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プログラマティック市場は次のステージへ--グローバルベンダーから見た日本市場とPubMaticが提供する価値 [インタビュー]

interview PubMatic

グローバル大手SSPのPubMaticが、パブリッシャー向けマーケティング・オートメーション・プラットフォームというコンセプトを提唱している。その概要や背景、グローバル企業から見た日本のプログラマティック市場に対する見解について、同社CRO Rob Jonas氏に聞いた。

(聞き手:ExchangeWire編集長 野下 智之)


 

 

 

パブリッシャーに求められるマーケティング・オートメーションプラットフォームの実装とその市場背景

 

-貴社が今回提唱している、パブリッシャー向けマーケティング・オートメーション・プラットフォームのコンセプトについて、詳しくお聞かせください。

パブリッシャー向けマーケティ(写真2)ング・オートメーション・プラットフォームのコンセプトは、パブリッシャーのナレッジレベルが向上するに際して、よりそのプログラマティックな環境の中でパブリッシャーがビジネスを展開するためにはどうすべきかを追求した考え方です。

われわれのプロダクトの観点で申し上げると、まず様々なテクノロジーを一つのプラットフォームの中に組み込んで提供しています。モバイル、デスクトップ、ビデオ、リアルタイムアナリティクス、リアルタイムで分析をする機能等もそのプラットフォームの中に入れ込むことで、パブリッシャーによるより効果的なプログラマティックの展開をサポートするツールです。

テクノロジーのプラットフォームを使うことで、パブリッシャーは自分たちでチャネルをコントロールしてマネタイゼーションしていくのです。

例えば、広告営業チームがプログラマティックを使い、自分たちで広告を売るためのプラットフォームとして使えるように考えられています。

アドエクスチェンジのようにサードパーティーのネットワークに自分たちの在庫を渡してプログラマティック取引にマネタイズを委ねるのではなく、広告営業チームがプログラマティックを活用してマネタイズする機能をパブリッシャーに提供することを考慮して作られています。

グローバルの観点でみても、当社は他社よりもよりパブリッシャーセントリックなソリューションを目指してサービスを提供しています。

PubMatic -マーケティング・オートメーションに不可欠な5つの要素

 

-このコンセプトを今のタイミングで提唱された目的と背景についてお聞かせください。

まず、パブリッシャー自身がかなり専門性を高めており、パブリッシャーの考えややりたいことを実現するためのテクノロジーが必要な状況になってきたということがあります。

先ほどの話の続きで言いますと、わずか2年前には、プログラマティックを自社の戦略の一部分としてしか見てなかったパブリッシャーが、全体的な戦略の中にプログラマティックを取り入れるにまでなっています。すなわち、プログラマティックをベースとした広告ビジネスの考え方にシフトしつつあります。最近日本に来て関係者の方々と話をする中で、その土台が出来つつあると私たちは考えています。

 

-パブリッシャー側の観点で、欧米と日本のプログラマティックに対する取り組みの進捗度合いはどのくらい違うとお考えですか。

1年半ほどのタイムラグがあるでしょう。プログラマティックへの取り組みが一番早いのは米国ですが、米国と日本との時間軸のギャップは、かなり狭まってきています。日本もかなりキャッチアップして来ています。

私たちが日本市場へ参入して1年以上経ちますが、その間でも状況は変わってきています。この変化は、パブリッシャーサイドのみならず、バイヤーサイドからも始まっているという点も重要です。広告主の中でも予算をプログラマティックに集中して使うケースが増えてきており、それに対してパブリッシャー側がプログラマティックをどう提供すべきかを考慮することにより、変化が加速していると思っています。

これはOpenRTB、PMP(プライベートマーケットプレイス)、オートメイティッドギャランティードなどの様々なプログラマティックチャネルに通じる現象です。

 

-今回の貴社のコンセプトに関して、パブリッシャーからの反響はどうですか?

大多数のパブリッシャーは、私たちのテクノロジーのバリューを理解してくださっています。グローバル市場では、プログラマティックに対するパブリッシャーの従来の考え方は、「このテクノロジーやアプローチが正しいのか」というテクノロジー主導なものでした。それが、セールスチームをどう変えて、どうプロセスを改善すべきか、そしてどのように広告ビジネスをプログラマティックなエコシステムの中に取り入れるのかという組織効率や、テクノロジー外の領域にまつわる議論が盛んになってきていると感じています。

 

パブリッシャーがやるべきではないのは、広告ビジネスの組織形態を「営業」と「プログラマティック」という二つのチームに分けてしまうことです。プログラマティックが扱える営業チームと既存の営業チームとを分けてしまうのは、効率的ではありません。統合された一つの広告営業チームがあり、そこでプログラマティックに関する教育やトレーニングをしっかりと行っていくべきだということをパブリッシャーに対しても啓蒙しています。

 

 

形成が進む日本のプログラマティック市場と、PubMaticが担う役割

 

―次に、国内のSSPやプログラマティック市場に関してどのように見ておられますか?

