ASEAN版、広告テクノロジー業界マップ2014 (ディスプレイ広告)&東南アジア市場トレンド: 株式会社マイクロアド 渡辺氏<インタビュー>
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on 2014年2月07日 in東南アジアへのビジネス拡張が著しいマイクロアド。ASEANの業界マップ2014年版を更新するにあたり、同社の代表取締役社長である渡辺健太郎氏に東南アジア市場のトレンドと今後の見通しを伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍)
グローバル対応のDSPで東南アジア市場を開拓
— 最初に御社の戦略について伺います。2013年はシンガポールと日本、半々で生活をされていたそうですが、今なぜ東南アジアのビジネスに注力されているのでしょうか。
渡辺:2012年10月、弊社のDSP『MicroAd BLADE』が中・英の言語と通貨に対応しました。アドネットワークの時代は広告枠を持つメディアと広告主との両方を同時に獲得していく必要がありましたが、プラットフォーム化したことで他社との提携が可能になり、進出のハードルが下がったことが一番の要因です。
— 2013年を振り返って、東南アジア市場で印象に残った点はありますか。
渡辺:なんとなく全体のマーケットがみえてきた印象はあります。国別で比較すると、この1年ではベトナムがかなり伸びました。他の国と比べるとマーケットはまだまだ小さいですが、企業の広告予算のうちネット広告の占める割合が高いことと、新しいものに対する好奇心が強い国民性が影響しているかと思います。
— ベトナムの市場にはどういった特徴がありますか。
渡辺:国民性なのか、新しいテクノロジーに対して興味を示してくれる会社が多い気がしますね。現在、デバイスは基本的にPCですが、スマホも盛り上がってきているので今年は対応する予定です。広告枠のフォーマットが日本とは大きく異なり、エクスパンドして派手に見せるものが多いことも特徴です。
— 御社のサービスでは、ユーザーの行動履歴がデータ化されます。これまでのデータから見て取れる、日本と東南アジアの消費者の違いはありますか。
渡辺:違いを語れるほどではありませんが、国ごとに流行りのオンラインサービスの特徴は見られます。例えばベトナムではネットでのランチサービスなどのデリバリーが流行っていますし、インドではeコマースが多く、健康グッズの専門店や若者向けの靴などさまざまなサイトがあります。現地で話を聞いてみると、それらが流行る土壌みたいなものがあるようです。
鍵を握るのは、ローカライズ意識と普遍的な強みを持つプロダクト
— 東南アジアにおけるアドテクノロジービジネスの現状を教えてください。
渡辺:アドテクノロジーというより、ネット広告市場自体がまだまだ小さく、新しいマーケットだと感じています。とは言え、欧米企業のアドテク事業への参入はすでに進んでいるのでマーケット自体の可能性は大いにあると思います。
eコマースではグローバルのプレーヤーもいれば、ドメスティックのプレーヤーもいますが、いずれのプレーヤーもマーケティングのノウハウやレベルについてはどの国も変わらないので、日本で提供しているものと同じレベルのものを要求されますし、スピード的にも同じです。
— 日本と東南アジアのマーケットに違いはありますか。
渡辺:日本は基本的に"日本マーケット"ですが、東南アジアでは、国ごとの予算と地域全体の予算の両方が存在します。国ごとにマーケティングをしたいというニーズもあれば、東南アジア全体で効率よく行いたいというニーズもあるためです。
— 2013年6月、シンガポールのイベントでマイクロアドの方々とお会いしました。皆さん真っ黒に日焼けされていて、現地で活発に活動されていると感じましたが、東南アジアでビジネスを展開していく秘訣はありますか。
渡辺:国によって市場や価値観も全く異なりますので、その国その国にちゃんと根付いていくことはもちろん必要ですが、どの国でも通用する強いプロダクトを持つことが何より大切だと思います。一見相反するように聞こえるかもしれませんが、ローカライズ意識を持ちつつも、コアであるプロダクトの強みはぶらさない。先に述べた広告フォーマットの違いなど、各現地のニーズに商品を柔軟に対応させていくことも必要ですね。
— ローカライズで気をつけていること、要望として多く求められるものはありますか。
渡辺:国によりますが、ローカルメディアとの接続は大事だと思います。Googleのようなグローバルな広告配信ネットワークはどの国にもありますが、全てをカバーしているわけではありません。その空きを埋めるためにも、各国事情に精通している現地のパートナー企業との繋がりが重要です。グローバルプレーヤーとローカルメディア、その両方のネットワークと繋がり相互補完していくことが求められます。
