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中華圏展開の架け橋を担う「Vpon」が語る、日本と東アジアのモバイル広告市場 <インタビュー>

Vpon

台北、上海・香港・東京などに現地法人を持ち、東アジアで急成長を遂げているモバイル広告プラットフォーム「Vpon」。

2015年Forbes誌が選ぶ、「中国で潜在能力のある非上場企業TOP100」で3位にランクインしている。同社グループトップのVictor Wu氏と同社日本法人トップの篠原 好孝氏に、Vponの事業展開の現状と、同社事業を通して見た日本と東アジアのモバイル広告市場について聞いた。

(聞き手:ExchangeWire編集長:野下 智之)

 

 

 

英国ビジネスコンテストを機に誕生した台湾No.1モバイルアドネットワーク企業

 

--VictorさんのバックグランドとVponを設立した背景を教えてください

 

Mr.Victor WuVictor氏:Vponを設立する前は、私はIBMのエンジニアで、2008年にVponを創業しました。そのきっかけとなったのは、2007年に英国で開催されたBlueprint Competitionというビジネスコンテストです。

この頃私は、英国で最も歴史がある大学の一つであるDurham大学の大学院でエンジニアの勉強をしていました。その当時、WPPグループの英国人とパートナーシップを組んでVponというチーム名でコンテストに参加し、一位の座を獲得しました。Vponというのは、Virtual Couponの略称です。これは当時アジアで初めてスマートフォンに搭載されたモバイルクーポンの仕組みでした。

モバイルクーポンは、広告ビジネス全体の一部に過ぎず、仮に私たちが台湾でNo.1のモバイルクーポン事業者の座を獲得したとしても、それだけで生き残ることは難しいと判断しました。そこで、ビジネスモデルをモバイルアドネットワークへとシフトさせることに決めました。

2011年にAラウンドで700万ドルの資金調達を行いました。調達した資金は、中国ビジネスへの投資に充てました。現在Vponは、台北、上海、香港、東京の4拠点を構えてビジネスを展開しています。

 

 

--Vponの会社概要について教えてください

 

Victor氏:当社は台湾でNo.1のモバイルアドネットワーク会社です。アドネットワークの他に、DSPやトレーディングデスクなどのサービスを提供しています。従業員数は、全拠点を合わせると100名を超えています。

Vponのビジネスモデルは広告ですが、私たちのコアバリューはデータにあります。私たちはデータカンパニーなのです。Vponは、ユーザー行動に関する膨大な量のデータを持っています。その規模は、アジア全体でユニークディバイス数の4億以上をカバーしています。

 

私たちはこのデータを、スマートフォンアプリのSDKから取得しています。クッキーを使ったデータ取得はせず、全てのデータは各国・地域のプライバシーポリシーに準拠した匿名のデータです。端末がどのようなアプリを見ているか、どのようなキーワードで検索したか、あるいはどこにいるかについて、ユーザーの許諾を前提に情報収集をしています。

 

 

 

大好きな日本市場への参入: 活きるVponならではの強みと立ち位置

 

--日本の市場に参入した背景と現状の展開状況を教えてください
 

Victor氏:アジア地域では既に中国では事業展開を進めていますが、次の進出国をどこにするかと考えた際、日本と東南アジアとの二つの選択肢がありました。日本は東南アジアよりも市場規模が大きいですが、競争環境が厳しいということが分かりました。そこで、当社は日本企業の海外市場進出支援と、台湾・中国企業の日本進出支援という領域で強みを生かせると判断し、日本への進出を決めました。もう一つの理由は、私自身が日本の文化や日本食が大好きだからです(笑)。

皆さんご存じのとおり、台湾人は日本のことが大好きですし、日本の皆さんも私たちに対して好意的だと感じています。これはソフトな理由です。

現日本法人社長の篠原と会い、ビジネスパートナーとして素晴らしい人だと感じ、日本で会社を設立する際はぜひ社長として迎えたいと伝えました。

 

篠原氏:私は2014に入ってから何度かVictor達と会う機会があり、彼らの日本展開についてアドバイスをしてきましたが、その中で立ち上げを一緒にやらないかと打診されました。そして、2014年の夏、Vponと台湾・中華圏のマーケットの可能性を確信して、Vpon Japanの立ち上げを担うことを決めました。

