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これからのCMOに求められる最適な投資プランニングを実現するために —デジタルが貢献できることを考える |WireColumn

IMJ Mr.ishii

5回に渡り、マーケティング投資最適化(MMO: Marketing Mix Optimization)の重要性について連載してきました。最終回である今回は、拡大し続けるCMOやマーケティング統括者の役割について考えます。

 

本連載では、IMJのMarketing & Technology Labs (MTL)のシニアコンサルタント石井俊宏より、マーケティングROIを見据えた上流レベルの戦略や事例をご紹介します。

 

 

 

 

これからのCMO像

マーケティングのIT投資予算額は、CIOよりCMOの方が多くなるだろうと複数の機関が予測しています。そのため、これからのCMOはITについての高度な知識を持つ人間でなければならない、と言われています。特にデジタルマーケティング領域では、広告出稿をより効率的・効果的に行い、リアルタイムに実施するための技術が急スピードで発展しています。そのため、ビジネス的な評価(ROIなど)を行う前に、新しい技術が出現している現状もあります。

2014年4月時点では、DMP(※1)が最も注目されています。DMPは、自社サイトに訪問する顧客のWebサイト上の動きや顧客属性などを統合し、購入確率が高い顧客を選定、その顧客の興味に合わせたメッセージや広告、コンテンツを提示することで、コンバージョンの増加を目指します。このDMPの導入により、ターゲットを絞り込めるため、効果的なマーケティングが実現できると期待されています。

マーケティングに従事する人は、ブラウザに留まらず、PCからスマートフォンへのデバイスのシフト、ブラウザからアプリ、IoT(※2)など、理解が必要な範囲は急速に広がっていくでしょう。

若年層もターゲットとしているブランドであれば、自社のブランドイメージが古くさくなってしまうリスクを避けるためにも、これら新しいデバイスやメディアに対応しなければなりません。

※1 DMP(Data Management Platform):データマネジメントプラットフォーム

※2 IoT (Internet of Things):コンピュータなどの通信機器だけでなく、さまざまなモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり、相互通信したりすることにより、遠隔操作や自動認識などを行うこと

 

従来のマーケティングは続く

その上で、マス媒体など従来どおりの広告についての高い知識やスキル(戦略プランニング、クリエイティブ、出稿計画など)は必須です。価格や景品などのプロモーション、デジタルサイネージやAR(※3)により発展が著しい屋外広告、プロダクトプレイスメントの計画立案から測定や評価についても、当然知らなければなりません。

オンライン広告においても、従来型のディスプレイ広告でRTB(※4)が当たり前となりつつある今、これまでの枠の選定・評価だけでなく、ターゲット顧客の定義や評価といった詳細情報を含めた判断が必要になります。もちろん、リスティング、アフィリエイトなどの広告だけでなく、SEOやSNSへの投稿、ファンによる拡散の理解と評価もできなければなりません。

 

そこで、本当にこれら全てを理解し統括できる人間がいるか?と問われたら、「難しい」というのが正直な回答になると思います。

そのためCMOやマーケティング統括者は、小さな組織であろうとも、それぞれの専門家をメンバーに配置し、チームで動くことが大切になります。また、全てを自社でまかなうことは不可能でしょうから、エージェンシーやコンサルタントなどの第三者の専門家組織のサポートも重要になります。そして、マーケティングの管理・実行やレポーティングの自動化と、ビジネスの改善を示唆してくれるようなマーケティングツールの選択・導入が必須となり、その重要度は増加し続けると思います。

※3 AR(Augmented Reality):拡張現実。知覚に与えられる情報に、デジタル合成などによって作られた情報を重ね合わせ、人間の現実認識を強化する技術。

※4 RTB(Real Time Bidding):オンライン広告のリアルタイム入札

 

 

