グローバルSSPの日本提供を開始した「PubMatic」のエグセグティブによる国内外の市場分析とは <インタビュー>
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on 2014年5月09日 in米PubMaticは、ソネット・メディア・ネットワークスと提携し、日本国内でグローバルSSPを提供することを発表した。日本参入にあたって来日したGlobal Chief Revenue Officerのロブ・ジョナス氏、Vice President, Asia Pacificのジェイソン・バーンズ氏にお話を伺った。
(ExchangeWire Japan編集部)
グローバルSSP提供社による国内外市場の分析
--御社のビジネス概要、また他社製のグローバルSSPとの違いを教えてください。
ジョナス:PubMaticを立ち上げて8年目になります。弊社は、Strategic Selling Platform(SSP)を初めて作った会社のひとつです。パブリッシャーの問題を解決し、デジタルなインベントリー(広告枠の在庫)や、新たなアセットの価値を見出すお手伝いをしています。これまで、USとヨーロッパ、アジアの一部地域でビジネスを展開しており、今後、急成長が予想される日本への進出を決めました。
弊社の競合とされる各社は、現在、エクスチェンジのプラットフォームへの移行フェーズにあると見ています。一方、PubMaticはパブリッシャーに特化したソリューションを提供し、インベントリーの収益化を助ける、独立したプラットフォームを提供しています。この点が、競合他社とは大きく異なります。
--グローバル視点で見る、媒体社の抱える課題はどんなものですか。
ジョナス:従来、パブリッシャーは広告主の予算をマニュアルな方法で獲得することで売り上げに繋げていましたが、プログラマティックな取引きが登場し、それに順応する必要が出てきました。広告主に対して、パブリッシャーのインベントリーが持つオーディエンスを付加価値として売っていく、これが共通課題となっています。
--プログラマティックへの対応について、日本市場と、先行するアメリカやヨーロッパに違いは見られますか。
ジョナス:日本と海外では、やはり市場の成熟度が違います。USが成熟し、UKが第2位、ヨーロッパのその他の地域が追随するのが現状ですが、日本が他の市場と特に異なる点が3つあります。1つは、ホリゾンタル(並列)のビジネスという点です。代理店がDSP、SSP両方のプラットフォームを持ってサービス提供をするのは日本固有の状況です。
2つ目は、日本ではプログラマティックなバイイングでエージェンシートレーディングデスクの活発な動きが見られないという点です。そして3つ目は、オーディエンスデータの活用が進んでいない点です。プライベートマーケットプレイスやオーディエンスターゲティングは、US、UKに比べて浸透速度が遅いと感じます。
--ロブさんは過去にも日本でのビジネスの立ち上げの経験があります。日本でサービスをローカライズして提供する上で重要だと思う点を教えてください。
ジョナス:重要だと考えていることが2つあります。1つはプロダクトを日本に持って来る時に、日本ならではのビジネスのスタイルに合わせていくことです。PubMaticでは、過去3カ月間ここにフォーカスしてプロダクトを作り、更に対応や改善を続けています。
もう1つは、日本固有のビジネスモデルに由来する、パブリッシャーの独特な要求を見極めることです。リクエストに応じて、クリエイティブの事前審査機能などを採用しています。
パートナーに求めるのは、媒体社へのフォーカス
--今回、ソネットをパートナーに選んだポイントを教えてください。意外な組み合わせだと見る向きもありましたが。
ジョナス:ひとつは、ソネットがパブリッシャーにフォーカスした会社であることです。So-netグループの一員であるソネット・メディア・ネットワークスには、グループのメディア運営、他パブリッシャーの運用実績があり、ビジョンも弊社に近いものを持っています。
2つ目のポイントは、パートナーを探す最初の段階で、ソネット・メディア・ネットワークスの代表取締役社長地引氏、またチームの皆さんの熱意を感じたこと。
3つ目は、ソネット・メディア・ネットワークスが日本でブランド力を持つ会社だということです。日本だけでなくグローバルに展開していくという視野も持っていたので、パートナーシップを組むという判断をしました。
--ジェイソンさんは、つい先日まで大手パブリッシャーでプログラマティックを推進する責任者でした。今回のパートナーシップを通じて、これまでに培ってきたベストプラクティスがサービスに反映されるのでしょうか。
ジョナス:はい、その予定です。パブリッシャーがインベントリー(広告在庫)をどのように最適化していくか、データを活用してどのようにプログラマティックへ移行させていくか。彼のパブリッシャー側の、成功と失敗の経験を今後のビジネスに積極的に反映させていきたいと思っています。
--ジェイソンさんが、パブリッシャー側で最後に取り組まれていた課題はなんでしたか?
