Interview:DMPを活用したCRMソリューションで新規ビジネスを開拓 —— 楽天広告事業営業促進グループマネージャー 向谷和男氏
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on 2013年7月31日 in現状、多くのプレミアムパブリッシャーが、プログラマティック・トレーディング(データに基づく自動的な広告枠買い付け)等の台頭で値崩れが起きていると感じているが、楽天ではデータ活用によって媒体の付加価値を生み出している。DMP(Data Management Platform)は広告主が効率的な広告出稿のために利用するイメージが強いが、媒体側でどう利用しているのか、楽天広告事業営業促進グループマネージャー 向谷和男氏に、その概要や方向性について伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍
/ text:柏木恵子)
購買履歴からカテゴリーマスを見つけて広告の価値を高める
——御社が広告ビジネスをされているというイメージがあまりありませんでした。どのような広告商品があるのか教えてください。
向谷:楽天市場や楽天トラベルなどの主力サービスやInfoseekなどのポータルサイトでのディスプレイ広告やアドネットワーク、楽天会員向けのメールマガジンへの広告などがあります。我々の部署では外部企業向けに提供していますが、出店企業向けの広告もあります。他社と比較するとメール広告の比率が高く、国内では最大規模ではないかと思います。
また、最近はオフラインのDMやサンプリングなどの売上も伸びてきています。
——いまDMPがバズワード的に流行っていますが、広告主が使うというイメージが主流で、媒体社が導入されている事例はあまり聞きません。御社はどのように活用されているのでしょうか。
向谷:我々のビジネスはいわゆる「広告枠を売る」ビジネスでしたが、この2、3年でそれを変えようとしています。広告枠をシステマチックに売るだけだと、どこでも一緒で低価格化が避けられません。一方で、大手のナショナルクライアント、特に日用消費財や食品を扱っているようなメーカー企業では、まだデジタルマーケティングが本格化されていないと考えおり、たびたびご相談を受けてきました。そこで、多くのマーケティングご担当者にお会いし、各企業や部署の方が何を目指しているのか、目的を整理してソリューションを提供しようと試みています。それをマーキングしたのが下の図です。いま注力してDMPを使っているのは、楽天会員データを使ったCRMの取り組みと、購買データを使った接触・認知ベースの広告配信のふたつです。
楽天の資産を活用した施策のサポート範囲
Web広告については、DMPの前に「オーディエンスターゲティング」という言葉が盛り上がりましたよね。数千万人にリーチしようと思うならやはりテレビが最も効率がよいと思いますが、僕らがそれをオンライン上で再現する必要はないと考えています。むしろ、テレビで接触した消費者に、オンライン上での2次接触をよりセグメント化された状態で実現できればと。
例えば、化粧品メーカーの場合、テレビでの大まかな接触の後は、楽天市場でコスメを購入した数百万人の中から購買習慣や傾向に沿った形でターゲットを絞り込めばいいのではないか、ということです。
それ以外に、ある人が楽天で10点20点といろいろなものを買ったとしましょう。どういうものを買ったかは、その人が持つ価値観を表しています。購買履歴からその人の嗜好性などを分析して、ある程度クラスタリングした対象に広告を配信するようなことも、試験的にやっています。
——複数の購買データを組み合わせて分析すると、高級品志向かお買い得品好きか、パッケージ重視か内容重視かのような、その人の嗜好性が分かるということですね。
向谷:実際に試してみたのですが、保有する車のアンケートを取って、その人の楽天での購入履歴や、商品の閲覧履歴を分析すると、経済状況や保守的かどうかといった分類ができます。例えば高級外車に乗る人でも、アウディに乗る人はワインジャンルではシャンパンやスパークリングを買う傾向が圧倒的に強い。メルセデスやBMWに乗る人は、高級赤ワインを買っていることが多い。国産車ユーザーや車を持っていない人は、5本いくらのお手軽ワインセット
を買う人が多い。本当かと思うでしょうが、実際にそういう傾向が出ました。まだ試験的な取り組みの域を出ていないので、セグメントを作っていくためのロジックのようなものは開発中ですが、ディスプレイ系では『カテゴリーマス』というものを追求しています。
オーディエンスデータを使ったソリューションとして提供する
——ディスプレイ広告以外でも、オーディエンスデータをビジネスに活用していますか。
向谷:それがCRMの部分です。最近は、特に大手のブランド企業ほど自社サイトをメディア化する傾向にありますが、ノウハウやリソースの問題など、ブレンド企業が全て自社で運用するには比較的高いハードルがあると考えています。楽天は大規模な会員組織を持っていますので、そこにブランド企業向けのハブサイトや会員組織を作ってCRMのプログラムを開発・運用する支援をしています。本来CRMは外部に委託するものではありませんが、有効なデータを独自で収集するのは大変です。楽天には既に膨大なユーザーデータがありますので、それを活用して企業のCRMの仕組みを楽天内で作るということです。イメージとしては、フェイスブックに企業のブランドページを立ち上げるのに似ています。新たにCRMに取り組むケースもありますし、自社に既存のCRMがあってもサテライト的に、別の目的・機能として楽天を使うケースもあります。
