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中国市場を読み解く:グローバルアドテク企業が直面する課題とは

YuMe 上級副社長 Michael Hudes氏

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

最近のいくつかの国際的事件によって国際的信頼が一瞬揺らいだかもしれないが、中国が世界で最も急速に成長しているデジタル広告市場であることに変わりなく、グローバルアドテク企業がビジネスのきっかけを得たいと強く望んでいる市場である。本稿では、YuMeのMichael Hudes上級副社長が、新しい技術をいち早く利用する消費者や、規制や文化の違い、グローバルアドテク企業がこの膨大なポテンシャルを持つ市場で上手くビジネスを進めるためのベストな方法について説明し、中国市場でのアドテクノロジーのビジネスチャンスについて語っている。
eMarketerによれば、中国では今年300億ドル以上がデジタル広告に費やされることになる。これはインターネットユーザーが6億3000万人以上いるこの国ではおどろくような金額ではない。Global Web Indexによれば中国では1人あたり3台以上のインターネットデバイスを保有し、2015年の1日あたりのオンライン利用時間が2時間半弱である。

そして、中国の消費者は特にエンターテイメントのためにインターネットを使う可能性が高く、約4億4000万人がオンラインでビデオを視聴する。中国のオンラインビデオ市場は特に強力である。

 

また、中国人は消費者向けの新しい技術をいち早く取り入れる傾向がある。スマートウォッチ所有率はグローバル平均で11%であるが、中国ではすでに人口の約5分の1 (18%) が保有している。スマートリストバンドの保有率はグローバル平均11%、中国では14%、スマートTVの保有率はグローバル平均34%、中国では約半数 (45%) が保有している。また中国人はオンラインでの購入率が高い。前月にオンラインで1点以上の商品を購入したと回答した人はグローバル平均が65%であったのに対し、中国人は75%であった (Global Web Index調べ) 。

 

世界のアドテク企業にとり、中国は明らかに魅力的な市場である。しかし中国のデジタル業界で成功を収めるのは困難であることとして知られている。

中国のアドテク市場参入時に米国やヨーロッパに本社を置くテクノロジー企業が直面する課題はどのようなことであろうか? そして、どのようにすればその課題を乗り越えられるだろうか?

 

データドリブンなインサイトとマルチプラットフォームの専門技術を基盤とし、グローバルで展開するオーディエンステクノロジーカンパニーのYuMeは、今年中国でビデオ広告の運用を開始した。Yumeが最も注目した点は、中国のアドテク業界が主に供給サイドによってコントロールされているという特徴である。これは欧米モデルがおおむね需要サイドが主導であることと対照的である。

中国ではFacebookやYouTubeなどのグローバル展開をするパブリッシャーの存在は大きくなく、Tencent、Baidu、TaoBaoなどの中国の大手パブリッシャーがエコシステムを支配している。多くのパブリッシャーが独自のアドエクスチェンジを構築し、ワンストップサービスを提供するなどの取り組みをしている。Tencent Ad ExchangeとTango DSPを持つTencentはその良い例である。その結果、それらのパブリッシャーがプレミアムインベントリの大部分をコントロールし、それを希少性のある商品として提供している。プライバシーへの懸念からパブリッシャーは自社のファーストパーティデータを注意深く保護しているのでデータも制限されている。したがって、中国市場参入を検討しているグローバル企業は参入前にメディアおよびデータの点で強力なパートナーを見つける必要がある。また、業界の教育に重点的に取り組み、比較的新しいアドテク市場において価格体系とパフォーマンスを透明化する利点を広く伝える必要もある。

 

中国の視点がアメリカやヨーロッパとどのように違うか理解することも、中国市場に上手く入り込むことを成功する鍵である。現在中国ではViewabilityなどの課題は目立たない。広告主からViewabilityの確認を求める声は少なく、パブリッシャー側もこの種の規制はビジネスモデルを脅かすことになるという感情があることに起因している。その一方、中国の規制では広告が配置される前にWebサイトに表示されるあらゆるクリエイティブメッセージにパブリッシャーの承認が求められる。この点は欧米モデルと大きく異なる。

IAB Chinaの設立や、最近ニールセンが開始したデジタル広告視聴率 (Digital Ad Ratings) などの進展は、欧米市場と中国市場の両方における業界の最良事例とアカウンタビリティの標準化に役立つかもしれないが、それでもグローバル企業は優先事項や考え方に関する違いを認識する必要がある。

 

具体的なアドテク市場に関連する課題に加えて、企業は一般的な文化的相違を知り、配慮していかねばならない。小さな誤解がよく発生する言語とコミュニケーションの問題は大きく、ビジネス交渉では双方に高い言語能力が必要となる。管理当局や官僚主義への対応は、長々と要領を得ず大きな労力を要することが多い為、アドテク企業はこれらに対して十分なリソースを割り当てる必要がある。また、中国の従業員は階層的アプローチに慣れているので目標を達成するための手順を明確に指示する必要があり、自発性に任すことに慣れた多くの欧米マネージャーにとっての課題となっている。中国は巨大で地域格差があるので、サービス展開における画一的なアプローチは効果的に働かないことが多い。

 

中国のビジネス文化は独特であり、欧米企業は常に忍耐と柔軟性を持ちつつ、状況に応じて適切に中国手法を採用する必要がある。例えば、中国語で「guanxi」と言われる関係構築は時間のかかるプロセスであり、長年続くビジネス関係は伝統的な社交行事やビジネス会合によって育てられる。したがって、米国やヨーロッパの企業は、すでに中国文化を理解し強いビジネス関係を多く有している現地企業とパートナーシップを結ぶと共に、時間をかけて独自の関係を構築することが重要である。

 

発生しうる課題は小さくないが、これらによってグローバルアドテク企業の中国参入は断念されるべきではない。中国市場は急速に拡大している。パブリッシャーは自社インベントリを解放し始め、中国のデジタル広告の更なる展開の為のチャンスを広げている。企業が時間をかけて中国アドテク業界の特色を理解し、ビジネスや文化の違いを受け入れる用意がある限り、中国は無限の可能性を秘めた国なのである。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。