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Interview: ビジネス貢献に対する考慮が、アドテクノロジー活用の鍵 − リクルート ウェブマーケティンググループ グループマネージャー 新中健介氏

いま、日本の市場には国内外の最先端なアドテクノロジーが出そろい、広告主には様々な選択肢が与えられている。一方、業界マップを見て感じるのが、カオスと化しているテクノロジーの渦の中で、広告主はどのように自分たちに適したテクノロジーを選択し、ビジネスに活かしていくことができるのか、ということだ。パフォーマンス広告の活用においては日本屈指の広告主、リクルート社で集客を担当している新中健介氏に、アドテクノロジー活用のポイントについてお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire Japan編集長 大山忍

/ライター:鶴田修朗


 

 

アドテクの進化でディスプレイ広告のパフォーマンスが大きく向上

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大山:新中さんはオーバーチュアでリスティング広告、オムニチュアでウェブ解析に携わったというキャリアをお持ちです。2010年にリクルートに入社後は、どのような職務を担当しているのでしょうか。現在の役割と責任範囲を教えてください。

 

新中:現在はリクルートグループの中で、日常消費領域を取り扱っているリクルート ライフスタイルという会社に所属しており、マネージャーとしてウェブマーケティングに携わっています。ウェブマーケティンググループでは、じゃらん、ホットペッパーグルメ、ホットペッパービューティ、ポンパレ、ケイコとマナブといった20以上のサイトの集客を担当しています。弊社ではサイトを縦軸に、ウェブマーケティングやCRMといった機能別のグループを横軸に置き、全体で連携を取りながらサイトを運営しています。私は、その横軸の中の集客部分を担当しているグループで仕事をしています。

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大山:マーケティングのゴールと、それを達成するためにどのような施策を行っているのかを教えてください。

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新中:サイトによってKPIはさまざまですが、それぞれのKPI達成に貢献すべくサイトにユーザーを集めることが私たちの役割です。具体的な施策としては、SEO、リスティング広告、ディスプレイ広告、他サイトとのアライアンス、アフィリエイトなどですが、近年はスマートフォン・アプリをダウンロードのためのアプリストアへの集客も重要度を増しています。

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大山:アクションを得るためのコンバージョン施策としては、従来はリスティングなどのSEMが多く用いられてきました。現在、御社ではSEMだけでなく、ディスプレイ広告も積極的に活用しているとうかがっています。ディスプレイ広告活用の背景を教えてください。

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新中:まず、ネット広告全般に言えることなのですが、大部分の出稿はダイレクトレスポンスを目的としています。現状では、ディスプレイ広告もブランディング目的ではなく、リスティングと同様、コンバージョンを最大化するために出稿することがほとんどです。ブランディングとして、ディスプレイ広告などでどのような取り組みができるかは、最近になって本格的に注力をしている状況です。

 ダイレクトレスポンス目的でディスプレイ広告を活用している理由は2つあります。まず1点は、サイト全体として設定される目標KPIの成長角度に対して検索クエリの成長角度が低く、リスティングの不足分をほかの施策でカバーしなければならないケースができていたためです。その施策のひとつが、ディスプレイ広告になります。もう1点は、アドネットワークやDSPなど、テクノロジーの進化によるところです。純広告だけだとパフォーマンスのよい掲載枠を安定的におさえることが難しく、リスティング同等のCPAでスケールさせることは難しかった。しかし、最近では技術の進化と運用のブラッシュアップで、リスティング同等のCPAである程度の規模のコンバージョンを獲得できるようになってきました。

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大山:リスティングだけでは集客目標を達成できないし、テクノロジーの進展によってリスティングと同じくらいのパフォーマンスを見込めるようになったということですね。

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新中:そうですね。リスティングに加えてディスプレイ広告も規模感が出てきたことで、集客予算ポートフォリオの組み替えに多様な選択肢を持てるようになりました。

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大山:どのようなアドテクノロジーを利用して、そのような高パフォーマンスを得ているのでしょうか。

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新中:アドテクノロジーはいろいろと活用していますが、パフォーマンスに直結する部分でいうと、ビッドツールになります。入札リスティングにおいては自動入札ツールを使っていますし、ディスプレイ広告についてはDSPの活用が多いですね、現状では1つのサイトで複数のDSPを使うケースが多いです。

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大山:自動入札ツールはどのような基準で選択しているのでしょうか。