マーケティング投資プランニングの最適化

企業のマーケティング活動の全責任を担うCMOは、イン(投資)とアウト(利益)のバランスを最大にすることをKPIとしていると思います。既存のマーケティング活動のみを行うのであれば、過去の経験・知識から、ある程度の売上や利益を予測することは可能かもしれません。しかし、前述のとおり、ブランドイメージや新規顧客の開拓のため、新規マーケティング施策に挑戦しなければなりません。そういった状況の中では、既存のマーケティング活動への投資効率を最大限にあげることで予算を剰余させ、その余剰分を新しいマーケティング活動の投資に廻すということが理想ではないでしょうか。

その実行のためには、

1)既存のマーケティング活動が生み出す売上および利益の正確な計測
2)投資額を各種マーケティング活動に再配分させた場合の売上変化の予測
3)売上目標達成のために必要なマーケティング予算と投資配分プランの導出

の3つを行うことで、科学的なマーケティング投資のプランニングが必要となります。マーケティング投資プランニングのツールを活用することで、最適なプランニングが実現できると考えます。

 

当社のサービス「ThinkVine」も、上記のマーケティング投資最適化を目的としたソリューションです。他にもこれらを実現できるコンサルタントや数理モデルをエンジンに持つソフトウェアが存在しますが、CMOやマーケティング統括者は、これらのサービスを慎重に選定し、自社のマーケティングROIを最大化させる活動を展開させていく必要があります。

 

カギとなる、異なる部署間の密接な連携

マーケティング投資最適化を実現させるにあたり、解決しなければならない重要事項が複数あります。

 

①   部署横断的な取り組み

マーケティング部だけでは、真の意味で最適な投資プランを実現させることは不可能です。ひとつのブランドであっても、TVや新聞雑誌などのメディアへの広告は宣伝部が、プロモーション(景品やサンプリングなど)は営業部が、ウェブ広告はデジタルマーケティング部が管轄していることが多く、マーケティング投資の全体を統括している役割が存在していない企業も多く存在します。欧米企業では、当然になりつつある企業のROIの説明責任や、その効率性の説明責任が強く問われると予想されるため、この役割を持つ意思決定者や機関の必要性が、今後ますます向上すると思います。

 

②   散在するデータの統合

マーケティング投資最適化の分析・立案・実行のためには、詳細なデータが必要となります。ブランドの売上データや出荷データ、売上に影響する投資データ(広告やプロモーションへの投資額)を週単位で分析することで、初めてマーケティング投資の効率性(ROI)の正確な把握が可能となり、これらデータとその重要性を理解し、それらデータの管理・統合するような役割を持つ組織が望まれます。

 

③   アウトプットの実行・評価・改善のループ

マーケティング投資最適化の分析から得られた結果を、実際のプランに反映させるだけでなく、ROIなどの改善の高低を評価しなければなりません。それは、すなわちPDCAサイクルを廻しながら、継続的な改善を実現させることを意味します。これは、マーケティング投資最適化の分析精度を上げるためというよりも、ブランドのROIや売上を継続的に向上させ、競争優位の確保を実現することに他なりません。

 

企業のマーケティング活動が複雑になる中、企業内の各部署の専門性が向上し続けています。だからこそ、異なる部署間の密接な連携が重要となっていくでしょう。しかし、連携を密にしたところで、部署間の利益衝突が発生する場合もあります。それを解決する手段が、科学的なマーケティング投資最適化の実現、そして、部署横断的な意思決定が可能なCMOやマーケティング統括者の導入だと考えます。本来は、これらを同時に実現させることが理想ですが、自社の環境などを考慮し、導入しやすく、かつ、一定以上の影響力が期待できる方法を優先・選択して導入すべきではないでしょうか。

 

本コラムが、マーケティング投資最適化の導入のための一助となれば幸いです。

 

 

ABOUT 石井 俊宏

石井 俊宏

株式会社 アイ・エム・ジェイ Marketing & Technology Labs® シニアコンサルタント
1972年生まれ。大学を卒業後、米国大学院にて都市計画を修了。外資系マーケティング・コンサルティング会社、外資系広告代理店などを経て、2012年アイ・エム・ジェイに入社。Marketing & Technology Labs (MTL)にて、マーケティング投資最適化、CRMコンサルティング、データマイニングに従事。