コンシューマージャーニーの無限のルールを解読する
コンシューマージャーニーはもはや認知から検討、購買決定に至る一直線のパスではなくなっている。本稿においてBen Sidebottom氏(Visual IQ のディレクター、ソリューションアーキテクチャー)が、現代の消費者がブランドに関する情報をかつてないほど多くのソースから引き出している点や、オンライン・オフラインの両方のタッチポイントを活用し、テレビ・プリントメディア・ソーシャル・サーチなど様々なチャネルを行き来している点について論じている。消費者はその他にもスマートフォンやタブレットからノートパソコン、デスクトップパソコンなど多くのプラットフォームも利用している。このようにタッチポイントが迷路のようになった状況は、ユーザーの意思決定に至るまでの道が無限にあることを意味しており、特定の消費者がたどるパスをマーケターが予測することは、ほぼ不可能となっている。
ブランドを購入する消費者は店舗のディスプレイを目にし、テレビコマーシャルを視聴し、雑誌の広告を眺め、ショップウェブサイトをタブレットで閲覧する一方、オンラインディスプレイやビデオ広告でリターゲティングされたり、検索広告をクリックしたり、それらを組み合わせた行動をしているかもしれない。また消費者が以前に購入経験がある場合、ノートパソコンに送られたパーソナライズドされたウェブコンテンツを目にしたり、郵送で小売店のカタログを受け取ったり、特別セールや割引コード付きの電子メールを受信しているかもしれない。このようにマーケティングの機会は広がり、ブランドにとってのビジネスチャンスはさらに拡大している。しかしその機会を生かすには、全てをどのように組み合わせるかを理解し定量化しなくてはならない。
それでは、ブランドがコンシューマージャーニーの複雑性をよく理解して、各タッチポイントの影響を最大化するために、ターゲットを特定し適切なメッセージを消費者にリーチさせるにはどうすればいいのだろうか?
進化したアルゴリズムに基づいたマーケティングアトリビューションの活用
進化したマーケティングアトリビューションは、コンシューマージャーニーを理解するうえで重要な要素だ。しかし多くのブランドは、最終的なクリックや主観的なルールに基づいた方法等の旧来型のアプローチを行っているのが現状だ。これはマーケティング戦略の真の価値を歪めており、大多数の消費者に対し正確性を保つために同じパスで行動することを要求しているようなものである。
旧来型アプローチとは異なり、進化したアルゴリズムによるマーケティングアトリビューションでは、全てのオンライン及びオフラインのチャネルを全体的に俯瞰し、コンバージョン・非コンバージョンの両者に関する全てのタッチポイントとそのアトリビュートに対して小さなクレジットを割当てるシステム学習の技術を活用する。
このアプローチにより、マーケターはチャネル間の影響とシナジーを理解し、最も高いコンバージョンを引き出せる組み合わせを特定することができる。さらに重要な点として、このアトリビューションから得られるインサイトはチャネルの域を超えて、広告の種類やデバイスの種類、クリエイティブ、キーワード等きわめて詳細なレベルのデータまで掘り下げて具体的かつ影響度の大きな決定に影響を決定に役立てることが可能になるということだ。
マーケティングの複雑性を捉える
消費者はモバイルディバイス、ソーシャルメディアの活用、ビデオ視聴への依存をますます深めていることと相まって、IoTの到来により、複数のチャネルやプラットフォーム間にあるタッチポイントの影響を計測する機能はますます重要性を増している一方で困難な仕事になっている。
従来型のネット接続デバイスに加え、スマートウォッチ、フィットネストラッカー(ウェアラブル)、コネクテッドカーなど新たなプラットフォームが急速に主流になりつつある。セキュリティや照明から商品の包装機器といった家庭やオフィスのありふれたモノがセンサーやコントローラを活用したM2Mコミュニケーションにより相互に情報をやり取りするようになりつつある。
消費者の潜在的なマーケティングタッチポイントの範囲が飛躍的に拡大する一方、こうしたユーザーの変化により、ブランドが全てのチャネルやプラットフォーム間での相互作用が組合わさったコンシューマージャーニーの全体像を理解するために、進化したアルゴリズムによるマーケティングアトリビューションを活用することは、ますます重要となっている。
事実と神話を切り離す
アルゴリズムによるマーケティングアトリビューションとコンシューマージャーニーの重要性を理解する人が増える一方、その導入や利用の方法についてはまだ多くの神話や誤解がある。進化したユーザーアトリビューションを利用することで、伝統的な自己完結型の計測アプローチとは異なる方法が必要になるのは事実であるが、「マーケティングのワークフローを破壊して技術的なリソースに大きな負担がかかる」、「まだ開発フェーズにすぎない」、「クリエイティビティが犠牲になるテクノロジー偏向の方法である」というような誤った考え方をされることも多い。しかしこれらは正しい考え方とは言えない。
実際、アルゴリズムアトリビューションは、この10年にわたって証明できる実績を残してきた客観的で試行錯誤を繰り返してきたデータ重視のアプローチである。マーケティングデータから抽出される情報の精度を高めることにより、企業は顧客やクロスチャネルの実績をさらに深いレベルで理解し、より費用対効果にあった実績を残すことが出来る。アルゴリズムによるアトリビューションを活用することで、企業がオムニチャネルでのマーケティングアプローチを行い、全体的なマーケティングエコシステムよりフォーカスすることができる。
また、これらのより進化したアトリビューションを提供する事業者は特別なソフトウェアを使ってデータを集計、標準化をしているため、技術リソースへの負荷はそれほどかからないのである。アルゴリズムによるアトリビューションは先進的な数学理論をベースに作られている一方、クリエイティブのインプッットはプロセスに欠かせない部分である。そして、ソリューションが生み出すインサイトやアプローチ最適化に関するシステムからのリコメンデーションに対して最終的な権限を持つのはマーケターである。
コンシューマージャーニーを意味あるものにする取り組みは、利用可能なチャネルやプラットフォームが増加し多様化していくにつれて、より複雑になっていく。進化したアルゴリズムのアトリビューションを取り入れることにより、マーケターは消費者がコンバージョンに至までの全ての過程をチャネル、プラットフォームの両面から全てのチャネル、タッチポイントにおいて定量化することが出来る。こうした詳細なインサイトにより、マーケティングエコシステムの全体像を作り上げ、オムニチャネルにおけるマーケティング目標を達成するために、ライトプレイス、ライトタイミング、かつ高度にターゲット化されたメッセージを消費者にリーチさせることが出来るのである。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。