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クリテオIPOウォッチ:リターゲティングの王者が上場前にイーコマースシステムを構築、その訳は?

(7/26配信のEMEA記事の日本語版。オリジナルはこちら)
イーコマースの世界は常に変化が起っており、ソーシャルウェブの台頭がより複雑に混乱を引き起こしている。とはいえ、イーコマース市場は成長し続けており、依然としてインターネットエコシステムの重要な役割を担っている。

クリテオは、イーコマースの領域で主要な広告ソリューションを提供している新興企業だ。創業当時より彼らの市場参入戦略は、直接イーコマースベンダーとパートナーを結ぶことであり、ほとんどの代理店を中抜きにしている。今年は既に4億ドルの売上げを記録していることからみても、この戦略はうまくいっているようだ。しかも2008年から利益を出し続けている。どれほどのアドテク企業がこれほど堅調なビジネスができているだろうか?

クリテオは来年始めにもNY株式市場への上場を検討していると言われている。しかしながら、リターゲティングネットワークは、大型上場になる可能性はあるだろうか?おそらく、その可能性は低いだろう。リターゲティングは、1ビジネスモデルとして拡張性があるが、方向転換が必要である。これはリターゲティングソリューションを必死に正当化するのではなく、クリテオが新興イーコマースとして発展する可能性を秘めている。
ディスプレイ広告にすべての最新機能がそろっているのを見るように、クリテオは自社の価値を正当化、すなわちイーコマースの機能を備えて上場すれば15億ドル以上の価値がつくだろう。

 
なぜ、イーコマースビジネスに参入するのか?

上述したように、市場ではトップクラスと称されるリターゲティングソリューションを提供していたとしても、リターゲティングだけでは価値に限りがある。クリテオは、方向転換が必要であり、”(コンバージョンの)上流ファネル”を単に見ているだけではなく、より賢く、知的な"潜在顧客”を提供する方法が求められる。

リターゲティングビジネスは数億ドルの市場規模が限界であり、いずれはグーグルや他のバイサイドのソリューションによりこの市場シェアは少しずつ奪われていくことになる。大きなプラットフォーム企業は、クライアントである代理店が使いやすいように、ダイナミック・クリエイティブをアドサーバーに組み込んでいくだろう。

 
クリテオがイーコマースへ転身するための成功要因は?

 
クリテオは包括的なイーコマースシステムを展開するために、少しだけM&Aの必要があるかもしれない。なぜなら、今まわりにはベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティからの金があふれており、明確なプロポジションを持つことは確実に上場準備期の投資家を惹き付けることは明らかだ。イーコマースシステムを構築することは、クリテオの提供サービスが多様化するだけでなく、イーコマースのブランド企業に直接、信頼できるバイサイドや最適化を提供できるポジションを確固たるものにすることができる。

 
自社開発と買収の決め手は?

 
タグマネジメント

クリテオは、タグマネージメントベンダーとパートナー関係を締結するなど、過去スマートな形でビジネス関係を形成してきた。これは、クライアントとのポジショニングを形成するにあたり、非常に重要な要素である。たった1クリックでコードを実装できるということが、潜在的にあるIT関連のツール導入への障壁を取り除いてくれるからだ。ここで疑問がひとつ。既にタグマネージメントベンダーとパートナー関係を結んでいるのに、なぜあえてここで買収または自社開発する必要があるのか?タグマネジメント企業が代理店コミュニティとより近い関係になるにつれ、可能な限り代理店は(業界全体として)クリテオに対し一定の距離感を置き続けるだろう。

もし、タグマネジメントへの責任が代理店側にあるならば、クリテオの”1クリックで導入できる”優位性は失われることになる。大手代理店が、クリテオをよく思わない根本的な理由は2つある。1つは代理店とクライアント、それぞれと直接取引する2重のビジネス戦略であること。もうひとつは、クリテオが提供しているサービスが非常に素晴らしいが故に、代理店の急成長サービスであるトレーディングデスク(基本的にはリターゲティングによって発生しているビジネス)の存在価値に脅威を与えていることである。

クリテオは、広告主が直接データ配信の管理ができるという立場を守り続ける必要がある。とはいえ、タグマネジメントはイーコマースには”なくてはならない”サービスに成長していることを忘れてはならない。自社開発か、買収か?それが問題だ。買収するには米国のソリューション企業は高すぎるが、ある程度良いヨーロッパまたはアジアのソリューション企業であれば格安で手に入れることは可能だろう。

サイトパーソナライゼーション

クリテオの次の明らかな一手は、イーコマースサイトのコンテンツのパーソライゼーションだ。この領域には競合が多いが、クリテオには活用できる膨大な顧客基盤を持っている。広告コンテンツのパーソナライゼーションから、ショッピング体験のパーソライゼーションへの製品の進化はいたって自然だ。どう少なく見積もっても、ランディングページはクリテオの広告で活用できている同じユーザーレベルのインサイトを取り込めるようデザインできる。

クリテオにはこの開発をゼロから着手できる充分な研究開発スタッフがパリにいる。(ヨーロッパ人だって、広告テクノロジーを開発できるのだ!)市場には上場に行き詰まりを感じている企業も少なからず存在しているし、クリテオなら若いスタートアップの企業にたいして、(ある程度の現金と株で)“簡単には断れない”取引を提示することさえできる。そういう意味では、ロンドンに本社のあるSub2Tech社は、高い価値を提示できる格好の買収先だろう。

 
モバイルの可能性は?

ことにモバイルに関しては、クリテオは王道を外れなくてはならないかもしれない。モバイルコマースは幅広いイーコマース業界のなかでも成長著しい分野だ。しかし、モバイルコマースにおける広告の役割は、いささか不透明である。(モバイルディスプレイ広告はマンネリ化している。)とはいえ、上場するタイミングでは、クリテオはモバイル分野での大きな話題が必要になるだろう。広告ソリューションが難しいのであれば、モバイル決済システムの可能性はどうだろうか?
ebayは過去12ヶ月でモバイルコマースのビジネスが急上昇したと最近発表している。クリテオがイーコマースの分野で確固たる地位を築き、モバイル市場に進出する方法はあるだろうか?ちまたでは、自社の既得権益を主張しようとする企業があふれている。クリテオは、ソリューションを強化し、それらをイーコマースのシステムソリューションの中に盛り込むことができるだろうか?

成長著しいリターゲティングビジネスは、まだまだグローバル市場での成長が期待されている。しかしながら、株式市場は“コンバージョンファネルのコンバージョンに近い部分”をターゲティングできるという単なる機能以上のものを求めている。ビジネスに垂直的な拡大を見せる事ができれば、彼らのIPO は確実に投資家達を魅了することになるだろうし、クリテオのメインとなるビジネスモデルでの地位を確固たるものにするのは明らかだ。そしてなによりも、イーコマース分野のヨーロッパの企業により多くの収益への風穴を通すことになるだろう。

 

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長

米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。