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AdRollが新プロダクト「AdRoll Prospecting」を公表、広告主のファーストパーティデータを共有し合い、上位ファネルへのターゲティング広告を配信

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リターゲティング広告配信プラットフォームグローバル最大手のAdRollが、新しいプロダクトを公表した。
 

 

 

 

写真1.

AdRoll
代表取締役兼CMO
Adam Berke 氏

今回の公表に先立ち、5月末に同社代表取締役兼CMO Adam Berke氏が来日、業界関係者向けのイベントにて概要説明をした。

このプロダクト名は「AdRoll Prospecting」(アドロール プロスペクティング)と呼ばれるもので、従来AdRollが提供してきた、ユーザーのリテンションを促すリターゲティング広告に追加して、購買ファネルのより上位のユーザーにアプローチし、新規顧客の獲得を図ることを目的とするものである。

 

 

競合企業も含む広告主各社がユーザーデータを相互利用し、膨大な潜在顧客データを生成する「AdRoll Prospecting

「AdRoll Prospecting」は、複数の広告主が、それぞれ新規顧客獲得のためのターゲティングリストを作成する際、事前承諾(オプトイン)のもとで自社のユーザーデータをAdRollが設置するIntentMapと呼ばれるデータプールに出し合い、各社で効率的に活用していこうという発想のもとに生まれた。

IntentMapにプールされたデータをベースに膨大な量の潜在顧客データを創出し、これをより精度の高いターゲティング広告配信に結び付けて、広告のパフォーマンスを高めるというものである。

このサービスには、すでにテスト段階にあり、グローバルで1,000 社以上の広告主が参加、広告主は10 億件を超える匿名のユーザープロファイルに接続している。

AdRollはグローバルで20,000社以上の広告主と取引があり、膨大なデータを蓄積しているが、広告主からこのデータを自社の広告配信にも使わせてほしいという要望が高まったことが、「AdRoll Prospecting」をリリースした背景であるとしている。

 

写真2.

AdRoll 日本法人代表取締役社長
香村 竜一郎 氏

ユーザーデータを共有し合う広告主の中には競合も含まれる可能性もあるが、これに関して同社日本法人代表取締役社長 香村竜一郎氏は「既に競合同士で共有し合っているユーザーは多い。ユーザーはWeb上で商品・サービスの購入を検討する際、実際には自社・競合のサイトを訪問して比較検討をしている。したがって各サイトのユーザークッキーを持っている。実際に競合となる広告主同士が持つクッキーには重複している部分が多い。」と述べている。また、競合にユーザーを取られることへの懸念については「元々自社サイトを訪問したユーザーのうち、コンバージョンンに至るユーザーの比率は、数%というのが実情である。残りの90数%のユーザーはそもそもコンバージョンをしていない。ユーザーを取る・取られるという話ではない。」と述べ、また「むしろIntentMapに参加することで、他業種の広告主のサイトを訪問するユーザーの中に、自社の顧客となる可能性の高いユーザーが埋もれている可能性があり、このユーザーにアプローチできることのメリットの方が、数%のユーザーの一部が競合に流出することのリスクというデメリットよりも、はるかに大きい。」ということを強調した。

 

 

ターゲティング広告はリターゲティング中心から、次のステージへ

AdRollは、「AdRoll Prospecting」のリリースにより、リターゲティングのみならず、より上位のファネルへのアプローチも可能なフルファネルのパフォーマンスマーケティングに対応したプラットフォームへと移行する。

 

「AdRoll Prospecting」の公表に先立ち、香村氏は、「AdRollがマーケットに対して一番伝えたいメッセージは、パフォーマンス系のマーケティングにおいてはこれから益々データの活用が重要になる」と述べ、「ユーザーデータには、年齢、住所、趣味、嗜好など、ほぼ変化がない普遍的なデータ、そして流動的なインテントデータがある。後者はユーザーのWebの行動からその傾向を読み解き、そこからそのユーザーがどのような興味を持っているかを予測して生成される。AdRollは、普遍的なデータと流動的なインテントデータとを組み合わせ、精度の高い広告配信を実現している。」と、AdRollのデータに対する考え方を解説した。

収積されたデータの活用については、AdRollが独自で持つアルゴリズム「BidIQ」がユーザーの特性を学習し、そのユーザーが対象となるキャンペーンのターゲットとして相応しいかどうか、ユーザーと配信先の媒体、広告枠との親和性などを、収集したデータから読み取り入札単価に反映、広告配信につなげる。7年以上にわたる多種多様な業界の広告主へのサービス提供で世界中のWebサイトに埋められたAdRollピクセルは膨大な数となっており、このアルゴリズムの精度がリニアに生きる点がAdRollの特長でもある。

 

リターゲティング広告の配信先対象は、広告主のサイトを訪問したユーザー数が母数となる。Amazonや楽天などのように既に自社で一定規模の経済圏を構築し、膨大なユーザートラフィックを持つWebサイトを運営する企業であればともかくとして、それ以外の広告主は、リターゲティング広告によるキャンペーン中心では、ターゲットユーザーは徐々に減少していく。グローバル市場においてAdRollがターゲットとする広告主層は、大手のみならず中小規模にも及ぶ。AdRollにとってみても、広告主にリターゲティング広告のみを提供しているだけでは、1広告主企業あたりのユーザー獲得件数、引いてはAdRollの売上が、いずれ頭打ちになることも想定されうる。

もちろんこれはAdRollに限らず、国内のDSPにも当てはまる。

 

これまでは「国内DSPによるRTB広告配信の8割がリターゲティング広告」などともいわれてきた国内RTB広告市場だが、近年DSP各社は、リターゲティング以外に、Look-a-Like (オーディエンス拡張)や、DMPの活用、その他新しい切り口でターゲットリストを生成し、ターゲティング配信を行うというメニューに力を入れてきている。

 

先日公表されたソネット・メディア・ネットワークスによるテレビCMリアルタイム連動型広告配信もその一つであるといえよう。

 

AdRollの「AdRoll Prospecting」は、リターゲティング以外のターゲティング広告配信が、先進的な事例としてではなく、一般的な取り組みとして着実に普及しつつあることを象徴している。

なおAdRollは、「AdRoll Prospecting」の国内での近日中の正式提供開始に向けて、現在準備を進めている。

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。