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マーケティング投資最適化の実行と事例 ― デジタルが貢献できることを考える|WireColumn

IMJ Mr.ishii

CMOやマーケティング統括者が最も頭を悩ますのは、マーケティング予算の配分ではないでしょうか。どのメディアやチャネルにどういった割合で投資配分すべきか。限られたマーケティング予算から得られる売上を最大化させ、マーケティングROI最適化の実現が求められています。ブランドのライフサイクルによって目標となるKPIの定義は、認知(助成・非助成)、選好度、売上など異なることがあります。しかし、マーケティング統括者としては、認知や選好よりも、売上の最大化が主目的となることも多いでしょう。

本稿が、「マーケティングROIの最適化」を実現させるための示唆となれば幸いです。

本連載では、IMJのMarketing & Technology Labs (MLT)のシニアコンサルタント 石井俊宏より、マーケティングROIを見据えた上流レベルの戦略や事例を紹介します。

 

 

 

連載3回目となる今回は、CMOやマーケティング統括者の最も重要な役割である「マーケティングROI最適化」の新しい潮流を紹介します。

 

通常、マーケティングの投資プランニングは「1年」がひとつの大きな単位です。

従来のマス時代では、1年単位のプランニングで十分でしたが、新しいメディアやチャネルが出続けているデジタル領域では、当初想定していなかった対応が都度必要になります。そこで問題になるのは、「それら新メディアに投資すべきか」の判断であり、「既存のマーケティング活動への投資額をどれだけ削減し、新メディアやアプリへ再配分すべきか」ではないでしょうか。当然ながら、この再配分プランを闇雲に計画・実行することで、想定していたリターンの確保が損なわれることは避けなければなりません。

もちろん、新しいマーケティング活動を行わず、予算の全てを既存のマーケティング活動に投資することも考えられます。しかし、マーケティング投資プランニングで要求されるのは、マーケティング活動の効率性を向上させ、投資額を削減しながら売上を維持・向上させることです。

そのためには、これまで接触できなかった新規顧客の開拓が必須であり、過去に試さなかったマーケティング活動を履行することが必要です。理想は、既存のマーケティング活動の効率性を最大限向上させることで投資額を削減し、新規マーケティングへの投資額をできるだけ多く用意することです。「やった」という言い訳に終わらない規模で、新規のマーケティング活動を実施しなければなりません。

 

そのためには、既存のマーケティング活動の徹底的な分析が必要です。各マーケティング活動の投資額がどこまで削減可能か数値的算出し、売上の下落を回避することは最低限必要です。加えて、新規マーケティング活動から獲得できる顧客や売上の事前予測ができれば、売上の向上に繋がるマーケティング投資最適化ができます。

 

 

マーケティング投資最適化分析

 

これまでマーケティングROIの分析は、多重回帰をベースとする計量経済学的なアプローチが主流でした。その操作性や分かり易さから、現在でも多くの現場で使われています。回帰分析ですので、広告やプロモーションなどのマーケティング投資のインプット(説明変数)と売上や認知率などのアウトプット(目的変数)に直線的な関係を前提としています。そこで、パラメータ(※1)に、逓減性(図1)を仮定するなどの工夫により、実際マーケティング投資とリターンの関係を再現する努力が続けられてきました。

imj-3_図1

※1 パラメータ:説明変数と目的変数の関係性を表す媒介変数のこと

 

しかし、多重回帰分析は根源的に弱点(複数の説明変数間の相関が強いことにより発生するパラメータのズレの発生/多重共線性)を持っています。その弱点を解決すべく、マーケティングROI分析のための様々なアプローチが試行され、開発されてきましたが、現実のマーケティングROIを再現し、将来の予測力を高めるためには、当然ながら入力データの数量が多くなるだけでなく、高度な分析手法が必要です。これらを理由に、マーケティング投資最適化の分析には、高価なソフトとハードが必要となるため、近年まで実現に到りませんでした。

 

現在では、ソフトウェアのオープン化、ハードウェアの急速なコストダウンに伴い、難しいとされてきた高度な分析アプローチが実現可能となり始めています。操作性や運用性も、データ入力とグラフ描写がシームレスに実施されることが前提のサービスも多く、技術者や分析者だけでないユーザを想定した、高いユーザビリティを実現させています。

ここでは、株式会社 アイ・エム・ジェイのMarketing & Technology Labsが日本国内での販売代理業およびコンサルティングを実施しているマーケティング投資最適化の支援ソリューション「ThinkVine」を紹介します。

 

 

「ThinkVine」の紹介

 