— 日本と東南アジアのビジネスパーソンに違いはありますか。
渡辺:東南アジアではそんなにギャップはありません。IT業界なので若い人が多いし、テクノロジーを扱っている経営者はスピード感があります。基本的にはトップ同士で話をしてその場で決めていくので、日本の大企業と話すよりは楽に感じますね。
— 欧米のテクノロジー企業もグローバル進出しており、日本にも海外のベンダーが多数います。日本市場ですら国産と海外のテクノロジーがしのぎを削っている状況で、日本企業が海外進出する際の勝算についてどうお考えですか。
渡辺:東南アジアで欧米のプロダクトが強いかというと、実はそうでもないので脅威には感じていません。ただ、地の利で我々が先に進出したので、彼らに時間的なアドバンテージはないですが、進出のタイミングが少しでも遅れればもっと苦戦していたかと思います。
グローバル市場の今後を担う東南アジア
— 続いて人材について。日本では、データ分析・活用の人材不足の問題がありますが、東南アジアの現状はどうでしょうか。
渡辺:そもそも人材が少なく、人材がいたとしてもレベルの差が大きいので、この分野では日本人に優位性があります。ただ、データ回りではローカルメディアのスキルがないと難しい側面もあるので、人材の採用や育成という課題が出てくると思います。
— 欧米の企業は「欧米から東南アジアの出稿をマネジメント出来ます」と謳っていますが、実際はローカルのノウハウがないとマネジメントは難しいということですね。
渡辺:そうですね。テクノロジーで最大公約数的なパフォーマンスは確保できますが、ローカルのノウハウがないとそれ以上の+αは出せないと思います。
— 東南アジアでの人材の派遣、育成はどうですか。
渡辺:日本人をこちらから派遣することももちろんありますが、現地スタッフも積極的に採用しています。国ごとに現地の人材が育ってきていますから。例えばある国の優秀な人間が、我々が他国へ進出する際にサポートしてくれることもあります。全体で人材の厚みを持たせていきたいですね。
— 2014年、東南アジアの市場はどうなっていくでしょうか。
渡辺:トレンドとしては、国をまたいで広告配信を行う、いわゆる全体の配信の増加が予想されます。例えば日本にいる広告主が、東南アジア全体に対してワンストップでマーケティングが出来るようになったり、逆にゲーム市場の大きい日本に参入したい海外の広告主が出てきたりと、インバウンドとアウトバウンドは活性化すると思います。
国を挙げると、次はフィリピンに注目しています。広告市場が他の国と比べて大きいことや、アドテク市場でいえば、英語圏ということもあり英語サイトへのアクセスも多く、配信可能な広告在庫が初期段階からあるので期待しています。
— 国境を越えた、本当の意味でのグローバル化が起こるわけですね。
渡辺:そうですね。日本発のLINEのように、グローバルに流行るものが増えるでしょう。そうしたサービスをサポートするプラットフォームも整備されてきているので、グローバル化への後押しにもなると思います。
2014年、マイクロアドの見通し
— 今後はどんなことに注力していこうとお考えですか。
渡辺:現在はPCとスマホがメインですが、デジタルサイネージなどの新しいメディアにも広告配信を行っていくことがテーマの1つです。面を増やしていく活動です。また、2014年は弊社が提供するサービスを東南アジアの主要国全てに対応できるようにしたいですね。
— 最後にメッセージをお願いします。
渡辺:このビジネスでは、世界が1つの大きなマーケットになっていきます。これは大きなチャンスでもありますが、その一方で、日本でしか通用しないプロダクトは生き残れないということでもあります。そのためにも、グローバルに対応し、どの国でも通用するような、ワンプロダクトワンマーケットで勝ち残れるサービスをこれからも作り続け、マイクロアドを世界で通用する企業に育てたいと思います。
※ 本マップは、米LUMA Partners社のLUMAscapeのカテゴリをベースに、日本国内でのサービス提供を確認できたカテゴリのみ掲載しています。
※ 本マップ作成にあたり、事前にロゴ・サービス名称の表記に関して事前許諾を得ておりませんので、もし本マップへの掲載に問題がある場合は、ExchangeWire Japanまでご連絡ください。問題箇所に関しましては、できる限り迅速に対応させていただきます。
問い合わせ先: japan[アット]exchangewire[ドット]com
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(編集:三橋ゆか里)
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。