一目でわかるプログラマティックの3フェーズ:失敗しないための人材・予算・テクノロジーの捉え方 [アドテック東京2013レポート]
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on 2013年10月15日 in(ライター:中村研太)
昨今のアドテクロジー業界では、「プログラマティック」というキーワードが注目を集めている。ところがその実態は複雑でカオスと化しており、取り組み方に頭を悩ます担当者も多いのではないだろうか。先日のアドテックから、各方面でプログラマティック最前線を行く有識者が集ったセッション内容をお届けする。
プログラマティックと一言にいっても、各企業や代理店による実践にはさまざまなフェーズが存在する。人材・予算・テクノロジー・グローバル化それぞれの側面において、初級・中級・上級の各フェーズを取り上げる。セッションの内容を一つのグラフにまとめているので、そちらも参照してほしい。自社のフェーズと照らし合わせ、次のステップへの鍵を見つけよう。
【パネリスト】
西井敏恭:株式会社ドクターシーラボ マーケティング部eコマースグループグループ長
着任当初10%弱だった売り上げ全体に対してウェブが占める割合を、全体の 1/3 にまで成長させる。
Derek O’Neil:IPONWEB Chief Business Development Officer
世界の RTBの中核となるシステムを手掛ける IPONWEBの Chief Business Development Officer。
Phang Chee Leong:Innity Chief Executive Officer
東南アジア最大級のアドネットワークのソリューションビジネスを提供するInnity代表。
菅沼道彦:デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 e-ビジネス本部シニアマネージャー
世界中からアドテクノロジーの情報を集め、その中から良質なサービスを日本のマーケットへ導入している。
【モデレーター】
大山 忍:ExchangeWireJapan 編集長
プログラマティックにある各ステージ
Eコマース事業が飛躍的に伸びたドクターシーラボ
ドクターシーラボの西井敏恭氏は、まずステージを分ける上で、予算の捉え方が鍵となると話す。キャンペーンは予算を要し、その予算の使い方がプログラマティック実施のステージに一致するという。西井氏自身、小規模だったEコマース事業が会社の売り上げの中核を担うに至までの間には、CPAだけで予算管理を行うフェーズがあったと語る。そんな中、CPAだけにフォーカスしたキャンペーン運用には限界があり、マーケティングを次のフェーズに進めようとすると、インプレッションやリーチを指標としたプロモーションの実施が必要になってくる。これが中級レベルで、上級レベルになるとO2Oやone to oneといったフェーズが視野に入ってくる。これには、単独のデータベースではなく複数のデータ統合なども必要であるため、上級のプログラマティックだと言える。
テクノロジー側面から定義するプログラマティック
世界中のRTBの中核となるシステムを手掛けるIPONWEBのChief Business Development Officerを務めるDerek O’Neil氏は、テクノロジーの側面からプログラマティックについて語った。初級レベルは、「ピクセルタグやcookieを用いてユーザに目印をつける」テクノロジーを基盤した、分析やリターゲティングを行うフェーズである。オペレーションの面では、ツールごとにプラットフォームが異なるため、CSVで出力したさまざまなデータをエクセルで管理するのが初級レベルと言えそうだ。中級レベルになると、この入札管理が何らかのプログラムで自動的に運用される。また初級レベルでは単独だったユーザーデータが、APIなどを通じて企業のCRMなどと連携されるようになる。次に上級レベル。施策の結果に対するチェック、アクションを行う「受け身」のマーケティングサイクルだったものが、上級レベルでは「攻め」の形に変わる。このレベルの運用ができている会社は、全米でもトップのごく少数の企業に限られる。マーケティングをリアルタイムで回す、「リアルタイム・カスタマーモデリング」などと呼ぶのが適切だろうか。
グローバル化の視点で見るプログラマティック
東南アジア・東アジアで最大級のアドテクノロジーを提供するInnity。同社のCEOであるPhang Chee Leong氏は、グローバル化の視点からプログラマティックについて語った。
国が違えば、文化、言語、市場、またウェブの普及度など、さまざまな面で状況が変わってくる。初級は、国や地域、部署単位で、リスティングやディスプレイ広告といった施策を運用し、それぞれのキャンペーンを適切に運用するレベル。次に、運用成果の最適化や運用管理の効率化などあらゆる側面から「最適化」が行われるようになる。しかし、個別に最適化された状態は、グローバルで見ると各地でギャップが生じ、決して理想的な状態とは言えない。ここからさらに一歩進み、「統合された最適化」のレベルが上級だ。個別最適のフェーズから、全体最適を実現するフェーズで、そのためには組織体制の最適化をはじめとした、真の意味で統合的な視点が必要となる。
人材の側面から捉えるプログラマティック
インターネット広告のプランニングからバイイングまでトータルで支援するメディアレップDACにて、世界中の最先端のアドテクノロジーの中から、日本のマーケットに合ったサービスを誘致する菅沼道彦氏。プログラマティックのフェーズを俯瞰的に定義した。まず、リスティングやDSPなどのツールを使い、目標CPAに対して労働集約型でアプローチし、刈取りを行うのが初級レベル。ビッドマネジメントやDSPなどのツールを活用し、CPAを追いかけていくフェーズである。中級になると、刈取りだけでなく、LTVやブランドリフトなどを意識するステージとなり、DMPなどのテクノロジーを使うようになる。人材の面では、トレーディングデスク機能を担うトレーダーやオーディエンスプランナーなど、個別のツールではなくオーディエンス全体を見据えてアプローチしていく。上級レベルでは、今度は逆に全体を俯瞰するオーディエンスのアプローチから、one to oneやロイヤリティといった一人一人の顧客に対する効果的な訴求がフォーカスとなる。そのため、経営を含む総合的な視点でマーケティングを判断するような人材が求められる。
プログラマティックを実践するために重要なポイント
Phang氏は、オーディエンスの面では、国による違いも重要なポイントになると話す。例えば、シンガポールは英語圏であるため、インターナショナルなメディアへのアプローチが重要になる。一方、ベトナムならローカルのメディアの買い付けが一番効果的だ。また、国によってITリテラシーにも差がある。リテラシーが低い国では、広告がすぐにクリックされてしまい効率が悪くなる傾向があるため、国や地域別にオーディエンスの特性を捉えるべきだ。
プログラマティックのフェーズについて西井氏は、それ自体が目的となるべきものではなく、独自のマーケティングを進めていく上で、必要に迫られてステップアップしていくだろうと語った。どの手法を取っていても、最適化を突き詰めていくと、どこかで壁に突き当たる。その壁を打破するために必要なのが、上位ステージのプログラマティックではないだろうか。
プログラマティックの世界における動向
最後に、O’Neil氏とPhang氏が、グローバルのプログラマティックのトレンドについて語った。現在、米国のマーケットでは中級レベルにベンダーが集まっており、成熟期に向かいつつあるという。また、大きなブランド企業には、テクノロジーを自ら買い付け、プログラマティックなマーケティングに社内で取り組むところもある。この傾向は、特にブランディング系の企業に見られるようだ。
一方、アジアのマーケットにおけるプログラマティックの普及は、ほぼ初級レベルだという。これは人材リソースの問題が大きい。そもそもマーケターが少ないため、初級レベルのオペレーションにも苦労する状態で、テクノロジーがいくら進化しても、それに市場が追い付いていかない。なるべくシンプルなオペレーションを備えたインターフェイスが必要であると共に、人材育成が差し迫る課題のようだ。
(図)プログラマティック導入の3フェーズ
(編集:三橋ゆか里)
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。