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マーケティングテクノロジーはアドテクの未来?

VincentPotier. Captify

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

ExchangeWireの寄稿者たちは長年にわたり、アドテクとマーケティングテクノロジーの衝突は「不可避」であると伝えて来たが、その結果として何が起こるか探求しようとする者はあまりいなかった。この記事で、CaptifyのCOOであるVincent Potierは、その部分を深く掘り下げている。

 

驚異的な成長にも関わらず、アドテク(広告技術)業界は、マーケティングテクノロジー(マーケティング技術)の姉妹業界で、どちらかと言うとマーケティングテクノロジーよりも魅力に欠ける業界として考えられている。

 

近年、アドテクが実際に注目を引く時は、間違った理由の場合が多い。その例として、IPO以来80%株価が下落した多くの企業、投資の枯渇、合併の利点を説くアナリストたちの自信の欠如などが挙げられる。

 

今、これをマーケティングテクノロジー大手企業のSalesforce、Oracle、Adobe、Marketoの成功と比較してみると、よりポジティブなニュースに溢れている。OracleはDMP Bluekaiとマーケティング分析会社のDatalogixを買収し、Adobeは分析会社のOmnitureを買収し、AcxiomはLiverampを買収した。実際のところ、マーケティングテクノロジー企業は次に買収するアドテク会社の吟味に忙しく、アドテク企業はマーケティングテクノロジーについて話すのに忙しい。

 

米国で開催される会議に出席して、大手アドテク企業のCEOの話を聞くと、彼らは同じことを繰り返し言っているのが分かる。アドテクはほとんど会話にあがらず、マーケティングテクノロジーが会話を支配している。

 

では、なぜアドテクは注目を浴びず、マーケティングテクノロジーが話題の中心になれるのだろうか?

マーケティングテクノロジーは、マーケット担当者やマーケティング部門の日々の業務を助けるあらゆる種類のソフトウェア、プラットフォーム、データベース、インターフェースのことである。その中には、CRMプラットフォームやシステム、CMS、分析パッケージ、データ管理プラットフォーム、視覚化ツールがある…すごく分かり易いものである。

 

だから、マーケティングテクノロジーがアドテクに興味を示す可能性は簡単にみてとれる。信頼できる全てのデータやプラットフォームを広告技術に注ぎ込むつもりなのである。マーケティングテクノロジーはアドテクをより成熟させ、より専門性を高める可能性を持つ。誰もがマーケティングテクノロジーにアドテクと合併、衝突、活用させたがっているのも不思議ではない。それによって、アドテクの予測可能性と信頼性、専門性は高まる。ところが、必ずしもそんなことはない。

 

ただの「話題」に過ぎないのか?

マーケティングテクノロジーとアドテクがお互いをライバル視している分野は、ビジネスモデル、クライアントベース、投資上の魅力、市場の査定などに渡る。アドテクは未だに、IO (広告掲載申し込み)事業で、代理店に依存し、参入障壁が低い、競争は苛酷で常に革新的であり、ビジネスサイクルが非常に短いものだと見られている。

 

マーケティングテクノロジーは、企業のソリューション、SaaSモデル、クライアントとの長期契約による繰り返す収益モデルとして見られている。更に、その様な事業は、繰り返し収益が得られるだけでなく、例えば、収益が原価よりもずっと早く増加するので、収益が1ドル増加する毎に利幅が広がるなど、収益が「増加」する。

 

ただ、マーケティングテクノロジー支持者があまり触れたがらない一つの問題がある。この業界での成長は遅く、利益も低いのだ。現在のマーケティングテクノロジー企業の市場査定は実際の収益増加を基にしたものではなく、むしろ将来の成長の加速と利益の増加への期待を基にしたものである。更に、マーケティングテクノロジーへの突然の興味はむしろ最近始まったことで、多くの企業におけるマーケティング部門のデジタル移行を契機としており、まだ少し不安定である。

 

情報ソフトウェアを次から次へ追加することによって、必要もないのに複雑にしているだけだとマーケティング担当者が感じたらどうなるだろうか? 不況になったら? デジタルメディア予算が減らされるだろうか。それとも、まず最初に高額なマーケティングテクノロジーに関する契約が解除されるのだろうか?

 

なぜ市場はマーケティングテクノロジーを好むのか?