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新中:まずはパフォーマンス、コンバージョン上昇やCPA抑制の改善幅です。ただ、いくらパフォーマンスがよくても、ブラックボックスなツールはあまり選びたくない。何をすれば結果がどうなるという因果関係が見えることで、自分たちにノウハウを蓄積できるツールを選びたいと思っています。どんなに良いツールでも競合他社も同じツールを使い始めた時点で入札における優位性は失われてしまう。自分たちのケーパビリティをどこまで高められるかは、パフォーマンスと同じくらい重要なテーマだと考えています。

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大山:DSPを複数利用するのは、なぜでしょうか。

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新中:単純にいろいろ使ってみるという目的もあります。また、DSP1つよりも複数併用したほうがパフォーマンスが良いという現実もあります。もちろんアプローチしている在庫の重複も多いと思うのですが、一部は重複しない部分もあるため、DSPを増やせばコンバージョンも少しずつ増えていく、ということが起きています。

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大山:今のところは、DSPを複数使うことは、課題ではないという認識でしょうか。

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新中:複数使うことに課題がないとは思っていません。ただ、複数使うこと以前に、個々のDSPの特性に対する理解不足やどう使い分けるか突き詰めて考えられていないというところが課題だと最近感じています。同じオーディエンス、同じ掲出枠に対してDSPそれぞれに入札が異なる、つまり各DSPの持つアルゴリズムなどによってパフォーマンスが変わってくるという可能性に対して、本来ならどのDSPの入札が自分たちにとって最適なのかをしっかり検討しなければならない。たとえば、リスティングであれば複数の入札ツールを使うことはないので、とことん比較検証を行うのですが、DSPは併用して使うことが容易なので、複数併用してきました。しかし、今後はRTBによるコンバージョン獲得シェアも大きくなり、またDMPなどの周辺技術もどんどんと活性化するなかで、各DSPの特徴や使い分けを真剣に検討しなければいけないフェーズだと思っています。

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ゴールやフェーズを見極めて、アドテクノロジーを活用する

 

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新中さん3大山:実際の運用では、自社で担当する部分と代理店にお任せする部分をどのように切り分けているのでしょうか。

新中:サイト全体の集客戦略の策定、目標KPIの設定、各施策への予算配分は弊社内で行います。各施策内で予算を実際にどのように使って目標を達成していくかは、代理店さんと相談しながら検討を進めていきます。先ほどのツールの話と一緒で、代理店さんに丸投げをしてパフォーマンスが上がったとしても、その代理店が競合と契約した時点で自分たちの競争優位はなくなってしまいます。競合が同じ代理店さんと契約をしても自分たちのほうが高いパフォーマンスを出せるよう、最新情報の収集を継続的に行ったり、実施した施策からいかにノウハウを蓄積していくかが重要だと思っています。

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大山:代理店はサイト全体を担当するのでしょうか。それとも施策ごとに選定しているのでしょうか。

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新中:サイト全体の集客施策をお願いするという前提で代理店さんを選定したことはありません。「サイト×施策」単位で、代理店さんを選定しています。同じサイトであっても、リスティングとディスプレイは別の代理店さんが担当することもありますし、結果として同じ代理店さんが担当することもあります。

 最近では集客全体を統合的にマネージメントしたほうがいいといった話も聞きますが、リスティング、ディスプレイといった個々の施策そのものを突き詰めていくほうが、今のフェーズではまだ成果が上がると考えています。

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大山:例えばリスティングとディスプレイでは、どのようなところに着目して個別最適しているのでしょうか。

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新中:リスティングにおいては、基本中の基本ではありますが、ユーザーの検索キーワードにマッチした広告をいかに露出するかが大事だと思っています。たとえば、「りんご」と「青りんご」というキーワードを登録していて、ユーザーが「青りんご」を検索したら、かならず「青りんご」のキーワードとそれに合わせた広告文やLPが掲出されるようにするということです。部分一致で「りんご」が掲出されることを極力抑えることで、CTRやCVRが向上するからです。2ワードだったら簡単な話ですが、数百万ワードを運用するなかで、いかに配信コントロールを精確に行って“完全一致率”を高めていくかという点がリスティングのポイントになるかと思っています。

 一方ディスプレイ広告では、リターゲティングのセグメント分割や配信シナリオなどの配信コントロールも確かに重要なのですが、リスティング広告と比べると、クリエイティブの重要性がより高いと思っています。ざっくりとした言い方をすれば、配信コントロール:クリエイティブ=50:50ぐらいのイメージです。