日本の市場には、多くのSSPが存在しているということもあり、かなり形成が進んだ市場であると思っています。日本のSSPは、SSPとしてのベーシックな考え方に関して非常にうまく出来ています。(写真3)しかしながら、今後5年先、10年先、パブリッシャーにとって必要となってくるテクノロジー水準という観点で考えると、日本のSSPはそこまでのテクノロジーを提供するには至っていないのではないかと認識しています。

過去8年間にわたりSSPビジネスに取り組んできた過程で、私たちのプロダクトは洗練され続けており、グローバルでみても他社の追随を許さないほどの水準に達しているという自負があります。日本の市場は、初期ステージとしては今までの状態で良かったのですが、今まさに変化の時を迎えており、私たちが提供するソリューションが受け入れられる環境が熟してきたと考えています。

 

いい例に、先日リリースした当社の分析ツールがあります。かなりの金額の投資をして開発したものですが、他社はこのようなパブリッシャーのみに向けたツールへの投資には中々踏み切れないだろうと考えています。私たちは、今後5年間を見据えた上で、絶対に必要になるであろうソリューションを今から展開し始めています。

 

-貴社の主要ターゲットは大手パブリッシャーだと理解していますが、日本ではどうでしょう? 例えば、ComScoreによる大手パブリッシャーリストの100サイトのうち、何%への導入を目指しますか?

もちろん理想を言うと100%ですが、米国では65%に私たちのプラットフォームを使っていただいています。リーチで換算すると、米国市場全体の95%をカバーできているという状況です。日本市場に関しても米国と同様に大きなカバレッジを目指して行きます。

 

―先日、米国と南米市場向けにAdsmovilと共同のモバイル広告事業に関する提携を発表されていました。詳細を聞かせてください。

Adsmovilは北米で最大級のヒスパニック向けアドネットワークです。彼らは、当社のSSPを活用して、自身が持つアセットをマネタイズすることになります。

Adsmovilは、広告配信に関する課題や、私たちが保有するモバイルアドサーバーやプログラマティックのプラットフォームを活用することでマルタイズを加速させたいというニーズ、特にRTBやプライベートマーケットプレイスに対するニーズがあります。これを受けて、当社がシステムを提供することになり、プロモーション展開に関しても当社と共同で行うことになります。

 

―貴社がパブリッシャーに提供しているソリューションを、アドネットワークに対して提供されるということですね。日本でも今後同様に、日本のアドネットワークにこのようなソリューションを提供される可能性もありますか?

もちろんです。アドネットワーク自身が、プログラマティックな環境の中でマネタイズを進めていきたいと考えた場合に、私たちのようなテクノロジーの活用は意義があります。

例えば日本のアドネットワーク運営事業者で、今回のAdsmovilと同様の取り組みをしたいとお声掛けいただければ、当然ながら私たちは、ご協力していきたいと考えております。

 

―今後の貴社の事業の方向性についてお聞かせください。

(写真4)

具体的なことは申し上げられませんが、いくつかの展望があります。まずはそれぞれのチャネルにおける購買手法に関しては、OpenRTB、PMP、オートメイティッドギャランティードなどがありますが、将来でてくる手法にも適応していくこと。次にフォーマット。まだまだ日本では使われていないような広告フォーマットに関してもパブリッシャーをサポートしていく必要があると考えています。パブリッシャーの資産最大化に向けて何をどう展開していくべきかを考えたうえで、今後のプロダクトのアップデートをリリースしていきます。

また日本ももちろんのこと、グローバル市場における地域展開にも投資をしていきたいと思います。

 

―最後に、ExchangeWireの読者に対して、何かメッセージがあればお願いいたします。

まず大切なのは、この市場がとても早い速度で変わってきていることを認識することです。これは日本に限らず、他の国も同様です。この変化にきちんと適応するには、広告取引におけるプログラマティックの重要性をより認識すること。そして、正しいテクノロジーパートナーの選択が重要になってきます。例えば、その会社がどんな会社と取り組んでいるのかを知ることは重要です。

私たちのクライアントリストを見ていただくと、その多くがユニークなクライアントです。これらのクライアントが、なぜ私たちのソリューションを選んだのかを理解していただき、テクノロジーパートナーの選択の際に考慮していただければ幸いです。

(編集:三橋 ゆか里)
 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。