市場がマーケティングテクノロジーを好むのは、それがクライアント寄りだからである。クリエーティブエージェンシーが90年代に、CEOに直接忠告する戦略コンサルタントたちに追い抜かれて素晴らしいビジネス機会を失ったように、今、アドテク企業はマーケティングテクノロジーに対して同じ問題を抱えている。

 

広告代理店はクライアントのメディア予算の後見人であり続けているため、アドテク企業は大抵広告代理店と取引をしている。更に、アドテク企業がクライアントへのアクセスを得られたとしても、それはデジタルディレクターレベルである。マーケティングテクノロジー企業は国際メディアディレクターや時にはCMOと直接交渉できる。

 

CMOは2017年までに、CIOより多くの金額を技術に投資すると予測されている(ガートナー)。過去数年間で、OracleやAdobeなどの大手ソフトウェア企業は、彼らが技術を売ろうとしている相手であるCMOは実は技術に長けていないことが多い、ということに気づき始めている。過去25年間で社内の権力を失い続けて来たCMOにとっては、これは素晴らしい機会である。

 

過去10年間、不必要なデータにお金を費やし、役員会では常に予算の浪費を批判されて来たCMOは、データ分析任務を簡潔化する企業を好み始めた。これによって、CMOは自分たちのしていること、見ていること、また予算正当化における透明性を高めることができた。結論はこうだ。CMOはマーケティングテクノロジーを好み、CEOもマーケティングテクノロジーを好み、CFOもマーケティングテクノロジーを好み、投資家たちもマーケティングテクノロジーを好んでいる。

 

未解決の相違点

マーケティングテクノロジーとアドテクの戦いでは、マーケティングテクノロジー企業が有利なようである。近年のマーケティングテクノロジー企業によるアドテク企業の買収経験が証明しているかのように、誰もが、マーケティングテクノロジーがアドテクと衝突または合併することにより、アドテク合併により得る利益よりも遥かに多くの利益を、マーケティングテクノロジー企業が得ると考えている。

 

モデル属性ツール、クライアントCRMプラットフォーム、分析パッケージにアクセスすることによって、アドテク企業が多くを得ることは疑う余地もないが、それは望ましいことだろうか? そうであるかも知れないし、そうでないかも知れない。マーケティングテクノロジーとアドテクを急いで合併して、区別がつかなくなる前に、3つの興味深い課題を指摘する必要がある。

 

• プライバシー: プライバシー論議と、広告でターゲット・オーディエンスを獲得するスキルのプライバシーへの影響、または、広告とプライバシーの関係などの論議は、まだまだ終わっていない。50年間、CFOは、マーケティング経費の50%もが浪費されていることについて不満であった。現在では、規制の立案者たちが、その50%がもうあまり浪費されない事に対して不満を抱いている。マーケティング追跡技術の進歩は懸念事項であり、全て(分析、アルゴリズム・ターゲッティング、CRMと新オーディエンスの統合、DMP… )を一つの屋根の下に置くことでより大きな問題が生まれるので、どこかに線を引く必要がある。業界専門家、消費者、広告担当者、規制作成者たちが協力した上で初めてその線は意味をなす。

 

• メディアエコシステム: 成長し続ける巨大マーケティングテクノロジー企業によって、 クライアント中心になって来た生態系の中で、アドテクの将来性はより不安定になり、メディアエージェンシーは更に多くの不安定な状況に直面することになる。アドテク企業は主にエージェンシーと仕事をするので、合併行為によって、常に変化するデジタルマーケティング生態系の境界線が引き直されることになるかも知れない。

 

• イノベーション: アドテク企業はもっと早く革新することができる。これは、アドテクの業務と商品の並外れて複雑な性質およびクライアントが(間接的事業モデルの結果)多岐に渡ることに寄っている。2つの業界の合併は、アドテク企業が革新および激化する能力やデジタル広告の終わりなき変化を遅らせる。これは望ましくない。

 

結論

広告中心のマーケティング担当者は、消費者中心のマーケティング担当者を補い、クリエイティブ担当者は数的なマーケティング担当者を補うもので、マーケティングテクノロジーとアドテクも同じである。そのため、2つの業界の交流は活発に行われるべきで、お互いがますます話し合い、協力し合う必要がある。それを実現するには3つの方法しかない: 資産を合併する (実現中)、アドテク企業がマーケティングテクノロジーに吸収される (実現中)、または、パートナーとエージェンシーとクライアント間の新しい生態系を中心とする (あまり実現できていない)、のいずれかである。

 

マーケティングテクノロジーとアドテクが補い合っていることは事実であるが、両社は大きく異なる。マーケティングテクノロジー企業はマーケティングソフトウェアを製造し、販売する。アドテク企業は常に生態系を発明し直し、(マーケティングテクノロジー同様)データにどっぷり使った世界にいるため、あらゆる測定基準におけるキャンペーンを実施でき、豊かでユニークなキャンペーン前後のインサイトを提供することができる。マーケティングテクノロジーはクライアントのデジタルマーケティングの土台を築く手助けをし、アドテクはそれを実施する。マーケティングテクノロジーはより安全で確立されており、リスクが少ないように見えるが、デジタル革新は今でも広告技術からもたらされている。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。