 また、ディスプレイ広告の配信ではセグメントを細かく設定できますが、例えば100個の配信セグメントを切ったからクリエイティブも100個つくったほうがいいかというと、そうではないと思います。クリエイティブは20個ぐらいのセグメントにまとめてしまい、20個ぐらいのセグメントに対して5パターンずつのクリエイティブを用意してA/Bテストしていった方がパフォーマンスを出しやすいと思っています。

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大山:クリエイティブの改善は、フレーズや色などを要素分解しながら行うイメージでしょうか。

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新中:そうですね、要素分解もするのですが、重要なのは、どういう視点でどのような順番で改善をしていくかだと思っています。A/Bテストの際、複数のクリエイティブを配信すれば、どれが良かったかは簡単に分かり実際にパフォーマンスも向上します。しかし、継続的にパフォーマンスを上げていくためには、クリエイティブの何が良かったから効果が得られたのかを分析し、そのよかった点を活かしながら次のテストのクリエティブパターンを検討するというサイクルがしっかり回っている状態が重要です。

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大山:実際に代理店を選定するときは、どのようなポイントを重視しているのでしょうか。

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新中:代理店さんの選定は、ビジネスを深く理解してもらえているかというのが前提にあるのですが、あとは基本的な運用方針、問題が発生した分析力や解決に向けた提案力で、他の広告主さんと大きな変わりはないと思います。

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大山:複数の代理店、ツールを活用していると、意思決定のためのデータも多種多様になってしまうと思います。代理店とのコミュニケーションは、どのようなデータに基づいて行っているのでしょうか。

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新中:各施策で最適なツールを選び運用するというのが基本的なスタンスですが、KPIに対する進捗状況を確認するのは弊社が全サイト共通で導入しているサイト計測ツールの数値をベースとしています。そのツールの数値をベースとして、施策ごとに導入しているツールの数値を調整しながら運用をしてもらっています。

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大山:社内の意思決定ではどのようなタイミングでデータを活用されていますか?

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新中:四半期に一度ぐらいのタイミングで、サイト計測ツールのデータと社内の会員データベースのデータと組み合わせて、たとえば、集客施策ごとのライフタイムバリューやオフラインでのアクションなどを評価したり、クロスデバイスの行動特性を分析しながら、各施策の目標設計を行っています。ただ、最近はデータ分析環境の進化も著しく、データの作成に時間がかかるので、月次や四半期毎でしか出せなかったデータが日次レポートで確認できるような状況になってきています。

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大山:今後、マーケッターとして取り組んでみたい分野はありますか?

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新中:冒頭にお話ししたとおり、リクルートライフスタイルは日常消費領域のサービスを展開しているので、ユーザーと接触する頻度が高いという特徴があります。その特徴を生かして、サイトやアプリ、メール、広告といったタッチポイントごとに、どういうクリエイティブでユーザーとコミュニケーションをしていくか、その最適化というのは、直近で取り組んでみたいテーマですね。また弊社はさまざまなサイトを運営していますが、サイトをまたいでのコミュニケーションの最適化にも取り組んでみたいと思っています。

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大山:最後にアドテク業界の課題について、何かお感じになっていることがあればお話しください。

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新中:少しテクノロジーなところに寄りすぎてしまっていて、ビジネス貢献に対する考慮が欠けているように思います。新しいテクノロジーを使うことそのものが目的になってしまっているのです。しかし本来テクノロジーは、ビジネスゴールや集客の規模感、フェーズとそのテクノロジーでできるようになることをとことん議論したうえで利用するかどうかを決定するべきです。結局のところ、ビジネス貢献がどの程度だったかによってテクノロジーの評価も決まるので、ゴールやフェーズによって、素晴らしいテクノロジーを過小に評価してしまうという恐れもあります。今は使うべきタイミングではないと冷静に判断することも必要だと思います。

 弊社のウェブマーケティンググループでも、アドテクノロジーの活用やそのビジネス貢献については、常に議論と試行錯誤を繰り返しています。こんな議論に興味をお持ちのマーケッターの方がいらっしゃれば、ぜひ弊社の採用ページをご覧いただければと思います!

 

ABOUT 大山 忍

大山 忍

ExchangeWire Japan 編集長

米国大学卒業。外資系企業を経て2000年にネット広告効果測定ツールを提供するベンチャーに創業メンバーとして参画。その後、バリューコマース株式会社と合併。
2007年1月にオムニチュア株式会社(現Adobe)に参加、コンサルティングサービスを立ち上げる。ビジネスコンサルタントとして米国のベスト プラクティスを日本の課題やニーズに合わせて提供、ウェブ解析やガバナンス(データ主導の組織・仕組化)に関する執筆・講演を行う。