APAC 市場で欧米アドテクプレイヤーが選ぶべきRTBアプローチとは [インタビュー]
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
アジアではRTBへの異なったアプローチが必要
中国のグレートファイアウォールによって、RTBを運営する市場プレーヤーはユニークな課題に直面し、その問題を解決するために別のインフラを構築する必要がある、とTim Koschella (AppLift社、CEO、共同設立者)はアドバイスしている。
AppLiftなどの市場プレーヤーがAPACで直面する様々な課題、この地域におけるDSPの事業展開、またFacebookがデータアクセス用にオープンプラットフォームを作成すべき理由について、ExchangeWireの質問に対して興味深い洞察を色々と語ってくれた。
AppLift社は、7月2日に開催予定のイベントExchangeWire.jp Programmatic Session -Mobile・Asia- にて、「App Marketing Trends in the West and East-欧米市場とアジア市場におけるモバイルアプリプロモーションのトレンド(仮)」のテーマでプレゼンテーションを予定している。
-まず、基本的な質問ですが、モバイルとデスクトップのRTBエコシステムの主な違いは何でしょうか?
主な違いの一つは、パブリッシャーがインベントリをオークションすることです。デスクトップ上では、パブリッシャーが単一プラットフォームを使用してプレミアム広告の提供やオークションを管理しており、多くの場合二つのプラットフォームが使用されています。一つはプレミアム広告の販売、もう一つはオークション実行のためのものです。
モバイルRTBでは、モバイルアプリ広告主は複数のエクスチェンジとSSPを介在して、eCPMとフィルレートの両方を最大化しようとすることが多いです。その代償として、同じDSPが複数のエクスチェンジのプレースメントで遭遇してしまい、オークション上でお互いに競争しあってしまうことがよくあります。
モバイルとデスクトップの主な違いの二つ目は、ユーザーターゲティングの為にリターゲティング、クロスターゲティング、ネガティブターゲティング、フリークエンシーキャップを含むあらゆる種類のデバイス識別方法を利用することです。デスクトップでは標準的にクッキーが使用され、すべてのRTBシステムはクッキーをサポートする前提で構築されています。
しかし、モバイルでは(モバイルインベントリにわずかに含まれるモバイルウェブインベントリの場合を除いて)、Android IDやAppleのIDFAなどのデバイス識別子の使用が共通標準です。これによって、デスクトップRTBシステムとは異なるモバイルの技術的なシステム対応で課題が生じるのです。
ローカル供給プレーヤーへのアクセスを獲得すること
-また、アジアではWeChatやLINEなどのアプリ内ゲームやOTTアプリが幅広く混在していますが、それによって市場の展望はどのように異なるのでしょうか?
アジアは、サプライがWhatsapp、Messenger、CoC、CCSSなど様々なタイプのゲーム、OTT、プラットフォームなどから供給される点では他の国と類似しています。一方で、西洋と比較すると市場がより細かく分かれており、モバイルでのRTBの採用が低いと感じています。
-APACの市場において、AppLiftのような広告テクノロジープレーヤーはどのような課題に直面していますか?
利用されるテクノロジープラットフォームや技術標準は西洋市場と極めて類似していますが、アジア市場にはいくつかのユニークな点があります。一点目は、インベントリが各地域や国の少数の巨大なパブリッシャーに集まっている点です。これらの会社は、インベントリをより厳しく管理し、RTBのオープン市場にあまりインベントリを出さないように努めています。
二つ目は、RTBが動作する上で必要な基本的な原理が作動しないような「人工バリア」が存在する国の存在です。例えば、通常、中国のグレートファイアウォールはRTB入札の100msのリターンサイクルが保証できないほど入札リクエストの待ち時間を増やしています。そのため、RTBインベントリを中国市場で売買したい場合、中国当局による監査を受けたローカルサーバーを購入する必要があります。つまり、多くの規制当局や行政の認可が必要になるということです。
APACの中でも適応が最も難しい中国市場
-APAC地域で成功するためにDSPは、米国やヨーロッパと比較してどれだけ異なる対応が必要になるのでしょうか?