例えばペットフードメーカーの場合、ペットフードを買ってもらうためには、そもそもペットオーナーにリーチしなければなりません。それも、犬なら犬のオーナーでなければだめ。楽天はペット関連商品のシェアが非常に高く、データベースを作る際に最初からターゲティングできます。会員組織のデータベース上にオーディエンスデータを溜めていく設計や分析も、サービスとして提供していく予定です。
DMPは『データ』を売る以外にマネタイズする方法がないのですが、それをCRMとして利用できるサービスとして提供するのがこのビジネスモデルです。DMPという言葉だけが先行して、サードパーティーデータの利用についての議論も出ていますが、いろいろなサービスをうまく組み合わせて使うのは難しく、実際にできる人は少ないでしょう。また、国内でサードパーティーデータを持っている企業が気軽に他社に提供できるかといったら、難しいのではないでしょうか。
——まさに、オーディエンスデータを売っている米国のようなビジネスをされるのかお聞きしようと思っていました。
向谷:会社のポリシーの問題もあるので、楽天としては『オーディエンスデータ』だけを単独で販売するのはかなりハードルが高い。であれば、我々がオーディエンスデータを活用したソリューションとして提供することを、ビジネスとして考えたのです。その方が便利ですし。
企業担当者との会話量を増やしビジネスの課題にテクノロジーを利用
——いま日本ではマーケティングデータを活用するというところまで理解が進みましたが、実際に活用できる人が少ないことが問題になっています。御社が単純にデータだけでなくサービスという形で提供されているのは革新的で、日本では他にないように思います。
向谷:楽天グループのビジネスモデル自体が独自性の高いモデルになっている為、この取り組みにおいても仮想コンペティターは、日本国内では今のところ意識している企業はありません。この取り組みをまとめていくには、かなりの数のメーカーご担当者様と、いろいろなケースで話し合いました。行き着いた結論は、デジタルマーケティングとデジタル以外の融合も含めて、位置づけを明確にしてソリューションとして提案しようということです。
社内的には「Solution+」と呼んでいるのですが、データ、メディア、テクノロジー、オペレーションに加えて、「+」というのは僕らのアイデアを含めて、まとめて提供する。クライアント企業のビジネスパートナーになるというのが基本スタンスです。
これは結果的にDMPなのであって、DMPありきではありません。DMPという言葉が出る前からマーケティングデータの活用については取り組んでいましたし、楽天にとってデータはとても大きな資産なので、いい具合にDMPというバズが来たなと。ただ、一気に盛り上がってあっという間に冷めるのが怖いので、そうならないように丁寧に取り組んでいます。現状はトライアルベースなので具体的に売上げ貢献などの数字は出せまませんが、DMPが何に使えそうかは、あらまし分かりました。逆に言うと、何ができないかも分かりました。
——今後は、どのようなことに注目していますか。
向谷:今は実証中なので人手で作業するなどアナログな部分が多いのですが、オンラインビジネスはシステム化できるのがいいところなので、その実現が関心事です。できるだけ自動化する仕組みを作り、利用者がセルフサービスで利用できるようにするつもりです。
——日本では、新しいテクノロジーがやってくるとそれに踊らされて、テクノロジーに合わせて何かを変えなければならないというのが課題です。それに対して、目的のためにどのようなテクノロジーが必要かというアプローチですね。
向谷:目的設定をどこに作るかが一番の課題です。だから、ちょっとアナログですが、会話量を増やすことを一番に考えています。クライアントは、アドテクノロジーやそのトレンドが目的ではなく、何を実現できるのかが最も重要で、目的意識をどう合わせていくかが大切です。
購買データを活用したマーケティングは、個人的にもすごく可能性があると思っています。データによってこれまで捉えきれなかったことや実現できなかったことが、たくさん可能になります。購買データはいたるところに存在しますが、個の単位できちんとトラッキングできていて、これだけ大規模に持っているのは、今のところ楽天だけだと思います。楽天のデータでできること、やりたいことについては、ぜひご相談いただきたい。また、CRMを自社の外でやるということにはまだ抵抗感があるかと思いますが、楽天はeCommerceやファイナンシャルサービスも含めた、マーケティングプラットフォームを提供できる会社です。様々なアイデアが実現できる場だと考えていますので、ぜひ色んな可能性にトライしていただけたらと思います。
ABOUT 大山 忍
ExchangeWire Japan 編集長
米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。