着実に シングルヒットを打ち続ける方法 — デジタルが貢献できることを 考える |WireColumn
近年、日本でその必要性がうたわれているCMOですが、その平均任期期間はCEOと比べても圧倒的に短いと紹介しました。それは、CMOの役割が上手く機能している企業が少ないことが主な原因です。CMO(もしくはCMO的な機能を果たす社内チーム)を組織全体に知らしめ、その本来の役割どおりに機能させるためには、いくつかの必要項目を解決しなければなりません。その必要項目の中で最初に取りかかるべきなのが「明らかな成功を収める」ことです。
そして小さいながらも「明らかな成功を収める」(成功を周知させる)ためには、デジタルマーケティングこそが適しています。PDCAサイクルによる地道な改善(シングルヒット)を積み上げ、成功と呼べるレベルまで改善を続けることは、デジタルマーケティングの得意分野なのです。
本連載では、IMJのMarketing & Technology Labs (MLT)のシニアコンサルタント 石井俊宏より、マーケティングROIを見据えた上流レベルの戦略や事例を紹介します。
連載第2回目の今回は、デジタルマーケティングの領域で「シングルヒットを打ち続ける方法」を、「シングルヒットを打つこと」と「それを続けること」の2つに分けて紹介します。
シングルヒットを打つために
「シングルヒットを打つ」と簡単に書きましたが、ヒットを打つためには、打席に立って、ボールを見て、バットを振らなければなりません。
○ 打席に立つ
まず行動しなければ始まりません。そのためには準備も必要です。自社のデジタルマーケティングの状態をモニターできるツール類を導入しましょう。たとえば、自社のWebサイトの状況をモニターするアクセス解析であれば、ほぼ全ての企業が導入しているでしょう(ExhcangeWireJapanを読まれている方々であれば特に)。マーケティング統括者は、自社がどのようなツールを導入しているか、何を測定しているか、測定された数値がきちんと利用されているか、といった棚卸し作業が最初にする行動となります。
○ ボールを見る
ここでは、ボール=データと言い換えても良いでしょう。データを見ることは、どこにバットを振り下ろすかを見つけることです。つまり、複数データの場合は、どこから手をつけるか、バットを振る(=改善施策を実行する)かを見つけ出します。
○ バットを振る
一番ヒットが打てそうなボールに向け、バットを振ります。つまり、最も結果が出そうな項目を選んで改善実施するのです。マーケティング統括者や、デジタルマーケティングにおけるCMOの管掌領域が、自社のWebサイトで完結するのであれば、アクセス解析データを参照し、その改善で完結することができます。
広告やSNSなどの外部メディアを利用しているのであれば、それらも含めて最も数値が低いところから手を付けましょう。各種の広告やメディアのデータを並べて眺めるだけでも、改善すべき箇所が把握できます。最も簡単なのは、効率の低いメディア出稿を廃止し、その出稿金額を効率性が高いメディア出稿に配分することです。その配分変更でどの程度改善されたかをチェックすることも忘れてはなりません。
デジタルマーケティングにおいて、自社リソースだけの改善が難しいのであれば、外部のコンサルティング会社や代理店などを利用することも有効です。コンサルティング会社にも、強み弱みがあるため、自社のデジタルマーケティング領域を正確に把握し、どこに相談すべきかを慎重に検討しましょう。
ヒットが打てたら、それを「まぐれ」で終わらせない努力、つまりヒットを打ち続ける努力が必要です。
ヒットを打ち続けるために
シングルヒットを単打で終わらせず、連続して打てるようにするためには、正しくボールを見て、正しいバットスイングを完成させ、それを続けなければなりません。正しいボールの見方と正しいスイングで、ヒットを確実に打てるとは断言できませんが、ヒットが打てる確率は飛躍的に上がります。
ヒットを確実に打つこと。これをデジタルマーケティングに変換すれば、PDCAサイクル(データの正しい確認・分析を通じた、継続的な改善)による成功の実現に他なりません。加えて、ヒットを打ち続けるためのルールを決めることも大切です。つまり、何をヒットとするか(成功の定義)を事前に決めておく必要があるのです。
○ ヒットを定義する
改善を続けていくためには、何がヒット(成功)なのか?を最初に決めておかなければなりません。どのレベルまで到達すると成功なのかを定義しなければ、今後の改善活動の目標が立てられず、続かなくなってしまいます。これは、膨大なデータが獲得できるという特性からデータに溺れてしまうリスクがあるデジタルマーケティングにこそ重要です。あまり重要でない数値を改善することに注力して、無駄な努力を払ってしまうことは避けなければなりません。
そのためには、自社のビジネスゴールは何か(KGI: Key Goal Indicator)を明確化することからスタートさせます。次いで、そのゴールを達成するため、ゴールに近づいていることを確認するための指標(KPI)を設定します。それらKPI(指標値)の改善がヒットであり、その積み上げによるKGIの実現が成功となるように設計します。
○ 正しくボールを見る
正しくボールを見ること、すなわち、「見える化」しなければなりません。ビジネスゴールを達成するためには、何が起きているかを正確に把握し、その背景にある事象を理解する必要があります。デジタル領域のあらゆるデータを整理し、レポート化します。そのレポートは、実際の消費者の動きや商品の流れ、自社のバリューチェーンなどに則った流れとし、閲覧時にすぐに理解できることが基本です。
アクセス解析ツールも優れたレポート機能を有していますが、複数のメディアやチャネルをまたがるような場合、QlikViewやtableuなどの「見える化」に特化し、かつ広範囲のデータへの対応が可能なツールを導入した方が、より正確かつ欲しいデータの見える化が実現できます。
ボールを正しく見ることは、ヒットの確率をアップさせる最も重要な要素です。そのため、この「見える化」には、ある程度の支出は大目に見て、レポーティングや設計にベストを尽くすことを強く推奨します。
QlikView:http://www.qlikview.com/jp
tableu:http://www.tableausoftware.com/ja-jp
○ 正しくバットを振る
正しくバットを振るためには、スイングを客観的にチェックするポイント(スタンス幅や腕の使い方など)を洗い出し、用意しておくことが必要です。それらのチェックポイントを確認すると、上手くいっていないポイントを迅速に見つけ出すことができ、スピーディに改善ポイントの修正が実行できます。
デジタルマーケティングの分野においても、キャンペーンや施策、改善策など成否をチェックしたり、ポイント毎の計測ができるように事前準備が必要です。自社のWebサイトであれば、ランディングページ、商品閲覧ページ、カート、購買ボタンなどチェックポイントとして設定することが通常です。
マーケティング統括者やCMOは、デジタルマーケティング担当者や代理店と相談して、どこをチェックポイントとして重視するかの確認を通じて、タグやJavaScriptのコード設定を実施します。チェックポイントを確認することにより、改善の判断が迅速にできます。
以上、マーケティング統括者やCMOが、デジタルマーケティングの領域にてヒットを打ち続けるためのプロセスを紹介しました。次回は、デジタル領域から話を少し広げて、デジタルに留まらないマーケティング投資最適化の最先端の事例を紹介します。
ABOUT 石井 俊宏
株式会社 アイ・エム・ジェイ Marketing & Technology Labs® シニアコンサルタント
1972年生まれ。大学を卒業後、米国大学院にて都市計画を修了。外資系マーケティング・コンサルティング会社、外資系広告代理店などを経て、2012年アイ・エム・ジェイに入社。Marketing & Technology Labs (MTL)にて、マーケティング投資最適化、CRMコンサルティング、データマイニングに従事。