「常にメディアファーストであり続けること」——モバイルシフトの中でも変わらぬメディアレップの役割【後編】 [インタビュー]
モバイル広告市場の拡大は、広告主のデジタルマーケティング活動にどのような変化をもたらしたのか?そして、メディアレップは今後どのような役割を果たしていくのか?前編に引き続き、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 プロダクト開発本部プロデューサー 砂田 和宏氏、プロダクト開発本部 広告技術研究室長 永松 範之氏のインタビューをお届けする。
(同社に例年協力をいただいているモバイルカオスマップの最新版は、文末に掲載)
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下智之)
モバイルシフトが変える、広告主によるデジタルマーケティング
砂田氏:サーチの予算が、急速にモバイルにシフトしています。ユーザーによるスマートフォンでの検索ボリュームが急激に増えており、それに応じてマーケティング予算自体をモバイルに移しているという、取り組みやすいモバイルシフトですね。
DACグループ全体では、昨年の今頃は全体売上に占めるモバイル比率は20%程度でしたが、現在は36%程度にまで上昇しています。当社は1996年からインターネット広告ビジネスに取り組んでおり、基本はPC向けがメインです。したがって、他の企業と比べるとPC向け広告の取扱量は大きいはずです。それでもモバイルの比率が36%にまで達していることからも、もはやPCでは勝負しない広告主も出てきていると感じています。
モバイル広告の伸びをメディア別でみると、突出しているのがLINEやキュレーションメディアです。これらのメディアは、基本的にはスマートフォン向けしかありません。Facebook、Twitterも売上規模が拡大しています。これら二つのメディアについても、モバイル広告の出稿先として活用されています。また、アドネットワークの売り上げは伸びていますが、前述の通り、スマートフォン上で展開すべき媒体は限られています。対処療法的にアドネットワークに出稿するというような、いわば初級のマーケティング手法として使われている側面があるかもしれません。現状アドネットワークに出稿している広告主にとってこの先、ネイティブ広告やLINEなどを活用した大型予算投下を前提とした独自展開が必要になるのではないでしょうか。
―モバイル上でのユーザートラフィックの比重はアプリに寄りつつありますが、広告主のオウンドメディアとしてもアプリを活用するケースが今後増えてくるのでしょうか?
砂田氏:確かに、一時期そのような傾向が見られました。ですが、皆さん挑戦してみることで、オウンドメディアとしてのアプリ活用が適切な領域と、そうではない領域があることに気づき始めています。小売・流通系の広告主が、アプリケーションをオウンドメディアとして持つのは適しているでしょう。なぜならユーザーの購買頻度や、コミュニケーションの頻度が比較的高いからです。しかし、耐久消費財の場合、アプリを作っても、ユーザーが商品を購入する頻度は多くなく、アプリ自体の利用頻度を高める動機を作ることは容易ではありません。例えば、自動車の購入後に自動車とアプリが連動して、自動車のメンテナンスができるようなアプリなら可能性はあるかもしれません。走行距離から車の状態を割り出して、メンテナンスの必要性を通知してくれるとか。ですが、これはまだ少し先の話でしょう。
アプリをユーザーにダウンロードしてもらうためのマーケティングコストは、主にアプリ専業でビジネスを展開する広告主が大きな予算を投下しており、現在高い水準にあります。このような環境下では、メーカー系の広告主にはアプリでのマーケティングの費用対効果が見えづらく、躊躇してしまいがちです。スマートフォンが普及し始めた頃、一部の先進的な企業がアプリを使ったマーケティングに挑戦していましたが、最近そのような取り組みは見られなくなってきています。
―となると、広告主のプロモーションの誘導先は、アプリではなくブラウザがメインであるということですね。アプリをうまく活用しているのは、どのような業界なのでしょうか?
