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「Money Forward」「Google Wallet」などの マネー関連サービスから発想する広告の可能性 |WireColumn

ThinkJam 荒井さん、前田さん

家計を管理する「アカウントアグリゲーション」と、決済を行う「モバイルウォレット」の現状を踏まえながら今後どのような広告が登場するかを考えていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

●企業が生活者の台所事情を把握する時代に!?

2013年10月、クレジットカードの情報を基にクーポンなどの特典を配信するCLO(Card Linked Offers)の促進を目的に、企業連合「CardLinx」が結成されました。参加企業はMicrosoftやバンク・オブ・アメリカ、MasterCard、facebook、GROUPONなど、そうそうたる顔ぶれ。これらの企業は、オープンな決済ネットワークの普及により、決済業界にイノベーションを起こそうとしています。

どういうことかというと、オンラインでクーポンを配信する場合、会員登録や購入履歴といった過去の「オンライン上の行動」に基づいて配信することが一般的でしたが、近年では、オンライン上の行動だけでなく、個人の「お金の流れ」に基づいてクーポンを配信する、といった潮流が生まれてきているのです。

今回は、企業が「お金の流れ」を知るための2つの方法、「アカウントアグリゲーション」と「モバイルウォレット」の現状を整理しながら、今後どんな広告が登場するか考えていきたいと思います。

 

 

●家計がまる見えになる「アカウントアグリゲーション」

読者のみなさんはご存知かもしれませんが、アカウントアグリゲーションとは、複数ある金融機関の口座を一括管理できるオンラインサービスです。インターネットバンキングなどのオンライン会員情報を紐づけることで、個人のマネーデータを一箇所に集めることができます。

国内のサービスではMoneyLookやKakeibon(旧OCN家計簿)が有名ですが、勢いを増しているのが2012年から始まったMoney Forward。

Money Forwardは対応する金融機関が1400以上と多く、レシートを撮影して支出管理を行うReceRecoと連携しているほか、確定申告や法人会計サービスも用意しています。

 

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 Money Forward

 

アカウントアグリゲーション先進国のアメリカでは、ユーザーに適したクレジットカードや保険をレコメンドするMint.comや、資産運用に便利なポートフォリオを作成できるPersonal Capitalなどの一歩踏み込んだサービスも存在しているようです。

日本の個人資産は欧米に比べて、預金が多く、投資信託や株式など資産運用は少ないと言われています。しかし、2014年1月から始まった少額投資非課税制度NISAや、増税による負担増、年金への不安などから、今後1人ひとりが自らの資産を計画的に運用する意識が高まっていくことで、日本でもアカウントアグリゲーションがより注目されるようになるかもしれません。

 

 

●現金不要、カード不要でショッピングできる「モバイルウォレット」

日本では、実店舗においては現金払いがまだまだ一般的ですが、海外では最近、モバイルウォレットの利用が加速化しているようです。モバイルウォレットとは、スマートフォンを利用した決済機能の総称です。おなじみの「おサイフケータイ」もFeliCaによる近距離通信の決済ですが、モバイルウォレットの決済は近距離通信だけではありません。

PayPalではあらかじめアプリにクレジットカード情報を登録しておくことで、店内でチェックインするだけで決済できる「顔パス払い」を提供しています。さらに2014年開始予定の「PayPal Beacon」では、ノータッチでの決済が可能。店内に設置された専用端末とスマートフォンの通信許可を入店時に行えば、あとは「PayPalで払う」と店員に伝えるだけです。この通信にはBluetooth Low Energyという技術が使われています。

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 PayPal Beacon

 

モバイルウォレットの特徴は他にもあります。それは普及への鍵である「オールインワン」です。たとえばGoogle Walletを例にしてみましょう(2014年2月時点では、Google Walletのアプリはアメリカのみ利用可能)。

Google Walletでは、複数のクレジットカード、デビットカード情報を登録することができます。そのため何枚ものカードを持ち歩く必要はありません。店舗側は、決済用の専用端末を用意することが必要になりますが、「Google Wallet Card」と呼ばれる新しいデビットカードが導入されたことで、MasterCard対応店舗であればどこでもGoogle Walletを利用可能となり、利用できる範囲は広がっています。

さらに、ポイントカードやクーポンの機能も内蔵しています。Google Walletを使ってポイントプログラムでリピートを促し、位置情報によってクーポンを配信すれば購入につなげることも期待できます。