篠原 好孝氏ご存じのとおり、日本市場は外資系企業にとって攻略が非常に難しいマーケットです。ネット広告だけでもたくさんの外資系企業が参入していますが、様々な理由から市場をペネトレートするのが難しく、中途半端な投資ではうまくいきません。特にスマートフォン広告市場はローカルプレイヤーの存在感が強く、グローバルでシェアを取っている会社であっても、日本市場に割って入れていないプレイヤーが多く存在しますし、それを身をもって経験してきました。その様な状況の中で、唯一取れる戦略は”こうだ“という仮説が自分の中にあり、それをVictorやその他の経営層に伝えて理解、納得してもらい、日本市場での展開を決めました。

 

日本法人であるVpon Japan株式会社の設立は、2014年8月です。日本法人は現在5人のメンバーが在籍しています。お取引させていただいているクライアント様は海外に目を向けている所が非常に多いです。2014年以降、その対象国として台湾、その他中華圏が非常に注目されています。台湾No.1のアドネットワークとして海外進出を考えているクライアント様のマーケティング、ユーザー獲得のご支援、という部分に特化してマーケットにメッセージングすることで、Vpon Japanとは何をしてくれるのか、それをこの半年で大分浸透させることが出来たと実感しています。

 

日本国内の市場攻略は簡単ではない、いくら優れたプロダクトも日本の国民性や技術文化を考慮した上で参入しなければうまく行きません。かつ複数の強力な国内プレイヤーでシェアを占めている市場の中で、明確な戦略とオペレーションを引いて現地法人が現場を基本的にはコントロールできる体制を敷くことが大切だと感じています。

 

 

--日本のクライアントは想定通り投資を増やしていますか?
 

篠原氏:おかげさまで、クライアント様からは当初の予想以上に引き合いをいただいています。

前職からアプリを運営するクライアント層の台湾、アジアへの展開は見てきており、ある程度想定していましたが、それ以外にも不動産、食品、EC、旅行など、数多くの業種の企業のニーズがあることが分かりました。

また、インバウンド(訪日観光客)に対する中華圏旅行客への広告訴求ニーズはとても高まっています。

既に訪日している方へのターゲティングもそうですが、訪日前に訴求し認知を高めるようなキャンペーンも既に実績が出始めています。国、自治体が積極的に訪日観光客を増やす施策を展開していますし、私たちのような中華圏に強みを持った広告配信事業者への期待値もとても感じています。
 

 

 

特徴が異なる東アジアの各市場、日本市場は良くも悪くも特別な存在

 

--展開先国・地域である台湾・中国・香港の市場の状況について教えてください
 

Mr.Victor WuVictor氏:成長率の観点でみると、どの市場も毎年前年比プラス50%以上の成長を遂げているとみています。ですが、中国、台湾、香港の市場はそれぞれ全く性質が異なります。中国は、競争がとても激しく、どこの企業も利益を出すのが難しい市場です。でも、市場規模はとても大きい。

台湾と香港は、中国と比べると規模は小さな市場です。しかし中国ほどは競争が激しくありません。 香港の市場特性は台湾ともまた異なります。香港はテクノロジードリブンというよりは、メディアバイドリブンな市場であり、RTB広告の流通がまだ普及していません。

台湾はモバイルRTB広告のエコシステムが出来、普及が進みつつあります。各プレイヤーが取り組むべきことを取組めば、一定の利益が得られる市場です。

 

広告主の特徴という観点から日本のモバイル広告市場の特徴を挙げると、日本の広告主はパフォーマンス重視の傾向がみられます。台湾のVponの主な広告主はブランド広告主です。

 

 

篠原氏:日本市場は、ブランド広告主のスマートフォン広告への予算がまだそれほど大きくありません。ビデオ広告やネイティブ広告にブランド広告主の予算がさらに落ち始めると、マーケットの状況も変わり始めるのではないかと思います。

 

Victor氏:Vponは、台湾で既に1000社以上の広告主の出稿実績があります。P&G、ユニリーバ、その他大手消費財メーカー、ケンタッキーフライドチキンなどの大手レストランチェーン、トヨタ、ホンダ、BMWなどの自動車メーカーは当社を通して広告を出稿しています。まだ金額は大きくないですが、増加しつつあります。また銀行も出稿しています。この実績を元に、日本のブランド広告主のプロモーションのお手伝いもしたいと思っています。

 

 

--法律や規制などで各市場の違いはありますか?
 