バーンズ:テクノロジーの視点では、モバイルのプログラマティックへの対応と、オーディエンスターゲティングの有効的な活用に取り組んでいました。後者では、DMPを使って新しいパッケージを作り、適切な価格で代理店へ提供するなど、ビジネスの各ステップにおける正しいデータの活用が課題でした。
また、パブリッシャーとして社内に適切な人員を配置することは常に課題でした。優秀な専門の人材不足は、グローバルな共通課題です。そういう点では、Pubmaticがソネット・メディア・ネットワーク社という経験豊富なパートナーの協力を得てパブリッシャーをサポートできるということは、今回の取組みにおける重要なポイントであると考えています。
急成長するモバイル分野のプログラマティックへの動き
--ロブさんは以前InMobiに在籍されていて、グローバルな視点に立ったモバイルネットワークへの知見があります。モバイルのプログラマティックへの対応状況、日本のモバイルの特徴を教えてください。
ジョナス:2年前、スマートフォンやタブレットからのユーザー流入は、20〜25%程度でした。現在はWebサイトへのアクセスの80%以上がモバイル端末で、2年後にはモバイルに限定したビジネス展開をするパブリッシャーも出てくると言われています。今まさに需要が広がり、これからプログラマティックな部分が導入されていくのがモバイルの分野だと思います。
プログラマティックな部分が伸びていく要因のひとつが、グローバルなトレンドです。モバイル業界、またプログラマティックなテクノロジーの成長、ネイティブアドの拡大、そしてクロススクリーン。クロススクリーンとは、オーディエンスの情報を、モバイルだけでなくPCなど他のデバイスにも適用するものです。バイヤーは、同じユーザーを異なるデバイスでターゲティング出来るため、PubMaticも注力している部分です。この分野では、ここ1年ほどAdTruthとパートナーシップを結んで取り組んでいます。
他国と同様、日本のモバイルもまだ新しい分野で、概ねグローバルと足並みを揃えてトレンドが発生していると思っています。こうした分野に関しても、ソネット・メディア・ネットワークスの日本における知見を活かしてビジネスを展開していきたいと考えています。
--ソネットさんは、スマートフォン対応の優先順位が決して高くないアメリカのベンダーが多いなか、PubMaticの先進的な取り組みが提携の決め手だったとのこと。スマートフォン対応テクノロジーの特徴を教えてください。
ジョナス:弊社のモバイル技術は、対応を開始して2年目に突入しました。私たちは、PCで出来ることはモバイルでも可能であるべきだと考えています。イールドオプティマイゼーションやRTB、プライベートマーケットプレイスなど、PCで提供してきた機能はモバイルでも活用できるようにしています。
そしてモバイル分野では、データのエンリッチメント(充実)にフォーカスしています。モバイルで60以上のパラメータでデータを取得しており、ロケーションデータを使えば、インプレッションに対する価値が30%向上するといったことも分かってきています。
海外パブリッシャーの広告在庫を一元管理するテクノロジー
--世界ではプライベートマーケットプレイスに注目が集まるなか、日本では理解が進んでいません。簡単な定義と、グローバルで注目を集めている理由、媒体社のメリットを教えてください。
ジョナス:媒体社がRTBを利用する場合、パブリッシャー1に対してパートナー複数社の在庫からベストなものを選びます。一方、プライベートマーケットプレイスはパブリッシャー1に対して、案件も1という「1対1のマーケットプレイス」なのです。
バーンズ:プライベートマーケットプレイスが注目される一番の理由は、効率性です。パブリッシャーと広告主が1対1で取引きするので、インベントリー(広告枠の在庫)を買う期間も決められますし、通常の2〜3倍位の売上げを得られます。その上、どんなパブリッシャーのどのようなインベントリーに広告が配信されるかが分かるという透明性、安全性もあります。
--マネタイズという視点で伺います。御社の製品には、純広告を含めた全ての広告在庫を一元化、最適化するユニファイドオプティマイゼーション機能があります。海外、特にプレミアムパブリッシャーの採用状況、実際の効果があれば教えてください。
ジョナス:パブリッシャーは、段階を追ってプログラマティックな製品を導入していきます。アメリカで、大きなパブリッシャーがユニファイドオプティマイゼーションを導入する際も、まず詳細なデータを提供しました。直販とプログラマティックでそれぞれ売り上げが伸びている部分もあれば、別々である故に機会損失している部分がある、といった点を理解してもらいます。
データを基に、そこにある機会を見つけてテストを実施することでラーニングを重ね、プログラマティックな部分の情報を増やして拡大していく。このステップで導入を進め、売り上げを伸ばしました。ユニファイド導入によって、直販での広告主との関係が失われてしまうこともありません。
--最後に、日本のマーケットへのメッセージをお願いします。
ジョナス:日本のプログラマティックなマーケットは、これから2、3年で世界でも有数の巨大マーケットになるでしょう。製品を導入するには、戦略やパートナーの選定、準備期間が必要となるので、早めの今の段階から取りかかっていただくのが良いと思います。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。