このように、スマートフォンを持っていれば現金を持ち歩く必要もなく、ポイントカードも紙のクーポンもいらない、まさに財布に置き換わるオールインワンな存在なのです。もちろんGoogle Walletはオンライン決済でも利用可能なため、オンラインとオフライン両方の購入履歴を管理できることになります。

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 Google Wallet

 

今後、モバイルウォレットが普及してくると、日本では今までは取得しづらかった、実店舗で誰が何を買ったのかというデータも取得できるようになるでしょう。Amazonは2013年にモバイル決済アプリを提供するGopagoを買収したことでモバイル決済市場にも事業展開することが予測され、Appleも実店舗で使えるモバイル決済を導入するとされています。AmazonやiTunesで既にクレジットカード情報を登録済みの人は多いため、決済サービス展開のハードルは低いかもしれません。今後、決済情報を取得するためのバトルが繰り広げられることは確実といえます。

また、モバイルウォレットが根付くためには、機能が集約されていること、店舗側の導入が容易なことに加えて、残金や支払い額をリアルタイムで表示し、使った額がわからなくなるというようなクレジットカードのマイナス面を補える機能が実装されることもポイントになるでしょう。

 

 

●マネーデータで、的外れな広告が減少する!?

「アカウントアグリゲーション」や「モバイルウォレット」でマネーデータを把握することが、広告にどのような可能性をもたらすのでしょうか?集められたマネーデータが、生活者の同意の上、他の民間企業に提供されるようになることを前提に、少し考えてみましょう。

まず1つは、先にも述べたCLOの拡張です。アカウントアグリゲーションやモバイルウォレットが利用されることで、一枚のクレジットカードに限らず、複数のクレジットカードやデビットカードの決済情報を統合し、何を購入したのか?をより幅広く把握することができます。それを基により適したクーポン(広告)を配信することは可能になるでしょう。

究極的には、オンライン・オフライン、自社メディア・他社メディアの垣根を越えてマネーデータを把握することで、生活者が既に持っている商品を正確に知ることができるようになります。100%把握することは難しいと思いますが、すでに購入した商品の広告が何度も表示されるようなストレスを減らすことはできるようになるかと思います。また、ギフトを探す際にも、相手が既に持っているものをあらかじめフィルタリングしてレコメンドしてくれれば、余計な気苦労も緩和されそうですね。

アカウントアグリケーションの中には、将来の貯蓄目標金額やその目的(例えば、結婚資金など)を登録させるものもあります。そこには、ユーザー自身が書いたニーズがあらわれていますので、その内容を読み込むことで、ユーザーが今後したいこと、関心のあること、今後待ち受けるライフイベントを把握したうえで、より効果的な広告を配信することも可能でしょう。

価格に着目した広告も考えられます。いつも実店舗でリピート購入しているコモディティ商品の価格が分かれば、同じカテゴリーでより安い商品をオンライン上でレコメンドするなど、ブランドスイッチを促す施策も考えられます。その逆に、いつもECサイトで買っている商品よりも安価で販売している店舗を、近くを通りがかった際にプッシュ通知することも可能かもしれません。

 

 

●マネーデータを制するものは、マーケットも制す!?

今回紹介した、お金の支出を管理する「アカウントアグリゲーション」と決済を行う「モバイルウォレット」は、お金の流れを把握できるという点でとても似ています。将来的にはアカウントアグリケーションに決済機能が付加される、またはモバイルウォレットに資産運用機能が付加されるなど、互いに融合していくことで、毎日の買い物から生涯のフィナンシャルプランまで、1つのサービスで管理できるようなサービスが登場してくると思います。そして、そのサービスのシェアを獲得したものが、次世代のプラットフォーマーになるような予感がしています。

ABOUT 荒井勇人、 前田衣里奈

荒井勇人、 前田衣里奈

株式会社シンクジャム プランナー

【荒井】2009年にシンクジャムを共同設立。WebサイトのIAプランニングをコアスキルに、構築ディレクションや戦略プランニングなどの面でも、大手企業のマーケティング支援を行っています。

【前田】国立の理系大学院を卒業後、シンクジャムに入社。Webプランナー兼アナリストとして従事する傍ら、定期的に国内外のWebマーケティング動向などを調査し、Web上などで発信中。