Victor氏:台湾はユーザー保護の観点で厳しい規制があります。日本でも厳しい規制があると聞いております。中国の規制は他の国と比べそれほど厳しくないですね。
篠原 好孝氏国により多少のばらつきはありますが、私たちは各国の規制に完全に順守しています。
 

篠原氏:Vpon台湾では、位置情報を活用した広告が売れています。SDKからユーザーの位置情報を取得し、その情報をもとにターゲティング広告を配信しています。日本では位置情報の活用についてもセンシティブですので、当社でも慎重な対応をしています。

このように、ユーザーのプライバシーをどこまで許容するかという判断基準は、台湾と日本では異なったりもするのです。

 

 

--日本市場の良いと思う点、興味がある点は何かありますか

 

Victor氏:日本市場には、とてもクリエイティブな広告フォーマットがあります。日本市場は、フィーチャーフォン時代のi-modeが昔から普及していたため、とても成熟しており、ユーザーも洗練されています。これから、日本市場から多くを学びながら事業を進めていきたいと考えています。

一方で、日本市場は他の国と比べてスマートフォンシフトが少し遅れました。その分、まだこの先の成長余地が大きいだろうと捉えています。

Mr.Victor Wu中国のスマートフォンのエコシステムの成長はとても早く、また世界の中でも先進的でもあります。新しいビジネスアイデアは、中国からもたらされることもあります。

私たちは、各国から多くの新しいことを学んでいます。歴史のある日本、成長が早い中国などから多くのことを学び、それぞれの国に紹介できるような懸け橋になりたいと考えています。

あと日本市場の良いところは人です。皆さん誠実で信頼できる方ばかりです。誰も人をだまそうなどということを考える人がいないという点ですね。

 

 

--日本のスマートフォン広告マーケットについて課題・疑問に感じる点はありますか?
 

篠原氏:日本にはフィーチャーフォンで発展した独自の文化があります。フィーチャーフォンの文化とはモバイルWebブラウザの文化でもあります。この文化はスマートフォンにシフトしても同様です。モバイルWebを中心として発展してきた広告配信フォーマットや配信技術があり、ここが海外と大きく違う部分です。例えば、Java Scriptなどの技術における日本と海外での使われ方や技術レベルも大きな違いがあります。

これによって、海外の技術を取り入れたプロダクトの進化がスピードダウンしてしまうという現象が起きます。前職でもこの技術文化の違いには多くの時間を割いてディスカッションしてきましたが、解決までには多くの時間と人が必要でした。また、どうしても折り合えない部分もありました。

Vpon では日本専任の技術者をアサインするなど、スピーディーに日本のニーズに沿える体制を整えようとしています。

 

Victor氏:篠原が言うように、日本は海外から見ると制度面や技術面で大きな違いがあります。このことは海外事業者の参入に対するバリアになりますし、日本の事業者が海外展開を抑制する要因にもなってしまいます。いい意味でも悪い意味でも影響があるでしょう。

 

 

 

Vponが目指すのは日本と中華圏、グローバル市場との架け橋

 

--今後の展開について教えてください
 

Vponの今後の戦略は大きく二つあります。一つ目は、データビジネスを行っていくこと。二つ目はグローバル企業を目指すということ。次の参入市場についてはまだ決めていませんが、東南アジアを次の展開先として有望視しています。

 

Vponは台湾企業ですが、日本の会社と中国や他の国の会社との橋渡し役を担いたいと思っています。Vponも日本の会社と同じ、誠実な企業です。

 

 

--日本の読者の方にメッセージをお願いします
 

私たちは、各国の文化を理解した上で、日本企業が台湾、香港、中国に展開する際の支援を行うことが出来ます。日本企業と、日本や海外での合弁事業を行うようなことにも関心があります。

Vpon_logo_2過去の歴史を紐解いてみても、日本の総合商社が台湾企業と合弁会社を作り中国に進出するというケースがあります。日本企業が直接中国に進出するのではなく、まずは現地企業と合弁事業会社を作り中国市場に進出するような形が珍しくなくありません。

 

日本企業とは日本国内におけるパートナーシップのみではなく、台湾、香港、中国で一緒に事業展開するようなパートナーシップも模索したいと思っていますので、関心を持っていただけましたらぜひご連絡をいただければと思います。

(編集:三橋 ゆか里)

 

 

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。