砂田氏:はい、ブラウザのランディングページが多いです。その他では、最近はマーケティングのゴールとして、LINEが強いと感じています。例えば、マツモトキヨシさんは、LINEのビジネスコネクトを使ってユーザーが位置情報を送ると、近隣にある店舗情報とクーポンを送り返してくれるという自動システムを設計しています。今は普段ユーザーが使用するLINEというプラットフォームの中で、気軽に施策を実現できるようになりました。少し前のように、わざわざ自社アプリを開発し、ユーザーにインストールしてもらう必要がなくなりました。
一方でマクドナルドさんのアプリは、独自のものでありながら多くのユーザーから支持されています。おそらく、女子高生などの若年層の来店頻度が高く、生活インフラに近いからです。このような飲食店はアプリでの展開に適していると見ています。マクドナルドさんはもとより、最近は飲食店カテゴリのアプリが増えており、ユーザーロイヤリティーを上手く維持することに成功している事例もあります。また注目すべき事例として、すかいらーくさん周辺のアプリが挙げられます。ランチフリーというアプリを通じたギフトプログラムを提供しており、ユーザーは貯めたポイントを食事券と交換できます。飲食店業界は、ストアロイヤリティーを高めることが容易ではないですが、このようにギフトの仕組みを活用してうまく取り組んでいるケースが増えてきています。
その他にも、ユーザーが比較的高頻度でサービスを利用する銀行なども、アプリの取り組みを強化しているようです。
永松氏:さきほどのLINEの話に少し戻りますが、LINE公式アカウントを開設するためには、1000万円ほどの費用がかかります。一からアプリを作るよりも、LINEというプラットフォームに乗っかるほうが、やはり効率的で効果的にプロモーションできるという評価がされているのではないでしょうか。
モバイルシフトにより変わるメディアレップの役割、新たに取り組むべき目標
―わかりました。ありがとうございます。メディアビジネスがモバイルにシフトすることにより、メディアレップの役割も変わりつつあると思うのですが、その点についてはどうでしょうか。
砂田氏:まず一番大きく変わったのは、当社と新規で取引を始めるメディアのほとんどが、モバイルメディアであるということです。もう一つは、メディア担当部門でも、従来より、テクノロジーに関する知識を多く求められるようになっています。これまでは、テクノロジーのことは専門の担当者に任せておく風潮が社内でもありました。しかし今では、メディア担当部門にもその知識がないと、メディアと対等に話をすることが出来なくなりつつあります。
私達メディアレップへの期待値の水準は、サプライ側はもとより、デマンド側も含めて高くなっています。デマンド側がDACに寄せて来た信頼は、1000以上のメディアの中から個別企業に最適なパッケージを選んでくれるという、メディアの取り扱い量から来るところが大きかったですが、今はテクノロジーでも量に答えていく必要があると認識しています。ですから、このカオスマップを当社が作ることにも、デマンド側から信頼を得るという意味ですごく価値があることだと感じています。
―実際にモバイルメディアと新規に取引を始めた際、どのような提案をされるのでしょうか。
砂田氏:ほぼ全てのメディアがまだ成長期の過程にあるので、トラフィックは限られています。そのため、純広告の販売が成立するほどのメニューが作れないことがあります。したがって、最初は当社のソリューションとしてSSPのYIELD ONE®を提案することが多いですね。また場合により、当社の持っているアドネットワークを紹介し、メニュー販売をスタートしながら、当社が持つ様々なテクノロジーソリューションを導入いただくような流れもあります。データをもとに、まずは広告枠の設置の仕方からコンサルティングを行っていくというような感じです。コスメや女性向けなどの専門領域に特化したサイトでは、月間20〜30万DAUあれば、十分に純広告が販売できるようになります。今、私がお手伝いさせていただいている富裕層向けSNSのように、更に特殊なユーザー層を囲っている場合は、より少なくとも純広告を販売できる力があるケースもあります。
ただ、やはりプラットフォームの場合は、DAUが500万くらいは必要であるのではないかと感じています。
―現在、業界におけるトレンドのキーワードに、動画、ネイティブ、ソーシャル、IoTなどがあると思います。貴社では、これらにどう優先順位をつけて取り組んでいらっしゃいますか。
