消費者に生産力を与える3D技術がもたらす、消費行動・販促・広告の未来とは |WireColumn
by 荒井勇人、 前田衣里奈 on 2013年12月17日 in ニュース
将来、3Dデータが広く流通する時代が来たとき、ネットショッピングはどう変わるのか?どんなレコメンドが登場するのか?ものづくりの方法はどうなるのか?などを、生活者と企業の視点を織り交ぜながら考えていきます。
●家庭向け3Dプリンターが火をつけた? 第2次3Dブームの予感
3Dテレビ元年と言われていた2010年、大手家電メーカーがこぞって3Dテレビを市場に送り出しましたが、「3D対応コンテンツが少ない」「正面から見る必要がある」「専用メガネが重くて気になる」というようなユーザーの不満が多く、いつのまにか衰退の一途を辿ることとなりました。それから3年、今度は3Dプリンターが火付け役となって、新たな3Dブームが起きようとしています。
もともと3Dプリンターは、製品のモックアップ(試作品)をつくるビジネスユースが主でしたが、2013年7月、ヤマダ電機が家庭向け3Dプリンター「Cube」の取扱いを始めたことで、一般ユースに対する期待感が高まりました。まだ十数万円と高額(2013年12月時点では168,000円)で、広く一般生活者の手に渡るようになるまでには少し時間がかかりそうですが、最近ではDMM.comが3Dプリントサービスを開始するなど、3Dプリンターを持たなくても、3Dプリントを体験できるサービスも出始めてきています。
また、イスラエルのCoca-Colaでは、3Dプリンターで印刷した「自分そっくりなミニフィギュア」をプレゼントするキャンペーンを実施していたり、イギリスでは寄付してくれた人の自宅のミニチュア版をスノードームにしてプレゼントするチャリティーを行ったりと、3Dプリント技術をキャンペーンのインセンティブとして活用している事例も多くあります(日本でも無印良品とANAがコラボしたキャンペーンを実施していました)。
このように、現在は3Dプリント代行サービスや、キャンペーンのインセンティブとしての使われ方が多い3Dプリンターですが、今後3Dプリンターが普及し、3Dデータがインターネット上で広く流通する時代を迎えた時、私たちの生活はどのように変わってくるのでしょうか?
今回は、いくつかの事例などを切り口に夢を膨らませてみようと思います。
●家に居ながら試着できるネットショッピング!?
Yahoo! JAPANの「さわれる検索」は、検索と3Dプリンターを結びつけた事例です。「カニ」や「富士山」といった単語を音声で入力すると、登録されている3Dデータが読み出されて、3Dでプリントアウトされます。視覚障害をもった子どもたちに、さわれる体験を通じて、「もの」の形状を理解してもらおうという取り組みです。
このように、欲しい情報が立体物となって出力されて、実際に触れることができるという体験は一般生活者の視点から見ても、とても魅力的です。例えば、靴はメーカーによってサイズが微妙に異なったりするので、ネットで買うのをためらっている人も少なくないかと思いますが、検索やECサイトを経由して商品の実寸大を3Dプリントできるようになれば、自宅で試し履きをしたうえで購入できるようになるかもしれません。靴に限らず、サイズの問題が付きまとうアパレル系商品のネット購入のハードルを下げる効果も期待できそうです。
また、ネット広告も「3Dプリントしてちょっと試してみてください」のようなコピーで、3Dデータのダウンロードを促して、自宅でまず試してもらうような手法も出てきそうです。立体物として見てはじめて伝わる魅力もあると思いますので、商品によっては有効かもしれません。
3Dプリントした立体物は、他の人の目に触れる可能性も高いので、それ自体が新たな広告になり得ます。例えば、自宅に飾っておきたくなるような演出(土台がついている、名前が刻印できる、など)を加えることで、「試して終わり」にさせない工夫も大切になってくるかもしれません。
●丸顔の人には、横長スクエアのメガネをおすすめ!?
