デジタル広告に先進的に取り組むSUUMOの事例と、その実践に欠かせない「現場を知る」モチベーションを持つCMOの存在 [イベントレポート]
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on 2013年11月12日 in
(ライター:柏木 恵子)
マリンソフトウェアは10月30日、日本オフィス開設一周年を記念したセミナーを開催した。同社のCMOであるマット・アックリー氏による「デジタル広告の進化とCMOの役割」と題された講演、また日本国内で先進的な取り組みをするリクルート「SUUMO」の事例紹介や、パネルディスカッションが行われた。
マット・アックリー氏は、CMOの戦略策定の指針となる未来のオンライン広告の方向性について講演。デジタル広告の革新は、ネット検索から始まった。キーワードやオーディエンスによる最適化の流れが、検索以外のディスプレイ広告、ソーシャル、ビデオ、モバイルといった分野に広がっている。マーケティングプラットフォームでは、オーディエンスを中心に置いたアクション型が勝ち抜く。また、従来のマーケターとは異なる、テクノロジーのバックグラウンドを持ったマーケターの需要が高まっていると話した。
オンラインマーケティングSUUMOの取り組み
次に、株式会社リクルート住まいカンパニー、SUUMOネット横断企画部の成田拓人氏が、「オンラインマーケティングSUUMOの取り組み」と題した講演を行った。SUUMOは、住まい探しのサービスとして高い認知度を誇り、新築マンション、戸建て、賃貸など、領域別に商品担当と集客担当を立てている。不動産という特殊なマーケットの専門知識が必要なため、オンラインマーケティングの専門性も高まる一方だ。以前はリスティング施策が中心だったが、施策によって効果が変化するリスティングによる有料集客と、SEOのようにすぐには変化しないインフラ部分に分けて取り組むようにした結果、集客の予算配分に変化が生じているという。予算配分の最適化について、具体的な取り組みが紹介された。
●従来からの知見や専門性とオンラインの掛け合わせ
基本的なことだが、T&D(Title&Description)、つまり広告文のブラッシュアップを行っている。SUUMOは、オンラインメディア化の前から紙の情報誌として提供されてきた。オンライン化してもカスタマーは変わらないため、蓄積されたノウハウを生かし、どんなワードでカスタマーに伝えるかを多数のクリエイティブを試すことで改善していく。従来からの業界の知見と、オンラインマーケティングを掛け合わせている点がポイントである。
●新しいものはどんどん試し、代理店任せにしない
テクノロジー面では、新しいツールやプロダクトを積極的に試す。これを代理店任せにせず、広告主自らが取り組み、自社に合ったものを見つけることが大切。具体的には、AdWordsのエンハンスト機能であるDFSA(Demographic For Search Ads)により、Googleのデモグラデータをもとに入札強弱やT&D変更といったシナリオ配信を実施、各領域のAdWords広告の効果が改善している。もちろん、テストした結果、効果が出なかったものも多数ある。
●自社データとテクノロジーの連携
物件データを活用したダイナミックな配信により、各領域のAdWords広告効果が改善している。物件データと入札データを紐づけて、物件が存在するところに入札し、存在しないところには入札しない。これを、自動的にオン/オフすることが有効。
●自動化ツールで、考える時間をつくる
自動入札ツールは、領域や特性によって適不適があるため、テストによる見立てが重要となる。SUUMOでは、1〜2年かけて各領域でABテストを行い、手動と自動のハイブリッドで運用している。ビッグキーワード中心のCPAが高い商材は手動、CPAが低いミドルからスモールキーワード中心の商材は自動にして効果を上げている。自動化ツールを利用するのは、マーケターに考える時間をつくるためだ。マーケティングのオンライン化でデータや情報が入手できるようになった今、マーケターの作業が増えている。だが、彼らの仕事の本質は顧客を集める施策を考えること。自動入札ツールを利用することで、その時間の捻出を目指す。
●ディスプレイ広告はまず使ってみる
ディスプレイ広告の場合、業界の評判と実際に使ってみた感触が違うことがある。業界や商材によって適不適があり、変化も激しいため実際にテストすることが重要となる。SUUMOは昨年1年間で、各領域で約40本、計約120本のトライアルを実施した。
●9割は完全に最適化、1割にトライアルの余地
レコメンドの強化にも取り組んでいる。媒体に働きかけ、新しいレコメンド施策をスタートし、現在3〜5本のレコメンドをABテスト中。また、ディスプレイ広告の効果向上のため、DSP、運用、クリエイティブ、スマホアドネットワークなど、常に数多くのケーパビリティ検証をしている。アドテクノロジーの9割は完全に最適化して利用し、残り1割は常にトライアルを意識して運用している。
●データを用いたポートフォリオの最適化
住宅業界の知見とオンラインマーケティングの専門性を掛け合わせ、ポートフォリオを最適化するため、需要予測やシミュレーションの自動化にも取り組んでいる。ひとつは、気象現象や地殻変動など、複雑な要素が絡み合う地球規模のシミュレーションとして研究されている「粒子フィルタ」という推定法を、KPIの未来予測に活用する社内独自の取り組み。 将来のコンバージョンを予測し、それに合わせて自分たちの予算のポートフォリオを組む。常に振り返りをして、予測と実績の乖離を確認することが重要。
粒子フィルタモデルの応用
もうひとつは、アリのフェロモン伝達モデルの実装で、アリが場所や物を伝えるためにフェロモンを使うという生物学(昆虫学)の知見を利用したもの。推薦理由の明示、分析ロジック、表出面などが効果に貢献している。単純なアルゴリズムだけでは効果は上がらず、テクノロジーと自社ナレッジの組み合わせがポイントとなる。
蟻のフェロモン伝達モデル
その他、サイトに訪れている個々のカスタマーの動きを「確率遷移行列」によって再現する、カスタマー行動の可視化を行う。ビジュアライズすることでやるべきことが明確になり、仮説立てができる。また、サイト訪問者の動きを統計モデル化することで、マーケティング施策やカスタマーの動きの変化に対する全体の影響をシミュレーションできる。
CMOに現場を知るモチベーションがあるか
最後に、多摩美術大学教授の佐藤達郎氏をモデレーターに迎え、アックリー氏と成田氏によるパネルディスカッションが行われた。日米のオンラインマーケティングの違いなどが話題になり、アックリー氏はSUUMOの事例は米国と比べても進んでいると評価した。データ活用が先進的である理由として成田氏は、「モチベーションのある人間が社内にいたこと、そういう人材を採用したということが大きい。基本的に異質なものを受け入れるカルチャーのある会社なので、新しいものが定着しやすい。効果効能は理解できるが、やってみなければ分からないので、『とりあえずやってみる』が許される環境が大事」とコメント。オンライン広告へのシフトで日本が米国に遅れをとっている理由としては、両氏とも効果測定が確立していない点を挙げた。
セミナーのテーマでもあるCMO(Chief Marketing Officer)の役割については、米国では在任期間が長くなっているという話題が出た。従来は、CEOの好みで実施されていたキャンペーンを、データを元に判断を下せるようになったことで効率化が進み、在任期間が延びている。また、CMOこそが、組織内でカスタマーの声や姿を代弁する存在となりつつある。日本では、米国で言うところのCMOに当たる役職がほとんど見られない。それは、「日本では、現場のことは現場に任せるのがいいマネージメントと考えられているせいかもしれない。ただし、正しい判断をするためには、現場やカスタマーのことを知りに行くモチベーションのある人がトップに立つことが重要だ」と成田氏は話す。
(編集:三橋 ゆか里)
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。