永松氏:今は、動画、ネイティブ、メッセージング、ソーシャルなどの領域に注力しています。これらの根底にはすべてデータがあります。また、IoTの領域は、グループ会社で先駆的に取り組み、知見をグループ内で共有しながら、次のマーケットを予測していくことをしています。
―マーケットの課題として、直近ではどんなことを認識していますか。
砂田氏:モバイル上での広告ビジネスが、OSやデバイスに依存しすぎるという点です。また、アプリからのユーザーデータの取得が難しく、データ周りでの課題は強く感じています。ユーザーデータは、個社で抱え込むのではなく、パブリックの情報として皆で共有し合ってもいいのではないのかと思うことがあります。あとは、デバイスでのコンテンツの在り方や見せ方が、まだトライ&エラーの状況であるという点です。
例えば、電子コミックは少し前までコンテンツを横にフリックしていましたが、現在は縦スクロールに変わりつつあります。米国でも同様に、ニュースサイトのQuartzなども、フリックから完全に縦スクロールだけのニュースサイトになるなど、フリックが徐々に消えています。その理由は、縦スクロールのほうが「ながら見」が出来ることにあるようで、滞在時間を伸ばすことが出来ます。またフリックと比べて、端末サイズやユーザーの指の動きなどとの親和性が高いことにあると思います。
スマートフォンでは、LPやコンテンツ、メディアの見せ方に「こうあるべき」という固定した標準がなく、広告枠がどうあるべきかもまだ見えていません。その中で、広告の効果指標も含めて私たちがスタンダードを作っていかなければと強く認識しています。
DACが目指すモバイルエコシステムにおける立ち位置は?
―最後に、今後モバイル広告の業界マップはどのように変わっていくでしょうか?またその中で貴社はどんなポジショニングを取っていきますか?
砂田氏:これまでと変わらず、全領域を制覇するというのが当社の目標です。
DSPやSSPの領域などの横の領域は、強者に集約されるまで競争が続く大変な領域だと思います。今後は、資本の原理が働き始めて、縦の方向に集約されていくでしょう。したがって私たちは、競争で負けないように常にキャッチアップをしていかなければなりません。
しかし、先ほど申し上げたように、電子コミック、ゲームなどのコンテンツについて、その最適なコンテンツの見せ方が決まるまでは注意が必要ですので、コミック作家やゲーム会社と密にコミュニケーションを取ることが必要です。媒体社の方たちともやり取りしながら、コンテンツのあるべき姿や見せ方、ユーザーの変化などを真っ先に察知することで、新しい広告を作っていきたいと考えています。そしてそれとは別に、データやテクノロジーの領域が追いついてくる。データやテクノロジーは、私たちが想像することを実現するためのツールにすぎません。私たちが想像出来なければ、それらをいくら駆使しても実現できないでしょう。想像するためには、メディアファーストのスタンスをとることが必要です。メディアレップとしては、メディアといかにタッグを組むかに注力していきたいと思っています。
永松氏:現在、テクノロジーの領域では、データ周りをすごく強化しています。いかにPCユーザーとスマートフォンユーザーとを紐づけていくか。もちろん、これはプライバシーをしっかりと配慮しながら取り組んでいく必要があります。ここが上手くつながってくると、デジタルを活用したコミュニケーションのやり方に、より広がりが見えてくるのではないかと考えております。
メディアの思いを、コミュニケーションとテクノロジーの両方で実現していく流れを今後も作っていきたいです。
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最終更新日:8/17/2015
※ 本マップは、米LUMA Partners社のLUMAscapeのカテゴリをベースに、日本国内でのサービス提供を確認できたカテゴリのみ掲載しています。
※ 本マップ作成にあたり、事前にロゴ・サービス名称の表記に関して事前許諾を得ておりませんので、もし本マップへの掲載に問題がある場合は、 ExchangeWire Japanまでご連絡ください。問題箇所に関しましては、できる限り迅速に対応させていただきます。
問い合わせ先: japan[アット]exchangewire[ドット]com
(編集:三橋ゆか里)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。