3Dプリンターだけでなく、3Dスキャナーも一般家庭向けの商品が登場しています。昨今のインターネットの世界では、ユーザーの属性や行動によるセグメンテーションは当たり前になってきていますが、ここにユーザーの身体データ(顔の形状や体格など)も加わってくる時代がやってくるかもしれません。
低価格な3Dスキャナー「Rubicon 3D scanner」
あらかじめ、身体データを登録しておけば、常に自分のサイズにあったものをオススメしてくれるのはもちろん、自分の顔に新商品のサングラスがかかっていたり、化粧が施されていたりするようなディスプレイ広告が登場してくる可能性も考えられます。
パソコンを複数人で共有する時代では倦厭されたかもしれませんが、スマートフォンなどの自分専用のデジタルデバイスを持ち歩く現代であれば、デリケートな身体データやそれに基づくアウトプットを受け入れてくれる土壌はありそうです。
また、所持しているものを3Dデータ化してオンライン上に登録しておくことで、そこから趣味嗜好を読み取ってレコメンドしてくれるような仕組みも期待できるでしょう。どんな人が、どんな形状のものを、どのくらい持っているのか?は、顧客理解に向けたビッグデータ分析の新たな種になってくるのかもしれません。
●屋外ではデータでチェック!家に帰ったら触ってチェック!
マイクロアド社が提案している「3D広告コンセプトモデル」も、今後現実味を帯びてくるでしょう。「3D広告コンセプトモデル」は、3次元ホログラム映像技術を用いて、3Dデータを立体的に出力できるデジタルサイネージ広告です。閲覧者は、リモコンで操作することで、立体を自由に動かすことができますので、例えば不動産(建物)の広告であれば、建物の外観や内観を360°グルグル見回したり、最寄駅までの道のりを視覚的に確認したりできます。
「3D広告コンセプトモデル」では、3Dプリンターで利用する3Dモデリングの元データを、そのまま3D広告に展開できるようですので、3Dデータが広く扱われるようになれば、相乗的にこのような3D広告も増えてくるのではないかと推測されます。
今後は、屋外にあるデジタルサイネージの3D広告で気になった商品をスマートフォンで検索し、自宅の3Dプリンターにデータを転送して、帰った時には商品のお試し版が出来上がっている、といった体験もできるようになるかもしれません。
●あなたが次世代のメーカーになる!?
3Dプリントできる素材は、プラスチック、合成樹脂、セラミックだけではありません。金属や食品(ピザ)をプリントできるものもあります。商材にもよるかと思いますが、今後、欲しい商品は3Dデータで購入し、自宅でプリントアウトする購買プロセスが誕生してくるかもしれませんね。
また、3D制作ソフトウェアがますます充実してくれば、自分が欲しいものを自らつくって使う、という自産自消(自ら生産して自ら消費)も起きるでしょうし、自作3Dデータを他の人に販売するということもあるでしょう。さらには、生活者同士がアイデアを出し合って、企業を介せずに自分たちの二―ズにあったものをつくるということも起きてくるかもしれません。生活者が「メーカー」としての力を持つことになるわけです。
企業としては、そういった生活者同士の共創の文脈の中に、どう入り込んでいくのかが重要になってくるでしょう。例えば、自社の3Dデータを無償で提供して、生活者がどうカスタマイズするかの反応を見たり、3Dでつくっているものを判別して、それに合った広告を配信するなど(例えばコーヒーカップを作っていれば、コーヒー豆の広告など)、企業としての新しい振る舞い方が試されるといえます。
●3Dデータ時代の課題
今回は、3Dデータが広く流通した未来をポジティブに描いてみました。しかしながら、3Dデータ自体が価値を持つようになると、違法なデータの横流し防止や、生産者の著作権保護など、権利問題への対応は避けられません。また、3Dの普及には、3Dプリンター本体に限らず、素材(インク)をどれだけ安価に提供できるようになるかもポイントになってくるでしょう。
検索エンジンの登場によって、生活者は「情報収集力」を身に付け、ソーシャルメディアは生活者に「情報発信力」を提供しました。そして、次なる3Dテクノロジーは、第3の力として生活者に「生産力」を与えることになるかもしれません。
一段と生活者優位にシフトする潮流において、マーケターの真価がますます問われる時代になってきそうですね。
ABOUT 荒井勇人、 前田衣里奈
株式会社シンクジャム プランナー
【荒井】2009年にシンクジャムを共同設立。WebサイトのIAプランニングをコアスキルに、構築ディレクションや戦略プランニングなどの面でも、大手企業のマーケティング支援を行っています。
【前田】国立の理系大学院を卒業後、シンクジャムに入社。Webプランナー兼アナリストとして従事する傍ら、定期的に国内外のWebマーケティング動向などを調査し、Web上などで発信中。