「ThinkVine」は、エージェントベースモデリング(※2、以下ABM)という複雑系数理モデリングをマーケティング投資最適化の分析と予測に適用したサービスです。「ThinkVine」の分析を通じて、マーケティング投資額やその配分(出稿プラン)を立案し、自社ブランドの売上やROIを最大化することができます。ここでは、「ThinkVine」を活用して、どのようにマーケティングROI最適化を実現するのか、順を追って説明します。

 

 ●過去の売上の精緻な再現と正確な予測の実現

まず、コンピュータ内に仮想の日本市場を作成します(図2)。次いで、年齢構成や性別の違いによるメディア接触や購買行動を仮想パネルに教え込むことで、分析対象ブランドのマーケティング活動と売上の関係を詳細かつ正確に再現させます。過去を精緻に再現することができ、今後のマーケティング活動(投資)とそこから得られる売上の正確な予測ができるようになるというプロセスをとります。

imj-3_図2

※2 エージェントベースモデリング:コンピュータ内に個体もしくは集合体となるエージェントを仮想し、それらの行動を再現することにより、発生する事象を再現・予測する数学的アプローチ

 

 ●複数の最適化の実現

ひと言で、「最適化」と言っても、「売上の最大化(①)」と「ROIの最大化(②)」では異なります。

現実には、事前に設定された売上目標を達成するために必要となる最小予算額と、「売上目標の達成(③)」が、必要となります(図3)。これにより、前述した既存マーケティング活動のみで売上目標を達成できる最低投資額を算出し、浮いた予算を新規のマーケティング活動(新メディア、新チャネルなど)へ投資することができます。

結果が見えない新規活動への投資というリスクを抑えられるため、KPIの達成を担保させながら、新規マーケティング活動への挑戦の両立が可能になります。「ThinkVine」では、これら3つの異なる最適化シミュレーションが可能です。数学的には難しい計算はありますが、ユーザはその高い操作性により、ストレスなくこれらを取得することができます。もちろん各マーケティング活動への最適な投資額の算出だけでなく、投資するタイミングの立案も支援します。

imj-3_図3

 

 ●シナリオプランニング

マーケティング統括者は、自社ブランドへのマーケティング投資額を数%増やした場合と減らした場合の影響を事前に予測し、ある特定マーケティング活動に集中的に投資した場合の売上への影響も事前に確認したいと思います。また、自ブランドのマーケティング活動だけを鑑みて、マーケティングのプランを立案するのは不十分なため、競合ブランドの出方(新製品の発売やブランドリニューアルなど)を想定し、事前に対策案を検討しておくことが必要です。

これらを最終マーケティングプランの採択前にシナリオとして想定し、対抗策を用意しておくことで、外部環境を含めた真の意味でのマーケティング投資最適化プランニングが実現できます。複数のシナリオの中から最適なマーケティング投資配分のプランの立案・比較・選択だけでなく、急な対応が必要となったときもリスクを抑えた処置・対応ができます。(図4)

 

 

imj-3_図4_

 

 ●情報共有(レポーティング含む)

「ThinkVine」はブラウザ上で操作が可能なSaaS型サービスであり、全ての関係者に向けて、最適なプランニングとその売上予測を共有することができます。複数プランにより予測される売上やROIも正確に算出するため、全プランの徹底的な比較が可能です。そのため、マーケティング部門だけでなく他部門を含んだ全社に対して、説得力の高いマーケティングのプラン選択と実行ができます。

もちろんPDCAサイクルを回すことは大前提です。売上の実測値と予測値の比較、売上に対して効果のあったマーケティング活動を細かく確認しながら、以降のマーケティング投資最適化プランの精度をあげることができます。

 

 

まとめ

 

本連載の1回目にCMOやマーケティング統括者は、マーケティングを科学的に実行し、小さくても着実な成功を実現させつつ、他部門を巻き込むことでその役割を履行すべきと記しました。CMOやマーケティング統括者は、自身が持つ役割の最重要のひとつである「ROI最適化」を実現させるためにこそ科学的なアプローチを採択すべきでしょう。

 

 

ABOUT 石井 俊宏

石井 俊宏

株式会社 アイ・エム・ジェイ Marketing & Technology Labs® シニアコンサルタント
1972年生まれ。大学を卒業後、米国大学院にて都市計画を修了。外資系マーケティング・コンサルティング会社、外資系広告代理店などを経て、2012年アイ・エム・ジェイに入社。Marketing & Technology Labs (MTL)にて、マーケティング投資最適化、CRMコンサルティング、データマイニングに従事。