何よりもまず、ローカル供給プレーヤーへのアクセスを獲得することが大切になります。ローカルのAPACインベントリを支援するサプライヤーは数多く存在するのですが、ローカルのパブリッシャーはローカルのエクスチェンジやSSPと提携することが多いのです。
しかしながら、中国のような特定の市場においては、DSPはローカルのインフラを構築して、適切な時間内にオークションに応えることができなければなりません。なぜなら中国外からのトラフィックアクセスについて政府が制限を課しているからです。
-あなたの体験から、APACの中で適応することが最も難しいのはどの国でしょうか?理由と合わせて教えてください。
おそらく中国が最も対応の難しい市場です。インフラや接続性の問題が関わっているからです。
中国市場のGoogle Playストアの欠如はもう一つの課題です。これによって複数のサードパーティーのAndroidアプリストアと料金請求プラットフォームが存在しています。最近でこそ、Apple iOSは中国の都市部で利用が増加していますが、それでも市場のごく一部でしかありません。Androidは市場の70%を占めています。
現在の中国におけるトップ10のアプリ開発者を見ると、9つは中国ローカルの会社で、それらのほとんどが中国外でのビジネスでは成功していません。中国市場は最大の市場チャンスではありますが、適切な戦略がまだ明らかになっていないと私は考えています。
Facebookは公平な競争を確立すべき
-レムナント広告はRTBのために取っておかれることが多く、プレミアムプログラミングのインベントリが欠如しているという問題があるかと思います。この問題はAPACにも共通していますか?またどう解決に取り組むのでしょうか?
私たちの個人的な体験に基づくと、RTBはレムナント広告を売るための唯一の手段ではなく、インプレッション毎の価格設定モデル に基づいて、プレミアムとレムナントの両方をサポートするように出来ています。
RTBの主な利点の一つは、市場が価格を設定し、プレースメントや入手可能なデータポイント(地理・場所など)、またはユーザーセッションの深さ(ファーストインプレッション、セカンドインプレッションなど)に基づいてプレミアムが追加される点です。
-Facebookなどのサードパーティーアプリについてはどうでしょう。Facebookは最近デバイスレベルでのレポーティングのサポートを終了し、ユーザーデータの管理を再び行うようになりました。これはDSPのリターゲティングにどのような影響を与えるのでしょうか ?
私たちの見解では、Facebookは公平にDSP間の競争を煽るのではなく、Facebookユーザーにアクセスする為に広告主に自社ネットワークの広告の利用を強いるように出来ており、市場においてあまりフェアでないように思えます。さらに言えば、Facebookページを介して巨大コミュニティーを管理するブランドさえ、リターゲティングやネガティブターゲティンをする際に自身のオーディエンスにアクセスができないのです。
私の意見では、現状のようにデータを独占したり資本化したりするのではなく、規制や法律によってFacebookが匿名データにアクセスするためのオープンプラットフォーム作成を促し、公平な競争を確立すべきだと思います。
広告主にインハウスプログラミングを提供
-DSPはエージェンシーやエクスチェンジが自身でDSP機能やテクノロジースタックを構築していく中で、どのように競争力を保っていくべきでしょうか?
本当に強固な広告スタックを構築して効果的に競争できるのはほんの一握りの会社に留まります。その為、市場を需要と供給プレーヤーに分割することが重要であると考えています。DSPにはロケーションやパフォーマンスマーケティングなど様々な特色があり、DSP間で様々な差別化を持ちながらサービスを提供していくべきです。
-BidStalkがグループに加わった事で、AppLiftはターゲティングやモバイルプラットフォームの属性の課題をどのように解決しようとしていますか?
AppLiftは、独自のDataLiftを活用する事でプログラミングの世界において様々な功績を築き上げてきました。Bidstalkの獲得により、私たちは広告主が完全にプログラミングアクティビティを管理できるよう、RTBプログラミングの機能やユーザーインターフェースを追加し、「インハウスプログラミング」を広告主に提供しています。これらによって、広告主が(それぞれの利用のためにサイロ化が維持されながら)ファーストパーティーデータを簡単に効率化でき、自動的にオーディエンスセグメントを構築できます。
DataLiftプラットフォームによって、広告主はオンボードデータやキャンペーンデータの両方からオーディエンスセグメントを作成できるようになります。例えば、広告主は、すでにアプリケーションをインストールしたユーザーをターゲティングしたり、リターゲティングしたりできます。または、特定のキャンペーン上でクリックしたものの、コンバートしなかったユーザーに異なるメッセージを送信することもできます。
よく利用される他のケースとしては、広告主がネガティブターゲティングリストを作成する場合です。すでにアプリケーションをインストールしたユーザーをユーザー獲得キャンペーンのためにターゲティングしないことで、マーケティング費用を遙かに効率的に管理することが出来るでしょう。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。