えられている。また、従来のバナー広告は効果がなくアジア太平洋全体でここ数年、売上が落ちていることが判明している。
ASEANにおいてもバナー広告は、無関心からあからさまな拒絶に至るまで同じような拒否反応を引き起こしている。広告の無視やユーザーの入れ替わり、低い定着率やeCPM、ネガティブな口コミ、不信感、愛着の無さ、これらすべてがモバイルバナー広告の悩みの種となっている。
一方では、アジア太平洋でのデジタル広告への支出が今年は30%成長し、465.9億ドルに達すると予想されている。でも、アプリ開発者とパブリッシャーが従来の広告在庫の収益化に苦労し続けている状況は変わらない。徐々にではあるが、アプリ開発者は次第に新たな収入源としてネイティブ広告へと踏み切ろうとしている。ネイティブインストリーム広告を活用している場合、従来のバナー広告と比べて最大で5倍のクリック率を得ている。
理想的なモバイルユーザー体験を生み出し、広告在庫を収益化することが必要であるにも関わらず、アジア太平洋地域でのネイティブ広告の普及はこれまで欧米に遅れを取ってきた。
Rubicon Projectによると、2015年の欧米のモバイルマーケティング予算の13%が、ネイティブ広告に移行すると予想されている。アメリカだけで、ネイティブ広告への支出は2018年までに210億ドルを超えると予測されている。
大手ブランドがモバイルネイティブ広告を試し始めるにつれて、アジア太平洋のパブリッシャーは、理想的な収益化策(パブリッシャーと消費者双方のニーズへのバランスが取れた)として、モバイルネイティブ広告の可能性に気づきはじめている。
韓国で最も人気の高いモバイルメッセージングアプリ「カカオトーク」は、2014年第3四半期にアプリ内のニュースフィードでネイティブ広告の表示を始めたところ、広告主は次第に戦略の焦点をモバイルに移行していった。
アジアのなかでも成熟した日本では、モバイル広告は既にデジタル広告支出の28.6%を占め、2018年までに倍以上になると予想されている。こうした市場において、マーケティング担当者は、モバイル用のインストリームネイティブ広告で先陣を切る大きなチャンスを提供している。
モバイル広告はまた、デジタル広告市場をほとんど有していない国々における期待のチャネルでもある。例えばインドネシア。インドネシアの広告主はいまだに紙媒体とテレビに多額の投資をしている。2014年のデジタル広告費は、インドネシア全体の広告支出のわずか1.1%であった。ただし、インドネシアの2億5千万人の居住者は、主に手頃な値段のスマートフォンやモバイルデバイスで急速にネットに接続するようになっている。eMarketer社によると、今年のインドネシアのデジタル広告支出は98%増加すると予想されている。
こうした地域の広告主は、必ずしも欧米の広告主と同じ道を辿るとは限らないだろう。結局は、ユーザー動向と同様に、広告投資もデスクトップPCを飛ばして直接モバイルへ移行するかもしれない。香港では既に、人口の74%以上がモバイルフォンでインターネットにアクセスしている。台湾は63%だ。
この影響は潜在的に大きい。モバイルでは、ネイティブ広告が従来のバナー広告より53%多く閲覧されており、明らかにユーザーからより肯定的な反応を得ている。それは、主にアプリの操作感や機能に馴染んでいる点などに起因しているのであろう。
マーケティング担当者も追いついて来ている。最近の世界的な調査によると、アジア太平洋のブランドの33%が、今後2年間でモバイルネイティブ広告の支出を現在の支出の25%から50%、増加させる計画とのことだ。
その可能性が明らかになる一方で、ネイティブ広告には標準化や拡張性などの課題を抱えている。
現時点でマーケティング担当者が直面する大きな課題は、ネイティブ広告に特化した広告ソリューションを利用する際の複雑さだ。多くのアドテクベンダーは、いまだにネイティブ広告を従来のバナー広告のカテゴリーの一部と見なしがちだ。結果として、たいていのマーケティング担当者が従来のバナー広告で使っていたのと同じような広告素材を使うことになる。
これはネイティブ広告のパフォーマンスに顕著な影響を与える可能性がある。マーケティング担当者は、ネイティブ広告キャンペーンをコンテンツに適した広告素材で固別に管理することが望ましい。
また担当者は、FacebookやTwitter、新しいアプリコンテンツなどのプラットフォーム内に埋め込まれた広告が、ネイティブ広告だけでないことに留意すべきだ。インストリームバナーやアイコン、テキスト、評価といったネイティブ広告要素は初期より見え方が多様化している。
パブリッシャーは実際、自分たちのモバイルアプリやウェブコンテンツに最も適したネイティブ広告の要素を選んで広告表示を行う傾向にある。そのため、一つのブランド広告キャンペーンが、異なった広告在庫で様々なネイティブ広告形式にて表示されるようになる可能性が非常に高い。
従って、ブランドはパブリッシャーの全てのネイティブ広告要求に応え、全ての点で一貫性のあるキャンペーン広告素材とテーマを展開する必要がある。
人気のユーティリテイやソーシャルアプリの収益化と同様にチャレンジを必要とするテーマではあるが、マーケティング担当者は、モバイルネイティブ広告のメリットを活用し始めている。これによって、モバイル開発者とアプリパブリッシャーは、アプリやゲーム内のネイティブ広告によって、そのユーザーに対して極めて効果的かつ魅力的な広告体験を提供できるようになるはずだ。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。